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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
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ただ失いたくなくて

「駄目じゃないさ、法子」

 涙を拭う法子にタマは言った。

「駄目じゃない。前に言っただろ。私は君の幸せを願っている。だから君が笑っているのなら、何をしたって私はそれを応援するよ」

「タマちゃん」

「君があの子と友達で居たいなら、そうすると良い。ただし何があろうと最後は笑っているられる様に、君は頑張らなくちゃいけないよ」

 タマの存在があるだけで、法子はどんな障害でも乗り越えられる様な気がした。

「うん、分かった」

 涙を拭い終えた法子は電話を掛けに外へ出た穂風を追った。外に出ると、玄関の傍で穂風が携帯に耳を当てていた。飛び出た法子に驚いて、目を見開いたまま固まっていた。

 法子はその穂風の手を取って言った。

「穂風、私、穂風の事守るから」

 息せき切ってそんな事を言う法子を見て、穂風は不思議そうにする。

「え? 急にどうしたの?」

「何でもない! とにかく私、何があっても穂風を守るから。私、穂風の親友だから」

 その言葉を聞いて、穂風はしばらく何も言わずに黙ったが、やがて声を上げて笑い出した。

「ありがとう! でも法子に守れるかなぁ? 不安」

 法子はそれに対して呟いた。

「私は変身する」

 法子は魔法少女となって穂風に向かって笑いかける。

「どう? これなら守れるでしょ?」

 穂風が目を見開いて法子の全身を眺める。

「凄い。法子そんな事出来たんだ」

 法子は少し得意に胸を張って、それから穂風の手を引いた。

「行こう。もしかしたらこの辺りにまだ犯人が居るかも」

「え? 犯人って?」

「分からないけど、でもきっと誰かがやったんだよ、あれは。だからその犯人から逃げないと」

「そっか。法子がそう言うなら」

 そうして法子と穂風は走りだし、宛もなく町中を彷徨い出した。親友ではない親友と共に。

 しばらくして法子に手を引かれる穂風が息を上げながら言った。

「法子だったら良いのにな」

「え? 何が?」

「ねえ、法子は何か願い事ある? やっぱり将刀と付き合う事?」

 法子は少し考え首を横に降った。

「違うと思う。今の私の願いは、将刀君の隣に居られる人間になりたい」

「何それ。法子は十分だよ」

「ううん、駄目。将刀君は英雄だから。だから英雄に。摩子と同じ位、凄くなって。それから将刀君の彼女みたいに凄く綺麗になって。そうじゃないと多分いけないと思う。ううん、それだけじゃ駄目で、それを越えなくちゃいけないんだ」

「うーん、でも面倒じゃない? 他のライバル全部蹴っ飛ばしてさ、自分だけになっちゃえば良いじゃん」

「駄目だよ。それじゃあ」

「何で?」

 理解出来ないといった顔をしている穂風へ振り返って、法子は怒った様に言った。

「だって、それじゃあ将刀君の記憶に残ってるから」

「え? それって」

 法子の言葉に穂風がおかしそうに吹き出した。それから今まで以上に荒い息を吐きながら、尚も笑い上げた。

「凄いね。将刀の全部が欲しいんだ」

 法子は恥ずかしそうに前を向く。

「別にそういう訳じゃないけど。でも一番で居たいでしょ?」

 そう言った法子に、穂風がいきなり抱きついた。法子はバランスを崩して、穂風と共に倒れる。地面に転がった法子は穂風を引っ張り上げながら立ち上がり、憤慨した様子で言った。

「いきなり何?」

「ただ法子だったらなぁって思っただけ」

「え? 法子だけど?」

「何でもない。ただちょっと未来の話」

 法子が理解出来ずに居ると、穂風は照れた様に法子を手をひっぱり始め、法子はそれにつられて走りだした。

 町中を走っていて気が付いたのは、何か遠くの方から音が聞こえてくるという事。それは病院で沢山聞いた戦いの音を小さくした様な音で、法子は何だか空恐ろしくなった。また戦いに巻き込まれるのだろうかと。一緒に居る穂風を守れるのかと。何故ならもしもタマの危惧が現実となれば、穂風を守ろうとする行為は、あの時一緒に戦ってくれた正義の味方達を敵に回す事に繋がってしまう。

 不安に思いながら走っていると、突然穂風が声を掛けてきた。

「ねえ、法子」

「え? 何?」

「もし、もしだよ? 想像の話ね。もし私が──危ない!」

 その瞬間、法子は突然穂風に突き飛ばされた。突き飛ばされてよろけた法子は嫌な予感がして頭上を見上げる。巨大な包丁が穂風目掛けて空から落下してきていた。法子は恐怖に目を見開きながら穂風に飛びつき、そのまま押し倒して地面を転がる。穂風が一瞬前に立っていた場所に巨大な包丁が突き刺さった。

 突き立った包丁は独りでに抜け、まるで法子達を威嚇する様に宙に浮いて踊り始める。

「魔物?」

 立ち上がった法子は解析を行いつつ警戒しながら刀を構える。相手はそれ程強くない。どうやら包丁を操る魔物の様だ。自分自身が包丁なのに。

 包丁はふらふらと揺れながら、突然静止し、かと思うと襲いかかってきた。

 法子はそれを打ち払おうと待ち構える。

 勝つ事はきっと難しくない。問題は後ろに居る穂風に危害を加えさせない事。

 襲ってくる包丁が突然周囲に包丁を生み出し射出してきた。法子は驚かない。既に解析で分かっていた。法子は自分に向けて撃ち出された包丁を払い落とす。飛びかかってくる包丁は既に新たな包丁を生み出していて、法子がそれを切り落とそうと刀を振りかぶりながら一歩踏み出した時、突然包丁が上に浮かび上がって視界から消えた。

 何処へ?

 背後に穂風が居る事を思い出す。

 穂風を狙われた。

 相手の意図に気が付いた法子は全身を総毛立たせながら上を見上げると、包丁が穂風目掛けて包丁を撃ち出していた。病院で陽蜜達を守りきれなかった光景が浮かんだ。法子は全身の力を込めて急停止し、極限まで足に力を込めて反転して、音速を越える一歩を踏み込み、撃ち出された包丁を叩き落とす。

 だが敵の攻撃はそれだけで止まず、巨大な包丁自身が法子達目掛けて空中から突っ込んでくる。法子は刀の棟に左手を添え包丁の攻撃を待ち構える。包丁は速度を上げて突っ込んできて、切っ先が刀身に当たり、金属音が高鳴って、法子の刀に強い衝撃が走る。凄まじい力が両腕に掛かる。何とか打ち払おうと力を込めた時、穂風が叫んだ。

「法子! もう一人敵が来てる!」

 新手。

 だがどうしようも無かった。法子が何とか包丁を引き剥がすと、その大きく跳ね上がった法子の腕を潜って、木で出来た人形の魔物が闇を纏った腕で法子の腹を突き破った。法子は激痛に声を上げながら、刀を持った手をそのまま振り下ろして人形の魔物の頭頂に柄頭を叩き込み、更に右足で蹴り飛ばした。

 腹の傷が回復する中、法子は新手の魔物を睨む。こちらもそれ程強くは無さそうだ。ただとにかく素早いらしい。穂風を守りながら戦う相手としてはかなり嫌な特徴を持っている。

 法子は考える。どうしたら穂風を守れるか。守りながらでは普通に戦えない。ならばどうすれば良いのか。

 考えている間にも、魔物は襲い掛かってくる。

 まず木の人形が上に跳んだ。法子がそれを目で追う。人形は空中を蹴って横に跳ぶ。更に空中を蹴って、今度はこちらに突っ込んできた。一方で巨大な包丁が周囲に包丁を生み出して突っ込んできている。法子は向かってくる人形に刀を振るった。だが直前で人形は空中を蹴り、上へ逃げた。法子はそれを追わず、撃ち出された包丁を切り払う。更に向かってくる巨大な包丁を防ごうとして、嫌な予感が湧き上がり、予感のままに背後へ刀を振るった。その時人形は穂風を狙っていたが、刀が迫った事で、人形は穂風を諦めて、ぎりぎりで刀を避け、逃げ出す。その瞬間、法子の背に異物感が走る。背中から突き刺さった巨大な包丁が貫通して、腹から切っ先が飛び出している。刺された事が分かった法子は、刀を逆手に持ち替えて、背に刺さる包丁へ向けて突きを放った。だが既に包丁は抜けていて、刀は空振りに終わる。

 法子が振り返ると、また人形が空中へ跳び上がり、巨大な包丁が周囲に包丁を生み出し始めた。

 背後の穂風が不安そうに呟く。

「法子、もう」

「守るから!」

 法子は叫んで、また考える。守りながらでは普通に戦えない。でも守らなくちゃいけない。

 人形が襲い掛かってくる。

 包丁が向かってくる。

 だったら普通に戦わなければ良い。

「タマちゃん、信じるよ」

 法子は相手の攻撃を無視して思いっきり刀を振りかぶった。

 足と腕と腹と首に包丁が突き立つ。闇を纏った人形の腕が法子の肩を抉る。

 けれど法子は微動だにしない。狙うは巨大な包丁ただ一体。

 巨大な包丁が止めを刺そうと突っ込んでくる。

 法子は傷つきながらも、振りかぶった刀を目の前に迫った巨大な包丁目掛けて振るった。

 巨大な包丁と刀が打ち合い、火花が散る。法子の渾身を込めた一撃は巨大な包丁を半分に叩き折った。

 法子はすぐさま送還の魔術を詠唱し、折れた包丁は光に包まれて消えた。効果範囲には木の人形も入っていたのだが、木の人形がは消える事は無かった。木の人形は距離を取り、警戒した様子で立っている。やはりある程度弱らせないと帰せない。

 だが後一体。二体よりは遥かに簡単のはずだ。

 そう思った矢先に、法子は目の前が真っ暗になりそうな程の絶望を感じた。

 道の先、塀の向こう、屋根の上、あらゆる場所から魔物が姿を現した。どうやら戦いを聞きつけてきたらしい。数えるのも嫌になる位の魔物が今、法子達を取り囲んでいる。法子は解析を走らせ、どれもこれも自分と同じかそれ以下の実力だと判断する。だが数が数だ。勝てるかも分からないし、それより何より穂風を守れるか分からない。

 だけどそれでも、勝たなくちゃいけない。

 多分、ここで勝つのが英雄なんだ。どんな時でもみんなを守れる人が。だったら尚更、ここで勝たなくちゃいけない。摩子に追いつく為にも。

 法子の衣装が弱々しい力で引っ張られる。法子が振り返ると、穂風が不安そうに縋ってきていた。

「法子、もう止めて。私の事は良いから」

「大丈夫だよ。守るって言ったでしょ?」

 法子はそう言って、穂風の手に自分の手を重ねて、衣装を掴む手をゆっくりと剥がし、そうして木の人形に向いた。

「絶対に傷付けさせないから」

 震える声でそう言って、法子は刀を構える。魔物達が法子達へ向かって歩を進めようとする。

 その時、雷鳴の様な声が聞こえた。

「二人共、今助けるから!」

 次の瞬間、巨大な拳が人形の上に降った。人形は他の数体の魔物と共に為す術も無く押しつぶされる。拳は光を放って消え、拳が消えると押し潰された魔物達も消えていた。

「大丈夫?」

 魔物達の輪の中心に居る法子達の隣に、上空から摩子が降り立った。

「摩子、どうして?」

「戦ってる感じがしたから」

 そう言って、笑う。

 ピンチに駆けつけてきてくれた。

 法子にはその姿が物語で見るヒーローと重なった。

「他にも来てるよ」

 他にも?

 法子が横を向いた瞬間、目の前を魔物が物凄い勢いで通り過ぎた。攻撃かと思って身を固くしたが、続いて魔物の飛んできた方向から声が聞こえてきた。

「ほら、どけ!」

 ルーマの声だと思った時には、そのルーマが法子の隣に着地して笑い掛けてきた。後ろにはサンフとイーフェルも付き従っている。

「どうだ、法子。大分面白くなってきたな」

「ルーマ、何でここに?」

「お前が戦っている様だから様子を見に」

 ルーマは辺りを見回してつまらなそうに言った。

「しかし、この辺りには雑魚しか居ないな」

「他にも強いのが居るの?」

 ルーマが口の端を吊り上げてにやりと笑う。

「ああ、凄いぞ。今から胸が踊るな。そもそもここが何処か分かるか? 何と覇王の卵の中だぞ」

 法子が驚いて目を見開いた。

「覇王の卵ってあの爆発すると周りが危ないって言ってた?」

「ああ、そうだ。ようやく危機的な状況になって楽しくなってきたな」

 法子がルーマの事を呆れた様子で見ていると、ルーマはそれを気にした様子も無く、さてと言って辺りの魔物達を見回した。

「この辺りの雑魚に用は無い」

 ルーマが右手を頭よりも少しだけ高く掲げた。

「凍れ」

 掲げた指を鳴らした瞬間、辺りに集っていた魔物達が凍り付き、分厚い氷柱の中で固まり動かなくなった。

 法子がその圧倒的な力に驚いてルーマを見上げると、ルーマは凍った魔物達には毛ほどの興味も示さず、今にもはしゃぎだしそうな笑顔を法子に向けてきた。

「さあ、強者と戦いに行くぞ。この世界は魔界に近い所為か、俺も全力が出せるんだ」

 法子は頷きそうになったが、穂風の事を思い出す。

「あ、でも私は穂風を守らないと」

「穂風?」

 ルーマが法子の後ろに立つ穂風を見る。

「何処かで、会ったな」

 穂風が声を上げる。

「あの、ルーマさん、ですよね? この前はありがとうございました」

「え? 穂風、ルーマの事知ってるの?」

「うん、この前魔物に襲われているところを助けてもらったから」

「ああ、そう言えばそうだ。思い出した。だが礼は良いぞ。どうせ、俺を狙って魔界から来た奴だったろうからな」

 ルーマはさして興味も無さそうにぶっきらぼうに言い放つ。

「いえ、でも助けてもらったので」

 既にルーマは穂風の言葉を聞いていなかった。全く別の方角を向いて、笑みを深めている。法子が気になって声を掛けた。

「ルーマ?」

「法子、そいつを安全な場所に連れていったら早く来いよ。俺は先にあいつと戦っている」

「え? あいつって?」

「行くぞ、サンフ、イーフェル!」

 そう言ってルーマは跳び上がって屋根を越えていった。去り際にイーフェルが声を掛けてきた。

「法子さん」

「あ、え? はい、何ですか?」

「いえ、頑張って下さい」

「え?」

 サンフもイーフェルもルーマの後を追って消える。法子がそれを見送った後、今の言葉は何だったんだろうと考えだしたのも束の間、道の向こうから声が聞こえた。

「何だろ、これ」

「魔物だな。氷漬けの。誰かが魔術で封じたんじゃないか?」

「将刀、かき氷食べたい」

 法子が道の先を見ると、フロックコートを着た二丁拳銃のヒロシと黒い甲冑を纏った将刀とそれから将刀とキスをしていた女の子が居た。

「あ、将刀君! ヒロシ君!」

 法子と同じく三人に気が付いた摩子がそう言って将刀達に手を振る。

 将刀達が声に気が付いてこちらを見た。

 う。

 心の中で呻きながら、法子は思わず摩子の後ろに隠れた。

 流石に振られた今日で、将刀と顔を合わせられそうにない。物凄く酷い表情をしてしまいそうだ。それに傍には将刀の彼女まで居る。多分上手く接せない。

 法子が摩子の後ろに隠れていると、将刀達が寄ってきた。

「やあ、摩子さんと穂風さんと法子さん」

 法子の名前を呼ぶ時だけ声が上擦った。ますます出て行きづらい。

「あの氷は摩子さんが?」

「違うよ。ルーマっていう人が」

「ルーマって、ああ、あの病院に居た?」

「そうそう」

「ルーマ? ルーマ居た? 何処?」

 ファバランがそう言って辺りを見回す。

 摩子は笑顔でルーマの消えた方角を指差した。

「向こうに行ったよ」

「そう。でも今は将刀の傍に居る」

 そう言って、将刀に寄り添った。法子は胸が苦しくなる。

 法子が俯く中、将刀はファバランからさり気なく離れようと横にずれるが、ファバランはそれを許さず追っていく。

 その隣で手持ち無沙汰にしていたヒロシが穂風を見て声を上げた。

「あれ、君、何処かで」

 ヒロシが驚きの声を上げる。

 穂風もヒロシを見て驚きながら尋ねた。

「もしかして反頭広?」

「そう!」

「うわ、久しぶりじゃん。元気?」

「まあ、そこそこ」

 親しげにしている二人を見て、摩子の後ろに隠れる法子が聞いた。

「二人は知り合いなの?」

「うん、うちのおじいちゃんの家が広の家の近くで、夏休みとかよく一緒に遊んでた訳。おじいちゃんが死んじゃった後はもう会わなくなっちゃってたけど」

「凄い偶然だね」

 摩子が呑気に言っている。

「あ、そいつ、私知ってる」

 更に続けてファバランが穂風を指差した。

「あ、魔物から助けてくれた」

「そう、私、ルーマと一緒にこいつ助けた。将刀、私、偉い?」

 ファバランが将刀へ親しげに語りかける様子が辛くて法子はまた胸を抑えて摩子の後ろに隠れた。法子が隠れている一方、将刀はファバランの答えに何も言えず、ファバランと法子へ視線を行ったり来たりさせている。

 そうして更に別の声が将刀達の来た道から聞こえてくる。

「おい、何だこりゃ」

「魔物が凍ってる様ですね」

「もしかして引網か?」

「かもしれないわね。そういう魔術を使うのが人形の中に居れば」

「まあ、魔物を片付けてくれるならそれに越した事はねえけど」

「皆さん、向こうにどなたか居ますよ? ゾンビかもしれません」

「おい、銃を構えるな。問答無用で殺そうとするな」

 法子達が声のする方を見ると、徳間達だった。徳間達もこちらに気が付いた様で、嬉しそうに声を上げる。

「お、あれは違う。味方だ。病院で一緒に戦った」

「ほうでは手強いゾンビという事ですね?」

「だから、止めろ! 味方だ味方。ちゃんと目に生気があるだろ?」

「まあ、ゾンビじゃないのは初めから分かっていましたけど」

 徳間が振り下ろした拳を桃山はあっさりと避ける。

 それを呆れた様子で眺めながら真央が二人を窘めた。

「良いから行くわよ」

 四人が法子達の元まで歩いてくると、桃山が穂風を指差した。

「おや、その女の子、何処かで見覚えが」

 徳間も穂風に気が付いて驚いた様子をして言った。

「また会ったな。この子は、以前結構でかい連続誘拐事件があっただろ、その時に誘拐された子の一人だよ。真央は面識あるよな? 救出したはずだから」

「ええ、そうね。久しぶり、穂風ちゃん」

「はい、お久しぶりです」

「剛太は会ったか?」

「ええ、少しだけ。事情聴取に同行させていただいた時に」

「桃山さんは? あの事件関わってたのかい?」

「いいえ」

「じゃあ、何処で」

「あの、私、今日の朝、戦いに巻き込まれそうになったのを助けてもらって」

「ああ、そうでしたそうでした。そういえば助けましたね」

「へえ、あなたが無関係な人を助けるなんて珍しいじゃない」

「妙な事を言わないでください。私は任務に支障が出ない限りは人を助けますよ?」

 そう反論した後、桃山は顎に手を当てて考え込む様に目を閉じた。

「成程成程」

「桃山さん、どうした?」

「いえ、少し。成程ね」

 やがて目を開けると、優しげな笑みを浮かべて、穂風に銃を向けた。

「つまりあなたはこの世界が吐く嘘な訳ですね」

 慌てて徳間が桃山の銃を抑え、法子が穂風を庇う様に前に出た。

「何しやがる」

「今行った通りです。彼女を尋問すれば、答えに近付ける」

「何を馬鹿な事を」

 穂風を庇う法子は気が気で無かった。やっぱり穂風は嘘を吐いていたに違いない。穂風が何者で何の目的で嘘を吐いていたのかは分からないけれど、少なくとも知り合いでは無かったのに昔からの知り合いを装っていた。それは良い。そうだとしても今は親友だと思ってるから。でも穂風はきっと同じ様な嘘を他の人達にも吐いていて、そして今それがばれたのだ。そうして疑われてしまっている。この状況で疑われるという事は、敵と見做されてしまうかもしれない。

 どうしよう。

 答えは決まっているけれど、その勇気が出ない。

 ここで穂風を庇い、味方すれば、最悪ここに居る全員を敵に回す事になる。勿論そんな事になっては勝てるどころか逃げる事すら出来るとは思えない。

 何とか、勘違いだとかで見逃されないだろうかと法子が心の底から祈っていると、ヒロシが恐ろしげな声を上げた。

「そういえば、穂風はどうして俺が変身しているのに、俺の正体が分かったの?」

 ヒロシの決定的な問いに、穂風は答えない。

 穂風の沈黙が続く程、場の空気が重く沈んでいく。

 法子は穂風を助けるんだと心の中で繰り返しながら重たい沈黙の中震えている。

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