横浜へドライブに行こう その5
横浜には、予定していたよりもほんの少し早く到着した。
現在、十一時。
「ふう。カンペキに運転しちゃった~」
うふ、とうれしそうに逸美ちゃんが言った。
「うん! カンペキだったよ。かっこよかった。お疲れ様、逸美ちゃん」
「逸美さん、お疲れ様でした」
俺と鈴ちゃんからの言葉に逸美ちゃんはブイサインを作ってみせた。
「運転、楽しかったわぁ」
「それならよかったよ」
「ぼくもフォローした甲斐がありましたな」
胸を張る凪に、おまえはなにもしてないだろ、と言いそうになってやめた。いつもの習性でつっこみかけたが、凪がいろいろ手配してくれたおかげでお金もかけずにドライブができているのだ。
「おまえがしてくれたのは別のことだろ?」
俺がそう言って小さく笑うと、凪が俺を奇妙なものでも見るような目で、
「なんか開が優しい……。これはなにか裏が……」
「ねーよ」
さて。
俺たちは凪がオススメだという駐車場に車を置いて、外に出た。
車を降りと、作哉くんとノノちゃんと合流した。
「いい風だったぜ」
気持ちよさそうに歩いてくる作哉くんに、凪がうんうんとうなずき、
「風の作ちゃんですな」
「変なあだ名つけんな」
ノノちゃんがぴょこっとツーサイドアップの髪を跳ねさせて、
「次はノノ、逸美さんが運転する車にも乗りたいです」
「うん。次、ぼくと交換しよう」
凪とそんな話をしている。
俺は逸美ちゃんに聞いた。
「このあとはどのくらい運転するの?」
「あとは、ここを出てちょっと運転したら良人さんと交代よ」
「そっか」
じゃあ、まだ鍵は良人さんに渡さなくていいわけか。
「でも、ここまで無事で運転できたのも、開くんがくれた御守のおかげね」
「御守?」
「ほら、これ」
逸美ちゃんがポケットから取り出したのは、黄色い車のおもちゃだった。逸美ちゃんが自動車教習所に入所するとき、凪といっしょに買ってプレゼントしたやつだ。
「御守にしてたんだ」
「もちろん」
そっか。なんだかうれしいな。
すると。
良人さんが顔を出して、良人さんもポケットからパトカーのおもちゃを見せた。
「ボクも持ってるよ。凪くんが選んでくれたやつ」
凪が良人さんのパトカーを見て、
「おお。自覚があるのはいいことだけど、いくらお世話になるからって縁起でもないですな」
「くれたのはキミでしょ?」
「いや~。面目ない」
と、照れる凪。
「もう~、凪くんはー」
あっはっは、と凪と良人さんはいっしょになって笑っている。やれやれ。
「帰りは夕方くらいになるだろうし、ボクの運転でみんなにはステキな夜景を見せてあげよう」
良人さんは自信に満ちていた。
徒歩での移動に切り替わった俺たち。
横浜の中華街。
実は、改めてこうやって赴くのは初めてだった。
ノノちゃんが目を輝かせて、
「なんだか中国に来たみたいです!」
「そうねぇ。中華街だもんね~」
と、逸美ちゃんはノノちゃんに微笑みかけた。
「だねー。ぼくも中国人になった気分~」
俺はジト目で凪を見て、
「現地人のほうの気分かよ。まったく影響されやすいんだから」
さっそく、作哉くんが指差した。
「おい、豚まんがあるぞ」
「お~!」
と。
凪、逸美ちゃん、ノノちゃん、良人さんが興奮したように豚まんのお店に目を向けた。
「どんなふうに食べて行くのがいいんだろうね」
「そうですよねぇ。あたしたち七人ですし、三個くらい買って分け合うとか……」
俺と鈴ちゃんが相談を始めたとき、
他の五人は豚まんのお店に急ぎ足で、五人全員が注文していた。
「あ……」
ぽかんと口が開いてしまった俺と鈴ちゃん。
みんなの元へと駆けてゆき、言った。
「間に合わなかったか……」
「しかも全員がバラバラに注文してるし……」
みんな自由人で困る。
俺と鈴ちゃんがやれやれと肩を落として、俺からみんなに言った。
「食べ歩きなんだから、みんなで買ってたらいろんな物食べきれないよ?」
「そうですよ。シェアが基本です」
しかし、五人は首をかしげる。
「食べたい分だけ食べればいいじゃないか」
「そうよね~」
「オレはいくらでも食えるぜ。二個頼むか迷ったくらいだぜ。へッ」
「ノノもたくさん食べます!」
「ボク、こう見えてもたくさん食べられるから」
そういえば、意外とみんな食べるときは食べるんだったな、と思う俺と鈴ちゃんだった。
まあ、それでも、大食漢な良人さん以外のメンバーはなるべくシェアする方向で行こうと提案して、そうしようということになった。
てことで。
ここでは、俺は逸美ちゃんのを半分もらい、鈴ちゃんはノノちゃんのを半分もらった。
「美味しい!」
「でしょ~?」
「うん。こんな豚まん初めて」
俺の感想に、逸美ちゃんは満足そうだった。
鈴ちゃんはというと、ニヤニヤしだした。
「どうしたのさ? そのお顔」
不思議そうに見つめる凪に、鈴ちゃんは恥ずかしがるようにムッと言い返す。
「べっ、別に美味しくてほっぺたが落ちそうになっただけですっ」
「ノノもほっぺたが落ちそうでした!」
と、キリリとした顔でノノちゃんが同意する。
「初めての食べ歩きがみんなとできて、うれしかったのよね~」
逸美ちゃんに言われて、鈴ちゃんは顔を朱に染めてあわあわした。
「そういうことは言わなくていいんですっ」
凪は鈴ちゃんの様子をつぶさに観察して、腕組してうなずいた。
「さすがはうちのリアクション担当。食べ歩きのレポートもリアクション重視ですな」