1. はじめまして、マダガスカル
その男は、壺を抜けてやってきた。
ミエイさん(推定50歳。自称、仙人の胡散臭いオッサン)宅の裏手にある壺である。裏手にあるだけで、その壺はミエイさんのものではない。自立した壺である。
壺のことは、まあいい。問題はその男である。とりあえず体長およそ2m……には、ちょっとばかり、う~ん、10数cm足りないか。しかしデカい。とにかくデカい。
見たかんじ年齢は17~18歳。がっちりした体格で、焦げたような色の髪と目、肌の色もこんがり焼けたパンの色だ。見たことのない形の服は、ピチピチに身体に沿ったアンダーに上着、細身のズボン。首からなんか平らぺったい紐みたいなものを下げている。
動きにくそうだし、体型変わったらすぐ着られなくなりそうだ。無駄の多い服である。
もっと近くで見たかったのだが、困ったことにミエイさんちには出入り禁止の身の上だ。
離れたところから、じ~っと見ていると、その男はきょろきょろと辺りを見回し、ミエイさんちの庭先にある巨木を眺めて首をかしげた。……幼い女の子がするみたいに。
――可愛くない。すごく可愛くない! 気持ち悪い! 不審である。思いっきり不審人物である。「不審人物」という言葉をずっと使ってみたかった。これほどまでにしっくりくるヤツに遭遇するとは。ちょっと感動する。
そして、何を思い立ったかそいつは巨木を指さすと、
「アダンソニア・グランディディエリ!!」
と、謎の呪文を唱えた。その時点でもう、訳がわからない。訳がわからなすぎて楽しくなってくる。なんだこいつ。なんなんだ!!
わくわくしながら見ていると、今度は壺の中やらミエイさんちの垣根をのぞいている。垣根ったって、パっと見、竹やぶにしか見えないんだけどね!
その奥に竹に紛れて見えづらい緑色の庵、ミエイさんちがあるんだけど、どうやら気づかなかったらしい。首をかしげている。
そして今度はこっちを見た。鬱蒼とした竹やぶやミエイさん趣味の変な庭木を背にしたこちら側は、見渡す限りのサバンナである。遮るもののない草原。なかなか開放的は風景ではあるのだが……
そいつは、もう一度辺りを見回し、大きくうなずいてから、服を脱いだ。股間の、普通の人なら隠している、見えてはいけないものがぶるりと揺れた。
でかい。まぁ、体もでかいしな。見るともなしに見ていると、そのまま草原に向かって走り出した。
「マダガスカル~~~!!!!!」
意味不明な雄叫びに、こいつの事はマダガスカルと呼ぼうと、そう決めた。