2. 衣服に関する一考察。
人類に衣服は必要であろうか。必要である。では、何のために?
かって人類は弱い生き物であった。
体毛の少ない体は脆く、森を通り抜けたり、裸足で大地を踏みしめたりなど些細な事で傷つき、さして身を守る役には立たなかった。
虫や動物から皮膚を保護し、擦り傷や切り傷を減らすために、人類には衣服が必要だった。
また、蛾の幼虫のようにつるりとした体は、過度な暑さや寒さには対応せず、酷く脆かったから、温度調整をするためという側面もあるだろう。
人類にとって衣服とは、身を護り、あらゆる環境の変化に適応するための偉大な発明だった。
――だが、考えてみて欲しい。
寒さも暑さも調整され、獣も人里に降りてくることは滅多にないこの現代社会で、衣服はその本来の役割を無くし、今や、その所属や身分を表すためのものと成り果てた。
更には、実際以上に見られたいという見栄や、人より上位に立つと見せつけようとする、虚飾の後ろ盾をする道具になっている。
それは自分を良く見せ、その存在を保証するものであるかのように見えるが、その実、自分を縛りつける檻になっていやしまいか?
可能性を封じ込め、その限界を決めつける。それは今となっては、本当に人類に必要なものなのか?
――ましてやこの俺に、衣服など必要なのか?
だから今、俺は敢えて行動する。
己の封印を解き放つ!!
目の前の草原では男が一人、この地上を我がものとするかのように裸体で駆け抜けていた。
俺は、それに眼をやり、服を脱ぐ。男は気付かない。乱雑に脱ぎ散らかされた他人の衣類を横目に、自分の分だけきちんと畳んで、大きめの石の上に置いた。
そして俺は、草原に向かってゆっくりと歩き出す。
やっと気配に気づいたのか、走っていた男は立ち止まった。振り向いたところで目があった。男が固まる。
その股間に何気なし眼をやり、自分のものを確認した。
……多少貧相なのは仕方あるまい。
体格が違うのだ。何より俺は成長途上、延び代はまだ有る!
俺は毅然として立った。隠す必要などない。これが、ありのままの俺だ。これが今の俺なのだ。どこに恥ずべきことがあろう。
――俺はすべてをさらけ出す! そして、草原の風となる!!
そうして、ありのままの姿で草原に向かって駆けだした。
「マダガスカル~~~」
気持ちがいい。これはクセになりそうだ。