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旅路は情けと言うなかれ

哀れ勇者よ…

シェリアという女性(女性といってもモンスターだが)の外見は、魔王が大人になればこんな感じだとうかと思わせる反面、

魔王とはだいぶ違う性格の持ち主で―――――一言で言えば、性悪だった。


「魔王様もなぜあなたのようなぼんくらを勇者と認められるのでしょうね。確かに歴代の魔王様を倒した実績はあるのでしょうけど、私には不可解でなりませんわ。魔王さまは至高の存在、人間どもとの和平が魔王様のご命令ですから貴方と行動を共にし魔王として振る舞いますが、正直理解に苦しみます。勇者だろうが何だろうが人間など、餌にすぎないというのに」



二人きりなった途端これだ。

性悪というより、根性が捻くれているか、毒舌なのか。

若干落ち込む勇者に、

「貴方今、失礼な事を考えておりませんこと?」

と、これだ。


「いや…べつに…あの村までどれくらいで到着するのか考えていただけだ」

精神をへし折られながらも勇者は気丈に答える。

「まあ、距離すらつかめておりませんの?私は魔王様に、村の正確な位置を聞いておりますわ。その点、貴方のような人間は魔王さまに信頼されていないのでしょうね」

今度こそ折れた、バキリと音を立てて精神が折れた。

「あら、どうしまして?早く出立なさらなければ今日中に戻ってはこられませんわよ」

「あ、ああ…」


マオ…お前、なんでこんな奴を…


心の中で泣きながら、勇者はワイバーンにまたがる。

すると即座に声が飛んできた。

「人間の分際で、タダでこの子に乗れると思っておいでですの?500G。お渡しなさい」

前回から一桁増えてる…俺の財政が…

そうは思うが、精神的にバッキリと折られた勇者は、泣く泣く500Gをワイバーンの首輪に結びつける。

「それから、前側に乗るのは私、あなたは尻尾にでも乗っておいでなさい」

マオ…本当にお前はなんでこんな…嫌がらせなのか…マオ…涙



ワイバーンの速度は早く、あっという間にあの村へついた。

尻尾といえど、乗り心地は良く、勇者がうとうとし始めたところでシェリアが思い切り勇者の頬を引っ叩いた。

「いっ…たいな!」

「墜落がお好みですの?まぁ勇者であれば浮遊魔法も使えるでしょうが寝ていては無駄というもの」

シェリアがワイバーンの頭を撫でて、村の中に入ってゆく。

茶色いテントが並んだ、さびれた村だった。

そこでシェリアが声を張り上げる。



「我は魔王、そしてこやつは勇者。この村と取引に参った」


ばらばらとテントの中から人が出てくる。

魔王だ…魔王だ…本物だ…

そんな声が聞こえる中、勇者は思わずくくっと笑う。

だがシェリアの鋭い視線に押し黙ることになった。本物の魔王は城で絵本にらくがきでもしているというのに。


「この村と取引がしたい。勇者がモンスターを連れて売ったあの果実、どの季節に成ってどの季節に売れるのじゃ」

長老らしき老人が歩み出てくる。危険です、という声も、シェリアの眼光で掻き消えた。

「どのような御用ですかな?魔王様」

長老は膝をつき、臣下の礼を取る。

「あの果実、幾らで販売しておるのじゃ?」

「20Gでございます、魔王さま」

「なるほど。ならば魔王城でその果実、半分40Gで買い取ろう」

ざわざわと声がする。

「不服のあるものはおるか?」

倍の値段で売れるのだ。不服のあるものなどいるはずもなかった。

「あの果実は秋から夏に、ほぼ一年中採れます。魔王様がお望みであれば、ここにある果実を持って帰られますか?」

「うむ、そうさせて貰おう。勇者、財布を」

俺の…………財政が……

けれどこれはマオが望んだこと。

人間との和を保つためにその第一歩として。


「では50個で200G、これで良いな」

「はいっ」

「そうかしこまるでない。魔王さまは―――――我は人間との調和を望んでおる。ではゆくぞ、ワイバーン」

きしゃあああと声をあげて二人を載せたワイバーンが飛び立ってゆく。

それを見つめながら、行商のおばさんに賛辞の声が上がる。

「あんたがうまくモンスターの子供と勇者をまる丸めこんだんだよ!」

「えっ、わ、わたしはまるまるめこんだなんてこと…勇者さんがおいしい、って全部買ってくれたのよ、モンスターの子供にせがまれて」

「おーおー、今の世の中はモンスターさまさまだな!よし、今夜は祝杯だ!」

勇者たちが車ではしんと静かだった村は、祭りに似た騒ぎになっていた。





「では任務を滞り無く任務を遂行致したのじゃな?」

「はい、魔王さま」

「よい、褒美を遣わす。その果実、まことに美味。そなたが4分の1ほど持ってゆくが良い」

「ははぁっ」

マオの前で跪くシェリアの姿には何の打算や計算も無い。心底マオに心酔しているのだ。


「して、勇者。わらわ以外の魔王との旅はいかがであった…か…?なにやら口から魂が抜けておるようじゃが引っこ抜いて構わぬか?」

慌てて勇者はは出かかっていた魂を飲み込む。

「マオ、これは悪口じゃないんだが、俺はやっぱりマオとの旅が一番落ち着くよ」

「そうかそうか。では次回はわらわが向かうとしよう」

横から穴かビームが出そうなシェリアの視線を受けながら、勇者はやはりマオとの旅が一番落ち着く…と痛感したのだった。

1G=10円換算です。

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