婚約破棄の後は
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家に戻り、お父様に告げたくはありませんが早く伝えなくてはなりません。
いつもより少しばかり速く歩きます。
馬車置き場で待っている家の馬車と従者を探しますが、見当たりません。
いつも止まっている場所ではないのかしらと、探してみるも見つからない。近くにいる者に聞いてみると「今日は見ていない」と言う。
おかしい。
いつもなら私を送った後、この馬車置き場で待機しているはずなのに……。
私を送った後に家に戻ったのだろうか。
それにしても困りましたわ。令嬢が歩いて帰宅するなんてありえないですから。
かといって、皆様まだ会場の中で相乗りもさせてもらえそうにありません。
それに金銭をもっていない私は、辻馬車にも乗れませんし……。
少し考えて結論がでました。
もういいではありませんかと。
どうせ修道院に行くのですし、これ以上公爵家の醜聞になることもありません。
そして、私は門を出て歩いて帰る事にしました。
普段馬車に乗っていますが、公爵家は学園に近いところにあります。
数分歩いたところで公爵家の門が見えてきます。
公爵家の門を守る衛兵になぜか睨まれます。
雇い主の娘の顔がわからないなんてありえませんが、門を開けるように言います。
「シュゼット・ランドール只今戻りました。門を開けなさい」
「シュゼット・ランドール様は、先程ご病気で亡くなられました」
「お嬢様の振りをする方を通すわけにはいきません。それとも、お嬢様の名を語る不届き者として牢屋に入りますか? ただの平民のシュゼット」
そう言ってニタリと笑う衛兵をみて、私は全てを理解しました。
お父様は卒業パーティーで何が起こるのか分かっていたのでしょう。
だから馬車はすぐに家に帰された。
私がシュゼット・ランドールであって、お父様の娘でいれたのは卒業パーティーの前までの話なのでしょう。
これはお父様と殿下がグルであり、情報収集も碌にできない不出来な娘は公爵家に必要がないと切り捨てられたという事。
シュゼット・ランドール公爵令嬢は病死し、これで家の恥はなくなったと……。
修道院送りは免れないとは思っていましたが、まさか病死させられるとは……。
まぁ、本当に病死させられないだけマシでしょう。
お父様の……いえ、フレデリック・ランドール公爵の私への最後の慈悲なのでしょう。
私は今日、お慕いしていた殿下と家族に捨てられました。
なんでしょうか、この気持ちは。
心にぽっかりと空いてしまった穴に、だんだんとどす黒い怒りの感情がその穴を埋めていきます。
こんな気持ちは初めてです。
悔しくて、情けなくて……でも、私がいったい何をしたのでしょうか。
ここまでの事をされる覚えはございません。
涙を必死で堪えて、もう令嬢でもなんでもない、ただのシュゼットの私は走りました。
人目なんて気にしません。
ただ一刻も早く1人になりたかったのです。
どれぐらい走ったのでしょうか。
あれから、魔の森にでる城壁の門をぬけて、森の中を疲れるまでただ闇雲に走り続けました。
もう、足に力は入りませんし、喉もヒリついて痛いです。
ヒールの靴では走れないので、靴は早々に脱ぎ捨てました。
裸足の足の裏も傷だらけで石で切ったのか血もでています。
でも、いいのです。
今後の事は後で考えるとして、今はただ思いっきり泣きたかったのです。
ここでなら、どんなに泣いても誰にも気づかれません。
気をぬけば、勝手に涙は流れます。
私は12年間いったい何をやっていたのでしょう。
何を見ていたのでしょう……。
いえ、見えていたけれど……それを見ないようにしていたのは私自身。
それを認めるのが恐ろしかった。
忙しく動き回り、考えないように、見ないようにと蓋をした。
まさかこんな事になるとは思わなかったけれど、予兆はあった。
殿下の心は離れていくばかりで、ならば役に立つと、貴方の利益になりますと擦り寄る私。
ランドール公爵のただの駒だと知っていたけれど、役に立つと証明するためランドール公爵の思うように行動した私。
次期王妃という立場に擦り寄る令嬢達にもてはやされ、窮地に陥った時は誰も助けてはくれず、あっさりと手のひらを返された私。
会場をでる時、誰一人と私を見ていなかった。彼女達が見ていたのはジゼル様。
私はただ幸せな令嬢を演じていただけかもしれない……。
なんだか、馬鹿みたいですわね。
人を馬鹿にしていた私が一番の馬鹿だった。
「フフッ」
なんだか笑えてきて、泣き笑いになってしまいました。
思いっきり走って、思いっきり泣いて。
少しすっきりいたしました。
先程のどす黒かった感情が、今度は真っ赤な怒りの炎へと姿を変えます。
そして、一番の馬鹿だった私は、一番愚かな事を考えます。
「皆様に幸せは訪れさせませんわ。私と一緒に地獄へ落ちていただかないと。フフッ、楽しみですわね」
言葉にすると可笑しくて仕方がありません。
だって、皆様の恐怖に震えて私に許しを請こう姿が思い浮かびますの。
放っておいてもいずれ内乱がおこり、内乱で弱ったところに私という枷をはずした周辺諸国に蹂躙され、いずれこの国は無くなっていた事でしょう。
しかし、それではダメなのです。
私が直接滅ぼしてさしあげたいのです。
そうと決まれば、まず準備をしなければ。
誰にも教えた事のなかった、私の秘術。
これを使う時がくるなんて思ってもいませんでした。
発見した時は、嬉しくもあり、また恐ろしくもありました。
だから、ずっと秘密にしていたのです。
12年間の内で無駄だと思っていたものが、今一番無駄ではなかったなんて驚きですわ。
では、始めましょうか。
皆様、暫しの幸福な時間。
ご堪能くださいませ。
可哀相だという境遇にいるのに自分は幸せだと思う者は壊れてしまう。