腹を下した猫が考えていそうなこと
毒を盛りやがったな……ちくしょう、腹の中がごろごろしやがる。
これだから人間は信用ならねえ。
そりゃあ、香ばしい魚の匂いに誘われて、ふらふらと近寄っていった俺にも非はあると思う。
だからと言って、俺の体を散々撫で回したあげく、その報酬の魚が毒入りだったんじゃあ始末に負えねえよ……。
家じゃあ、飼い主がどうしたって魚を食わしてくれねえからこそ、「今しかねえ!」と思ったんだがなあ。
まあ、もう食っちまったもんは仕方がねえ。
これでもわりと長く生きた方だ、残された老い先も短い。
俺はこれが天命だと思って受け入れるだけだ。
だが……まあ、あれだな。俺が死んだら家のやつらは泣いちまうよな、絶対。
特に飼い主のやつは一番俺に懐いてるからな……。
ここは俺もご多分に漏れず、死に場所を求めて誰にも気づかれないように姿をくらますべきか。
いや、それもなんだかつまらねえな。
どうせなら、俺は家のやつらの泣き顔を見たい。それで言ってやりたい。
お前らは悲しいだろうが、俺はなかなか悪くない気分だ、ってな。
そんな事を考えながらすたすた歩いていると、血相を変えた飼い主が正面の曲がり角から現れた。
散歩からなかなか帰ってこない俺を探しにきたのだろう。
息も絶え絶えといった様子で飼い主がこちらに来る。
飼い主はそのまま近づいて、心配そうに俺の様子を確認した。
そうして、ひとしきり俺を眺め終えると、電話を取り出して耳に当ててぽつぽつと何かを呟いた。
…………俺の全身の毛がぶわっと逆立つ。
飼い主の放つ、「あれるぎー」とか「びょういん」という言葉に不吉な何かを感じ取ってしまった。
これから大変な目にあうだろうという予感、というか確信がある。
だが、俺を見つけた時の飼い主の、不安そうな顔を見てしまったからには逃げるわけにもいかねえ。
俺は覚悟を決めて、飼い主の元へと歩き出した。