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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
99/108

世界の終わりの案内人

「世界の吐いた嘘だと?」

「ええ、その通りです。彼女は嘘。外の世界では存在しなかったはずだ」

「そんな訳が」

 桃山は楽しそうに、その場に集う人々を見回した。

「皆さん、よーく思い出してください。この娘との記憶をよーく。何か矛盾はありませんか? 例えば先程そこの少年が言った様に。正体を隠していたのにどうして分かったのかとか。そうですよね?」

「そうです! 俺が変身出来る様になったのはこいつと会ってた時よりずっと後なのに。それなのに変身してる俺を見て正体を見破った。そんなの無理だ。やっぱりそいつは嘘だ。嘘なんですよ。きっとそいつは魔物かなんかだ。化物なんだ」

 興奮し始めたヒロシの前に桃山の手がかざされた。

「さあ、皆さんはどうですか? 心当たりはございませんか?」

 段々と皆の表情に理解と困惑と恐怖が宿り始める。法子は皆の顔色から穂風が偽物と見破られ始めた事を感じ取って、青ざめる。何とかしたいがどうしようもなかった。

「皆さん、心当たりがお有りの様ですね。やはりこの娘はこの新世界の生み出した存在の様だ」

 桃山は穂風を楽しげに眺める。

「ではこの娘から情報を引き出すという事で、皆さん異論はございませんね?」

 法子はそれに何か言おうとしたが、言葉が出てこない。説得出来る様な言葉は浮かんでこないし、穂風に味方すると宣言して敵対を示す事もまた出来なかった。守ると約束したはずなのに。言葉にする勇気が出てこない。情けなくて涙が出そうになった。

 法子が穂風の前で震えていると、徳間が声を荒げた。

「待て! 幾ら何でもそんな子を」

 それに対して桃山は静かに言った。

「そんな子? まさか外見が幼い女の子だから見逃せと仰るのではありませんね? あれはただこの世界が創りだした人形に過ぎませんよ? 人々を拐かす為にあえてあんな姿をしたね。子供だから見逃すというのは、この新世界の術中に嵌るのと同じです」

 畳み掛けられた徳間は言葉に詰まる。桃山は徳間から視線を外して穂風へと歩む。徳間はそれを追えず、立ち尽くす。

 桃山は穂風の前に立つ法子をどかそうと、法子の二の腕に手を添えて横へ押した。

「さあ、退いていてください」

 法子はそれに抵抗する。

 桃山は不思議そうに踏ん張っている法子を見た。

「どうしました? あなたの後ろに居るのはこの世界が生み出した偽物です。あなたの本当のお友達じゃありませんよ」

 そう言って、再度法子を退かそうと手に力を込める。

 その手を法子が払った。

 桃山を睨んで、震える声を出す。

「退きません。穂風は親友です」

「聞いておりませんでした? この子は」

「偽物でも、親友です!」

「あなたの友情は素晴らしい事だと思います」

 桃山は溜息を吐いて自分の頭に手を当てた。そうして鋭い眼光で法子を射竦めた。

「ですが、ここで事件の手掛かりを阻むというのであれば、この場の全員を敵に回す事になりますよ」

 桃山の恫喝に法子は体を震わせ硬直する。固まった法子は桃山に押されて脇に退いた。

 法子は呆然として、対峙する桃山と穂風を眺める。

 諦めた様な眼をしている穂風と空っぽな眼をした桃山。桃山の眼は笑みの形に歪んではいるものの、その奥の瞳は何の感情も映していない様に見えた。例えこれからどれだけ酷い事を穂風に行おうとも、何ら躊躇をしない様な眼をしていた。

 そんな桃山がゆっくりと手に持った銃を穂風へと向ける。

「駄目!」

 その瞬間、法子は何も考えずに動いていた。

 親友である穂風を傷つけようとする桃山に向かって、刀を抜き放つ。

 桃山が瞬時に法子へ向け、銃を発砲した。弾丸が法子の刀に当たる。当たった瞬間、法子の刀を持つ両腕に信じられない位の強力な衝撃が走り、耐え切れずに手が跳ね上がった。

 無防備になった法子に向かって、桃山が優しげな笑みを浮かべる。

「今、私に攻撃をしたという事はあなたも敵。そういう事ですよね?」

「あ」

 何も考えていない行動だった。ただ穂風を助けたくて。勝算なんかまるでない行動。桃山の優しげな笑みが明確な死を突きつけてくる。殺される、と思った。一瞬後に自分が撃ちぬかれて殺される光景があまりにも明確に見えてしまった。

 桃山が優しげな笑みで一歩法子との距離を詰める。法子は目の前に立った桃山を見上げて息を飲んだ。

「ならば何をされても文句は言えない。そうですよね?」

 法子の歯の根が鳴り始めた。恐怖で震えはじめた法子を、桃山は笑顔で見下ろしてくる。

 その時、助け舟がやってきた。

「待って!」

 摩子の叫びに桃山が振り返る。

 桃山に見つめられても怯まずに、摩子は桃山に杖を向けた。

「攻撃しようとしたら敵になるなら、私だって敵。私は穂風を守る為に法子と一緒に戦う。法子と穂風から離れて!」

「おやおや」

 桃山は摩子と法子を順に見つめて笑う。

「二人相手ですか、これはこれは」

「待て、三人だ」

 更に徳間が声を上げた。

 桃山がうんざりした様子で徳間を見る。

「あなたもですか?」

「ああ、流石に女の子が無残な姿になるのを指を加えて待ってる訳にはいかないだろ」

「しませんよ、そんな事。どんな想像しているんですか? それに徳間さん、私への恨みで反発してません?」

「否定はしない」

 桃山は溜息を吐いて、周りを見回し、そうして両手を上げた。

「降参です。降参。このまま行くと、私が全員相手にしなければいけなそうだ。でも良いですか、皆さん。その子が怪しい事、この世界を解決する鍵になりそうな事は確かですよ? その子から情報を引き出さないというのなら、皆さん、他の妙案はあるんですか?」

 桃山の問いかけに、今まで黙っていた穂風が声を上げた。

「私が案内します。この世界を終わらせる場所まで」

 今までのやり取りを完全に無意味にする言葉に桃山は項垂れた。

「うわぁ、完全に恨まれ損」

 法子が驚いて穂風を見る。

「穂風、やっぱり」

「うん、ごめんね、法子。私本当はあなたの友達じゃないんだ」

 法子は首を横に振る。

「そんな事無い。穂風は親友だよ」

「ありがとう」

 穂風が微笑んで、その場に居る全員に向けて言った。

「この世界を終わらせる方法は簡単です。この新世界の主を倒せば良い。かつて覇王と呼ばれた一人の男を倒せば解決します」

 覇王。その言葉を記憶から辿り、法子は不安そうに尋ねた。

「覇王って、確か物凄く強いんじゃ」

「はい、ですがこの世界を作るのに相当の魔力を使っているので全盛期程の強さはございません。ご安心を」

 法子は口を閉ざす。穂風の事務的な口調が何だか怖かった。

 ファバランが突然穂風に詰め寄った。

「覇王! 覇王は私のご先祖様。何処? 会いたい」

 穂風は詰め寄るファバランに微笑みを浮かべる。

「彼は学校に」

「学校! 分かった! 将刀! 将刀! 学校、行こう!」

 ファバランが将刀の下へ駆けていく。法子はそれを見て、こんな事態だというのにまた苦しくなる。どうしてこんなに苦しいんだろう。覚悟していたはずなのに。彼女が居るって分かった上で、それでも好きになってもらおうって決意したのに。どうして自分はこんなに弱いんだろう。

 いじけている法子を余所に、真央達が穂風の下に集って尋ね出した。

「学校ってどの?」

「私の通っている学校です。法子や摩子達の通っている」

 穂風の傍に摩子が寄って行った。

「あ、地図あるよ、地図」

 そうして宙に魔法円を描き、町の地図を出す。

 そうして話し合っている穂風達の傍に居ながら、法子は将刀を見つめていた。将刀はファバランに手を引かれて困っている。仲が良さそうだなぁと羨ましい思いで将刀を見つめていると、突然将刀がこちらを見た。法子の心臓が跳ねる。慌てて視線を逸らそうとしたら、先に将刀に視線を逸らされた。ショックだった。やっぱり告白が迷惑だったんだろうか。告白をして関係が壊れてしまう物語を法子は思い出した幾つも知っている。それを読んだ時はあまり実感が湧かなかったけれど、今分かった。こういう事なんだ。きっと私、これから将刀君と話をするどころか、目も合わせてもらえないんだ。

 ふと目があった。将刀の隣に立つファバランがこちらを見つめてきていた。そうして得意げな顔をすると視線を逸らされた。それは挑発する様な仕草だったのに、あまりにも可愛らしく決まっていて、法子は嫉妬する事すら出来ずに、自分と相手の差に絶望した。

「それでは皆さん、学校の場所も分かった様ですね。それでは行きましょう」

 どうやら話し合いが終わった様で、法子は慌てて現実に立ち返り、皆を見た。

 皆が道の先を見ている。その表情に法子は疑問を持った。皆、妙に表情が固い。不思議に思って法子も同じ方角を見て、皆と同じ様に固まった。

 道の先に男が立っていた。法子を人形にしようとしたあの引網が周りに沢山の死体を引き連れて立っていた。

「僕にも教えて下さいよ。どこに行こうって言うんですか?」

 そう言って、笑った。

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