第七十一話 緋鬼姫 その壱
昔々京の都に、とても美しいお姫様がおりました。
彼女は貴族の娘でしたが、身分の低い者にも優しい人でした。
屋敷の家来達も、そんな明るくて気立ての良いお姫様のことが大好きでした。
お姫様はすくすくと元気に成長していきました。
大人になるにつれて、彼女の美しさにも益々磨きがかかるほどです。
やがて都中の貴人たちがその噂を聞きつけて、是非とも彼女を我が物にと考えるようになりました。
お姫様のお屋敷は、都の中心から少し外れたところにありました。
彼女の父上は、官位があまり高くない貴族だったからです。
それでも屋敷の門前には、お姫様に婚姻を迫る男達で毎日行列ができておりました。
とうとう屋敷の蔵が、彼らから送られた立派な財宝や宝物で溢れてしまうほどでした。
けれどもお姫様のお父上はとても強欲な方で、もっと官位の高い貴人から縁談話がやって来るまで、彼女の婚姻を決して認めようとはしませんでした。
そんなお姫様に恋をしてしまった、とある貴人が都に一人おりました。
彼には既に生まれたときから契りを交わした婚約者がいたのにです。
彼はお姫様のことが好きなってしまってからというもの、毎日そのことしか考えられなくなってしまいました。
鮮やかな緋色を帯びた紅葉が咲き誇る、深い秋の季節のことでした。
とうとう彼は、お姫様との婚姻に拘るあまり、婚約を破棄してしまいました。
婚約を破棄されてしまった女は、お姫様のことを嫉妬し、そして激しく恨みました。ついにはお姫様を誹謗中傷する噂を都中に広めて、彼女の評判を落とそうするほでまでにです。
やがて都では、お姫様が多くの男達を誑かしているという悪い噂が徐々に立ち始めました。
不運にも彼女のお父上がこれまで縁談を断り続けていたことが、さらに輪をかけるように災いします。
とうとうお姫様は、人々から「傾城の美女」と謂れのない謗りを受けて、そのまま京の都を追放されてしまいました。
最後はどこかの山中で、憐れにもそのまま野垂れ死んでしまったそうです。
お終い
「渡瀬荘次郎調べ 京都古寺於」




