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ゲームもリアルも変わりません!

某ゲームに50万費やしてしまった作者が書きます

「なんだ…ここは…。…っ魔王!無事か!」

「耳元で大声出さないでー。無事だから無事だから」

「でもお前、腕が…」

「あ、忘れてた」

こつん、と頭を叩かれる。

「自分の腕がぶっちぎれて忘れるやつがいるか!」

「怒らないでよぉー、今くっつけるから」

鋭利な刃物できれいに切断された腕は魔王が傷口を合わせてぷつぷつと呪文を唱えると、ちぎれていたのが嘘のようにきれいにくっついた。


「それでも激しい運動は控えろよ」

勇者がどこからか包帯を取り出してくっつける。

その間、はっとしたように魔王は顔をあげた。


「勇者、―――――囲まれてる」

「な、何にか聞きたくないけど聞こう」

「亜種」

「ああやっぱり、と勇者は頭を抱える」

「数は17。いくよ、勇者!」

「待て。俺はお前と違って夜目が効かないんだ。真っ暗闇で何も見えない」

「<明かり・ライティング>

なるほどと納得して、魔王が天井付近に明かりを打ち上げる。

「ボクが9体、勇者は8体お願い」

背中合わせに武器を構え、勇者は不満を口にする。

「それじゃ俺のほうが少ないだろ」

「なら、最後の一体は取り合いだね!」

魔王は勇者から距離を取り、誘引のスキルで敵を引き寄せる。

「アイシーブラスト!」

―――――一撃で仕留められない!?

「勇者、うまくよけてね!<アイシクル・ダンス><アイシーバースト><燃えよ、劫火の炎よ!>」

二重に凍らせて、焼きつくす。

それを何度か繰り返すうちに、みるみるうちに亜種の姿は減っていった。

<フリージングシールド><グレイシャルディスプロウ>

二重詠唱で凍らせて、再び<骨も残さず燃え尽きよ、劫火の炎よ我が手に!>

まるでダンスを踊るかのように華麗に魔王は敵を殲滅してゆく。

一方の勇者も、伝説の魔法剣で敵を切り刻む。

「あーっ、最後の一匹とられた!」

「いいだろー、あれだけ暴れたんだから」


だが、ボクも勇者も沈黙しばらく沈黙していた。

重たい口を開いたのは、勇者のほう。


「お前たちは…何なんだ…」

最初の遭遇では、殴る必要すら無かった。ボクが歩くだけで勝手に死んだ。

魔王城に現れた手だけの奴は、ワープ・ポイントすら使った。

そして、目の前で首を失って転がるこいつに至っては、ボクの左腕に傷をつけた。油断は―――していなかった…と、思う。多分。

「成長している…のか?それも、凄いスピードで…」

ボクの腕を修復し終えた勇者も、顔色が悪い。ボクの肩を支え、この空間から出る策を考えているようだ。





「出られませんよ、ここからは」

ふと、聞きなれない声が響いた。

「誰だっ!」

勇者が叫ぶ。…おかしい。気配が、ない。

気配がないというのに――――男は、ボク達の正面に、いつの間にか立っていた。

「まったく…バグなのかあなたの人格面に問題があったのか、失望しましたよ。魔王として人間を滅ぼすどころか和平協定を結んでしまうとは。βテストとしては兎に角貴女は魔王に適していなかったようですね」

見慣れない男は言う。

「だ…誰だお前は!それに、何なんだ、ボクが失敗だと!?テスト?何の事だ!」

「おや、これはまた…聞いておられないとは。まあ珍しいケースではありませんね、脳死状態になった子供を、莫大な金額と引き換えに、VRテストの主要キャラとしてネットワーク構築のために身柄を渡す親というのは、跡を絶ちませんから。あなたの前にも7人の魔王がいたでしょう」

「こいつ…何を言ってるんだ…」

勇者がボクを強く抱き寄せる。

「脳死…?VR…?なんの事を言ってる!」

ふう、やれやれ、と男はため息をつき、首を横に降って肩をすくめる。


「魔王…いえ、花海水樹さん。あなたはまだ、ここが異世界で自分は魔王として転生した――――なんて、夢物語を信じているのですか?」

「な………」


花海水樹。それは、ボクがこの世界に来る前、あちらの世界で死ぬ前につけられていた名前だった。

ボクは望まれて生まれた子じゃなかったから、その名前は嫌いで。こっちでは魔王、偽名の必要があるときはマオ、と名乗っていたのだが……

「なにを…なにを言ってるんだ……、ここは…この世界はアリエリオスという精霊の祝福を受けた世界だぞ!?そして私は本来ならばそれに相反し、勇者を――――」

「そう!水樹さん、あなたは魔王!魔王の役割を与えられた以上、死に物狂いで勇者PTと戦ってもらわなければ!……しかし勇者にしても、NPCの分際で水樹さんに好意すら抱いている素振り。全く、全くの損害ですよ」

「な…にを……言って…る…?」

ボクは冷や汗が全身を包むのを感じながら、難しい顔をしている隣の勇者の顔を見る。



ボクを心配する反面、突然現れた妙な男に対する敵意を浮かべた顔だ。

「VR?勇者がNPC…?お前は……お前は一体なんなんだ!」

「申し遅れました」


男はシルクハットを取り、余裕の動作でこちらに一礼する。


「私はVR型MMORPGアリエリオス担当者脳リンクネットワークシステム、βバージョンアップ部門最高責任者、相馬総悟と申します」

そして、相変わらず表情のない顔で、ボクに向かって手を差し伸べる。

「ここまで言えばもうお分かりでしょう水樹さん。この世界は異世界などというファンタジーではない。我が社が開発している、VRMMO脳内直結リンク式RPG、つまりはゲームなのですよ」

「う…嘘だ!ボクは死んだはずだ!だからリベリアがボクをみつけ、我が軍はボクに忠誠を誓っている!勇者だってそうだ、優しくて人望があって、ボクが魔王でも差別することなく接してくれて――――」

「ええ、その点におきましては、その勇者も失敗ですね。ゲーム内の設定では2000年転生を繰り返しているとされていますが、水樹さん、難しいでしょうが、冷静になってください。  ソレは、ただの、データのカタマリです」

「ゆう…しゃ……?」

ボクの見開いた瞳から、気づかぬうちに涙が溢れる。

「何が何だか分からんが……、魔王を泣かせた奴は、俺が、…斬る」

「勇者!」

そうだ、これがデータなわけがない。こんなにもあったかい。

だが男は失望したようにため息をついた。

「勇者もバグが生じているようですね。ここは一度デバッグを決定して、魔王と人間が憎みあう世界を創らなければ」

「ふざけるな!」

ボクら二人の声がハモる。


「やれやれ…。勇者はデバッグで新しい人格を与えられるものの、困ったのは水樹さんですね…。魔王の役割を果たそうとしない。我が社も困っているのですよ、脳死患者とはいえ、中々VRに我が子を差し出す親が少なくて」

そこまで言って、勇者に杖を向け、くるりと回す。

「何をする気だ!」

「何を?決まっているじゃないですか。この”バグ”でしかない勇者を、作りなおすんですよ」

勇者が――――ー消える…?

「冗談じゃ……ない……」

「ええ、冗談ではありませんよ?私はこれからこの―――――水樹さん…?なにを…?」

「ボクの次の魔王をみつけるのに、苦労しているんだってね。それなら、ボクが!」

ボクは太ももに忍ばせている快刀を首に押し当てる。

「魔王の急所は一つだけ。首を切り落とされること。ソレ以外では、木っ端微塵にされようが復活する、そうだろ?」

「な―――魔王!やめろ!」

「勇者、大好きだよ…。本当はもっと、ずっと一緒にいたかった。ずっとずっと。……おい、責任者とかいう奴!」

「無駄ですよ。そのナイフも、ただのデータに過ぎない」

相馬が、すっと手を横に移動させるだけで、ナイフはボクの手の中から消えてしまう。

「やっぱしね。そんなことに気づかないほど、ボクはバカじゃないよ」

「なら、なにを――――」

ボクの勝利者の笑みは消えない。

そのまま、勇者にいきなり、くちづけた。

「………っ///」

勇者は最初動揺したものの、静かに目を閉じる。

ボクは勇者から離れ、ごめんね、と勇者に謝る。

「最初に会った時…、最期の記憶は曖昧だって言ったよね。…ごめん。あれ、本当は、嘘なんだ…。ボクは誰にとっても邪魔者でしかなくて、その記憶が辛くて、話せなかった…」

「いい!こんなときに、許すから!だから!」

「聞いて、勇者。ナイフがなくても体ひとつでも、人は、死ぬ…死んだり、仮死状態になったり、できるんだよ。魔王の急所は確かに首。でもそれは、自殺とは別なんだ。自ら死を選べば、急所でなくても死ねる、そういう仕組になっているんだ、魔王は」

「なっ……水樹さん!バカなことを!やめなさい!!」

ボクが泣きながら勇者を突き飛ばすのと、責任者とやらが慌ててこっちに走ってくるのと、ボクが思い切り舌を歯を食いしばったのは、同時だった。



クライマックス?

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