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『喧嘩厳禁! 器物損壊は弁償か皿洗い!』by店主

 「すると、なにか? デオクラテス殿は、このラーメンという料理が食べたいがために、異世界の住人を無理矢理に召喚したのですか?」ダニエルが半ばあきれながら聞いた。

 「ほんっとにヒドイでしょ! 拉致監禁よ! 私のいた世界だったら逮捕されるわよ!」

 「いや……、だから行き来は自由にできるようにしとるじゃろ?」

 「それにしたって、イチイチじいさんにお伺いをたててじゃない?!」

 「そうは言ってもな、秋子だってわりかし楽しんでるようではないか?」

 「ふん!」そう言って焼酎のグラスをデオクラテスに差し出した。

 「まあ、大賢者さまの気持ちもわかるなー。こんな美味いモノなら、毎日でも食いたいからな」デリーは赤黒い顔を綻ばせた。

 「しかし、場所が不便だ。なんなら城下で店を開けばいいものを……、なんだってこんな辺鄙な場所に……。おかげで武装しなけりゃ食いにこられない」ダニエルが愚痴る。

 「そんなことをすれば大繁盛するのは目に見えているじゃろーが。ここだからこそ、選ばれし者だけの憩いの場なのじゃから」

 「さすが大賢者さまだ! 賢明なご判断です」デリーが豪快に言った。

 その時だった、

 ガシャン!

 外で何かが砕ける音がした。

 「なんだと貴様! もう一度言ってみろ!」

 何事かと、秋子とカウンターに座る三人は暖簾を押し上げて外の様子をうかがった。

 「うるせー! やんならとっととかかってこいよ!」

 どうやら冒険者のパーティーの仲間割れのようだ。血の気の多い連中が集まる酒の席では日常茶飯事なのかもしれないが、ここでは許されない。

 「やめな! あんた達!」秋子がそのテーブルに歩み寄った。

 「ウルセー! すっこんでろあま!」顔に斜め一文字の大きな傷跡のある男が言った。

 「うるせーのはあんた達なの! それよりドンブリを割ったわね? 弁償するか、皿洗いしていくか選びな!」

 「わかってねーみてーだなー、ねえちゃん……」凄みながら男が秋子にずいっと近寄る。

 しかし、男がピタリと動きを止める。テーブルの仲間達も唖然とした表情になった。

 いつのまにか、秋子の背後には三人の男がいた。

 ドワーフの破剣技師ブレイカー・スミス、凄腕の冒険者、そして伝説の大賢者。

 錚々たる面子を前に、傷の男は冷や汗が吹き出るのを堪えられなかった。

 「ね、ねえちゃん、あ、あんた、何者だ……?」

 「ただのラーメン屋だよ! さあ、弁償か皿洗いか、どっちさ?」

 すると、

 「何の騒ぎかな?」低く太い、それでいてよく通る威厳ある声が響いた。

 黒いフードを被った一団が、ぞろぞろと歩いてくる。

 周りの客達はヒソヒソと何かを話しはじめる。「ダーク・エルフ……」「盗賊ギルド……」そんな声が微かに聞こえた。

 その中の一人、長身の男が被っていたフードを脱いだ。

 「こんばんは、アキコさん。何か困りごとでも?」

 「こんばんは、カイエンさん。別に困るほどのことじゃないから。ギルド・マスターの手を煩わせるほどのことじゃね……」

 「ギルド・マスター?!!」傷の男は目を見開いた。

 ギルド・マスターのカイエン・マクラフリン。盗賊ギルドをまとめ上げる、このダンジョンの第四層の実質的な支配者だ。

 「そうですか……。この見回りが終わり次第、私も食べに来ますよ」

 「なるべく早めがいいかも。今晩は客足が早いようだから」

 「では急ぐとしよう」そう言ってチラリと地面に散らばるドンブリの破片を見た。「おい、そこの傷男」

 呼ばれた男はビクっと身体を震わせた。

 「洗い物を済ませておけよ。私が戻ってくる前に……」薄い刃のような鋭い眼光を向けた。

 「は、……はい……」

 「では、アキコさん。のちほど」

 「おまちしてまーす!」

 去ってゆく一団に、秋子は手を振った。


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