けーちゃんと那須の犬 その4
吠えなくなって犬小屋に入ってしまった犬に、けーちゃんが飽きると、俺たちは家に上がった。
けーちゃんママが心配して聞いてきた。
「大丈夫だった? ものすごく吠えられていたけど」
「うん。平気だよ。むしろ楽しそうだった!」
花音が朗々と答えるものだから、けーちゃんママは呆気に取られたような不思議そうな顔になっている。息子のメンタルにビビってしまったのか、状況がよくわからないのか。
「けーちゃんは、心配されるタマじゃないみたいだ。犬を圧倒したからね」
まさに、凪の言う通りだった。
そのあと。
俺たちは、おじちゃんにまた褒めてもらえた。
「開はサイコー! 凪もサイコー! 花音もサイコー! みんなサイコー!」
サイコー、というのがおじちゃんの中で一番の褒め言葉なのだ。酔いが回っておじちゃん節が全開になってきた。
おじちゃんはお父さんにも言う。
「秀行さんはいい男。ほんとにかっこいい。サイコー」
お父さんはうれしそうに快活に笑って謙遜する。
「はっはっは。オレなんて北海道とか沖縄の人に間違われるんだけどね。顔が濃いから。まあ、兄貴にそう言ってもらえるなら、オレもいい男なんだろうけどね!」
「まーた調子に乗って」
と、お母さんが笑った。
「ふむ。お父さんは勇ましい縄文人顔ですからな」
納得している凪に、花音は不思議そうに聞く。
「凪ちゃん、それ褒め言葉なの?」
「そうに決まってるだろ。あっはっは」
お父さんが最初に笑って、みんなも笑った。みんなちゃんと聞いてないけど凪が横で男前ないい顔だとまじめに話しているから、本音の褒め言葉だったのだろう。いわゆるソース顔の男前な芸能人も、縄文人顔だっていうしね。
おじちゃんを中心にみんなが盛り上がり、しばらくすると。
――もう外はすっかり暗くなり、帰る時間になっていた。
「また来るね!」
「バイバイ!」
俺と花音が手を振って、凪も手を振った。
「今日はありがとう~。またいい男になって帰ってくるよ~」
平井家のみんなに見送られて、犬にも景気の良い鳴き声で見送られ、俺たちの車は明智家へと帰った。




