表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/538

お嬢様はリアクションが大きい

  お嬢様(じようさま)といえば、良家(りようけ)(むすめ)()すことが多いだろう。

 品行方正(ひんこうほうせい)

 育ちがよい。

 そんな印象(いんしよう)を持ったお嬢様が、ただ探偵(たんてい)をしているだけの普通(ふつう)の高校二年生の俺の(まわ)りにもひとりだけいる。

 年は俺より二つ下の中学三年生。

 金髪(きんぱつ)ツインテールで(じつ)はクオーターだと聞いている小柄(こがら)な少女。

 名前は御涼鈴(みすずみすず)

 俺は彼女を(すず)ちゃんと()んでいる。


挿絵(By みてみん)

御涼鈴 イラスト(2019-03-05追加)


 そしていまも、学校の帰り道に鈴ちゃんを見かけて、呼びかけようとしていた。

 ……しかし、俺はちょっとためらっていた。

 なぜなら。

 鈴ちゃんは現在、ショーウィンドウに(うつ)った自分を見て、笑顔(えがお)練習(れんしゆう)をしていたからだ。



 にっこり。

 鈴ちゃんの笑顔が爆発(ばくはつ)している。

 そもそもとして、鈴ちゃんは誰が見てもわかるほどの美少女だ。清楚(せいそ)(たたず)まいが、お嬢様を見た目にもそれを体現(たいげん)して、大きな(ひとみ)知性(ちせい)()め、小さく(かたち)のよい(くちびる)(ひん)があり、どこか高貴(こうき)さを感じる。

 しかし、この子はマジメで礼儀正しいけれど、不意打(ふいう)ちに弱く、そのせいでリアクションが大きい。

 なにを隠そう、鈴ちゃんは(われ)らが少年探偵団しようねんたんていだんのメンバーでもあり、(なぎ)にはリアクション担当(たんとう)と言われるほどなのだ。そのくせ()()さんだし。

 だから、俺は声をかけるか戸惑(とまど)ってる。

 けれども鈴ちゃんの後ろを素通(すどお)りするのもそれはそれで気づかれてしまったときに(たが)いに複雑(ふくざつ)な感じになるので、思い切って声をかけることにした。

 そっと(あゆ)()って、声をかけた。

(すず)ちゃん、偶然(ぐうぜん)だね」

 だが。

「……」

 鈴ちゃんは、よりにもよってこのタイミングで、左右(さゆう)人差(ひとさ)(ゆび)をほっぺたに当てるという、ポージング()みでの最大級(さいだいきゆう)のスマイルが炸裂(さくれつ)したのだった。

「…………」

 鈴ちゃんは一度俺を見て、視線をそらし、また俺を見る。

 いわゆる二度見(にどみ)だ。

 ここまであからさま二度見(にどみ)をした人を、俺は見たことない。

 再度(さいど)バッと俺を見て、鈴ちゃんは(あと)ずさって(しり)もちをついた。

「あわわわわ! かっ、(かい)しゃんっ! こに、こにちは」

 しくじった。タイミングを見誤(みあやま)った。つーかいつまで笑顔の練習してるんだよ。ものすごく()ずかしそうに赤面(せきめん)している鈴ちゃん。

 (きゆう)に鈴ちゃんが大きな声を出すもんだから、(まわ)りにいた人たちがこっちを見ている。

 俺は手を差し伸べた。

「ごめんね、急に話しかけて。立てる?」

「はい、立てましゅ」

 さっきからしどろもどろになって()みまくっている。

 鈴ちゃんは俺の手を(にぎ)り、立ち上がった。

 セーラー服のスカートのお(しり)のほこりを(はら)って、もじもじしたようにチラッと俺を見て言った。

「あ、あの。すみません、突然(とつぜん)のことに少し(おどろ)いてしまいまして」

 少しどころの(さわ)ぎじゃなかったけどな。

「いいって」

「あたし、ちょっとだけ(おどろ)きやすい体質(たいしつ)みたいで」

 だからちょっとじゃない。ていうか、それって体質の問題なのか。そうなると俺が抗議(こうぎ)する先がこの子の両親ということになるな。

 鈴ちゃんは上目(うわめ)に俺を見て、

「ひとつお(うかが)いしますが、その……見ましたか?」

 俺は苦笑いで答える。

「ちょっとだけ……」

「ひゃっ! や、やっぱり見られてたんですねっ。すみません、変なところお見せして」

 耳まで赤くしている鈴ちゃんに、俺は(やさ)しく言ってやる。

「いや、気にしないで。このことは、お(たが)(わす)れよう」

「そうですね。忘れてくれるとうれしいです。あたし、明日クラス(ない)でスピーチの発表会がありまして。途中(とちゆう)登場(とうじよう)するおじいさんのセリフまで演技(えんぎ)しちゃって、それを開さんにも見られていたと思うと()ずかしいです」

 と、苦笑(くしよう)しながら理由を告白(こくはく)する鈴ちゃんである。

 しかし俺には彼女の言っていることがちょっとよくわからなかった。

「おじいさんのセリフ?」

「はい?」

 鈴ちゃんは小首をかしげたあと、自らが墓穴(ぼけつ)(jほ)ったことを(さつ)してうずくまった。

(あな)があったら入りたいです」

 ああ、そうだろうな。さっき自分が()った墓穴(ぼけつ)という(あな)には入れないからな……。



 鈴ちゃんも落ち着いたところで、俺たちはいっしょに探偵事務所へ向かうことになった。

 いつも放課後はまっすぐ探偵事務所へ向かうのだが、鈴ちゃんは家庭(かてい)用事(ようじ)や学校の用事で来られない日もたまにある。

 それでも、こうして学校帰りにタイミングよく会うことはまれだった。

「開さんは、今日は学校が終わるのが(あそ)かったんですか?」

「どうして?」

「いえ。ただ、あたしの学校より開さんの学校のほうが探偵事務所に近いですし、いつもあたしより先に探偵事務所にいらっしゃるので」

「ああ。そういえばそうだね。今日はちょっと試験(しけん)についての説明会(せつめいかい)みたいのがあって」

「そうでしたか」

 こうして普通(ふつう)にしていれば、なんの当たり(さわ)りもなく普通にいい子なのだ、鈴ちゃんは。

「そういえば、普段(ふだん)(なぎ)といっしょによく来るけど、今日はいっしょじゃないんだね」

「はい。先輩(せんぱい)(はや)く学校が終わったから先に行ってると言ってましたよ」

「そっか」

 鈴ちゃんは、凪のことを「先輩(せんぱい)」と呼んでいる。俺のことは「(かい)さん」と呼び、同じく少年探偵団のメンバーの逸美ちゃんのことは「逸美(いつみ)さん」と()ぶ。

 二人(なら)んで歩いていると、どこかのショーウィンドウの前に立っているくせ毛の少年を見かけた。あれは凪だ。しかしなにをしているのやら。

 よくよく観察(かんさつ)してみると、凪はガラスに向かって笑顔を作っているようだった。

 あいつ、鈴ちゃんと同じことしてるな。ふふっ、と俺が笑うと、凪がなにやらショーウィンドウに向かってしゃべりはじめた。

「ふぉっふぉっふぉ。どうしたんじゃ?」

 それはこっちが聞きたい笑いたい。なにしてんだ、こいつ。

 しかし納得(なつとく)いかないのか、凪はもう一度同じ言葉を()り返す。

 俺は(あき)れながら鈴ちゃんに言った。

「あいつ、(へん)なことしてるね。なに言ってんだか。(かか)わりたくないし、どこか……」

「あわわわわ」

 鈴ちゃんの様子がおかしい気がして横を見ると、鈴ちゃんは顔を赤くして硬直(こうちよく)していた。手で口を押えている。これは、凪に関係があることだろうか。


 すると、今度(こんど)は凪の(もと)にふわふわの長い栗色(くりいろ)(かみ)()()らせたお姉さんがやってきた。

 逸美ちゃんだ。

「あら? 凪くん、奇遇(きぐう)ね。こんなところでどうしたの?」

「ふぉっふぉっふぉ。どうしたんじゃ?」

 また言ってる。つーか聞かれてるのはおまえだ。答えてやれ。それとも聞こえてないのだろうか。

 俺は鈴ちゃんに向き直って、

「ねえ、鈴ちゃん」

 あれ?

 ()びかけたが、さっきまでそこにいたはずの鈴ちゃんの姿(すがた)がない。

 と思ったら、鈴ちゃんは凪の(もと)へとダッシュしていた。

「もうーっ! 先輩(せんぱい)のバカバカっ」

 ぽかぽかと凪を(たた)く鈴ちゃん。凪には全然()いていないようで、

「どうしたんじゃ?」

 まだ変なしゃべりを続けて、凪はそう聞いた。

 俺も三人の(もと)へ近づいて行った。

「凪、さっきからなに変なしゃべり方してんだよ」

「ふぉっふぉっふぉ」

 笑ってる。なんか腹立(はらた)つな。

 しゃべる気配(けはい)のない凪に、鈴ちゃんが()ずかしそうに説明した。

「さっき、あたしがスピーチの練習でおじいさんのセリフの演技(えんぎ)をしてたって言いましたよね? そのおじいさんのマネを、先輩(せんぱい)がしてるんですよー」

 赤面(せきめん)して内股(うちまた)になっている鈴ちゃん。確かに、凪にその一部始終(いちぶしじゆう)を見られていてさらにマネまでされていたと思うと()ずかし()ぎるな。

 俺は凪に言ってやる。

「おい、凪。そろそろやめろ」

 凪は、なにやら耳に手を持って行った。耳から手が(はな)れる。その手には、イヤホンヘッドがあった。

「開、なにか言った?」

 ズコーっと俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんがズッコケる。

「なんで最初に逸美ちゃんがしゃべりかけたときにイヤホン(はず)さなかったんだよ!」

「そうですよ! もうっ」

 俺と鈴ちゃんに言われても、凪は飄々(ひようひよう)と答えた。

「ぼくは(やく)(はい)り切るために集中していたんだ。外の音を遮断(しやだん)してね」

「ていうか先輩! あたしの、その、さっきの、見てたんですか?」

 むぅ、と鈴ちゃんが()ずかしそうに凪に(せま)って()()める。

 しかしこれにも凪は気にせず、さらりと答えた。

「見てないよ。なんのことだかぼくにはわからない」

一言一句(いちごんいつく)同じだったでしょ」

「だからなんのことー?」

 だるそうに聞き返す凪。

 あくまで(しら)()るつもりらしい。まあ、俺にとってはどうでもいいことなので、まだわちゃわちゃ言い合っている凪と鈴ちゃんのことは置いておこう。

 俺は逸美ちゃんに聞いた。

「逸美ちゃん、出かけてたの?」

「そうなの~。買い物してきちゃった」

(おも)そうだし()つよ」

大丈夫(だいじようぶ)よ」

「いいって」

「ありがとう。開くんは本当に優しいわね」

余裕(よゆう)だし」

 実際(じつさい)それほど重くはなかったけど、このあと探偵事務所までのだらだら坂を(のぼ)ることを考えると、次第(しだい)に重さを感じそうなくらいだ。

「ねえ、開くん。凪くんと鈴ちゃんはどうする?」

「いいよ。(ほう)っておこう」

「そうね~。なんか話し込んでるみたいだしね~。それじゃあ、いっしょに帰ろっか」

「うん」

 俺と逸美ちゃんはしゃべりながら探偵事務所に向かった。



 探偵事務所で買ってきた荷物(にもつ)整理(せいり)をしてしばらくすると、凪と鈴ちゃんもやってきた。

 四人で今日も誰もこない探偵事務所の(ばん)をこなして、いつもの帰る時間になる。

 この日は、四人いっしょに探偵事務所を出た。

「今日は気になってた推理小説(ミステリー)、最後まで読めたわ~」

 と、満足(まんぞく)そうな逸美ちゃん。

「よかったね、逸美ちゃん。俺はちょっと先の分まで予習(よしゆう)できたし、勉強もはかどったよ」

 そんな俺に対して、鈴ちゃんは(つか)れたようにつぶやく。

「あたしは帰って勉強です。それにまたスピーチの練習しないと」

「なんだい、鈴ちゃん。ここで勉強くらい()ませちゃえばよかったのに」

 (あき)れたように言う凪に、鈴ちゃんがかみつくように返した。

「もうっ。先輩(せんぱい)のせいでしょ?」

「知らないよ。やらなかったのは鈴ちゃんじゃないか」

「先輩が邪魔(じやま)ばかりするから、あたしはやるべきことができなかったんです」

 凪はやれやれと手を広げる。

「ふっ。ああ言えばこう言う」

「それはおめーだよ」

 と、俺がつっこんだ。

「うまくオチもついたところで、みんなここでお(わか)れだね。じゃあね~」

 凪が手を振る。

 俺たち四人は交差点(こうさてん)で四方向に分かれた。

「みんな気をつけるのよ~」

「今日もお疲れ様でした」

「ばいばい」

 と、手を振るみんなに俺も手を振り返した。

 それぞれ歩き出す。

 いや、待て。

 なんか凪だけ来た道引き返してるんだけど。

 たまにアニメとかでもそういうやついるけど、現実(げんじつ)にもいるんだな。

 俺が前に向き直って歩き出したとき、鈴ちゃんが小走りに交差点まで(もど)ってきた。

 そして、凪が帰った方向を見て言った。


「え? なんでそっちに? 先輩? せんぱーい!」


 いちいちリアクションをしに戻ってくるとは、さすがは()が少年探偵団のリアクション担当(たんとう)である。




挿絵(By みてみん)

御涼鈴 イラスト(2017/12/20追加)





挿絵(By みてみん)

この話とは関係ありませんが、同時連載している長編『ルミナリーファンタジーの迷宮』で使用しているおまけマンガです。


開、凪、逸美、鈴の少年探偵団のメンバー4人が登場するミステリー長編「探偵王子カイ 奇術師ナギと天空のパラノーマル」(https://ncode.syosetu.com/n1160el/)は完結済です。よかったらそちらも読んでもらえるとうれしいです。青春、SF、ファンタジー要素もあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ