確定事項
長い廊下を歩き大きな扉の前まで来た。
ヴィオレットが扉を開けると、そこは白を基調とし金で装飾された、煌びやかな部屋だった。
今まで武骨な造りだったのに、ここだけは別次元の様だ。
奥には豪華な椅子が少し高い位置に一つ置いてあり、その横にノワールが立っている。
「ようこそ、シュゼット。これが貴女の椅子だ」
ノワールは私に、豪華な椅子に座る様目で促がした。
部屋に足を踏み入れ、ノワールの元へヴィオレットと共に歩いて行く。
「やはり、貴女は赤がよく似合う。クフフ」
私は足を止める。
「そんな事より、用件は何?」
「そんな……事? 貴女はそのドレスの意味がわからないのか?」
ノワールはショックを受けた様に問うが、意味が分からない。
人間の間では、婚約者の瞳と同じ色の物を身に着けたりするが、悪魔にそんな事をする習慣など無いだろう。
一生伴侶など持たないというのに。
だから、別だとするとこのドレスの意味は……。
「ノワールの所有物……という事?」
「まぁ、あながち間違ってはいないな。クフフ」
「そうだな。間違ってはいないが、少し違う」
ヴィオレットは意味が分かっているのだろう。
残念な物を見るような目で私を見る。
「違うなら何?」
「私の口からは言えない。殺される」
ノワールの方を見ながらガタガタ震えるヴィオレット。
「クフフ、まぁいいだろう。シュゼットに、この謁見の間の出来栄えを自慢したくて呼んだ」
「確かにこの部屋は素晴らしい。けど、なぜドレスに着替える必要があったの?」
「この部屋は貴女が居る事で完成する。それに、この部屋に相応しい格好でなくてはな。後は配下の魔物がいれば完璧だ!」
ノワールは目を爛々と輝かせて語る。
そこに水を差すようで悪いが、私は疑問に思っていた事を口にする。
「ここに来るまでに沢山の部屋があったけど、他はどうなっているの?」
「他は空き室で今は何もない」
「じゃあ何のために?」
その問いにノワールは答えない。ただ微笑むだけ。
ノワールはなんのためにこの城を作ったの?
ノワールは何を考えているの?
ノワールはきっと無駄な事はしない。
なら意味がある。
ノワールの目には、先に何が見えているのだろうか。
「今は、城の中の自分の部屋と謁見の間さえ覚えておけばいい。後は……私の部屋とか?」
「茶化さないで」
「割と本気だったけどな。クフフ」
「用がそれだけなら部屋に帰るわよ」
私がノワールを睨みながら言うと、ノワールはまた笑った。
「私の主はせっかちだな。まだ外にも自慢したい物がある。行くぞ」
ノワールは転移できない私に合わせて、歩いて移動する。
どうやら拒否権はないようだ。
外の様子も気になっていたし、丁度良い。
私とヴィオレットもノワールに続く。
また長い廊下を黙々と三人で歩く。
今なら相談できそうだ。
私は思い切ってノワールに尋ねる。
「ねぇノワール。私に魔法を教えてくれない?」
「なぜ魔法を覚える必要がある? 魔物を統べる力を持っているだろう」
「自分の力じゃないから。自分の力じゃなきゃ、認めてもらえないわ」
「ほぉー、それで?」
「私は魔物を統べる者。魔物達を守る側。それなのに今の私にはできない……」
私が右眼の力を使って命令すれば、魔物達は私の矛となり、盾になるだろう。
私の事情に勝手に巻き込んで、守る価値もない者を守って死ぬなんて馬鹿げている。
私がこの力を持たなければ、魔物達は平穏に暮らせた。
罪滅ぼしとまではいかないが、できるだけ誰も死なせないようにしたい。
私は魔物達の矛となり盾になりたい。
愚かな私の、愚かな計画なのだから。
決意を込めた目でノワールを見る。
「クフフ、やはり貴女は面白い。いいよ、教えてあげる」
「フフ、悪魔。お前が言っていた事が少し分かった気がするよ」
ノワールと一緒にヴィオレットも笑いだした。
「本当に人間は欲ばかりだな。だがシュゼットの欲は面白い」
ヴィオレットが初めて私の名前を呼んだ。
驚いてヴィオレットを見ると、ヴィオレットは不適に笑った。
「シュゼットに着いて行くのも面白そうだな。だが、お前を主と認めた訳じゃない。勘違いするな」
「わかってるわ。でも私は貴方達が認める者になる。これは確定事項よ」
「面白い。なってみせろ。それを見届けてやろう。確定事項なんだろ?」
私は頷き、ヴィオレットと笑い合う。
ノワールはそれが面白くないのか不機嫌になった。
「お喋りはそのくらいにして、さっさと歩け。転移なら一瞬だというのに……」
ノワールはブツブツ文句を言いながら、先を急ぐ。
私は重たいドレスに高いヒールで、それに合わせて歩くのは大変だったが、一生懸命着いて行く。
ヴィオレットは私の後を歩いた。




