つれない態度でメロメロにさせたい その3
逸美ちゃんが俺と凪に呼びかけた。
「それじゃあ、食べましょうか。いただきまーす」
俺と凪もいただきますを言って、俺たちは食べ始めた。
まずは、このチキンタツタをどう食べるかだ。
つれない態度でメロメロ作戦、スタート。
――しかしどうしたものか。
どうやってつれない態度を演出してみるか。
わからないし、まずは食べてみよう。
一口。
「……ん! 美味しい! 逸美ちゃん、これ衣もサクサクだしタルタルソースとも合ってて美味しいね!」
あ。し、しまった……。
つれない態度を取ってときめかせるはずが、食の力には敵わなかった。
「そう? 絶対開くんが好きな味だと思ってたのよ~。開くんが喜んでくれて、わたし幸せ~。連れてきた甲斐があったわ。うふふ」
満足そうな笑顔の逸美ちゃん。
い、いや、待てよ。これは、これでよかったのか? もし美味しいと言わなかったら、逸美ちゃんを悲しませていたかもしれないし。ここはこれでよかったとしよう。
ふーむ、難しい……。
うん、いまはただタイミングではなかったのかもしれない。
俺はこの難題について考えながら黙々と食べる。
「あらあら。開くんってば、あんなに真剣な顔して味わってる。夢中になっちゃって可愛いっ。熱心ね~」
「だね~。開のやつ、なにを考えているんだか」
食後。
美味しいチキンタツタ定食を食べた俺たち三人は、建物を出た。
「ごはんも美味しかったし、満足だね~」
凪がぐっと腕を上げて伸びをする。
「そうね~。開くんに食べさせたかったチキンタツタ定食も食べさせられたし、わたしも大満足だわ~」
逸美ちゃんがふわふわした顔で言うと、凪が俺に振った。
「開はどうだった?」
きたか。ここか。ここで、つれない態度をしろってことなのか?
俺はちょっと考えて答える。
「う、うん。衣サクサク中フワフワ、なかなかだったんじゃないかな、うん」
「開くん、グルメ評論家みたい」
くすっと逸美ちゃんがおかしそうに笑う。
「そんなことはないぞよ」
いけない。今度は神様みたいになってしまった。
すると、右手側から強風が吹いた。
「すごい風……」
思わず目をつむってしまい、ゴシゴシと目をこすった。
うん、目に砂ぼこりは入ってない。
いつもなら逸美ちゃんが大丈夫か気にするところだけど、いまはつれない感じにそっけなくただ前を見る。
「行こうか」
歩き出そうとすると、逸美ちゃんに引き止められる。
「待って、開くん」
顔を近づけられて、俺も思わずドキッとしてしまう。
「ふぇ!?」
「ちょっとじっとしてて。動かないでね」
ささっとてぐしで俺の髪を直してくれる。俺は思わずぎゅっと目を閉じてしまったけど、最後に逸美ちゃんの柔らかい指で髪を撫でられた感触がして、それから俺の頭から手が離れたのがわかった。
「ふふっ。これで大丈夫。うん、ちゃんと可愛くなった」
「……っ」
逸美ちゃんめ。やはり年上のお姉さんは侮れないな。
俺は恥ずかしくなって、くるっと背を向けて歩き出す。
「行くぞっ」
「おう」と凪。
「はーい」
と、逸美ちゃんものんびりとした調子で言った。
まったく、逸美ちゃんってば俺の気も知らないでのんきなものだ。俺のことはときめかせようとかしなくていいのに、ほんとにしょうがないお姉さんだな。
歩きながら、俺は振り返らず逸美ちゃんに聞いた。
「そういえば、逸美ちゃんってこのあと授業ある?」
「ないわよ~。だから、いっしょに帰ろ?」
そっか。逸美ちゃんも授業がないのなら、このままいっしょに探偵事務所に行ける。凪もどうせ学校には行かないだろうし、三人で……て、ここか! ここでつれない態度を取ればいいのか。よし、勇気を出して言ってみよう。




