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婚約破棄されたので魔王になりましたー元公爵令嬢の復讐譚(旧:お可哀想な人)  作者: 彩心


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閑話 アラクネ

 

 私は名も無いアラクネ。

 ある晩、頭の中に突然声が響いた。


 『魔物を統べる者が誕生した』


 魔物を統べる力は昔から悪魔によって授けられる。

 前回は確か300年程前。

 死にかけのヴァンパイアが力を授かり、人間共を襲ったが、白い服を着た人間の集団に倒されたと伝え聞いた。


 私はまだ生まれてなかったので、この声を聞いたのは初めてだ。

 なのに、心にストンと落ちてきて瞬時に理解する。

 そこに疑いは一切無い。


 本能的に心の底から歓喜する気持ちはなんだ?

 私は『魔物を統べる者』が誕生するのを待っていたのか?


 分からない……。


 私は今の自由な暮らしが好きだ。

 『魔物を統べる者』が現れたのなら、私には自由がなくなる。

 それなのに、嬉しいなんておかしいだろう。


 丁度その時、近くに『魔物を統べる者』の気配があった。


 気配まで分かる様になるのか……。

 会ったこともない者なのに……。


 私は知りたくなった。

 私の心を乱す、私を支配する者を。


 住処の洞窟を出て、気配の元へ急ぐ。


 『魔物を統べる者』の気配が近づき、目視できそうな所で動きを止めた。

 気配の元をたどっていくと、そこにフラフラと歩く人間の女がいた。


 まさかっ!? そんな馬鹿な!!


 周りを見渡すが、それらしき者は誰もいない。

 それに、本能が告げる。


 あの人間の女こそが『魔物を統べる者』だと。


 認めたくなくて、困惑していると人間の女が突然倒れた。

 放っておけば、このまま狼などの動物に喰われて死ぬだろう。

 人間なんかに(つか)えるつもりはない。

 このまま死んでくれて構わない。


 だが……最後にどんな(つら)をしているのか見てやりたい気持ちになった。

 興味本意で人間の女に近付いた。


 人間の女はまだ意識があるようだった。


 「私は……い…きる……」


 生きるだと!? この状況でどうやって助かるつもりなんだ。

 こいつは馬鹿か。

 生きて私達をそんなに支配したいか。

 人間というものは、なんと貪欲なのか。

 苛立ちからか思った事が口を衝く。


「この死にかけが我らの(あるじ)だと? フッ、笑わせる。悪魔は何を考えている。なぜこんな脆弱(ぜいじゃく)な人間に力を与えた」


 人間は脆くてすぐに死ぬ。

 こんな弱い生き物に支配されるとは、なんたる屈辱。


 死ねばいい。

 そう思って立ち去ろうとした時、人間の女と目が合った。


 人間の女の赤い瞳が淡く光った。

 私の心臓がドクリと跳ねて、別の思考が私を支配する。


 この人間の女を助けろと。


「だ…れ……」 

「チッ、その目で私を見るな。抗えなくなる。面倒な……」


 人間など死ねばいい。

 その思いとは裏腹に、体は勝手に動きだす。


 背中に乗せればいい話だが、人間など乗せたくなかった。

 だから私は、糸でグルグル巻きにしてやった。

 これなら糸がクッション代わりになり、引きずっても大丈夫だろう。


 今の私には、これが精一杯の抵抗。


 人間の女が何か言った気がするが、まぁいい。

 それより、この死にかけをどこに運べばいい。


 辺りを見回すと、空に赤く光る球体が浮かんでいた。


 あんな物前からあったか?


 不思議に思って眺めていると、体が勝手にそれに向かって歩く。

 あそこに向かえって事か。

 そこに何があるか知らないが、別に人間の女がどうなろうと構わない。

 私は別の思考に体を委ねる事にした。





   ♢   ♢   ♢   ♢





 赤く光る球体の元まで行くと、そこに石造りの2階建ての居城があった。


 年季の入った色褪せている壁に、(つた)が無数に絡み合っている。

 その周りに、魔の森の草が生い茂り、木々が影を作る。

 これでは城の中は昼でも薄暗いだろう。


 なんて不気味で素敵な住処なんだ!!

 こんな森の中に、いったいいつの間に出来たんだ?


 驚きと興奮で足が止まり、城を眺めていたら、いきなり誰かに肩をつかまれた。


「君が訪問者第一号だ」


 振り向くと、人間のような姿をした黒髪の男が居た。

 目があって、分かった。

 コイツは悪魔だ。赤目は悪魔の印。


 悪魔は何も答えない私を無視して、引きずってきた糸の塊を見た。


「手土産を持ってくるなんて気が利くな」


 そう言って、糸の塊に近付いていく悪魔。


 悪魔なら、この人間をなんとかするだろうと思い、私は糸を解いていく。

 中身を見て驚いた様子の悪魔。

 慌てて駆け寄り、人間の女の上半身を起こして状態を見ている。


「このままでは死ぬな……」


 そう呟くと、悪魔は回復魔法を人間の女に使った。

 しかし、まだ意識は戻らないし、ぐったりしている。


 回復魔法が効かなかったのか?


「私が少し離れただけで死にかけるとは、人間とはなんと脆いのだ。だが……面白い。クフフ」

「なぁ、回復魔法は効かなかったのか?」

「いや、ちゃんと効いてる」

「でも、まだぐったりしているぞ?」

「死なない程度にしか治していない。全部治したら面白くないだろう? クフフ……」


 何が面白くて、何が面白くないのか、さっぱり分からない。

 私は「そうか」とだけ返事しておいた。


 悪魔は人間の女を抱き上げると転移した。


 これで私の役目は終わった。

 体も自由になったし帰ろうかと思ったが、城の中が気になって体がうずうずする。


 だって、私の理想の住処が目の前にあるのだ。

 少しだけ見たら、人間の女と関わる前にすぐに帰ろう!

 そう決意して、城の中に足を踏み入れる。


 中は暗いが、予想外に綺麗だった。

 埃っぽくもないし、蜘蛛の巣もない。

 なんかがっかりだ。


 適当にドアを開けて、部屋の中に入る。

 そこは何も置いてなくて、ガランとしていた。


 ここに糸を張って、ベットを作ったら最高じゃないか。

 朝や昼でも日は当たらないし、ここに住みたいなぁ。 


 そう考えていたら、またもや悪魔が目の前に現れた。


「急に現れるな! ビックリするだろう!」

「それは無理だな。私の趣味だ」

「急に現れるのが趣味か?」

「いや、驚かせるのが。クフフフフ」


 変な趣味。

 悪魔は本当に訳が分からない。

 まぁ、一生理解できなくていいが……。


「もういい。何か用か?」

「お前はこの城が気に入ったか?」

「あぁ、この城最高に良いな」

「まぁ、私の力作だから当たり前だが。気に入ったなら住めばいい」

「いいのか?」

「あぁ、構わない。ただ、ここの住人だという証を刻ませてもらう」

「そんな事でいいのか? ならここに住む!」


 悪魔は不適に笑った。

 私は有頂天になっていて、気付かなかった。


 入る前に『人間の女と関わる前に帰ろう』と思っていた事も、この時綺麗さっぱり忘れてしまっていた。 


「では、証をつける。手の甲をだせ」


 私は言われた通りに、手の甲を悪魔の目の前にだす。

 悪魔はそこに自分の手を置き、何かを呟いた。


 すると、手の甲がピリリと痛んだ。

 悪魔が手をどけると、そこに赤い何かの模様が刻まれている。


「これでお前の住処はここだ。もう逃げられない」

「どういう事だ?」

「お前は私に首輪をつけられたも同然。それがその印だ。私からは逃げられない。クフフ」


 悪魔は顎で私の手の甲の模様を差す。


「なっ、騙したな!」

「騙してなどいない。ここに住めるのだから。私の下僕としてな。クフフフフフ」

「下僕なんて聞いてない!」

「お前は聞かなかったし、私も聞かれなかったので、ついうっかりしていたよ」

「この悪魔!!」

「あぁ、私は悪魔だ。今後、悪魔との契約は慎重にならねばな。勉強になったなアラクネ」


 そうだ。

 コイツは悪魔だった。


 悪魔の言う事は正しい。私が馬鹿だったのだ……。

 一度契約してしまった以上、もう取り消せない。

 悔しくて、拳を握り締める。


「アラクネが、シュゼットの力になる事を期待しているよ。クフフフフフ……」


 悪魔は笑い声を残して、また消えた。


 こうして私の下僕生活は幕をあけた。






 

  

  

 

 

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