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約束の剣  作者: 秩父之山波
プロローグ
1/1

~始まり~

初投稿です。

ファンタジー要素は低めかもしれません…。

ご意見、ご感想お待ちしております!

 「やあぁっ!」

 相手が斬りかかってくるのを剣で受け止め、弾く。

相手は簡単に吹き飛ばされ、三メートルほど後方の草地に落下した。

模擬戦で大きなケガをしないように森の中の土の柔らかい草原を選んだのだ。

 「やっぱりショウタは軽いな」

 「違うよ!ダイチが力持ちすぎるんだよ!」

 「…そうか?まぁいいや」

 ショウタに向かって剣を振りおろす。ショウタは受け止めようとしたが、誰かに呼ばれたかの様に横を振り向き、剣を下ろし…そして…。

 ゴチィン!という盛大な音と共に、脳天に俺の一撃がクリーンヒットした。

 「ぎゃぁ!いった…」

 ひっくり返ったショウタの喉元に剣を突きつける。

 「…戦ってる最中によそ見するなよ」

 「だって鳥さんが!応援してくれてたんだもん!」

 ショウタが見ていた方を見ると、確かに小鳥が二羽木の枝にとまっている。

 「……よそ見するなよ」

 ショウタは戦いとかそういうものに向いてないんじゃないかとよく思う。

 「うー…次は絶対勝つから!」

 「もう一回やるか?」

 「えっ…と…疲れたから明日にしよう!」

 絶対向いてない。



 練習を終えて家に帰ると、ドアの前にショウタの母が立っている。

 「あっお母さん!」

 「今日はダイチくんに勝てたのかしら?」

 笑いながら言う。予想はついているのだろう。

 「えへへ…負けちゃった」

 「あらあら…ダイチくんいつも付き合ってくれてありがとうね」

 「いえ…俺も練習相手が欲しいので」

 随分と弱いが。

 「練習相手になってるのかしら?」

 心を読まれた。

 「え………まぁ…はい」

 「そこは即答してよ!」

 堪えきれずにショウタの母が吹き出す。

 「うふふっ……二人とも従兄弟って言うより本物の兄弟ね」

 「えっ…そうかな?」

 「…」

 そこは即答しろよ。



 部屋に戻ると、ショウタが引き出しから古ぼけた本を取り出している。

 「なんだ?それ」

 「本だよ」

 ショウタはそういうとこっちを向いてにやにやしている。

 「知ってるよ…」

 嫌味な奴だ。

 「じゃあ読んで!」

 相変わらずにやけたままこっちに本を差し出してくる

 「え…えーと…緑と…土の……何て読むんだ?」

 読んでくれよ、と本を突き返す。

 「えー10歳にもなって読めないんだ?」

 にやにや。そんなこと言われても勉強は嫌いだ。

 「10歳にもなって模擬戦の最中によそ見する奴も問題だ」

 「あーそーいうこと言うんだー読んであげなーい」

 にやにや。

 「…悪かったな…読んでくれよ」

 「えーどーしよーかなー」

 むかっ。

 「うそうそ、そんな怖い顔しないでよ」

 ショウタが俺のとなりにすとん。と腰を下ろす。

 「…昔々、あるところにふたりの王子様が居ました。ふたりはとても仲が良く、協力してひとつの国を治めていました。国は栄え、民の笑顔であふれていました。

隣の国の王様はそれが面白くありません。ふたりの仲を悪くしてやろうと思いました…」

 本の挿し絵を見ると、幸せそうなふたりの少年を羨ましそうに見ている水色の髪の若者が描かれている。

 「…すごい偶然だね」

 ショウタが俺の髪を見ながら言う。

 「……早く続き読めよ」

 ショウタを含めて俺の親戚の中には水色の髪を持った者はいない。母親がそうなのかもしれないが、会った記憶もないので分からない。

…これが何を意味するのか分からないし、分かりたくもない。

 「…ふたりの王子様のうち、土の王子様は最近不安に思っていることがありました。緑の王子は自分のことを邪魔に思っているのではないか、と。

戦いの得意な土の王子様の仕事は国が平和になるにつれ減っていました。

それをどこからか聞いた隣の国の王様は土の王子様に」

 「二人ともご飯よ~」

 ショウタの母に呼ばれる。ショウタははーいと返事をしてから本を閉じてしまった。

 「…続きはまたあとでね」

 気になるがしょうがないか。俺はショウタと一緒に食堂へ向かった。



 食堂のドアの前で立ち止まる。中から聞こえるのは……もう帰ってきたのか。

 ショウタがドアを開けると、そこにいるのはショウタの父と母、そして…俺の親父。

 「あっホムラおじさんお帰りなさい!」

 「……お帰りなさい」

 正直あまり嬉しくない。…はっきりとは言えないが…苦手だ。

 「ショウタくんとダイチも来たか…土産買ってきたぞ。最近街で流行っているらしい」

 「ほんと?やったー!!」

 ショウタが目をキラキラさせて喜んでいる。親父は今日仕事で街まで出掛けていたのだ。

 「今日はふたりの誕生日だしな…用意ができたようだ」

 メイドが俺とショウタの前にグラスを置く。グラスに注がれた液体の中から細かい泡が出ている。

 「………」

 「ははっそんなに珍しいか」

 ショウタがじっと見つめているのを見て親父は笑うと

 「ミズチ兄さんと義姉さんも飲んでみてくださいよ。せっかく並んで買ってきたんだ」

 微笑みながら見ていたショウタの父母にも勧めた。

 「…いただきましょうか」

 「そうしようか」

 二人の返事を聞き、親父が台所に、もう二杯頼む、と声をかける。

 「そう言えばショウタくん、今日はダイチに勝てたのかい?」

 「えっと…また負けちゃいました」

 「そうか、まぁ立派な領主になれるように頑張れよ」

 ショウタの父はアースライフ領…通称『緑の谷』の領主をしている。俺の親父は領主の補佐だ。

 後継順位は弟である親父が第一位、ショウタが第二位だが、6年後にショウタが16歳になると、親父とショウタの順位が入れ替わる。

 「………」

 ショウタはまだグラスを見つめている。

 「先に飲んでいいよ」

 「お父さんいいいの?」

 「あぁ」

 「じゃあダイチ飲んでみようよ!」

 ショウタに促され俺もグラスを持つ。口に近づけると泡のはぜるパチパチという微かな音が聞こえてくる。甘酸っぱいような香りと……僅かな異臭。

 「ショウタ飲むな…!」

 「え?」

 ショウタが反射的にグラスを顔から離すと同時に台所から起こる何かが倒れたような音と悲鳴。

 「どうしたんだ!」

 ショウタの父と二人で台所に向かう。覗きこんでみるとメイドが憔悴しきった顔で立ち尽くしている。

 「あ、あの、旦那様と奥様の分を料理人と二人でご用意していましたら…料理人が…少し手にこぼしてしまって…それをなめたようなんです…そ、そしたら…」

 メイドが口に手をあて、脇に避ける。彼女の後ろに隠れていたのは床に散らばった調理器具と倒れて泡を吹いている料理人の男だった。

 「二人ともまだ飲んでいないな?」

 ショウタの父が俺をチラッと見たあと食卓で唖然としているショウタに顔を向ける。

 「ダイチが、止めてくれたから…大丈夫」

 「そうか…良かった…君、医者を呼んでくれ、早く」

 「は、はいっ!」

 あたふたと駆け出していくメイドを尻目に彼はありがとう、と俺の頭を撫でた。



 およそ二時間後。

 やっと部屋に戻ることができた。ショウタは窓から夜空を眺めている。

 料理人は死ななかった。医者の話によると、彼は毒を飲んだ量が少なかったので命を取られずにすんだのだそうだ。

あれをもし飲んでいたら…。考えるだけでもゾッとする。親父とショウタの父は店にあったときにすでに毒が入っていたのだろうと言っていた。

 

 「そろそろ寝ようぜ」

 「……誰が入れたのかな…毒…」

 ショウタが自分のベッドに座り、俯く。俺も自分のベッドに座っているので、向き合う形になる。

 「……親父にあれを売った店の奴じゃないか?」

 「…そうかな?」

 ショウタが顔を上げる。目があった瞬間、首筋に悪寒が走る。

 「…だとしたら、なぜ?」

 目を逸らしたい。こんなことを思ったのは初めてだ。でも…逸らせない。剣を突きつけられた時のように体が硬直している。

 「…親父か、お前の父さんを恨んでいた…とか」

 「もしそんな人がいるなら、こんな遠回りなことしないで井戸に直接毒をいれるよ。その方が確実だし」

 確かに誰が飲むかも分からない飲み物に入れるより、家の者全員が使う井戸に直接毒を入れた方が成功しやすい。

うちの井戸は人目につかないところにあるから、簡単なはずだ。でも店の者じゃないなら……ショウタは、何を言うつもりなんだ。

 「…だから毒を入れたのは井戸が原因だと分かるとまずい人。つまりこの家の人。ひとりだけ生き残ったりすると怪しまれるからね。……メイドさんは料理人さんとずっと一緒だったはずだから入れられない。

料理人さんは毒入りの飲み物を自分でなめているから、二人共が犯人な訳でもない。お父さんとお母さんも同じ。入れるタイミングはなかった。……毒を入れることができたのは一番長くあの飲み物をひとりで持っていた…」

 「止めろよ!!!」

 思わず叫ぶ。と同時に体がやっと動くようになる。…この先は言ってはいけない。…言ってほしくない。例えどんなに怪しくても。

 「ショウタ……なんか……おかしいぞ?」

 ショウタはきょとんとしている。いつのまにかいつもの優しい目に戻っている。

 「あ…ごめんね想像で色々言っちゃって…寝ようかっ!」

 ショウタがランプの火を吹き消し、ベッドに横になる。俺もベッドに横になり、目をつむる。

 「おやすみ……ダイチ」

 「……おやすみ」


 こうして俺たちの最悪の誕生日が終わっていった。

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