馬鹿な女の最後ージゼル視点ー
今回は少し短いです
「もうお前にはうんざりだ! シュゼット・ランドール公爵令嬢、貴方との婚約を破棄する!」
王立魔法学園の卒業パーティーの中盤に、凛とした声が会場中に響き渡ります。
賑やかだったパーティーの会場が一瞬にして静かになり、何事かと興味深々で成り行きを見守る貴族の方々。
声の主はこの国の第一王子にして王太子のセドリック・マルティネス殿下。
眉目秀麗で黄金のような金髪に碧い瞳。
常に笑顔でその顔を見た者は必ず恋に落ちると令嬢達の憧れのお方です。
その前に立つ女は、シュゼット・ランドール公爵令嬢。
老婆の様な銀髪に紫色の瞳をもち、凛としたその立ち姿は淑女の鑑といわれるだけの事はある。
因みにセドリック様の元婚約者。
大事な事だからもう一度言うけど『元婚約者』なの。
だってさっき、皆の前で婚約破棄するって言われていたもの。
でも、いじわるで傲慢な馬鹿のシュゼット様は分かっていらっしゃらないみたい。
私が親切に教えてあげようと、殿下の隣に立った時、シュゼット様が口を開きました。
「殿下? 申し訳ありませんが、私理解できませんでしたのでもう一度お願いしてもよろしくて?」
ほらね。
馬鹿なシュゼット様は分かってない。
セドリック様も呆れていらっしゃるわ。
「お前と婚約破棄をすると言っているのだ。なぜわからない馬鹿者が! お前のそういう馬鹿な所が嫌いなのだ!」
「セドリック様。そんな事を言ってはシュゼット様がお可哀想ですわ」
それが本当の事でも、本人を目の前にして言ってしまうのは可哀想よ。
馬鹿すぎて笑いを堪えるのが大変だけれど……。
「ジゼル様、殿下を名で呼ぶのは不敬罪に値しますわよ」
また頭の悪い事を言って、シュゼット様は私をキッと睨みつける。
もちろん、愛するセドリック様がすぐに庇ってくれます。
「本当にお前は頭が悪い。ジゼルには私が許しているから、そう呼ぶに決まっているだろう。婚約者であるお前に許可した事はないがな」
「まぁ、そうなんですの? お可哀想に……殿下に愛されていらっしゃらなかったのね」
驚いた。
『元』とはいえ婚約者であったシュゼット様が、セドリック様を名前で呼んだ事がないなんて。
本当に可哀相……。
では、腕も組んだ事もないのかしら?
そう思って、殿下の腕に自分の腕をからめてみた。
それを見たシュゼット様の瞳は、悲しげに揺れている。
これもした事がないと。
なんと可哀相なシュゼット様……。
大嫌いな女だけれど、思わず哀れみの目を向けてしまいました。
「ジゼルはなんて慈悲深いんだ。こんな馬鹿な女など放っておけばいいものを」
そう言って殿下は私を抱きしめると、皆の前で口づけをされました。
殿下の柔らかな熱い唇に、私の体は恥ずかしさと嬉しさで段々と熱を持つのがわかりました。
横目でチラリとシュゼット様をみれば、潤んだ瞳を伏せて、静かに立ち去ろうとしているところでした。
いつも意地悪く歪んだ笑みが、今は泣くまいと必死に口を引き結んでいる。
最後に貴方のその顔が見れて、私は満足よ。
もう2度と会う事はないでしょう。
シュゼット・ランドール様。
私は段々と深くなる殿下との口付けを受け入れながら、ほくそ笑む。
欲しい物はどんな手を使ってでも手にいれないと、自分の手からこぼれてしまう。
もう可哀相なジゼルはここにはいないのだから……。




