6. 壺男
とりあえず服は来た。マダガスカルが迂闊にも壺の方へふらふらと歩いていったので忠告してやった。
「その壺には近づかないほうがいい。その中でミエイさんがペットを飼っていて、そいつは人間を餌だと思っているんだ」
「はぁ? ミエイさんって誰だ? ピラニアでも飼ってんのか?」
ピラニアって何だろう。もしかして、ピラーニャのことか? 何にせよ間違っているだろうから正解を教えてあげた。
「ううん、壺男」
「はい?」
マダガスカルは理解しなかったようなので、もっと細かく教えてやることにした。
「上が人間の男みたいな姿で、下はデカいタコみたいになっているやつだ。竹やぶ飲み込めるくらいの大きさの」
蛸? 凧?とつぶやく男に、俺はこ~んなの、と親切にジェスチャーしてあげた。と、いうのに、
「そんなデカイの入るか!」
<<スパコーーーンっっ!!!>>
どこからともなく現れた布製品で殴られた。たびたび出てくるこれはスリッパらしい。俺の知っているものとは違う。こんなへにゅへにゅしたの初めて見た。今度貸して貰おう。
「入るよ。あれ異次元生物だもん」
とりあえず近くまで行って壺を覗き込んだ。どうやら今はいないようだ。普通の水瓶になっている。
「異次元生物って何だよ」
言いながら、マダガスカルが一緒になって覗き込む。危ないと教えてやってるのに。頭からかっぽり行かれても知らないぞ。
「異次元というのは異なる次元のことで……」
「いや、いい。絶対長くなるだろ、それ。”異次元”ってとこより、寧ろ”壺男”のが気になるわ」
説明してやっている最中だというのに失礼なやつだ。
だが、せっかくの要望なので、話題を壺男に戻してやることにした。どうやらこいつは壺男を知らないようだからな。俺が教えてやろう。
「壺男、な。あれは外見の一部が人間の男に似ているから”壺男”と言っているが、必ずしも全ての固体が雄な訳じゃないんだ。
人間に見える部分は、餌を呼び寄せるための囮用付随器官でしかないから、本体の性別とは関係ない。
最初は人間の女性の姿のを使っていたらしいんだけど、そうしたら人間の男ばかり捕まるもんだから、男の姿に変えたらしい。男は女より肉が固くて不味いんだってさ。
それで男の姿に変えたものの、女のときほど餌が取れないから、今度はもっと女受けする形に改良中なんだって。
雌も全く同じ姿しているのに『男』って付いちゃってるから、紛らわしいよな。新しい名前考えないと」
「また、意味不明なことを長々と……。どういう設定なんだ? それは。それに”男”とついていても”女”? 逆バージョンだな。お前の」
言われてみれば! それに、
「やっと、俺を女神と認めたんだな」
そう思うと、なかなか感慨深い。
「それでいいのか!? おまえは!!!」
マダガスカルが怒鳴った。なんで、こいつはこうも騒がしいのか。
相手が大人な俺で良かったな、マダガスカル。