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opposition  作者: ぱごす
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はじまり~第1話~

暴力描写多数あります。極力配慮いたしますが、酷い場合は

お教えください、改善し掲載いたします。

この作品は暴力、復讐、戦争等を推奨するものではありません。

ひとつの物語として読んでいただければ幸いです。

生死

男女

善悪

大小

長短

上下左右

東西南北

春夏秋冬


物事には必ず対立するものがある

そうやって

安定を求めた


だか


突き詰めていくと

割り切れるものは

一番安定しないものだと気づく


それは

我々が人の間の生き物だから



はじまり


 古ぼけた一世紀以上前の建築物、当時は超高層ビルと呼ばれ、最先端技術を集結して建築されたであろうが、今は荒れ果てた大地に半分埋没し傾いて辛うじて原型をとどめている。本来の入り口はとうに砂の中だ。

 私はその建物だった巨大な物体の前で車を止めた。頬から汗が伝う。


「よく来てくれたね」


 私が車を降りるとその建物へ続く入り口、とは言っても本来は窓であったであろうサッシの前に立っている、幾分白髪が目立つ黒髪の男が声をかけてきた。

 この男と知り合ったのは去年の今頃で、まだその頃は職についていた。そして、いつも行くカフェに男は居た。


「ええ、今は職なしで暇ですから」


 時々カフェで世間話をする程度の付き合いだった。

 自分が解雇された報告をする時までは。


「ああ、そうだったね。再就職は決まりそうかい?」


 解雇通告をされた日にいつもより早い時間にカフェに行った。すでに男はカウンターのいつもの席に座っていた。

 私はいつものように男の隣に座り、何の違和感もなく世間話をするように解雇されたことを話した。

 今思うと何故話したのだろう。


「まだ…、見つかっていないのかな?焦る事はないさ、君は若い。じっくり考える事も必要だ」


 男はそう言った。あの時も同じ事を言ったような気がする。更に続けてこう言った。


「「時間なんてちっぽけなものだ」」


 過去と現在で同じことを言う。不思議な男だ。

 それにしても、無用心にも何故言われるがままに私はここへ来てしまったのだろう…。


「今の君には無限の時間がある。有効に使ってみないか?」


 そう、誘われた。

 突然の解雇を伝え、たぶん愚痴ったに違いない私を叱るでもなく、励ますでもなく、ただ彼は言った。

 確かにいきなりの空白に投げ込まれ、人生の将来の方位磁石はどこも示してはくれなくなった。私の前には無為に過ぎていく時間だけがある。


「あの、ここは一体どういう場所なんですか?」


 私を誘った男の顔を改めて見る。中肉中背。一度見た程度では記憶できない。一年間、カフェで話をしていても

会わないと忘れてしまうような特徴のない顔。年齢が分からない。

 初めて会ったときもそう思った。白髪も顔のシワも年齢を感じさせるが、全体のバランスがおかしい。同じ歳と言われればそうだと思えるし、老人だと言われればそう感じる。

 私の中にある老人像とはかけ離れている。

 私に凝視されて、男は顔をシワシワにした。笑ったのだ。


「詳しい話はこの中で話そう。車は大丈夫。ここへわざわざ盗みに来る奴なんて居ないから。さぁこの中へ」


 男はガラスの割れた窓の中へと消える。

 私も続いて中に入る。まだ残っているガラスが踏み鳴らされる。


「気をつけて。廊下も傾いているから船酔いに似た感覚になってしまうんだよ。遊園地であっただろ?トリックルーム。もしくはニンジャ屋敷」


 建物の中も外観同様に傾いていた。男の例え通りの世界だ。薄暗く窓からの光が唯一の明かりだ。傾斜は思ったよりきつくないが、歩いていくほどに下っているのか登っているのか分からなくなる。


「ひとまずここで話をしよう」


 男はひとつの部屋に入っていく。この部屋も傾いているのだろうと覚悟して私は踏み入れた。


「…ここは傾いていないんですね?」


 通された部屋はきちんとした水平を保たれた空間になっていた。古い応接室のようだ。蛍光灯も点いている。花瓶には小さなバラ科の赤い花も生けてある。この男がセッティングしたのだろうか。


「ここは受付兼コミュニティールーム。傾いている部屋では落ち着かないからね。ちゃんとお湯も沸かせるんだ、今、お茶の準備をするから座っていてほしい」


 何の受付をするのか言わなかったが、男は手際よく部屋にあったお茶セットを準備する。お湯は既に沸かされており、すぐにお茶が出てきた。お茶の色は私の知っているお茶の色ではなかった。


「このお茶は自分の故郷のモノです。昔は輸出もしていたそうですが、今は誰も知りません。種は私の国のものですが生産地はこの国です。君の口に合うかどうか。熱いので気をつけて」


 男はおいしそうにお茶をすする。私も真似て喉を潤す。お茶の葉の匂いが心地よい。


「…さて、わざわざここにお呼びしたのは、誰にも聞かれずに君に自分の話を聞いていただくためです。正直、君がここに来てくれることは五分五分と思っていました。いかがわしい、老人のたわごとですからね」


 顔をシワシワにして笑っている。好々爺という年齢なのだろうか。


「老人のたわごとでも、有効に時間を使えるなら今の私には願ったり叶ったりです。お金にならなくても有意義な時間になるのでしょ?」

 怒られる覚悟で男を老人扱いしてみた。

 男は怒るどころか声をたてて笑った。その声はハリがあり舞台俳優のような貫禄があった。


「わかりました。ありがとうございます。話の最後にもう一度、質問をします。その時もいい返事でありますように…さて、何処からお話をしましょうかね…そうですね…」


 男はどこを見るともなく、今ではなく過去を見ているのだと感じた。


「順を追ってお話する方が良いですね。まずはこの世界の歴史を少し…さすがの自分も当時は生きてはいませんから聞いた話ですがね…」


 この男は歴史が好きだ。今を生きるには過去が必要だとよく言っていた。過去と今と未来は繋がっていると。

まだ温かいお茶をすする。外の暑さはここでは感じず、むしろヒンヤリとしている。


 お茶の温かさを手に心地よい冷たさを頬に。

 つい、目を閉じてしまう。

 耳には男の、老人の…


「昔のお話です」


次にこの世界の歴史を少し紐解いていきます。

よろしくお願いします。

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