宵月夜
掲載日:2011/11/09
座ったフローリングの床がやけに冷たくて、接した部分から
体中の熱が吸い取られてしまえばいいのに、と思った。
ベットに背を預け、足元に転がっていたタバコに手を伸ばす。
黒いパッケージに緑の文字。
なんだか毒々しい色だと笑ったのは、いつのことだったか。
ゆっくりと長い煙を吐き出す、あの人の横顔はいつも綺麗だった。
わたしも真似をして、百円ライターで火をつけた。
深く深く煙を吸い込むと、涙がじわりと溢れ出してくる。
…苦い。
けれど、脳を侵食していく痺れは甘く心地よくて、
タバコをやめられない人の気持ちが少し分かる気がした。
煙はどこに行くのだろう。
涙はどうして出るのだろう。
行く先も理由もわからない。
…そう、わからない。
だからわたしは、開け放たれた窓を閉めようとしない。
吹き込む風。冷たくて濃い、夜の空気。
ゆっくりゆっくり、わたしは考える。
なぜ、
彼が窓の向こうへ飛び立ったのか。
気付けば、灰が落ちかけている。
わたしはそれを灰皿に押し付けると、彼を呑み込んだ夜を振り返った。




