けーちゃんのハンドパワー
近所に住む親戚の男の子、けーちゃん。
今年二歳になるけーちゃんは、毎日すごい勢いでいろんなことを覚える。
覚えるのは、暮らしに必要なことばかりじゃなく、人の優しさもだ。
明智家のお茶の間。
花音がけーちゃんといっしょにミニカーで遊んでやっていると、花音は足を崩した。
「痛たたた。しびれちゃったぁ」
さっきまで正座していたから、足に来たようだ。
俺は聞いた。
「大丈夫?」
「ちょっと痛くてだめ」
すると。
けーちゃんは花音の足をぽんぽんと叩いた。
「よちよち」
「ひぃっ」
しびれた足を叩かれて、花音はいっそう痛がった。
けーちゃんはハッとして、もっと頑張って叩く。
「よちよちよち」
「ひぇえ。あ、ありがとうけーちゃん! だ、大丈夫だから」
泣きそうになりながら笑顔を作り、花音はけーちゃんの優しさに感謝する。
ちょうどそこへ、凪がやってきた。
「よちよち」
けーちゃんが花音の足をぽんぽんして、花音がリアクションを取っている。
そんな様子を一瞥して、凪はけーちゃんに聞いた。
「へえ。花音ちゃんが泣いて感謝するなんて、なにしたんだい? けーちゃん」
「よちよち」
と、けーちゃんは凪に答える。
凪は微笑みうなずいた。
「そうか。けーちゃんは優しいなぁ。花音ちゃんもあんなに喜んでる。すごいハンドパワーだ。よかったね、花音ちゃん」
そう言われて、花音は目の端に涙をためて複雑な笑顔を浮かべた。
「うん、そうだね」




