無駄をなくそう その1
時間が欲しい。
あれもしたいしこれもしたい。
そう考えると、どうしたって時間が足りなくなる。
「でも、開くんはちゃんとお勉強もしてるし上手に時間を使えてると思うわよ」
逸美ちゃんがそう言ってくれるけど、俺は首を横に振った。
「いや、勉強も最低限だけだよ。もっと苦手分野をしっかり押さえてやりたいし、予習だってしたいけどできてないもん」
「わかります。あたし、受験生だからもちろん受験勉強をしてはいるけど、学校の授業のほうもやらないといけないから、どちらも思うようにやりきれなくて」
と。
曖昧な微笑を浮かべる鈴ちゃん。
俺はぽつりとつぶやく。
「時間を作るには、やっぱり無駄をなくさないとなぁ」
探偵事務所では、現在、俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんの三人がいた。
時間を作る方法を考えた結果――
俺は、無駄をなくすのが一番だという解答に行き着いた。
「でも、どうすればいいんでしょうかね?」
この悩みには、鈴ちゃんも真剣だ。
逸美ちゃんはのんきにお茶をすすって、
「多少の無駄も楽しめばいいじゃな~い」
「いや、まずは無駄を減らす方法を考えないとです」
と、鈴ちゃんがジト目で逸美ちゃんを見る。
そのとき。
バン、と探偵事務所のドアが開いた。
「だったら、必要なことを最短で終わらせることだろ!」
そう言って入ってきたのは、作哉くんだ。
ノノちゃんもぴょこぴょこ入ってきて、笑顔でうなずく。
「作哉くんは手際がいいです」
「なるほど。確かに、やるべきことはやらないといけないし、それをできるだけ時短できればいいわけか」
納得する俺に、作哉くんは言う。
「オレは無駄なことは基本的にゃしねェからよ。結果、時間に困ったりはしてねェワケよ」
うんうんと逸美ちゃんはうなずき、
「確かに、作哉くんが時間に困ってるイメージはないわね~」
「逸美さんもないですよね」
ノノちゃんに言われて、逸美ちゃんは朗らかに返す。
「わたしは時間とか気にしないから~」
「まあ、人それぞれだわな」
と、作哉くんが苦笑い。
鈴ちゃんは俺に尋ねる。
「開さんはどうですか? なにか時短できそうですか?」
「うーん。やっぱり、勉強は集中して短時間で片付けるってことかな」
「ですよね。でも……」
わずかに言いよどみ、俺と鈴ちゃんが同時に言った。
「それができたら苦労しないんだけど……」
肩を落とす俺と鈴ちゃんを見て、ノノちゃんが作哉くんに聞いた。
「作哉くんは、どうやってやるべきことを最短でやるんですか? ノノ、実は知らないです」
「そりゃあ、ノノの前で勉強はしねェからな。オレは授業をちゃんと耳に入れてるから、学校以外じゃ勉強しねェしよ」
「え?」
「そうだったんですか!?」
驚く俺と鈴ちゃん。
ノノちゃんは思い出すように、
「そういえば、作哉くんが人前で勉強してるのを見たことがないです」
「テストなんざ、授業聞いてりゃできるしな。仕事に関しても、無駄なことはせず、必要なことだけテキパキやりゃあいいだけだろ」
「だから作哉くん、それができたら苦労しないんだよ」
と、俺はため息をついた。
探偵の仕事でも他の仕事でも、結局は必要ないことでも、準備や対策として、やっておかなければならないこともあるのだ。
それに、作哉くんはあまり勉強しないのに、かなり勉強ができるのだ。
「逸美ちゃんも勉強しないのに、テストもできるタイプだよね。暗記科目だけだけど」
「そうなのよ~。わたし、数学とか物理はちょっと苦手だったの」
一度見たこと、聞いたことは、忘れない。逸美ちゃんはそれほどに記憶力がすごいから、暗記科目がとことん強い。逆に、数学の問題なんかは、逸美ちゃんが高校生で俺が中学生だったときでさえ、俺がいっしょに考えて教えてあげたこともあったくらいなのだ。
鈴ちゃんはため息交じりにつぶやく。
「先輩みたいにテスト前だけ勉強するっていうのは、受験生としてどうかと思いますしねぇ」
「まあ、凪は勉強したらできるけど、しないときでも良い点取ったり0点取ったり、参考にはならないよ」
作哉くんは俺に続けて、
「とにかく、アイツについて考えるだけ無駄だろ。常人には理解できねェ」
「確かに、それは言えますね」
うんうんとうなずく鈴ちゃんだけど、俺はこう思った。
――この中で、ちゃんと常人って言えるのは、俺とノノちゃんくらいだろうな、と。