けーちゃんとゲーム その2
車は家に到着した。
帰宅して、俺は後部座席にいるけーちゃんを、チャイルドシートから下ろしてやる。
けーちゃんを抱っこして玄関まで連れて行き、家に上がった。
まずは手洗いうがいをして、お茶の間へ。
さっそく、けーちゃんは明智家のお茶の間にあるゲーム機を指差した。
「げーむ」
「けーくん、そういうときはなんて言うんだい?」
ばあちゃんに聞かれる。
俺たちが家にいない間、けーちゃんの遊び相手を務めることが多いのがばあちゃんなのである。俺たちが帰ってきてそこら中連れ回されることがなくなったので、いまは安心している。
けーちゃんは首をちょっとだけ傾けて、俺を見上げる。
「いーい?」
「いいよ」
答えて、俺はさらに言う。
「凪ちゃんと花音ちゃんにも聞いてごらん」
そう言われて、けーちゃんは凪に聞く。
「いーい?」
「いいよ~」
凪が軽い調子で答えて、今度は花音にも聞く。
「いーい?」
「だめ」
花音が真顔でそう言うと、けーちゃんは固まってしまった。一体なにが起きたのかわからないという顔だ。冗談で言われていることがわからないから、思考が停止してしまっているのだ。
すぐさま花音はけーちゃんを抱きしめながら、
「うそだよ、ゲームしていいよー」
けーちゃんはみんなにいいよと言われて、嬉しさのあまりはしゃぎ出す。奇声を上げるわけじゃないが、飛び跳ねて喜びを表現していた。
ということで。
凪がけーちゃんに質問する。
「どのゲームやろっか?」
「あい」
と、けーちゃんはレースゲームを指差した。
「オッケー」
そのソフトをささっと凪がセットをして、俺たちはゲームを開始した。
四人での競争だが、プラスNPCが八人いる。
つまり、計十二人の勝負。
三周勝負で、そのうちの十一位のレーサーがゴールすると、十二位のレーサーがゴールしていなくともそのレースが終わる。
俺はいつも使っている恐竜のキャラクターを選び、凪と花音もそれぞれ選ぶ。
しかし、けーちゃんがなかなか選ばず、テレビ画面を指差した。
「んー。ぼぷ」
一応言っておくと、この「ぼぷ」は「ぼく」という意味だ。これも最近になってしゃべれるようになった言葉である。そのおかげで、前より自己主張ができるようになった。
「なに? これがいいの?」
凪が自分の使ってるキャラクターを指差すと、けーちゃんは笑顔になる。
「うん~」
「しょうがない。じゃあぼくは別のにしてやるか」
大人の対応をする凪に、花音が言う。
「けーちゃんはいつもあたしと凪ちゃんが選ぶやつにしたがるよね」
もしくは主人公のキャラクターかその弟か。
「きっと、凪や花音が使ってるのが速く見えるんだよ。俺のを使うことはあんまりないけどね」
苦笑する俺だが、花音は思い出したように、
「そういえば、開ちゃんが使ってるやつはカーブが難しいからけーちゃんは苦手だったのかもね」
俺にとってはあれが急カーブでも曲がりやすいんだけど、人によって向き不向きはある。
凪はうなずく。
「最近じゃあみんな強さは横並びだし、理由はそれだろう。しかし開はともかく、花音ちゃんもうまくなったな~」
「あたしもってなにー? 凪ちゃんってばー」
二人が冗談を言って笑っている間に、レースは始まった。
一戦目。
レースは凪が一位。
けーちゃんも健闘し、まだ二歳だっていうのに二周もしていた。
これには俺たちも驚く。
「すごいじゃん、けーちゃん」
「さすがぼくが教えただけのことはある」
「えー! 自分で走ったの?」
得意そうにけーちゃんはニコニコしている。
「いや~。まいったね~。ぼくもすぐに負けちゃうよ」
「さすがに凪ちゃんが負けることはないよ。でもけーちゃんすごいからなー」
凪と花音がしゃべっている。
その間に俺がスマホでちょっと調べ物をしていると、けーちゃんが俺に言う。
「かーぃたん」
「あ、はいはい。ちゃんとやるよ」
けーちゃんは見逃さないのだ。誰かが手を抜いて他のことをしていたりするのを。
前に、けーちゃんがあんまりにも上手にコースを走るのでその様子を三人で見ていると、けーちゃんは俺たちに走れと言うようにコントローラーをちゃんと持たせて、テレビ画面を指差したほどだ。
みんながちゃんと走らないと気が済まないのである。
また。
けーちゃんは、俺のことを、「かーぃたん」と呼べるようになった。
ほんのちょっと前までは「かー」と呼んでいたのに、子供はすぐに言葉を覚えるししゃべるようになる。小さい子の成長はすごいものだ。
ちなみに、凪のことは「にゃーたん」、花音のことは「のーんたん」と呼ぶ。
夕飯前なのに花音がお菓子を食べようとすると、
「のーんたん」
と注意されていた。
「はい、ごめんなさい。食べないでやります!」
「うん~」
と、満足げなけーちゃんだった。