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舞台 始まりの前で

 窓という窓からに武器を持った人々が現れた。大半が病院のパジャマを着ていた。

 病院に入院していた千を超える患者達が武器を持って窓から広場を見下ろしている。

 広場中に居る魔術師達がその威容に圧倒されて動きを止めている。

 広場が静まると、患者達は窓を乗り越え、そして飛び降りた。広場の誰かが声を上げた時には、もう後から後から何人も飛び降りていた。

 そうして飛び降りた下で患者達同士は押し潰し合い、その上に何人も何人も被さって、大きく盛り上がる人の山となって、患者達の作る山が広場をぐるりと取り囲んだ。

「ええ?」

 それを見ていた法子が、その奇っ怪さを理解出来ずに混乱して声を上げた。

「何してるの、あの人達。大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ、神様。全員大した力は持っていません。素人に武器をもたせたところで物の数ではないのです」

「そうじゃなくて、あの人達死んじゃってない?」

「それは大丈夫やろ。動いてるし。一応最低限の防御魔術は掛けてあるみたいやな」

 その言葉通り、人の山は上から順番にぼろぼろと零れ落ち、段々と嵩を減らしている。瞬く間に山は消え、後には辛うじてといった様子で立ち上がる沢山の人の群れとなった。ただ武器だけは手放していない。そうして構えようとしている。

「どうしよう」

 法子が呟く。

 患者達は戦う様子を見せている。多分この広場に居る人達と戦おうとしているのだと思う。だけれども、全員一般人だ。良く分からないけれどどうやら敵に操られているらしい。なら戦えない。そんな人達を傷つけちゃいけない。

「どうしよう」

 法子の呟きに、エミリーが答えた。

「何の心配もありません、神様」

「え? どうするの?」

「全部刈り取ってしまえば良いのです」

「駄目ぇ!」

 法子が叫ぶと、エミリーが不思議そうな顔をする。分かっていないエミリーに対して、法子は言い重ねた。

「駄目だよ。普通の人達なのに」

「どうしてですか? 戦いに関係ない者達だからこそ武器を持っていてはいけないでしょう」

「え?」

「私の見立てでは彼等はあの武器に操られています。だからあの武器を全部刈り取ってしまえば、事は収まる。私の考えは間違っていますか?」

「あ、なんだ。そういう事か。うん。それなら、大丈夫。でも、あんなに沢山居るのにどうやって武器を奪うの?」

 安堵した法子が尋ねると、エミリーがにっこりと笑った。

「そうですね。上手くいくか分かりませんが、彼等は武器を頭より上に掲げています。十分武器だけを狙って攻撃出来る。そうすれば腕ごと持っていけるでしょう。だから彼等の頭上ぎりぎりを狙って全体に打撃を与えて、後は後ろに飛んだ武器を壊せば」

「駄目ぇ!」

 問答をしている法子とエミリーを眺めながら、元華が隣に立つジョーに向かって言った。

「ここは、精霊王さんの出番じゃないの?」

「知りませーん。俺精霊王じゃありませーん」

 その脛を元華が蹴る。ジョーが足を抑えてうずくまる。

「うわ、皮むけとる。酷くない?」

「嘘吐くから」

「くそぉ、そっちだって会社員ですぅみたいな感じでスーツ着てた癖に」

「別に私はOLだなんて言ってませーん」

「くそぉ」

 脛をさすりながら、ジョーは顔を上げ、そうして春信の侮蔑する様な眼差しを見付けた。

「ちょ、ちゃうねん、ちゃうねん」

 ジョーが慌てて立ち上がって春信へと近寄る。春信は後退りながら気味悪そうに言う。

「何が違う訳?」

「その、精霊王とかな、全然そんなんちゃうねん。あの女が勝手に言ってるだけで」

「その精霊王とか知らないけど」

 春信の言葉にジョーの足が止まる。

「今のジョーさん滅茶苦茶格好悪いよ」

 春信の言葉にジョーが崩れ落ちた。

「うわあ、クリティカルに複数弱点かぁ。六倍位かなぁ」

 元華が楽しそうに呟いている。

 遠くでは患者達が起き上がり、進軍を開始している。

 ジョーが起き上がる。

「せや、とにかく格好ええところみせればええんや」

 そうぶつぶつ呟きながら起き上がって、遥か遠くから進軍してくる患者達を見た。

 ジョーは空中に手を上げ、何処からともなく刀を取り出すと、脇に構えた。

「あ、せや。歪みさん」

「もしかして私の事?」

「そのブレスレット、そんな魔力強度やと壊れるから。堪忍な」

 元華がもう片方の手でブレスレットを抑えた瞬間、ジョーは猿の如き奇声を上げて、大きく一歩踏み出し、刀を振り抜いた。


 病院の敷地の端の、木々多く茂る中を、男が藪を掻き分けて歩いている。

「せんぱーい、とりあえず上手く言ったみたいですよー」

 声を上げながら男が歩んでいると、突然傍の藪が揺れた。

 男が声を止め、歩むのを止める。

「先輩? ですよね?」

「当たり前でしょう。有黍君、もしかして教団にのめり込み過ぎて馬鹿になりました?」

 藪の中から引網が姿を表した。

 有黍は弱々しく笑う。

「冗談きついなー。これでも先輩の為に頑張ってるんですよ?」

「そういえば、何だか辛そうですね」

 引網のとぼけた言葉に、有黍は汗を拭いながら答えた。

「きついに決まってるじゃないですか。不安を与えるとか、攻撃的にするとか、そういう適当なのなら町中でも全然平気ですけど、心の隙間を作るってマジきついですよ。しかも一人や二人ならともかく千人とか。しかもしかも屋上に居たら、徳間先輩が来て危うく見つかりそうになったし、逃げてたら狼みたいのが襲ってくるし」

「お疲れ様です。でもそのお蔭で教団の方は上手くいったみたいですよ。患者全員信徒化して、武器を持たせて、鉄砲玉ですか」

「つっても、それしてどうなるって話ですけどね。武器持たせただけで強くなるなら苦労しないっつー」

「まあ、こっちは死体が増えてくれれば十分ですよ」

「はいはい。ま、先輩が喜んでくれるならやった甲斐がありますよ」

 有黍が面倒そうに言った。けれどこの冬の入りに額からは汗を流し、時折辛そうに顔を歪めている。

 引網はそれを見て言った。

「それじゃあ、少し早いですが、ご褒美を」

「マジっすか。つってもここじゃ」

 途端に元気になった有黍に、引網は笑った。

 そうして有黍の横から女が藪を揺らしつつ現れた。

 有黍は物音に反応して嬉しそうに横を向き、そこにその生気の無い目をした女が立っているのを見て、表情を凍らせる。

「ちょっと、こいつって」

 女が掌で有黍の両目を覆った。有黍の頭が後ろに押される。

「先輩! 冗談ですよね!」

「何が?」

 引網の言葉と同時に、有黍の体から力が抜けた。膝から崩れ落ちて女にもたれかかる。女がそれを受け止める。すると有黍は再び立ち上がり、生気の抜けた目をして、直立不動の姿勢をとった。それに向かって引網が言う。

「おめでとう、君は記念すべき新体制の百体目です」

 引網はにっこり笑うと、人の背丈位の黒箱を生み出して、開いた。女はその中に入り消える。残った引網は腰を下ろして、深く息を吐いた。

「ようやく百体か。まだまだ。だけどこの後上手く行けば」

 そして笑う。

 その笑顔が凍り付く。

「有黍の虫が全部消し飛んだ?」

 呆然と呟いて立ち上がった引網の横で、有黍の体が崩れ落ちた。


 ジョーが振り終えた刀を消すと、同時に患者達の持っていた武器達がぼろぼろと崩れ始めた。それどころか敷地中にある魔力が無ければ存在を保てない物達が壊れていく。

 宣言通り、元華のブレスレットは割れて落ち、ついでに法子の衣装も袖口の辺りが少しほつれた。

「あ、危なかった」

 防壁を作って何とか法子を全裸の憂き目から守ったタマが安堵して呟いた。

「わあ、凄いよ、タマちゃん」

 そんな事にまるで気が付いていない法子は千の武器が壊れていく様子を眺めながら感嘆している。

 ジョーは得意気な顔で春信を見た。

「どうや?」

 春信は俯いて呟いた。

「何でだよ」

 ジョーが首をかしげる。

「何でだよ!」

 春信が突然ジョーに詰め寄った。

「え? すまん。何が?」

「何で、そんな力があるのに、いつも憧れてたのに、何で!」

「え、ありがとう。で、何が何でなん?」

 春信がジョーの腹を叩いた。ジョーは呻く。

 春信が涙を流し始める。

「ちょちょ、泣かんといて。熱くなったらあかんよ。冷静になってや」

「なってますよ」

「ならええんやけど」

「冷静になった上で、泣いてるんです」

「なんや、それ」

「僕はね、ジョーさんのその馬鹿みたいなところが嫌いだ」

「いや、そんな事言われたって。なあ」

「強いなら強いでしっかりしてれば良いのに。いつもいつも。僕の事を天才だなんだ言って、僕はあんたに一度も勝ててないのに」

「ちょ、待って待って。それ長くなりそう? 今言わんでもええんちゃう? 不満は後で聞くから。今はちょっと置いといて。な、こんな時なんやし」

「いっつもいっつも」

「そっかー。止めてくれんかー。なら、なるべく短く、短く頼むわ」

 不満をぶつける春信とぶつけられてたじろいでいるジョー、そしてそんな二人を心底楽しそうに眺めている元華、そんな三人を尻目に法子は患者達を見ていた。

 患者達の進軍は止まり、やがて患者達が一人また一人と不思議そうに辺りを見回し始めた。まるで夢から冷めた様に。そして急に病棟を仰ぎ見る。恐ろしそうな様子で、悲鳴まで上がる。

 法子はふと嫌な予感がして、耳を澄ませた。患者達の悲鳴の向こう、病棟から何か細かな音が鳴っていた。

「あの、ジョーさん」

 法子の問いに、救われた様な顔をしてジョーが近寄ってきた。

「何や何や? 何かあったんか? あー、それはまずいわー。そんな大変な事があったんなら、ちょっと他の事は棚上げにしないとまずいわー」

 ちらちらと春信に視線を送るジョーに、法子は尋ねた。

「あの、まさかと思うんですけど、今ので病院が壊れたりしませんよね」

「まずいわー。え? 何やて? ああ、無い無い。魔力で出来たもんを壊しただけやから」

「でも病院が魔力で出来てたら?」

「そら、壊れるな。けど魔力でこんなデカい建物作るなんて。そんなん保たへんよ。一年か二年で使いもんにならなくなる。この病院がいつできたか知らんけど、もしホンマに魔力で出来てたんならとっくに崩れてる」

 法子はこの病院がまだ建って一年も経っていない事を知っている。確かに当たり前に考えれば一年で壊れる病院なんて誰も作るはずが無いけれど、でも現に。

 法子は恐る恐る建物を解析し、そうして恐々と声を絞り出した。

「でも壊れてます。今、病院全部壊れ始めてますよ」

 法子は泣きそうに言って、ジョーを見た。ジョーは唖然として辺りを見回していた。

 それを見て、ジョーではどうしようもないと分かった法子は駆け出した。

 中庭を駆け抜ける。

 魔術師達の傍を通り、患者達の頭上を越えて。

 患者の中には倒れ込んでいる者や苦しそうにしている者が居た。当然だ。健康にして居られるならほとんどの人間は入院なんてしていない。法子はそういった人々を助けたくなったけれど、心を殺して飛び越えた。

 法子は病棟へと駆ける。窓へ飛び込み、廊下を駆け、扉を切り裂いて、友達の隠れている部屋に入る。その瞬間、イーフェルや剛太達が身構え、入ってきたのが法子だと知って構えを解いた。法子が部屋の中を見回すと何故か外に居たはずの摩子とそれから武志まで居た。皆の注意が摩子へと向いている。摩子は座り込んで何かを覗き込んでいる。どうやら四葉が倒れているらしかった。荒い息が聞こえてくる。やがて摩子が顔を上げた。

「駄目。治せない」

 皆が落胆する。

「四葉ちゃん、どうしたの?」

 摩子が尋ねると、実里が答えた。

「また病気が再発したみたいで」

 それは確かに一大事だ。けれどそれ以上に大変な事が起こっている。

「それは大変だけど。でもとにかく逃げないと! 今、この病院崩れそうなの!」

 法子が必死になって言うと、陽蜜がいつになく抑えた声音で言った。

「分かってる。摩子に聞いた。だから四葉を治してから逃げたかったんだけど。駄目だね。我慢してもらわなくちゃ」

 いつの間にか四葉の傍に剛太が寄っていた。

「僕が背負って行きましょう」

 剛太が担いでいる間に、陽蜜と純が扉の外を覗きこんで辺りを見回していた。

「外、今みんな逃げ始めてる」

「俺達もあれに紛れてけば見つからないよきっと」

 そう言って、窓から飛び出した。他の者達も後に続く。

 四葉を担ぎ終えた剛太は窓から出ていく陽蜜達の姿を見てぽつりと呟いた。

「結局あそこで阻まれたら」

 それはほとんどの者に届かなかったがサンフだけは耳聡く聞きつけた。

「どういう意味ですか?」

「え、いや、何でも」

「剛太さん、情報が行き渡らない組織は死んだも同然です。どんな情報であろうと共有してください」

 剛太はしばし迷ってから言った。

「この病院には結界が張られています」

「ええ、存じております。けれどそう大したものではありませんでしたよ」

「内側から破れましたか?」

「内側? それは、試みていませんが、普通結界は内側からなら簡単に破れるはず」

「普通なら。けれど今張られている結界はむしろ内側に向かって張られている。どう頑張っても破れませんでした」

 サンフは一瞬戸惑ったが、すぐに威勢を正して剛太を見つめた。

「ご安心を。私ならば破れます」

「ですが」

「今はとにかくこの崩れ落ちる寸前のボロ屋から抜け出す事です。違いますか?」

 剛太は頷いた。

「その通りです」

 剛太が窓の外に出た。

 窓の外で控えていた陽蜜達は四葉を受け取ろうと待ち構えていたが、剛太はそれをやんわりと断って、四葉を背負ったまま外に出た。

 その後にサンフが続く。最後にイーフェルが閉じていた目を開いて、険しい顔のまま、窓へ寄り飛び越えた。

 外に出た法子達は視界を阻んでいた生垣を抜け、そして立ち止まった。病院の敷地の境界、正門やフェンスや壁の前に人々が集って、押し合っていた。争っている様だった。法子はそれを見て、逃げる人達が狭い出口に詰め合って混乱しているのだろうと思った。けれどよくよく見ると、誰が最初に外に出るかの争いではなさそうだ。誰も外に出ようとしていない。というより誰も外に出る事が出来ない様子だった。

「やっぱり」

 剛太が呟く。

 それをサンフが睨む。

「破れます」

「けれどあれだけ人がひしめいている中にこの子を連れて行く訳には」

「なら私が先に言って、結界を破ってきましょう」

 そう言ってサンフが駆けていく。

 それを見送りながら、摩子が剛太に尋ねた。

「何かまずいの?」

「ええ。結界が張られていて外に出られないんです」

「そんなの思いっきり叩いて破っちゃえば良いんでしょ?」

「とても強固で誰にも破れそうにないんです」

 法子はそれを聞いて、自分の出番だと思った。

 解析して、その結果を元に概念を付与した刀で切れば良い。以前、人形遣いと戦った時にやった事だ。

 私なら破れるかもしれないという思いに勇んで、法子は遠くの病院と外との境界を睨んだ。解析が始まり、膨大な情報が叩きこまれ、そして倒れそうになった自分の体を支え、大きく息を吐く。

 一瞬で脳の容量を越せそうなほどの情報が飛び込んできた。その所為で解析を打ち切らざるを得なかった。額に浮いた冷や汗を拭いながら、恐ろしげに境界を見る。

 摩子が剛太に尋ねている。

「でも結界があっちゃ外に逃げられないんでしょ? 何とかしないと」

「ええ。結界が破れないなら結界を作った魔術師を叩けば良いんですけど、何処に居るのか」

 その時、摩子も剛太も法子もイーフェルも一斉に背後を振り向いた。病棟を隔てた向こう、さっきまで法子達の居た中庭から只ならぬ魔力を感じた。

 何だか不気味で、そうして強大な魔力。

 きっと結界を作った奴だ。今回の犯人だ。そいつ等を倒せば結界が消える。

 根拠は無いが、法子はそう思って、戦いに行こうとしたが、今自分の周りには友達が居る。放って戦いに行くのは、見捨てる様だった。

 躊躇して立ち止まった法子の手を摩子が引いた。

「行こう、法子」

「あ」

 走る摩子に引かれて法子も走る。


 残された剛太がイーフェルに尋ねた。

「あなたはどうするんですか?」

「皆さんを守りますよ。約束ですから」

 イーフェルはそう言って陽蜜達を見回した。そうして正門の方角を見つめる。多くの人間が集って必死に逃げようとして、詰まって身動きが取れなくなっている。その更に先、もっともっと先を眺めて、イーフェルは言った。

「もっと危険なものが迫っている様ですし」

「そうみたいですね」

 剛太は同意して、それから心ここにあらずといった様子で呟いた。

「僕がこの仕事をやっていて、一番嫌いな時間はこういった瞬間です」

 そしてはっとして陽蜜達を見て口を噤む。

 陽蜜達は不安そうに剛太を見た後、イーフェルの見る彼方を眺めた。


 摩子と法子は来た道を戻って生垣を越え、病室に入り、そして廊下を出ると、廊下に元華とエミリーとジョーと春信が居た。

 摩子と法子が不吉な予感を抱いた時には、元華とエミリーが駆け寄ってきた。

「神様、何処に居たんですか? 心配したんですよ!」

「馬鹿だな二人共! 崩れそうな建物で何してるんだ!」

 そうして突っ込んでくる。摩子は首を、法子は腹を守る。元華とエミリーが飛び込んでくる。

 そうして四人して廊下に転がった。


 誰も居なくなった中庭に教祖と七人の男女が現れた。

 教祖が作り物じみた笑顔を浮かべながら誰にとも無く呟く。

「まさか、ほとんどの魔術師が平和の為にやってきているとは思いませんでした」

 スーツ姿に無表情のジェーンが平坦な声音で言った。

「不特定多数の危機を前にして、人助けに動いてしまうのが普通なのかも知れません」

「成程。誰を集めようと結果はこうなったという事ですか」

「推測ですが」

「いえ、案外当たっているかもしれません。こういった商売をしていると、どうしても人間不信になりがちですが、人間が持つのは悪性であると考えるのはきっと間違いなのでしょう」

「誤算ですか?」

「ええ、嬉しい誤算です。高良さん、結界の設定を変えてください。魔力が一定以下の者は逃がしてしまって構いません」

「はい」

 白髪混じりの三十路前後の男が頷く。時を同じくして、病院の境界では、結界が甘くなった所為で急に通れる様になり先頭に居た者達が倒れて混乱が起こった。

「主田さん、皆さんを呼び戻してください」

「はい」

 七十間近のかくしゃくとした男が答えた。時を同じくして、逃げ惑っていた人々の中の一部が急に方向を変えて、波に逆らって教祖の元へ歩み始めた。

「それと力の分配は、あなた方七人に集中させます。この先の戦いをよろしくお願いします」

 教祖は変わらぬ笑顔のまま、自分を目指して強い力達が集まっているのを感じて、大きく手を上げた。

「それでは皆さん、決戦といきましょう」

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