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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「あーあー、聞こえるかい?」

作者:

 雨が降り始めた。青年は、このあたりの地域はもうすぐ雨期に入ることを、前に寄った国で言われたことを思い出す。まだ本降りではないが、次第に強くなるだろうということは、決して短くのない旅の経験から察することができた。目の前にはお膳立てするかのように、大きく、すでに放棄された人気のない建物がある。そういえばここまで来た道は、土砂ではなく若干堅いモノとなっており、どうやらこのあたりは昔栄えていたように思える。青年は自動二輪車から降りると、その建物の中に入って行った。

 この建物はどうやら大規模な商業施設だったようだ。服などが飾ってあったであろうマネキンがそこらかしこに散らばっており、ベンチらしきものや、手すりのついた階段状の輸送機器があった。どうやらここは最低でも二階建てだったようだ。もっとも、すでに上の階はつぶれてしまい、上ることなど不可能であったが。青年はある程度見まわり、安全を確認すると、肩にかけていた荷物を下ろす。自動二輪車は端に置いておく。雨でぬれたものがないかを一通り確認し、濡れてしまったものは乾かす。

「あーあー、聞こえるかい?」

 青年の背後から男性の声が聞こえた。驚いたのか身体をビクッと動かすが、それが青年の背後にあるベンチの下に落ちている、送信機能と受信機能を兼ね備えた無線機だということに気が付くと、明らかに安堵しそれを拾い上げる。

「よかった、聞こえているみたいだね。すまないけど助けてくれないかい? 足をくじいてしまったんだ」

 こちらが無線機を取った事に気が付いたのか、向こうからも安堵するような声が聞こえた。

「僕はショッピングセンターの地下に行く、北側の入り口辺りにいるんだ。お願いだよ、動けなくて困っているんだ」

 近くにあった、薄汚れた地図を確認すると、確かに、地下に行けるであろう階段があった事がわかる。青年は無線機の男性に了承の返事をすると、荷物をたたみ、ある程度動きやすくて闘いやすい装備を整える。もしも、無線機の男性の話が嘘ならば迎撃しなければならない。雨がやみそうにない今、ここで夜を明かす予定なのだ。自身の安全を脅かすかもしれない要素はなくしておくべきだ。

 無線機の男性はずっと一方的に話しかけてきていた。人恋しかったのだろうか、無線機の男性はなぜ足をくじいたのか、そして家族がどう、娘がこうの、君には恋人が出来たのかい、このトランシーバーは電源が長持ちして十年は軽く持つんだ、そういえばこのトランシーバーには録音機能があってね……青年が聞いていない事を一人で話していた。もちろん青年が無線機の男性に返答したのは了承時のときだけである。時には青年が反応したかの如く話を続けているのだから驚きだ。よくしゃべれるな、青年は心の中で思った。





 青年は北側の地下への入り口についた。しかし、辺りを見回しても無線機に話しかける男性の姿はない。あったのは瓦礫と―――。




 青年は無線機を見つけた場所まで戻ってきた。そして無線機をベンチの下に戻す。青年が北側の地下への入り口で見つけたのは瓦礫と、片手に青年が見つけた無線機と同じ機種を持つ、足をかばったような体勢の白骨死体だった。頭を撃ち抜かれていた。

 青年は寝袋を取りだすとその中に入る。この場所には、雨の音と無線機から聞こえる男性の音が響くだけだった。

「あーあー、聞こえるかい?」

「よかった、聞こえているみたいだね。すまないけど助けてくれないかい? 足をくじいてしまったんだ」

「僕はショッピングセンターの地下に行く、北側の入り口辺りにいるんだ。お願いだよ、動けなくて困っているんだ」


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