7. 神様は不干渉
「お前な、神様だってゆーなら神様らしいことして見ろ。願い事かなえたり、人助けしたりさぁ。試しに俺のことを助けてみろ!」
マダガスカルのやつが、また変なことを言い出した。が、俺は親切にも相手をしてやることにした。
「十分助けているじゃないか」
「どこが?」
「相手をしてやっているだろう?」
俺が神様スマイルで応えてやったというのに、
「俺が、相手を、してやってるんだ」
一言ずつ区切った変な喋りで、失礼な返しをされた。馴れない場所に動揺しているのだろう。喋り方も変だし。寛大な俺は許してやることにした。
「まぁ、俺も何とかしてやりたいのは山々なんだけどさ」
「じゃぁ、しろよ」
せっかく説明してやろうというのに、マダガスカルはせっかちである。俺は咳払いをした。
咳払いに特に意味はない。そういう気分だったのである。そして続けた。
「その昔に、人間の神に対する戦い、ってのがあってだな」
「なんかいきなり壮大な話になったな」
マダガスカルは、やっと話を聞く体勢になった。はじめからそうすれば良いものを。俺は続けた。
「何でもかんでも手を出すな、干渉すんな! って叱られた」
「そうでもなかったか」
が、続けた途端、マダガスカルの集中力が途切れたようだ。元のだらけた体勢に戻った。
何だ、この注意力散漫。集中力がないにも程がある。可哀想なマダガスカルのためにも、そのまま説明してやることにした。
「だから神様パワーを人間に使うことは出来ないんだ。今にして思えば、あれが反抗期ってやつかな」
俺が懐古しているというのに、情緒を介しないマダガスカルは、変わらず無礼であった。
「神様パワー、って……。むしろおまえが反抗期だろ」
だが、俺は小さな男ではない。これくらいのことで怒ったりはしないのだ。だから気にせず続けてあげた。
「言われてみたら確かにちょっとばかり過保護だった気がするし」
「話を聞けよ、おまえ……」
俺がせっかく教えてやっているというのに。話を聞かないのはマダガスカルの方である。
「手を出すな、って言われたから」
「はいはい」
集中力が欠如した可哀想な男に、俺は神様らしいポーズで告げてやることにした。もちろんアルカイック・スマイルも忘れない。その昔、由緒正しい神様の笑い方だと教わった、とっておきの笑い方だ。
「こっちはこっちで好きにしようかな、と」
「うわぁ、その言い方ムカツク!! 野放しか! それでこいつは野放しか! 誰だ、こいつを解き放ったやつ!!!」
マダガスカルが叫んでいるが、俺は気にせず、気になっていたことを尋ねた。
「ところでマダガスカル。おまえ、あれはもういいのか? もうやらないのか?」
「ん?」
分からないみたいだったので、言葉を足してやった。
「ほら、あの、マダガスカル~~、って叫んで走るやつ」
「ソノコトハモウワスレテクダサイオネガイシマス」
「……おまえ、急に日本語巧くなったな」
俺は感心したというのに、
「お前のいう日本語はこんなんか! こんな片言を日本語と言い張るのか!」
マダガスカルが再び下手な日本語で叫びはじめた。何だ、コイツ。何なんだ。
思わずツッコむ。
「もう戻ったのか。学習能力低いな、おまえ。もっと精進しろよ」
マダガスカルはしゃがみこんで頭を抱えた。
「ほんと、もうやだ」
努力を放棄するのは良くないと思う。
そう思いつつも、(主に頭が)可哀想なマダガスカルの、(可哀想な部位である)頭を撫でてやった俺は、とても優しい神様だと思う。