御涼家でお花見 その1
週末。
俺は、花音と逸美ちゃんといっしょに御涼家までやってきた。逸美ちゃんが明智家まで迎えに来てくれて、それで三人で来たのだ。
「やっぱり鈴ちゃんちはおっきいねー」
花音が、遠くを見るように敬礼みたいな額に手をやるポーズで、御涼家を見る。
改めて見ると、やはり大きな家だなと俺も感心する。鈴ちゃんちには前にも訪れたことがあるけど、庭も屋内も広いのだ。規模としてはマンガの大金持ちみたいな規格外なものじゃないしあくまで広い敷地を持った一般家庭って感じだ。
「印象としては武家屋敷に近いかな」
「あー、確かに。昔のおうちっぽいよね」
と、花音がうなずく。
威厳のある門は閉まっており、中に入るにはインターホンを押す必要がある。
「じゃあ押すわよ」
ピンポーン。
代表して、逸美ちゃんがインターホンを押した。
『はーい』
鈴ちゃんの声だ。
「こんにちは。逸美でーす。開くんと花音ちゃんといっしょに来ました~」
『こんにちは。いまお迎えに上がりますね』
それからすぐ、鈴ちゃんが門を開けてくれた。
装いはお花見の席を意識してか、着物姿だった。鮮やかな赤い着物だ。鈴ちゃんは金髪碧眼で西欧風だけれど、それがまた似合っていた。
「あらぁ。鈴ちゃん着物ステキね~。可愛い~」
「こんにちは。着物似合ってるね」
「鈴ちゃん張り切ってるじゃん」
逸美ちゃん、俺、花音、と順番に言われて、鈴ちゃんは照れた顔で謙遜する。
「ありがとうございます。パパがせっかくなら着たらどうだって言うもので。て、あたしが張り切ってるわけじゃないのよ花音ちゃんっ」
「あはは。お上品な恰好でもノリツッコミはしちゃうんだね」
楽しそうに笑う花音をひとつにらみ、鈴ちゃんは唇を噛みしめる。
「くぅ。今日こそは完璧に和風美人を演じようと思ってたのにぃ……」
「和風美人じゃなくて和装美人だよ。似合ってるんだからお澄まし顔でいなよ」
鈴ちゃんの後ろからそう言ったのは、凪だった。なんだ、こいつもう来ていたのか。
「え? 先輩、あたし似合ってますか? わ、和装美人だなんて。うふふ。ありがとうございまちゅ。て、先輩!? なんでいるんでちゅか」
噛み噛みで驚く鈴ちゃん。
凪はやれやれと肩をすくめる。
「ぼくはパパといっしょに、物置からテーブルを引っ張り出して運んであげてたんだぜ? 頼まれちゃ断れないからね。鈴ちゃんがママに着物を着せてもらってるときにやっちゃおうってことでさ」
「そうでしたか。あ、ありがとうございます」
なるほど、凪はお手伝いをしていたのか。感心感心。ただ、それなら俺も手伝うべきだったろうかと思ってしまう。まあ、これにはお礼を言うしかない。
「凪、ありがとう」
「おう。開も今日は楽しんでいってくれ。と言いたいが、まずはみんな、お着替えだ」
その言葉に、俺と逸美ちゃんと花音が小首をかしげる。
「お着替え?」
凪は当然のように腕組みして言った。
「うむ。みんな和服に着替えるんだ」




