4. マダガスの 「カル」
日本への行き方なんて知らないと言ってるのに、こいつはしつこい。そもそも、
「日本なんて国はないよ」
この大陸に日本なんて国はない。それでも相手は引かない。
「日本語を喋ってるじゃねーか」
「うん」
「日本がどっかにあるってことだろ?」
「なんで? そんな国ないよ?」
「じゃあなんで日本語っていうんだよ」
妙なことをしつこく尋いてくるから、懇切丁寧に教えてやった。
「日本語は日本語だよ。英語とかデンマーク語とか、言語の名前であって国の名前じゃない。
国によって言葉が違ったら面倒じゃん。その国でしか使わない言語って、何それ、理不尽。効率悪い!
おまえの名前がなんでマダガスカルか、って聞かれても困るだろ?
マダガスって国に住んでるカルっていうんじゃないだろ? マダガスカルって国があるからじゃない、おまえの名前がマダガスカルだからマダガスカルっていうんだ。
同様に日本って国があるから日本語っていうわけじゃない。
日本って名前の言語だから日本語なんだ。わかったか?」
親切に教えてやったというのに、その男、マダガスカルは頭を抱えた。
「どこから突っ込めばいい! マダガスのカルってなんだ。カルって生物がいるのか?
そこが妙に気になるが、そもそも俺の名前はマダガスカルじゃないし、マダガスカルは国の名だ!
それに、なんだ? 英語とデンマーク語もあんのか! なら英語で質問したとき答えろよ!」
「うん、あるよ。英語もデンマーク語も今ではほとんど使われてないけどね。
言語は生き物で日々変わるものだから、同じ日本語でも地域や時代によって結構違うけど、それにしてもお前のは英語も日本語もかなり訛ってて分かり難い。
古めかしい言い回しも多いし、たぶん、どこにいっても上手く通じないから気をつけろ」
忠告してやったのに、
「訛ってないから!これが正しい日本語だから!」
怒鳴られた。理不尽だ。