つれない態度でメロメロにさせたい その1
最近、気づいたことがある。
俺といっしょに探偵事務所で働いている幼馴染のお姉さん――逸美ちゃんは、結構モテるということに。
逸美ちゃん、フルネームは密逸美。
高校二年生の俺より二つ上だから、現在大学一年生。
美人で胸も大きくスタイルがいい上、普段からふんわり穏やかで天然ボケが入った隙だらけの人なので、考えるまでもなくモテるのは当然なのだ。
だけど、いつもすぐそばで抜けてるところとかマイペース過ぎるところを見ているから、逸美ちゃんがモテるなんて考えたこともなかった。
――風薫る五月のある日。
俺は逸美ちゃんの大学に来ていた。
逸美ちゃんが俺に食べさせたい学食があるとかで、連れてきてもらったのだ。それはチキンタツタ定食らしい。
平日だけど試験期間最終日だから俺の高校はお昼前に終わり。うまくタイミングが合ったわけである。
「開くん、どうしたの?」
逸美ちゃんは長い栗色の髪を揺らせて俺の顔を覗き込んだ。俺の不安を見抜いたような瞳に、俺は目をそらせる。
「いや、別に。考え事をちょっと」
「そっか~」
のんきにそれだけ言って、逸美ちゃんは俺の半歩前を歩く。
「あのさ、逸美ちゃん」
「なあに?」
「逸美ちゃんって、大学ではお友達とか、その、多いの?」
さっきから学内を歩いていて、逸美ちゃんが通りかかると逸美ちゃんに視線を送る男子学生の姿がよくあるので、つい気になって聞いてみた。
「それがね~。わたし、お友達は多くないのよ~」
なんだ。そっか。ちょっと安心してしまった自分がいる。
「逸美ちゃんって優しいし穏やかで物腰が柔らかいから、友達もたくさんいると思ったんだけど」
「そんなに褒めてなんにも出ないわよ。つん」
と、逸美ちゃんは昭和っぽく俺のほっぺたを人差し指でつんとした。そして嬉しそうにニコニコ笑っている。
「……」
これでつい照れてしまうのも、俺のまだまだなところだぜ。
「でもね、わたしはコミュ障かもしれないの~」
困り顔でそう言う逸美ちゃんに、俺は小首をかしげた。
「急にどうしたの?」
「実はね、わたしが普通に話していても、いつもずれてるとか天然って言われちゃって」
なるほど。逸美ちゃんは天然さんだしそれはしょうがない。
逸美ちゃんはおかしそうに笑って、
「困っちゃうわよね~」
たぶん、困ってるのは周りのほうだ。
「天然とコミュ障は違うって。逸美ちゃんはコミュ障じゃないよ。それより、食堂ってあそこ?」
「うん。そうさ。よくわかったね」
と、凪が言った。
「いやー。それっぽいっていうか、あれ以外にないでしょ。て、え! 凪? なんで」
俺が驚くと、凪は飄々と答えた。
「ぼくは凪だよ」
「それは知ってるよ。確かにクエスチョンはそこにしかなかったかもだけど」
なんでこいつがいるんだ。凪は俺とは別の高校に通っているから、今日は試験日じゃないしこの時間学校にいるはずなのに。
逸美ちゃんは驚きもせずに凪に聞いた。
「凪くん、どうしたの?」
凪はケロリとした顔で、
「いや。ぼくはどうもしてないよ。失礼だな」
「やっぱりわたしってコミュ障かしら~」
ダメだ。この二人はどっちもちょっと天然でおかしいから、会話が成り立たない。
「で、凪はどうしてここにいるの? 学校は?」
「ちょっとお腹がすいてね。小腹を満たすのにちょうどいい場所を探していたら、ここにたどり着いたっていう寸前さ」
「それを言うなら寸法だ。確かに食堂の目と鼻の先までたどり着いたところだけど」
まったくどうしたものか。わかってはいたけど、この自由人になにを言っても通じない。こいつが学校をサボっても普通のことのように思えるくらいだし、これ以上の追及は無意味だ。労力の無駄だ。
逸美ちゃんは笑顔で手を合わせた。
「でも、凪くんも来てくれて嬉しいわ。開くんにね、学食を食べさせてあげたくて連れてきたの。そこに開くんの相棒で大親友の凪くんまでいっしょなんて、お姉ちゃん嬉しい」
「えっへん」
と、凪が胸を張る。
俺はため息がこぼれる。
見てわかる通り、逸美ちゃんは俺のことを本当の弟のように思っていて溺愛してくれている。だが、幼馴染でもあるし、やはり弟でしかないような感じなのだ。
だから、俺はちょっと考えているのである。どうしたら意識してもらえるのかを。いまの居心地のよい関係も壊したくないけど、ちょっとくらい意識させたい、そんな少年心にこのゆるふわ天然お姉さんがいつ気づくのかは不明だけど。
このお話は、以前『あけちけの日常と少年探偵団の日常』の投稿を始める前に短編として投稿していた『つれない態度でメロメロにさせたい(n1184el)』を改稿したものになります。
今後その他の短編も改稿して投稿していけたらと思います。




