情けは人の為ならず その3
今度のお巡りさんは若い。
まだ二十歳そこそこに見える。
そして、彼が連れてきたのは、少年と少女。
二人が登場すると、凪は声を上げた。
「あーっ!」
「うわぁ! びっくりしたー!」
花音も驚いている。
なぜなら、その少年と少女は、我が少年探偵団のメンバーだったからだ。
作哉くんとノノちゃん。
理由も大方だけど察しがつく。
気まずそうに作哉くんは舌打ちした。嫌なやつに見つかっちまったって言いたげな顔だ。
凪は表情を戻して、若いお巡りさんの袖を指差した。
「お兄さん、ボタンほつれてますよ」
ズコー。
俺と花音、それに作哉くんとノノちゃんがズッコケた。
「え? そうかい?」
若いお巡りさんは自分の袖のボタンを確認している。
「ほんとだ。ありがとう、キミ」
「いえいえ。たいしたことはしてないので。ぼくの知り合いにも、顔が怖いだけでたいしたこともせずに警察の御厄介になる人がいるんだけどさ――」
ペラペラしゃべり始める凪に、作哉くんは拳をポキポキ鳴らして、
「テメー。それは、オレのことか?」
「そうそう。そんな怖い顔と怖い声で……あれ? えーっ!? そこにいるのは、ぼくのお友達のヤクザくんじゃないか! お勤めご苦労様でーす」
「なに!? ヤクザだと!?」
若いお巡りさんが作哉くんをにらむ。
「ちげーよ。コレは……」
「またやらかしたの? やめてよね」
やれやれと手を広げる凪。
ここは、凪が口を開くと埒が明かないので、俺は凪の口を手で押さえてしゃべれないようにし、説明してやる。
「彼はヤクザじゃありません。名前が八草でして、このおバカが間違えてヤクザって呼んでるんです」
と、凪の頭をぐりぐり攻撃しながら説明した。
「二人共、あたしたちのお友達です!」
花音がそう付け加える。
「本当かい?」
目を丸くする若いお巡りさん。
三十路のお巡りさんも疲れた顔で力なくうなずいた。
「そうだよ。彼はよく、顔が怖いだけで間違えて連れて来られるんだ」
「常連さんでしたか」
神妙な面持ちで若いお巡りさんがつぶやいた。
「顔の割に、彼はノノちゃん想いでとても優しいんだ。失礼なことをしないよう、気をつけろよ、新人」
「はい」
作哉くんはため息をついて、「人を客みてーに言うな……」とつぶやいた。あと、顔の割に、は余計なお世話だな。あんたも失礼なこと言わないように気をつけたほうがいい。作哉くんが優しいから文句を言われないだけだ。
さて。
閑話休題。
俺はいちごちゃんに向き直った。
「そうだ! いちごちゃん。ママとどこか行く予定だった?」
「うん。お買い物」
よし、これならなにか引き出せそうだぞ。
「なにを買うって言ってた?」
「わかんない」
ダメか。
難しい。
目的地がわかれば、少しは手がかりが……と思ったけど、進捗はないに等しい。
凪はそんなこと気にせず、いちごちゃんと遊んであげている。凪のスマホで間違い探しのゲームをしているみたいだ。
いちごちゃんが泣かないだけ、凪の功績は褒められる。
だけど、どうしよう。ちゃんといちごちゃんのご両親が交番に来てくれないと、どうしようも……
そのとき。
交番に、三十代前半くらいの女の人が駆けてきた。
彼女は、息せき切ってお巡りさんの元へ行き、
「すみません! 娘が、迷子に……!」
そして、自分の視界に入ったいちごちゃんに気づいて、彼女は涙を流していちごちゃんを抱きしめた。
「よかった! いちご! ごめんね!」
やっぱり、この人がいちごちゃんのママだったんだ。
無事に会えてよかった。
これで、俺たちの役目は終わりだな。
「本当にありがとうございました!」
頭を下げるいちごちゃんママに、凪が言った。
「まあまあ、持ちつ持たれつだよ」
「本当にありがとうございました! あとでお礼をさせてください」
「いいって。気にしないでよ。でもそこまで言われちゃ、さすがのぼくも断れないや。うん、楽しみにしてる」
俺が横から「誰もそこまで言ってないだろ」とぼそりとつっこむ。
「はい。あとでうかがいます」
おかしそうに笑いながら、いちごちゃんママはうなずいた。
このあと、凪を気に入ったいちごちゃんは、また今度いっしょに遊んでねと約束して、凪は承った。
かくして。
俺たちは交番をあとにしたのだった。
作哉くんとノノちゃんもすぐに解放してもらえたし、新人のお巡りさんにも顔を覚えてもらったおかげでこの近所では安易に事情聴取されることもあるまい。
ノノちゃんが振り返って、俺たちに手を振った。
「さようなら。また明日です!」
「じゃあな」
作哉くんとノノちゃんに、俺たちも手を振り返す。
「また明日」
「ばいばーい」
「もう捕まるなよ~!」
最後に作哉くんが「捕まらねェよ!」と返して、二人とは別れた。