顔が広い人
とある政治家が、駅前で演説していた。
いかにも頑固ジジイって顔をした人で、今年六十になるのに声が大きくていつも元気な暴れん坊なのだ。
俺はこの日、凪と歩いていた。
凪はあの政治家を見て、
「大きな声ですな」
とつぶやく。
すると、近くで演説を聴いていた青年二人組がしゃべっていた。
「あの人、すごく顔が広いんだってさ」
「へえ。そうなんだ」
いまの会話を聞き、凪が改めて政治家を見て驚く。
「ほんとだ! おっきい顔~」
と。
凪は政治家のおじさんの元へと駆けてゆき、近くでまじまじとその顔を見る。
俺は慌てて凪の腕を引っ張った。
「こら、凪! そういう意味じゃねーよ!」
政治家のおじさん、すごく不愉快そうに凪を見ている。
思わず言葉を失っているみたいだ。
凪は感心したようにおじさんの顔を見て、
「いや~、デカい顔してる!」
と、なぜか満足そうで嬉しそうだ。
「それじゃ違う意味で失礼だって!」
俺が声を潜めつつ注意するけど、周りにいた人たちはくすくす笑っている。
後ろでは、さっきの青年二人組が納得したようにこう言った。
「まあ、確かにデカい顔してるよな?」
「ああ。あいつ、言うな~」




