第十二幕目 麒麟と獅子
——甲——
大男が目を細めると、千両箱の上に天野宗歩が座っているのが見えた。
「何故あやつが……麒麟児があそこにおるのだぁぁ!」と大男が叫ぶ。
(ぐぬぬ。ようやく錦旗殿を解放して戻って来てみたらこのざまではないか)
大男は、つくづく自分の運命が宗歩の掌の上で転がされていることを痛感した。
隣にいた小男も予想外の展開に全身を震わせている。
「あ、兄貴ぃ。どないしましょ……」
「ぬぅ……とりあえず様子を見るぞ!」
このまま千両箱を持ち去りたいところだが、見つかればすぐに追いつかれる。
なにせこっちは重い荷物を抱えて逃げなければならない。
それに市中で騒ぎ立てられたら厄介だ。
大男は冷静にそう判断して、いったん草むらの茂みに隠れることにした。
将棋で予想外の一手が飛んできたら——
将棋指しならそんなとき、なすべきことは一つしかない。
深呼吸だ——
よし。大丈夫。落ち着いている。
幸いにも宗歩は腰かけたその箱の中に、何が入っているのか全く気付いていない。このまましばらく待っていれば、宗歩の方から立ち去ってくれるはず。
触らぬ神に祟りなし。神社の境内で不謹慎だがこの際致し方ない。
小男も大男の狙いを読み取ったらしく、そそくさと草むらの茂みに潜り込む。
そのまま二人は黙って様子を伺った――
「(兄貴、それにしても宗歩の奴、なんか呆けてますね)」
「(うむ……。将棋を指しているときとは全くの別人だな)」
「(ああしてたら、まだまだ若いひよっこなんですけどねぇ)」
「(そうだな――ぬぬ!)」
そのときだった——
満を持して宗歩が千両箱から腰を上げたのだ。
そのまま神社の入り口へ颯爽と駆けていく。
「奴め、ようやく動いたぞ! 今だ! あの箱を運びだせ!」
「へ、へい!」
小男が草むらの茂みから飛び出して千両箱の方へと駆け寄る。
思わぬところで、小男のすばしっこさが役に立つことに大男は感心した。
一方、大男は、宗歩の行く先をその目で必死に追いかけようとしていた。
遠くてはっきりと見えないが、どうやら仲間がここにやって来たらしい。
これ以上数が増えれば多勢に無勢。状況はますます悪くなる一方だ。
大男はそう考えて、この時を千載一遇の好機と捉えた。
勢い自分も茂みから飛び出す。
ダッ!
先に飛び出した小男が千両箱の側に辿り着き、そのまま千両箱を両手で引き上げようとする。
ズシ……。
重量感のある千両箱が小男に苦戦をもたらす。
「兄貴、こ、こりゃ、結構重いでっせ……」
小男がこっちを振り向きながら掠れた声を絞り出す。
見れば両手がぷるぷると震えている。
敏捷性が高い反面、筋力が残念なほど頼りなかったらしい。
『駒より重いものを持ったことがない』
それが小男の決まり文句だった。
いや、そもそも将棋がほとんど指せないのだが。
とにかく今はそれどころではない。
「もたもたすれば気づかれるぞ! 賽銭箱の裏に運ぶのだ!」
大男は小男に賽銭箱を指さしながら示す。
あそこなら完全な死角になっている。
「うおぉぉぉぉ」
小男はなんとか力を振り絞り千両箱を持ち上げ、千鳥足で賽銭箱の裏側まで転がり込んだ。
幸いにも宗歩はこちらに気づいていない模様。
「よし! あやつらが立ち去るまで隠れるぞ」
「へ、へい!」
二人が賽銭箱の後ろ側から、にょきにょきと顔だけ突き出して、宗歩の顔を見据えた——
宗歩は夕霧と再会することができて喜んだ。
思えば、自分が勝手に置屋から出たのが悪かったのだ。
楼主の声掛けに手を挙げて志願したのも悪かったのかもしれない。
布袋さんの座敷に入ってごにょごにょ——
まぁいい。済んだことはもう忘れることにしよう。
悪手をいつまでも引きずっていては勝てる戦いも勝てなくなる、と宗歩はひとりごちた。
「夕霧さん! 入れ違いにならずに会えてよかった!」
「こちらの御方から聞きんした。宗歩様がわっちを探しておられると」
そう言って夕霧が太郎松のほうをちらりと見る。
「う!? た、太郎松……(気まずいなぁ……)」
宗歩は太郎松に謝らなければならない。
そんなことは宗歩だって百も承知なのだ。
だが、そもそもどこから話せばよいのやら皆目見当がつかなかった。
――太郎松、聞けばお前は私のことが好きだそうだな。 ふん! 嬉しいぞ!
だめだ、これでは完全に上から目線じゃないか。いったい何様だ。
――好きなら、そう言ってくれたらいいのに……太郎松の馬鹿。
師匠が弟子にいきなりこんなこと言ったら気持悪いだろう。
それに馬鹿って言ったらだめなのだ。
――ごめん! いろいろ勘違いしてたの! 許して!
うん、まぁ、これでいいか。だが、あとは話しかける時期だぞ。
「そ、そうだ。とりあえずあっちに座りやすい床机があったから、座って話しましょうか」
宗歩はそう言ってお茶を濁すことにした。
日没までもう時間もない。
だが、宗歩はもまず先に夕霧ときちんと話をしたかった。
なんとなく夕霧と会うのがこれで最後になるかもしれないという気がしていたからだ。
さっきの場所にみんなで戻ってくると、
「あれ? 床几がなくなってる……」と宗歩が周囲をきょろきょろする。
「宗歩、どうした?」
床几が忽然と消失していることに、宗歩が不思議そうに首をかしげる。
「いや、さっき、お社の前にちょうどいい床几があったんだけどなぁ」
「まぁ、いいじゃねえか。せっかくお社の前まで来たんだ。みんなでお稲荷さんにお参りしていくとするか」と太郎松が提案する。
「そ、そうね。今日一日この神社でいろんなことがあったし。お稲荷様には騒がしくしてしまったこと、ちゃんと謝らないとね」
そう言って宗歩は賽銭箱に一文銭を放り投げ、手を合わせ目を閉じた。
(神様、いろいろ騒がしくしてごめんなさい)
神への謝罪と祈りを捧げながら、宗歩はじっと目をつむる。
すると、今日一日の出来事が自然と目の裏に浮かび上がってきた。
(……それにしても今日一日、本当にいろいろなことがあったわね……)
——朝餉に柳雪との記念対局を披露したこと。
——菱湖と町を練り歩き、布袋さんに声を掛けられたこと。
——神社で玉枝さんが太郎松に抱きついた瞬間を目撃したこと。
——太郎松の跡をつけ新町遊郭に潜入したこと。
——夕霧と偶然出会い、互いの姿を取り換えたこと。
——ゆきずりで布袋さんの接客をしたこと。
——柳雪と太郎松が乱入してきたこと。
——そして……
『玉枝さんから大切な話を聞かせてもらったこと』
もういろいろありすぎて宗歩の頭は破裂しそうだった。
だけど——それが楽しくなかったと言えば嘘になる。
宗歩はそのことを良く知っていた。
今日だけじゃない。
思えば関西に来てから毎日いろんなことがあったのだ。
——京の都で、衆目のもと天狗と船上対局したこと
——洗心洞で次の一手名人や目隠し将棋をしたこと。
——難波で将棋相撲をしたこと。
——太郎松と十番勝負をしたこと。
そして――
小林家の人達や弟子たちと出会ったこと。
宗歩の頭の中を数々の思い出が走馬灯のように駆け巡っていく……。
(親元を離れて、内弟子修行を始めたひとりぼっちの五歳の私へ)
(名人に疑問を感じて、一人で江戸を飛び出した十八歳の私へ)
(そして——私の大切なお師匠様へ)
(聞いてくれていますか?)
(あのね……。二十歳の私には、大切な仲間ができました)
(将棋をしてきて辛いことも沢山あったけど……、私はこうして毎日みんなと楽しく暮らしています)
(だからこれまで将棋をしてきて、本当によかったと思います)
(だって将棋は——ひとりではできないのだから)
(まだまだま修行が足りないけれど、ぜんぜん一人じゃ何にもできないけれど、これからも頑張りますので、どうか私達のことをずっと見守っていて下さい)
そう祈って宗歩がぺこりと頭を下げた。
紅に染まった夕焼け空を見上げる。
——暮れなずむ夕陽が、四人に影法師を落としていた。
皆一様に手を合わせていたが、しばらくして誰からともなく顔を見合わせる。
太郎松が夕顔の顔をまじまじと見つめて、
「そういや。夕霧さん、あんた本当に宗歩にそっくりだな」
「へぇ、わっちもおどろいたでありんす」
「ひょっとして親類かなにかなのか? お国はどこだ?」
「若狭でありんす」
「そうか……。……あのさ、よかったらあんたの名前を聞いてもいいか?」
太郎松の突然の質問に一瞬、夕霧が躊躇する。
遊女は特別な理由がない限り本名を明かすことを絶対にしない。
そんな自分に「名前が知りたい」と言ってくれた――
それはきっと自分を『人』として見てくれているということだ。
太郎松だけじゃない。
夕霧は、宗歩や菱湖も自分のことを一人の『人間』として今日一日接してくれたことがなにより嬉しかった。
これまでずっと、廓の中で物のように扱われ、自分でも恥じてきた己の生涯をこの人達なら受け止めてくれるようなな気さえした。
遊女として生きてきた人生は決して恥ずかしいものなんかではない――
そう言ってくれている気がしたのだ。
だから夕霧は、そんな彼らに報いる意味でも本当の名と自分の生き様を包み隠さず話すことにした。
「わっちの本当の名前は――照でありんす」
地震と飢饉で大切な家族をすべて失ってしまったこと。
女衒に買われて、何も分からないまま新町遊郭に連れられて来られたこと。
それから十七年の間――遊郭の外へ一歩も出られなかったこと。
これまで生きてきて辛くなかったと言えば嘘になる。
使い捨ての道具のように扱われ、他の遊女が無残に死んでいく様を見て、自分の運命を呪ったことさえある。
だが夕霧は決めたのだ。
自分の命を、母があのとき助けてくれたこの命を、精一杯灯し続けながら最後まで生き抜くことを。
太郎松がむせび泣いていた。
「照さん……。そうかぁ辛い話をさせてすまねぇな……。だがな、恥じることじゃねぇよ。あんたは立派だよ」
夕霧の目から涙が落ちる。
とっくの昔に枯れ果てたと思っていた、血潮が含まれた熱い涙だった。
どうしてだろうか。
自分のことでここまで泣いてくれる人なんて今までいなかった。
この男は、自分を抱いた数多くの男たちとは何かが違っている。
打算がなく底抜けにお人よしなのだ。それでいて誰よりも傷つきやすい。
ああ、やっぱり話して良かったと夕霧は微笑んだ。
菱湖が夕霧に尋ねた。
「あの、たしか遊女は見請けをすれば外に出られると聞いたことがあります。一体いくら必要なのでしょう?」
「そうでありんすなぁ……。見請け金として一千両ほどあれば、わっちは外に出られるでありんしょう」
「い、一千両!? あんたそんなに格の高い遊女なのか?」と太郎松が驚く。
「へぇ、一応『太夫』でありんすから」
「……さすがにそれは厳しいな……」
「……」
「……」
宗歩も菱湖もうつむいて黙っている。
太郎松も夕霧もそれ以上何も言えない。
そして——
千両箱の後ろでその話を聞いていた男が、嗚咽を漏らしていた。
あの大男だった。
「(……あ、兄貴……?)」
「(くぅぅ……悲しすぎる……うぉぉぉ)」
大男は狐が憑いたかのように一心不乱に慟哭する——
その昔、大男には江戸に妻と幼い娘がいた。
大男の夢は、将棋道場の道場主になること。
将棋家の影響が強い江戸近辺では難しかったが、当時初段なら田舎に行けば飯が食えると言われた時代。
江戸で難しくても地方でなら――
そんな青臭い打算で作られた儚い夢を捨てきれなかった大男は、妻と離縁して単身大坂に出てきた。
将棋家から二段を許され、己の才を過信していたと言われれば認めざるおえない。
離縁したのは退路を断つ覚悟のつもりだった。
そんな覚悟を妻もきっと理解してくれている。そう勝手に思っていた。
だから、いつか落ち着いたら二人を呼ぼうとも考えていた。
大男の高望みは結局叶わなかった――
関西に来ても己の才は認められなかったのだ。
伝え聞くところでは、妻は既に他の男と再婚したらしい。
妻子も失い道場も潰れてしまった今、夢破れた大男は愕然とする。
自分は一体何をしているのだ。何がしたいのだ。
少女を誘拐するまで落ちぶれて、いまや身を隠すまでに成り果てた。
だがそれでも自分の中に残ったのは――やはり将棋だった。
もう一度、この一千両で潰れた将棋道場を建て直すのだ。
錦旗殿から貰ったこの銭さえあれば、自分の人生はきっとやり直せるはず。
そうだ、このままじっとしていれば。
宗歩たちが立ち去るのを待っていれば。
「(兄貴……)」
横を見ると小男がいた。
「(……そんなん、錦旗ちゃんが悲しみますで)」
重苦しい沈黙の中――
「コーン!、コーン!」
突如、高くけたたましい叫び声が境内に響いた。
「な、なんだ!?」
「な、なに!?」
太郎松と宗歩が突然の奇声に驚く。
ガバッ!
賽銭箱の後ろから狐のお面を被った大男が立ちあがったのだ。
「我こそは……稲荷大明神である! 皆のもの控えよ! コーン、コーン」
「…………」
四人ともなにが起こったのか良く分からずに呆然としている。
はっと我に帰った太郎松があっさりと正体に気づく。
「いやお前、大男じゃ——」
太郎松が喋ろうとするのを大男が遮って、
「ええい、うるさい! さきほどまでの話、しかと聞いた。よいか! お前たち、今から後ろを向いて十を数えよ!」
「は……なんだそれ?」
「とにかく、みな十を数えよ!」
稲荷大明神の凄まじい剣幕に、宗歩たちも圧倒される。
「……ったく! しかたねぇな……一体なんなんだよ……」
太郎松はやれやれと肩をすくめながら後ろを振りむき、ゆっくり数え始める。
「いーち」、「にーい」、「さーん」……
「よいな! 決して振り向いては行かんぞ! ほら、お前たちも太郎松殿と同じように後ろを向け! 向けと言ったら向けぇ!」
宗歩と菱湖と夕霧も何も言わずに後ろを向いた。
「(よし! いまだ行くぞ!)」
「(へ、へい!)」
「よーん」、「ごー」
大男と小男が賽銭箱から走り出す。
「ろーく」、「しーち」、「はーち」
…………
………………
……………………
「ここのーつ」、「とお!」
数え終わった太郎松が、目を開いて前を振り向くと——
稲荷大明神の姿が消えていた。
「あれ? どこにいったんだ? あいつ……」
そう言って、太郎松が賽銭箱の後ろ側に探しに行くと、
「お、おい……宗歩、見ろよ、これ。千両箱だ。ここに千両箱が置いてあるぞ!」
「な、なんだって!? そんな馬鹿な!」と慌てて宗歩も駆け寄る。
「これで夕霧さんを救えるぞ! ありがてぇ! やっぱりあれは大明神だったのか!」
その後、太郎松は夕霧と二人で新町遊郭にいる大橋柳雪を訪ねることになった。
見請け料だけでなく信用できる見請け人が必要だったからだ。
大橋柳雪ならば楼主もきっと了承するだろう。
「ありがとうでありんす。まさかこんなことになるなんて」と夕霧が打ち震えながら言う。
すると、宗歩が笑ってそれに応えた。
「いえいえ、私達もなんだか本当に狐につままれた気分です」
――乙――
大男と小男は神社から逃げ去ったあと、とぼとぼと市中の路地をうろついていた。
バタッ!
二人とも空腹と疲労でぐったりとその場に倒れ込む。
「むぅ、なんとか凌いだか……」
「兄貴ぃ、俺たちまた一文無しになってしまいしたで……」
「ぐぬ……。だが仕方あるまい。もともとあれは錦旗殿から受け取った銭。世のため人のために使ってこそだろう」
「そりゃそうですけどねぇ……。ほんまに腹減りましたわぁ、とほほ」
二人がそうして話していると――
「その方ら、誘拐事件の下手人であるな」
ガサッ!
「む! 何者だ!」
大男がとっさに身構える。
目の前には、年老いた巨漢の侍がひとり立っていた。
脇には大小二本帯刀しており、二重黒紋付羽織袴の類から見ても身分の高い武士に違いない。
そしてその侍が、自分達に向けて恐ろしいほどの殺気を放っている。
賭け将棋で威勢がいいだけの不抜けた青侍とは、全くわけが違う気配だった。
――ああこの男は、今までに何人もの人を切り殺してきた侍だ。
大男はすぐにそれを察した。
なによりもその老いた侍が、大男の良く知っていた侍だったからだ。
「どうして……あなたがここに—―?」と大男が震えながら言う。
「ふふ、久しぶりだな。お主たちの所業しかと見届けたぞ。誘拐の下手人は打ち首もしくは獄門ぞ」
「ひぃ!」と恐ろしさのあまり小男が後ずさる。
その侍は、今や私塾洗心洞の陽明学者として知られている。
だがその正体は——
元大坂町奉行組与力――大塩平八郎。
たとえ身内であっても不正や汚職あらば一切の容赦はない。
この男に睨まれて罪を暴かれ破滅した者が、かつてどれほどいただろう。
濁りを嫌うその清廉潔白さは、大坂市中の町民にまで評判が轟いている。
おそらく自分達はこの侍に一部始終を見られ、跡をつけられていたのだ。
正義漢の固まりのようなこの男からすれば、少女をかどわかすなどまさに鬼畜の所業。
大男はここで覚悟する。
錦旗を誘拐したことはお咎めを受ける所業には間違いない。
言い逃れできる代物ではなかった。
この場でこの侍に切り捨てられても仕方がない。
ところが、夢破れてここで朽ち果てることに悔いがあるかと思えば、意外とそうでもないことに大男は気がついた。
最後に夕霧を、人助けができたからだろうか。
結局それは良くわからなかった。
だが、ここで死んだ方がいっそ清々しい気分だった。
「大塩の旦那、わしは……逃げも隠れもせぬ。さぁお縄にかけてくだされ、いやいっそここで切り捨てて――」
「ふふふ、本当に良いのか?」
「ああ」
カチャリ。
平八郎が腰の太刀に手を掛ける 。
……
…………
………………
ザン!
大男の頬の横に凄まじいほどの太刀風が吹きつけた。
だが——どこも身体を切られた様子がない。
「おぬしたち、その身を世のために役立ててみるつもりはないか?」
「な……世のため……だと?」
「そうだ、正義のために獅子身中の虫を打ち倒すのだ」
「ど、どういうことだ……?」
「洗心洞の門戸はいつでも開いている。興味があれば訪ねてくるが良い」
そう二人に言い残して、平八郎はその場を立ち去っていった。
(終幕へ)