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時の王様(大人向け)


 皆さんは、時の王様をご存知ですか?

 私が「時の王様」と呼んでいるだけで、他にも呼び名があるかもしれません。

 時の王様は、あらゆる時間、時というものを支配し、自分の思うままに動かしています。

 しかし、時の王様が支配しているのは時間だけ。

 その時間の中で生きているものたちを支配することは決してなく、時を戻すことは出来ても、死者を生きかえらせることも、壊れた物を直すこともできません。

 けれども、時を伸ばすこと、縮めることは出来ます。

 ただし、代償、代価が必要です。

 特に、死を遅らせる時の代償、代価はとてつもなく大きなものになります。


 

 ところで、現代人の私達は、時の王様に支配されていると言ってもいいのではないでしょうか?

 でも、支配されているから悪いというわけではありません。

 王様のおかげで私達は生活リズムの整った、規則正しい生活を送ることが出来るのですから。

 王様が私達の生活の秩序を守ってくれているのです。


 さて、ここで一人の青年のお話をしましょう。

 彼は現代を生きながら、王様に支配されない生活をしています。

 寝たい時に寝て、起きたい時に起き、食べたい時に食べ、働きたい時に働く。

 そんな、自由気儘な生活を送っています。

 私は、彼を羨ましく思いますが、皆さんはどうでしょうか?

 自由気儘、悠々自適といえば聞こえはいいでしょう。

 でも、自堕落で、不規則な生活とも言えます。


 そんな彼に王様は興味を持ち、会いに行きました。

 彼と一緒の時間を過すということは、王様が彼の時間を奪うということでもあります。

 ですが、二人共そんなことは全く気にしませんでした。

 彼は、王様のことを全く知りません。

 それで、王様に会った彼はまず、こう口にしました。

「あなたは、誰ですか?」

 王様は笑ってこう言いました。

「儂は時間を支配するもの。名前などというものはない。儂のことを『時の王様』と呼ぶ者はいたがな」

「時の王様?」

「うーむ。お前はこの現代において、時に支配されていない変わり者だと思って、暇潰しに会いに来た。だが、儂に会って初めに聞くことがそれとは、他の者たちと同じではないか。実につまらん。ガッカリじゃ」

「冗談はやめてください。それとも、ボケてるんですか?」と、彼は怪訝な顔をしています。

「これだから現代人は嫌なんだ。直ぐに人を疑う。儂は冗談を言わないし、ボケてもおらん。見ておれ。」

 そう言って、王様は自分と彼以外の時間を止めてしまいました。

「えっ!? ウソだろう?」

 彼は驚きのあまり冷静さを欠き、「止められるなら戻すことも出来るんだろう? なら、母さんが死ぬ前に戻してくれよ!」と、王様に言ってしまったのです。

「やっぱりお前も他のものと同じことを言うのだな」

 他の人とは違い、時の支配を受けない彼を少し特別に思っていた王様は、益々不機嫌になりました。

「儂は、時間を戻すことは出来ても、お前の母親を生き返らせることは出来ん。儂が支配しているのは時間だけだからな。生命(いのち)というのは、お前たちの言う『神』とかの領域だ。儂は『神』ではない。ただ時間を支配するためだけにある存在なのだ」

 彼は一言、「そっか」と言ったきり、押し黙ってしまいました。


 どれくらいの時が経ったでしょう。

 王様は、「儂はそろそろ戻るが、お前から奪った時間は返さんぞ。良いな?」と言って、帰ろうとしました。

 その時になって、やっと彼が口を開きます。

「待って下さい。あなたは、私が時間の支配を受けていないと言いました。けれど、私はそうは思いません。私は生きている限り、時間に支配されているように思うのです。例え私が時間に従って生活していなくても、私の人生の時間は決まっていて、あなたはこうして、私の時間を奪うことが出来る。私は決して自由ではありません」

 王様も、「確かにそうだ」と、認めてしまいました。

「儂はお前と、会話がしたかったのだ。お前にその気があるのなら、もう少しいるとしよう」と言って、王様はその場に座り込みます。

 平静を取り戻した彼は、王様に尋ねました。

「あなたは、時を支配していると言いました。しかし、『神』ではないと。それでは、『人』なのですか?」

「私は『人』などではない。お前には人の姿、とりわけ老爺のように見えるのだろうが、それは、儂がそう見せているだけのこと。儂に姿、形というものはない。時というものに、それがないようにな。儂は、時の上に立つもの。ただ存在するのみ」

「では、空気みたいなものでしょうか?」

「うむ、どうであろう? それが一番近い存在かもしれぬ。そう言ったのは、お前が初めてじゃ。わはは」

 王様は、面白そうに笑っています。

 彼は、この不思議な存在に興味を持ちました。

 王様もまた、自分の存在を「空気みたいなもの」と言った彼に同じ気持ちです。

 彼は言いました。

「空気に感情はありませんが、王様にはあるように思います。やっぱり王様は、『人』に近いのではないでしょうか?」

「うーむ、ではその真ん中ぐらいの存在だとでも思えばいい。儂にも分からんからな」

「そうなのですか? そもそも、感情があること自体が不思議なのですが」

「それを知ることが出来るのも『神』とかの領域だ」

「では、あなたの存在を何と呼べばいいのでしょう? 時の王様と呼んでいいのでしょうか?」

 それを聞いて、王様は呆れたような顔をします。

「人というものはすぐに名前をつけたがる。儂に名前などいらぬ。呼びたいように呼べばいい。儂は人などと違って名前ごときに縛られることはないからな」

 

 彼は尋ねました。

「では、K・O・T(ケーオーティー)。時を支配するとは、具体的に何をするのですか?」

K・O・T(ケーオーティー)とな?」

 王様は首を捻ります。

「はい。『KING OF TIME』を省略したのです」と、彼は言いました。

「わざわざ略さずともよいではないか。可笑しな奴じゃ」と、王様が言うと、「申し訳ありません」と、几帳面にも彼は謝ります。

 面食らった王様も、「別に謝らなくともよい。好きに呼べと言ったのは儂だからな。K・O・T(ケーオーティー)でもよい」と、几帳面に自分の否を認めるではありませんか。

「それでは、質問に答えよう。時間を支配するということは、時間の秩序を維持する、守るということだ。秩序を乱すものがいたら、そのものを罰せねばならぬし、時間が狂うことがあれば、直ちに正さねばならぬ。支配するとは、管理するということなのだ。理解ったかね?」

「はい。K・O・T(ケーオーティー)。そういうことなら、私も秩序を乱すものとして、罰せられるのでしょうか?」と、不安そうに彼は尋ねました。

 王様は笑って言います。

「わはは。その心配は無用じゃ。おまえは時に従わないだけであって、乱したわけではないからな。従わないのと、乱すのは似ているようで違う。お前が乱したりしないかぎり、罰したりはせぬ」

「そうですか。良かった。あの罰って、どんなことをするんですか?」と、彼は恐る恐る聞きました。

 王様は少し考えて、「罪の重さによって、そのモノの時間を奪ったり、止めたり、早めたり、遅くしたり、様々じゃ。儂は、時間以外は動かせぬから、罰も自ずと時間に関係したことになってしまうのじゃ」と言ったのです。

 

 彼は、こんな王様のことが好きになってしまいました。

 王様もまた同じ気持ちです。

K・O・T(ケーオーティー)、あなたはいつから存在していたのですか? 宇宙が誕生した頃からでしょうか? それとも、地球が誕生した時からでしょうか?」

 王様は、悩みました。

「そのようなことは、考えたこともなかった。儂は遥か太古から存在していたが、お前たちのような生き物が誕生するまで、儂のことを認識してくれる存在がいなかった。だから、それまでの儂というものは、存在しないのと同じなのではないかな?」

「うーん。それはどうでしょうか? 認識するものがいなくても、自分で存在を認識しているのだから、存在しているのではないでしょうか? 少し難しいです」と、彼も王様と同じ様に悩みながら言いました。

 王様は、「そうか」と頷いたのでした。

 

 彼の好奇心は、尽きることがありません。

 次から次へと王様に質問するのです。

 王様も次々にされる質問に嬉しそうに答えていきます。

K・O・T(ケーオーティー)は、いつもはどこにいるのですか?」

「そうじゃな。お前は知らないだろうが、時の塔というものが、時空の間にある。大抵はそこにいる」

「そこに、家族や家来がいるのですか?」

「儂に家族や家来というものはいない。時の塔には儂だけが存在する」

「それは、寂しいですね」

「ふむ。そんなことは考えたこともない」


 そうして二人は、時間を忘れ、尽きることなく語り合いました。


 時が流れ、気がつくと、彼の髪の毛も髭も伸びて白くなり、身体も骨と皮だけになっていたのです。

 彼は自分の死を悟りました。

K・O・T(ケーオーティー)、私はそろそろ、あなたとお別れしなければいけないようです」

「何!? いつの間にそんなに時間が経っていたのだ。お前がいなくなってしまったら、誰と話せばいいのだ?」

「寂しくなりますが、元に戻り独りになるだけです」

「嫌じゃ! 独りになりたくない。お前を死なせはしない」

 いつの間にか王様にも寂しいという感情が理解るようになっていたようです。

 王様は時間を操って彼の時間を伸ばし、死を遅らせました。

 王様は、その代償を払わなければなりません。

 その代償は、王様の消滅でした。

 王様は、何も残すことなく、存在自体が消えてなくなりました。


 独りぼっちになった彼の目から涙が止めどなく溢れてきます。

「私は、どうして泣いているのだ?」

 なぜ泣いているのか理由が分かりません。

 彼の中からも王様の存在は消えてなくなっていました。


 彼は、思い出したように「時の塔に行かなければ……」と言い、時空の間へと旅立ちます。

 

 こうして、神の悪戯か、はたまた王様の消滅だけでは代償が足りなかったのか、彼は新たな存在となったのでした。
























 ――時は巡り、幾度となく繰り返すのです……――



 お読み下さり、有難うございます。

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