相棒
城の外に出ると、木々達がまるで城を隠すかの様に生い茂っていた。
だから朝も昼もいつも城の中が暗いのか……。
私は一人納得する。
後を振り返って城の外観を見る。
石造りで立派な建物なのだろうが、蔦が絡み合って窓という窓を塞いでいる。
まるで幽霊でも出そうな、不気味な雰囲気だ。
私はノワールを見る。
「素敵な城ね。今の私に相応しいわ」
「そうだろう。久しぶりに大掛かりな術を使ったので、苦労したがな」
「ありがとう、ノワール。こんな大きな城を魔法で造るなんて凄いわね」
「シュゼットにもできる。それだけの魔力を持っているだろう?」
魔力は確かに普通の人と比べれば、莫大に持っている。
しかし、今の私にできるのは、魔石に力を付与するのと、土魔法でゴーレムを一体作るのがやっとだ。
後は少し風をおこせるぐらい。
「本当に私にもできると思う?」
「誰に魔法を習うと思っているんだ。簡単にできる様になるさ」
そうだ。私は誰よりも強くなるんだ。
こんな事が簡単にできなくてどうする。
伝説級の魔法を使いこなして、それが当たり前にならなければいけない。
「そうね。できる様になるわ」
「簡単に言うが、こんな魔法悪魔ぐらいしかできないだろう」
ヴィオレットが呆れた様に言う。
私はヴィオレットに微笑みかけた。
「大丈夫、できる様になる。出来なきゃいけないのよ。ねっ、ノワール?」
ノワールに問いかけると、ノワールは首を縦に振って微笑む。
「それはそうと、悪魔。ずっと気になっていたのだが、城の上に浮いている赤い玉はなんだ?」
ヴィオレットが城の上空を指差す。
そこに赤く発光する丸い玉が浮いていた。
「あれを見たとたん体が勝手に動いたんだ。あれに何か仕掛けがあるのか?」
「あぁ、あれか。お前が体験した通りの事が起こる様になっている。魔物を集めるためにな」
「ノワールどういう事? そんな勝手な……」
「勝手はお互い様だ。じゃー逆に聞くが。シュゼットはどうやってこの広い森の中、配下の魔物を集めるつもりだったんだ?」
「歩き回ればなんとかなるかと……」
「シュゼットは魔法を覚えつつ、森も歩き回る。一体いくら時間がかかるんだ?」
私は答えに詰まった。
地道にそんな事をしていたら、一体何年かかるのだろう。
その間に内乱が起こり、周辺諸国に呑み込まれ、勝手にマルティネス王国は滅びてしまう。
それでは私の気が済まない。
私は彼等が恐怖に震えて許しを請う姿が見たい。
そして、苦痛に歪む顔で死んでいく様が見たい。
「私はシュゼットを手伝うと言っただろう?」
ニヤッと笑うノワールは、全てお見通しという事か。
「私はどうやら素晴らしい相棒を持てたようね」
「お褒めいただき光栄です」
ノワールは胸に手を当て、おどけたように言う。
最初は力を貰うためだけに喚んだのに、気まぐれで手伝ってくれるノワール。
万能な悪魔を相棒と呼ぶのは烏滸がましいかもしれない。
けれど、勝手なノワールに勝手な私。
似たもの同士、今日から目的を果たすまで、一蓮托生の相棒でいいだろう。
私は勝手なのだから。
「では、シュゼット。もう少し歩いた所に開けた場所がある。そこで今使える魔法を見せて貰おう」
「わかった」
私がそう言うと、ノワールは前方の茂みに向けて風魔法を放った。
草は刈り取られ、一本の道ができた。
早い。
魔法の発動までの時間が早すぎる。
呆気にとられて、できた道を凝視する。
「どうしたシュゼット? 行くぞ」
何事も無かった様に振る舞うノワール。
ノワールにはこれが当たり前という事か……。
これが当たり前に使えなければ、魔物達を守る事など不可能だろう。
私は笑う。心を奮い立たせるように。
「フフフ、なんでもない。行くわよ、ヴィオレット」
ヴィオレットは不思議な物をみるような目で私を見る。
「やっぱりシュゼットは頭がおか……いや、なんでもない」
「そうか、なんでもないなら口を開くなアラクネ」
ノワールとヴィオレットが微笑み合っているが、なぜか空気は冷たい。
そんな二人を置いて、私は一本道を歩いて行った。




