沙耶さん、ガラス越しの顔 その2
沙耶さんは驚く。
「え、なんでわかったの?」
「簡単だよ。俺も今朝、鏡で自分の顔を見て、ちょっと髪が伸びたなって思ったんだ。同時に、沙耶さんに似てるなって。で、いまの女子高生の話になるけど、彼女はガラスを鏡に見立てて髪を直していた。その様子が目に入ったため、沙耶さんはそれが鏡かもしれないと勘違いした。あとは――勘違いで鏡に映る自分に手を振っていたとしたら……そう考えると恥ずかしくなり、顔を伏せてしまった」
「お見事。ご名答」
まだちょっとだけ恥ずかしそうに、沙耶さんは笑顔で言った。俺はゆるゆると頭を横に振る。
「それほどでもないよ。俺もさ、たまにデパートとか外にある鏡に自分が映ったとき、誰だろう? とか、沙耶さんがいる! とか思っちゃうことあるもん」
「だよねー。私もたまにあるんだ。そのたまにがさっきのそれかと思ったの」
と、沙耶さんが言って、
あはははは、と俺と沙耶さんは笑った。
それぞれ用事があるようだし、今日はこの辺でわかれようと思ったところで、俺の後ろから凪がやってきた。
しかも凪のやつ、ものすごく変な恰好をしている。
都会の真ん中で三毛猫の着ぐるみを着込んでるやつがこちらに歩いてくるのだ。
「おぉ~。二人共、こんなところで偶然だね。どうしたの。そんな恰好して」
俺と沙耶さんは声をそろえてつっこんだ。
「それはこっちのセリフだ!」
どうしたと言われる恰好など、俺も沙耶さんもしていなかった。俺も沙耶さんも普通の私服だ。
なのに、凪はやれやれと肩をすくめた。
「こんな爽やかな冬の日に、ちょっと暑そうですな」
変な着ぐるみを着込んだこいつにだけは言われたくない。
そう思った俺と沙耶さんだった。
それに俺も沙耶さんも寒がりなのだ。防寒はかかせない。
すると。
「おわ~」
ふいに、凪が横を見て驚いたように身をそらせた。さっき沙耶さんがいたお店のガラスを見たのだ。
俺はくすりと笑って言う。
「びっくりした?」
「そんな変な恰好のやつが自分以外にもいたらと思ったらね」
と、沙耶さんもくすりと笑う。
凪はふぅと小さく息をついて、心を落ち着けたように答えた。
「びっくりしたよ~。お店の中からものすごいイケメンがこっちを見てると思ったら、ぼくだったんだもん」
ズテン。
俺と沙耶さんはずっこける。
「そっちかい」
自然、声は重なるけど、その声にも力がない。
凪は頭の後ろで手を組み、ガラスを見てつぶやく。
「ガラスか~。おかしいと思った。こんなイケメン、ぼく以外にそうそういるはずないもんな~」




