横浜へドライブに行こう その1
これまで。
逸美ちゃんは自動車教習所に通い、運転技術を高めてきた。
そして、やっと。
運転免許を取得したのだ。
この日。
俺が探偵事務所に行くと。
逸美ちゃんは、真っ先に運転免許証を見せてきた。
「ジャジャジャジャーン! 見て~、免許取れちゃった」
ふふ、とうれしそうな逸美ちゃん。
「やったね! おめでとう! 教習所、頑張ってたもんね」
いや、頑張ってたっていうより楽しそうだった気もするが、いずれにしろ無事免許が取れてよかった。
「今日、免許センターに試験を受けに行って一発で合格だったの!」
「うん。昨日言ってたもんね、免許センターに行くって。逸美ちゃんなら余裕だと思ってたよ」
「これで、開くんを乗せてドライブできるわ~! 楽しみ」
「お、俺も楽しみだよ」
ふたりでドライブとか、照れるな。凪がいっしょに行くとか言い出したらみんなで行くことになりそうだけどさ。
俺は窓に目を向ける。
「そういえば、良人さんはもうとっくに免許取ったんだよね」
「もう運転もしてるしね~」
探偵事務所のお向かいに住む普通の大学生、良人さん。
良人さんは、短期間で運転免許を取った。意外にも車を運転する才能はあったようで、終始順調だったらしい。車好きって言ってたしな。
で。
逸美ちゃんが仮免許を取ったとき。
「そうだ、逸美さん。仮免許を取れば路上練習もできるんだよ。免許を持ってるボクが助手席に乗れば、開くんや凪くんを乗せてドライブできる」
良人さんがそう提案したが、逸美ちゃんは気乗りしない様子で首を横に振った。
「いいわ」
「どうして? まだ怖いのかい?」
「だって、開くんを助手席に乗せて、カッコイイところを見せたいんだもん。後ろじゃちょっと……」
「い、逸美ちゃん……!」
と、俺は口を押える。
「とほほ。そ、そりゃあ、ボクより開くんが隣のほうがいいよね」
良人さんは背中を丸めた。
と。
仮免許を取得したときにはそんなこともあり、逸美ちゃんとしては、ようやくカンペキに自分だけで車を運転できるライセンスが手に入ったことへの喜びが大きいのだ。
俺は聞いた。
「でさ! どこへ行くの?」
逸美ちゃんはお姉さん的なドヤ顔で、
「うふふ。行きたい場所もいろいろリサーチしてあるわよ。朝から車に乗って海沿いを走って千葉に行って、そのあと埼玉の川越を回って、横浜を走って、最後に夜景を見るの~」
それはちょっと、ハード過ぎないかな……。免許取りたての初めてのドライブにしては運転のしすぎで疲れちゃうと思う。
でも、そんなコースまで考えてくれて、なんだかときめていしまう。逸美ちゃんとのドライブなら近所を走るだけでも楽しいと思うけど、遠くに行くのもいいな、なんて思っていると、凪が言った。
「さすがにそれは走り過ぎて運転初心者には厳しいだろうから、どこか一か所に絞ろう。それで、行きが逸美さん、帰りが良人さん運転ってのがいいと思うんだ」
「なるほど~! それならみんなで行けるしね」
と、逸美ちゃんが感心した。
「確かに、行きと帰りの運転を交代するだけでも負担が違うね! て、凪!?」
俺はいつの間にかこの場にいた凪に驚いてのけぞると、凪は不思議そうに俺を見て、
「ぼくは凪だが」
ゴホン、と咳払いして、俺は言う。
「そういう意味で言ったんじゃないよ」
しかし、そうなったら逸美ちゃんとふたりでドライブはまた当分先になるのかな。運転してもらう側の俺から「どこか連れてって」なんて誘うのもカッコ悪すぎるしな、と自嘲的な苦笑が浮かぶ。
逸美ちゃんはふふふんとハミングしながらインターネットを開いて、地図を引き出した。
「みんなで行くならどこがいいかな~」
「ぼく、横浜に行ってみたいよ。美味しい中華料理をみんなで食べたい」
「いいじゃな~い! 決まり」
「決めるの早っ! 俺もいいと思うけどさ」
あはは、と俺は笑って、言葉を継ぐ。
「横浜だと、食べ歩きとかできるかな? それとも、中華料理屋さんをリサーチしてお昼ごはんでそのお店に行く?」
「わたしは食べ歩きがしたいわ」
逸美ちゃんがそう言うと、凪はパンと柏手を打った。
「よし、食べ歩きの方向で行こう。それで、少年探偵団のみんなが来たら予定を聞こう」
「おー」
と、俺と逸美ちゃんが声をそろえた。
みんなでのドライブは、それはそれとして、すごく楽しみだな。
その後。
凪がゲームをして、俺と逸美ちゃんで横浜についてパソコンの画面を見て調べていると、鈴ちゃんがやってきた。
「逸美さん、運転免許ゲットおめでとうございます!」
「ありがとう~」
運転免許を取った話をまず逸美ちゃんがして、それから、凪がドライブの話をした。
「え、横浜にドライブ? 楽しそうですね」
鈴ちゃんも乗り気みたいだ。
ただ、首をひねって、鈴ちゃんは凪に尋ねた。
「人数は大丈夫ですか? 少年探偵団が六人、プラス良人さん。となると、計七人です。ワゴン車なんて、逸美さん運転できるでしょうか……」
「バッチグーよ。わたし、運転上手なんだから~」
親指と人差し指で丸を作る逸美ちゃん。
なんとなくだけど、逸美ちゃんは俺より運転の才能はある気がする。とはいえ、さすがにそれは俺も引っかかっていた点だ。
「俺も、やっぱり乗用車からじゃないとって思うんだよね」
「そうねぇ、わたし、ワゴン車はまだ運転したことないし」
やっぱりなかったか。
凪は腕を組んでつぶやく。
「逸美さんはぽーっとしててマイペースだし、いきなりワゴンじゃ心配だよ」
俺は横目に凪を見て言った。
「おまえにだけは言われたくないだろうよ」




