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婚約破棄されたので魔王になりましたー元公爵令嬢の復讐譚(旧:お可哀想な人)  作者: 彩心


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真の力

 なんだか楽しげにしている皆を見送った後、私は一人また訓練場に戻る事にした。


 私が今やるべき事は強くなる事。

 時間がない今、練習あるのみだ。


 訓練場に着いてすぐに、木々の方に向かって手を構えさっき教えて貰った通りに魔法を使う。

 

 まずはイメージをして……そこに魔力をのせる!!


 私の体から魔法が放たれるが、教えてもらった時とは違い威力が弱く、木々に少し傷がついた程度だった。

 

 どうして? さっきと同じ位の魔力をのせたのに。

 これではいつもの風魔法と変わらない。

 もしかして、イメージがちゃんと出来ていなかったのかもしれない。

 いつもの風魔法のイメージをのせてしまったのかも!?


 よしっ! 今度こそ!

 木を切り刻むイメージ……私の手から風が放出されるイメージ……ここに魔力をのせる!!


 今度は一直線上に木々が次々と倒れていった。


 「よしっ、イメージ通り!」

 

 これで分かった。魔法を使うのにどれだけイメージが大切か。

 どちらかというと今の私には従来のやり方の方が楽だが、威力が格段に違う。

 なら今までの事は忘れて、これを息をするように当たり前のようにできるようにならないと……もう一度。


 「お嬢さんはどれだけ森を破壊する気かね?」


 イメージを固めようとしている時に、突然横から声が聞こえた。

 誰か居ると思わず驚いた私は声の方に視線を向けると、そこには大きな白銀の狼が尻尾をゆらゆらと揺らし、そこに座っていた。

 他に誰か居る気配もない。

 私は手をおろし、手に溜めていた魔力を霧散(むさん)させた。


 「さっきの声はもしかしてあなた?」

 「いかにも。あまり森を破壊されると生態系が狂って困るんだが」


 狼は困ったように首を傾げた。

 喋るって事は魔物よね? でもこんな大きな狼型の魔物なんていたかしら?

 いやいや、そんな事よりも今は彼に謝らなくちゃ。


 「ご、ごめんなさい。私何も考えてなくて……ただ魔法の練習がしたかっただけなの」

 「分かったなら良い。ふむ……あの威力の魔法の練習ならあそこがいいだろう。お嬢さん着いておいで」


 そう言って彼は私に背中を向けた。


 「ちょ、ちょっと待って。他の練習場所を教えてくれるのはありがたいんだけど、着いておいでって言われても、私ハイヒールだからそんなに早く走れないわ」

 「その靴で普通に走る事は出来るのか?」

 「普通に走るくらいなら大丈夫だけど、森の中を走れるかと言われると微妙ね」  

 「そうか一応走れるのか。なら、足に筋力強化か風魔法をかければいい。それで問題は解決だ」

 「そんな簡単に言われても……」

 「お嬢さんは魔法の練習がしたいんだろう? これも練習だ。それに赤い瞳を持つお嬢さんなら簡単にできるよ」


 彼はその場に横たわり、私の右目をじっと見つめてきた。


 赤い瞳の効力が分かるという事は、やっぱり魔物なのね。でも、どの種族なのかが分からない。


 「あぁ、我は魔物ではないよ。神獣だ。フェンリルと言えば分かるかな?」

 

 私は驚いて彼を凝視した。

 神獣 フェンリルといえば建国神話の話に出てくるだけの空想上の生き物だと思っていた。

 それが今私の目の前にいて、喋っている。

 まさか実在していたなんて……しかも魔の森の中とはいえ、こんな国の近くの森の中で。

 

 「ははっ、こんなに驚いてくれるならたまには人間に姿を見せれば良かったな」


 彼は機嫌良さそうに尻尾を揺らす。


 「我は普段この森を守護をしていて、人間と喋るのは久しぶりだ。しかも、その人間が赤い瞳を持っているなんて面白い。我はお嬢さんに興味が湧いたよ。けど勘違いしないでくれ、我にその赤い瞳の力は使えない。我は魔物ではないからな」


 彼はドヤ顔でフンッと鼻を鳴らした。


 「もし、出来たとしてもあなたに命令なんて恐れ多くて出来ないわ。それに私が『魔物を統べる力』を望んだのに、まだちゃんと力を使った事がないのよ。おかしいでしょ? 出来るだけ命令なんかしたくなくて……あの時は頭に血が上っていて、魔物にも感情があるなんて知らなかった。でも、私は力を手に入れてしまったからもう止まる事はできないの。私は復讐のために近い内にこの力を使うわ。私ってひどい奴なの。それでも貴方は私に興味があるなんて言える?」


 自嘲めいた笑みを浮かべ、私は彼に問う。

 それを聞いた彼は立ち上がるとゆっくり私に近づいて来て、頭を下げて自分の額を私の額にくっつけてきた。

 何をしているのかと思ったが、そこがじんわりと温かくなった事で何か魔法を使われているのだと分かった。

 神獣だから悪い事にはならないかと思い、彼の気がすむまで私は額を合わせ続ける事にした。

 その間、私の眼前で彼の毛がフワフワと揺れる。

 時折、風に吹かれて私の頬を彼の柔らかな毛がかすめてくすぐったい。

 今までは見るだけしか叶わなかった、触り心地の良さそうな毛並みを目の前で見続けた私は触ってみたい衝動に駆られた。

 でもダメだ。彼は神獣。そんなおいそれと触ってはいけないわ。


 そんな葛藤をしていると、彼は「フッ」と笑い私から離れた。


 「フフッ、お嬢さんはそんなに我に触りたいのか?」


 彼に笑いながらそう言われて、私は恥ずかしくなってカーッと顔が熱くなった。

 そうか、彼は私の思考を読んでいたのね。

 もの凄く触りたいとばかり考えていたから、本当に恥ずかしいわ。


 「まぁ、気が向いたら触らせてやろう。それはそうと、今お嬢さんの記憶を少し見させて貰ったよ。君は不憫(ふびん)な人だね」

 「えっ?」

 「なぜすぐに力を使わなかったんだい? 赤い瞳の力を使えば魔物達は喜んで力を貸すだろう。例えそれで死んだとしても、それが彼らの喜びとなるのだから」

 「でもそれは、彼らの本心ではないわ!」

 「そういう力を欲したのはお嬢さんだよ。なぜ使わない?」


 そう彼が私に聞いた時、ずんっとした重たい圧迫感を感じた。

 

 これは何? 怒っている……の?

 でも怒っている感じは彼からはしない。なら、私を試している……とか?

 私がこの力を持つに相応しいかどうか。

 相応しいかどうかなんて、関係ない。力を持つ者として私は相応しくなるために、今足掻いているのだから。

 

 「さっき言った通りよ。魔物にも感情があるって知ってしまったから。感情のないただの殺戮(さつりく)生物だったら良かったのにね。そしたら今すぐにでもこの力を使ったわ。私がこの力を使う時は『魔物を統べる者』として、強くなって仕えるに相応しいと思って貰えるようになってからよ。命を懸けてもらうならそれくらいしないとね」


 私はそう言って重苦しい重圧の中、不適に笑ってみせた。


 「それで復讐が間に合わなくてもかい? 早くしないと他の国に先を越されてしまうかもしれないよ?」

 「これから寒くなるから、戦争になるとしたら暖かくなってからだわ。それまでに私は強くなる。必ず復讐はするわ!」

 「そうか、そうか。ハハハッ!!」


 彼は突然笑い出し、重苦しい空気も霧散した。


 「歴代の魔王は今のお嬢さんよりも強かった。なのになぜ人間に倒されてきたか分かるかい?」

 「確か教会の聖騎士団が倒したと教会で聞いた事があるけど……聖なる力の方が強かったから?」

 「違う。私利私欲のために魔物を道具として扱い、魔物達に忠誠心なんてものが無かったからだよ。それがあると無いとじゃ個の強さがまったく違う。ハハハッ、愉快愉快。お嬢さんなら真の力を発揮できるかもしれないね」

 

 私はその話を聞いてブルリと震えた。

 これが武者震いというものかと思った。


 私が目指していた事は間違いではなかった。

 最初は魔物達に申し訳ないという気持ちで目指し始めたが、個の力が強くなるというなら更にやる気がでる。

 個の力が強くなるというなら、魔物達が死ぬ確率も下がるだろう。

 私が強くなれば、皆も強くなるなら一石二鳥だ。


 魔法を早く覚えて強くならなきゃ。

 私はそう強く思い拳を握りしめた。

 

 「お嬢さん、そろそろ出発しよう。時間が勿体ないだろう?」


 私が決意を新たにしていると、彼はさっきまで何事も無かったかのようにそう言ってきた。


 「ま、待って! まだどう魔法をかけようか考えていないの」

 「なら、今日は私の背中に乗ると良い。特別だよ」


 彼はそう言って私の前で背中を向けて寝そべった。


 「なんか恐れ多いんだけど、本当にいいの?」

 「あぁ、我はお嬢さんを気に入ったから特別だ。それに少し気になる事もあってね。お嬢さんと一緒に居ればそれも分かるかと思ってね」

 「どこをどう気に入ったのかは分からないけど、ありがとう。それより、気になる事って?」

 「お嬢さんの記憶の中に少し気になる事があったんだが、間違いかも知れない。お嬢さんの邪魔はしたくないからね、今は言わないでおくよ」

 「そう……なら今は聞かないでおくわ。それと、私シュゼットっていうの。これからはそう呼んで。それで、あなたの名前は?」

 「元々我に名前はないのだが、昔『シロ』と呼ばれていた事はあったよ」


 それって、建国神話にでてくる初代国王とかではないよね?

 あれはやっぱり本当の話なんだろうか……それに神獣フェンリルの名前が『シロ』ってなんか犬みたいな名前だな……。


 「シュゼット?」

 「う、うん。シロっていい名前ね。あなたの綺麗な白銀の毛並みを表していて」

 「そうであろう、そうであろう」


 なんだか得意げに頷くシロが可愛く感じて、つい笑ってしまった。


 「シュゼット? 何か面白い事でもあったか?」

 「いいえ、何も。ではお言葉に甘えて、今日はシロの背中に乗せてもらうね」


 そう言って私はシロの上にまたがった。


 「しっかり毛を(つか)んでおれよ!」


 シロはそう言うやいなや立ち上がり、もの凄いスピードで走りだした。

 



 

 


 

 

 


 

 

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