2話 確認と驚愕
叶は先ほど窓の外の風景を見た時より2倍ほど驚いた。
それも仕方のないことだろう。窓の外が荒涼とした大地だったのに反対側にあるドアの外はそれこそ小説で描かれる様な近未来の街並みが広がっていたのだから…。
天に届くのではないかと疑うような超高層ビル群。高さはまちまちだがどれも優に1kmは超えているだろう。全てが円筒形で同じ形をしており色は遠目で見る限り鈍い灰色。一定の間隔で付けられているライトがビルを照らし幻想的な雰囲気を醸し出している。
その中で一際目を惹くのは叶が本来生きている時代ではまだ構想段階であった宇宙エレベーターらしき建造物。
それを中心として都市が形成されており中心から離れるほどに建物の高さは低くなっていく。
都市全体が巨大な三角柱を形成しているように見えた。
更には車のような乗り物は地上だけではなく宙を飛んでおり遠目で見たところ本来の車に必要である筈のハンドルとタイヤが付いていない。
「なんだこれ…まるでSFの世界だな…」
叶がそう洩らすのと同じタイミングで『プップー』と車?のクラクションが鳴った。クラクションを鳴らした車?は叶の前まで来て止まった。スポーツカーよろしく「ウィーン」という音を鳴らしながら上にスライドしてドアが開いた。
車から降りてきたのは初老と言うにはまだ若いが30代と言うには些か貫禄ある男性だった。
背は控えめに言っても190はあるだろう。黒いスーツの上からでもわかるまでに鍛えられた肉体はギリシャ彫刻を思い起こさせる。まるでアメリカ大統領お付きのSPの様だと叶は思った。
叶は少し怯えつつも問いかけた。
「どちら様です…か???」
すると男性は腰を折りつつ答えた。
「私は貴方様をお迎えに上がりました。さぁ叶様お車にお乗りください」
"まず名乗れよ!"と思ったのは置いといて…叶には何が何だか理解できなかった。先程の確認だが叶には両親はいない。(厳密に言えばいないわけではなくいたとしても知らない、わからないだけなのだが)叶はあまりそこは気にしていない。
しかし、それは自分の出自に関して何も知らないことを意味している。
つまり叶は何処ぞの王族、社長の子息だと言われても否定もできないし(する必要も特にないが)肯定もできないのだ。
ここで叶は男性に質問することにした。
「何故僕を迎えに来たんですか?僕は物心ついた時から1人でした。誰かに迎えに来られるような心当たりはないですよ?」
すると男性は眉ひとつ動かさずにこう答えた。
「叶様。貴方様は我が日本自治区総領事である彼岸 望様のご子息で御座います。長い間御消息不明で御座いましたが昨日此処に住まわれていると恐縮ながら私共が突き止めさせて頂きましたのでお迎えに上がりました。」
叶も負けじとこう返した。
「そんな突拍子もない話を僕に信じろと?第一、僕はこんな世界知らない。僕は昨日まで普通に生活していたんだ…車にはハンドルもタイヤも付いていて宙なんて飛んでなかったし、あんな超高層ビルもなかった…何より窓の外には街があったんだ!それなのに嫌な夢から覚めてみればこんなわけのわからない世界になってしまっていて…僕は何を信じればいい?誰を頼ればいい?何もわからないんだ!」
そんな叶を宥めるように男性は話し始めた。
「確かにこのような突然な話…叶様には信じられないかもしれません。ですが、叶様が望様のご子息なのは紛れもない事実で御座います。現在望様には跡継ぎ候補が叶様のお一人しかおられません。故に叶様をお迎えにあがったまでです。」
そして一拍置いてこう続けた。
「叶様が望様のご子息ということは私を含め日本自治区民の誰も存じ上げておりませんでした。しかし、先日全世界に向けて会見を行い、そこで叶様というご自身の跡継ぎの事を公表なされたのです。」
叶は今度こそ絶句した。豆鉄砲に打たれた鳩のように。これは比喩でも何でもなく本当に叶は驚愕で動くことができなかった。