表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
魔法少女は夜眠る
8/108

ライバルを打ち倒せ!

「魔物は? 居る?」

 ひときわ高く跳び上がり、夜の風に吹かれながら、法子は辺りを一望した。住宅地には仄かな温かみを持った光が灯っている。それがむかつく。太陽の様な輝きがあるでもなく、常世の様に暗い訳でも無い。もっと輝けるのに、人類の為という名目でその力を抑えている。その実に中途半端な様が気に食わない。

 遠く行く先には、爛々と照る輝きがある。ビルや繁華街の強烈な明かりが灯り、昼とまでは行かないが、文明を持つ身として精一杯に輝いている。その光に誘われる様に法子は跳んでいく。

「ああ、微弱だけれど感じる。行く先そのまま」

 法子は頷いて見知らぬ屋根の上に着地して、また跳んだ。

「嫌な気分になっているのは分かるけれどね、八つ当たりは感心しない」

「うるさい。魔物を倒せばみんなの為になるでしょ」

 法子は民家の屋根を跳び次ぎ跳び次ぎ、やがて駅を中心とした繁華街に辿り着いた。一際高く跳んでビルの屋上へと上り、縁に立って駅前の広場を見下ろす。

 人々はあちらへこちらへ勝手気ままに歩き回っている。遊び歩く姿、駅へと向かう姿、待ち合わせをしている姿、誰も彼もが我が物顔でのし歩いている。だが屋上に立つ法子には気が付いていない。自分が立っている事を誰も知らないのだと思うと、法子には目の前の光景がどうにも愚かな気がして、とても嬉しくなった。

「それで魔物は?」

「視界の右端、五階建ての建物の五階」

 言われるままに視線を右に滑らすと、五階建ての駐輪場があった。窓や隙間から見るに、一階から四階までは人の往来があるのに、五階にだけは人が居ない。

「何かあったのかな?」

 五階に人が居ないのと魔物の存在は関係があるのか。もしかしたら五階に居た人々を丸々消し去ったのかもしれない。だとしたら相当凶悪な魔物だ。

 法子は屋上の縁を蹴り、そのまま駐輪場へと飛び降りた。一度、駐輪場の屋上へと降り立ち、無駄に後方宙返りをしながら再び宙に躍り出て、壁に沿って頭から落下し、大きく開かれた五階の窓枠に手を掛けて、五階へと滑り込む。

 誰も居ない駐輪場、ずらりと並んだ自転車の合間に一匹の犬が見える。

 犬、では無い。魔物だ。

『犬もどき

 犬っぽいけど犬じゃない。どちらかと言えば、いるかに近い。

 マーキングした縄張りに、人は近づけなくなる。

 魔力:微弱

 耐水性:MAX

 息継ぎ:ちょっぴり苦手

 犬らしさ:秀』

 法子が見つめている前で、犬もどきは突然法子に吠えたてて、かと思うとお尻を向けて、その後唐突に振り返り、俄かにぐるるると喉を鳴らし、いきなり跳びあがって自転車の影に隠れた。法子にはその行為の意味がまるで分からなかったが、歓迎されていない様だと思った。何て生意気なんだろう。

 魔物の姿は犬に酷似している。可愛らしい姿だ。だが魔物である。存在すればいずれ危険な魔王を呼ぶ。居るだけで周囲に迷惑を掛ける。

 周囲に迷惑を掛けると思いたったところで、自分の姿が思い浮かんだ。自分もまた居るだけで、周りの雰囲気を悪くしているらしい。

 法子が頭を振って想像を打ち消した。私は違う。魔物を倒してみんなに尊敬される英雄になるんだ。

 そうして無理矢理に魔物の姿とクラスメイト達の姿を重ねた。今日の会話が頭に浮かぶ。邪魔者だというのは分かっている。それでも、それでも、あそこまで言わなくたって良いのに。

 苛々が募る。怒りが募る。敵意が募る。殺意が募る。

「さてと、憂さ晴らしに付き合ってもらいましょう」

 法子は刀を抜き放った。殺す。そんな凶暴な思いが湧いた。殺す。学校での会話を更に鮮明に思い出す。笑われ、馬鹿にされ、嫌われ。殺す。頭の中に浮かんだ嫌な映像を切り裂き、暴れだしたくなる気持ちを手に持った白刃に込めて、横一文字に構えた。辺りに気を配る。隠れた犬もどきはすぐに見つかった。いつの間にか背後に回っている。

 即座に振り返る。犬もどきは自分の尾を追って回っている。法子は刀を両手で振り上げて、明確な殺意を持って切り下した。犬もどきの腹に切れ目が入る。悲痛な声を出して、犬もどきは自転車の影へと逃げ込んだ。

 追う。追っている法子の胸に、後味の悪い後悔がわだかまり始めた。犬もどきが何をしたというのだろう。ただ人を遠ざけただけ。確かに迷惑をこうむった者も居るだろう。だがそれが追われ、切られ、殺される程の罪だろうか。ただそこに居るだけで本当に悪いのだろうか。本当に人付き合い苦手というだけで糾弾されなければならないのか。

 そんな疑問が法子の胸に湧いてしまった。再び魔物と自分が重なった。だがもう後戻りは出来ない。全てへの反感が強くしこりとなって容易には取り除きようがない程膨らんでしまった。これをどうにかしなくては生きる事すらままならない。

 そう、犬もどきを殺さなくちゃいけないんだ。心の中でそう叫ぶと、ふつふつと怒りが湧いた。犬もどきを殺そうとする自分は間違っている。可哀そうだ。そんな当たり前の感情に流され、後悔し、投げ出そうとする自分すら憎らしく、目の前が暗く赤く染まっていく。自分を含めた全てが気に食わなくなった。

 今日の学校での陰口、いつも一人で居る自分、暗澹として生きつづけている自分、そんな見たくも無い光景が頭に浮かぶ。これをどうにかするには切るしかない。切って殺すしか、私は生きられない。

 法子は犬もどきを見失う。辺りを見回したが見当たらない。だったら高いところから一望しようと、跳びあがって、体を上下反転させて、天井に着地して、隅の方で震えている犬もどきを見つけて、足に力を込める。刀を鞘に納め、殺気を漲らせる。そして天井を蹴りだし、犬もどきへと跳んだ。

 震えている犬もどきに迫る。法子は刀の柄に手を掛けて、刀身にありったけの魔力を込めて、目前の犬もどきへと抜き放った。

 しかし止められた。

 必殺の意志を込めた刀は、横合いから出された杖を弾き飛ばしただけで終わり、犬もどきには届かなかった。

 何が起こったのか。咄嗟に法子は判断できなかった。だが犬もどきを殺す。その凶暴な意志に支配された法子は、突発的な事象にまるで関心を払わずに、杖に当たって軌道の逸れた刀を、上段に構え直して犬もどきへと振り下ろそうとした。

 再びそれは失敗に終わる。

 突然横合いから衝撃を受けて、法子はふっとばされて転がった。法子の体には少女が一人抱きついている。

 攻撃を受けたと思った法子は、全身総毛だって、必死になって体に巻き付いた何かを引き剥がす。引き剥がして蹴り飛ばして距離を取って顔をあげると、引き剥がした何かと目が合った。良く見ればそれは先日助けてくれた魔法少女だった。丈の短いドレスの様な白い衣装を着たその魔法少女は、悲しげな顔をして法子の事を見つめていた。

「駄目だよ」

 魔法少女が、そう諭す様に呟いた。法子にはどういう意味だか分からない。だが言葉に込められた切実な響きに何かを感じ取って、法子は刀を鞘に納め魔法少女の話を聞く事にした。

「どういう事? 私はあの魔物をやっつけようとしたのに、どうして邪魔したの?」

 それは本心からの言葉だったが、一方で既に法子の中にはその疑問に対する漠然とした答えも持ち合わせていた。

「駄目! あの子は悪い子じゃないんだよ! それを殺そうとしちゃ駄目!」

 ああ、やっぱり。視線を逸らすと震える犬もどきが居た。

「でも、あれは魔物で」

「そんなの関係ないよ。あの子だって生きてるんだから。痛みも感じる普通の生き物なんだから」

 あの魔物が何をした。殺されるだけの謂れがあったのか。

 そう問う魔法少女に法子は心の中で必死に反論した。

 ある。魔物は悪だ。放っておけばさらに強力な魔王を呼んで、もっと放っておけばきっと世界が滅びてしまう。人を害する事しかしない。魔物は悪だ。だから、殺さなくっちゃいけないんだ。それで私は英雄になるんだ。

 法子は何度も何度も心の中でそう繰り返す。けれど口に出せない。それが法子の心を物語っている。

 けれど、だからと言って、おいそれと止められる程、法子のやるせない感情は軽くない。魔法少女の悲しげな目を睨み返した。

 法子が魔法少女へ抱いた感情を読んで、タマが慌てた様子を伝えてきた。

「法子、君は一体何をする気だ」

「決まってるでしょ」

 法子の親指が刀の鍔を押し上げる。魔法少女を敵と見定める。

『白焔の魔法少女

 純白の衣装を着た可憐な魔法少女。

 その正体は、ある、ある、な。

 生き物、心、は、理解、示す。

 魔力:程々

 美う:にほご

 目銅:?』

「何これ?」

「妨害されたね。仕方ない。情報を引き出すのは難しいから。けれどそれは、相手の実力が同等かそれ以上だって事を意味している。ここは退こう。これ以上衝突すると戦いになるよ」

「戦いは望むところだよ」

「目的を忘れたのかい? 君の目的は魔物を倒して人を救う事だろう?」

「その魔物を庇うなら、排除して目的を遂げるだけ」

「このままじゃ本当に殺す事に」

「だから何?」

 完全に頭に血が上った法子には、タマの言葉も届かない。ただ魔物を殺す、ただ邪魔者を排除する、そして英雄になる、そしてみんなに認められる、惨めな自分から脱却する、哀れな過去を帳消しにする、惨めで人から嫌われ周囲に迷惑を掛けるそいつを殺す、頑なに心を決めて他の事は考えられない。

 法子が唸る様に言った。

「魔物は悪だよ。痛みを感じようと、生きていようと、悪さをするなら排除するだけ」

 そうして刀を構える。

 魔法少女は驚いた様子で、一度振り返り、背後の震える犬もどきを見てから、再び法子を見て懇願する様に言った。

「それなら向こうの世界に帰してあげれば良いでしょ? 何も傷付ける事は」

 その必死な姿に向けて法子は思いっきり刀を抜き放った。だが刃が届く前に魔法少女はまるでバネに弾かれた様に後ろへと跳びあがり、犬もどきの前に着地した。

「どうしてもこの子を殺そうとするの?」

 魔法少女が幾分冷めた口調でそう尋ねてきた。それに対して法子が怒鳴る。

「当たり前でしょ! そいつは悪い奴なんだから!」

 言い終えると同時に、法子は地面を蹴った。目にもとまらぬ速さで、一気に距離を詰める。と、魔法少女は杖を掲げて応戦する気配を見せた。

 もしも立ち向かってくるなら相手よりも早く切る。そんな単純な作戦で法子は刀を振りかぶる。

 そして振り下ろそうとした時、突然目の前が爆発した。強烈な熱気に晒され、思わず立ち止まると、今度は煙が襲ってきて、法子は咳き込んだ。

 煙で辺りが見えない。何処からいつ攻撃されるか分からない。恐怖を感じながら、とにかく煙から脱出しようと、法子は焦って横に跳んだ。幸い煙の量は少なく、すぐに煙から抜け出せた。しかし、抜けた瞬間目に入ったのは、フロアの反対側で、魔法少女がその頭上に、光で出来た人の頭大の魔法円を四つ従えた光景だった。

「魔法陣……あれは」

「とても基本的な魔術だね。そういえば今日の授業でもやっていたな。ただ魔力を飛ばすだけのお手軽魔術。でも込められた魔力が強大だね。普通の人間が当たればただじゃすまない」

「どうしよう」

「もう一度言うよ。退きな。これ以上続けても何も良い事が無い。魔物はあの同業者に任せて、君はこの場から離れるんだ」

「嫌! それだけは絶対に嫌! それじゃあ、私の負けじゃん! 英雄が負けたら誰がみんなを救うんだよ」

 絶叫して再び駆ける。自分は駄目なのか。折角魔法少女になれたのに、魔法少女の世界でも自分は駄目なのか。そんな思いを振り払いたくて、法子は必死に駆けた。

 遥か先の魔法少女の頭上には今や四つの光球が現れて、ぎちぎちと辺りに嫌な音をまき散らしている。

「避けなきゃまずいよ」

 タマの言葉には答えずに、法子は刀に手を添えてじっと光球を見つめ続けた。

 光球が一つ飛んでくる。拍子抜けする程ゆっくりとした速度。法子はそれを横に跳んで回避した。そこに二つ目の光球が飛んでくる。今度は物凄い速さ。体勢の整わない法子へと狙いを済ませた一撃だった。

 迫って来る光球に驚いた法子は、無理矢理地面を蹴って何とか上へと逃げる。その際に避けきれず右の足に光球が当たった。激痛が走った。だが動揺は無かった。体を反転させて、傷ついた右足で天井を蹴り、更に距離を詰める。

 三つ目の光球が跳んでくる。避ければまた同じ事になる。そう判断して法子は刀を抜いて、光球を切った。魔力を込めた一撃で光球は霧散する。そこに四つ目が襲ってくる。無理な体勢から何とか刀を返して光球を切る。力はまるで入っていないが、魔力だけは込めた一撃で、触れた瞬間に光球は砕け散った。安堵して、着地し、更に床を蹴る。

 もう光球は無い。魔法少女はがら空きだ。今度こそ切る。そう考えて、法子は刀を横に振りかぶる。切る。ひたすらそう考えて。

 しかし法子が魔法少女の目前に迫った瞬間、目の前にいきなり壁が出現した。止まり切れずに壁にぶつかり、全身に衝撃が走る。壁は砕け、突き破った法子は壁の残骸と共に床に転がり、何とか立ち上がった時には既に魔法少女は遠くに退き、再びその頭上に四つの光球を作っていた。

 忌々しい思いで胸が一杯になる。法子は歯ぎしりしながら再び魔法少女へ向かった。ゆっくりと一つ目の光球が。法子はそれを刀で切った。そこに二つ目の速い光球が。法子は何とか刀の先をその光球へ触れさせた。光球は砕けた。触れさえすれば防げる事に気が付いた法子は刀を前に構えて、そのまま駆けた。そこに三つ目の光球がやって来る。触れて壊れる。四つ目がやって来る。触れて壊れる。

 今だとばかりに力強く踏み出した。法子が魔法少女に肉薄する。刀を振るう。魔法少女の首に向けて、本当に殺す気で刀を振る。

 その瞬間、魔法少女の背後から鉄杭が飛んできて、法子の両肩を貫いた。いつの間にか背後には壁が作られていて、磔にされる。

 法子が体を暴れさせて杭を抜こうとするが抜けない。それどころかどんどんと力が抜けていく。

「無駄だよ。もう逃げられない」

 目の前の魔法少女が冷たく言った。

 法子がそれに反発して暴れる。だが抜けない。

「あなたの負けだよ。もう諦めて」

「嫌だ! 負けたらヒーローじゃなくなっちゃう!」

「でももう動けないでしょ? その杭は魔力を吸い取るから、あなたの魔力をどんどん吸い取ってる」

「うるさい! 絶対負けられない!」

 法子が再び暴れた時、骨の折れる音がした。それにも関わらず法子は更に暴れる。

「何で? 何で諦めてくれないの?」

 魔法少女の問いに法子が叫ぶ。

「何で私ばっかり諦めなくちゃいけないんだよ!」

 その瞬間、法子は杭から抜けた。肉はえぐり、骨は砕け、腕は今にももげそうだったけれど、結果として杭から逃れた。

 激痛が走る。奥歯に気味の悪い痛みが走って、全身に悪寒が上った。

 それでも法子は歯を食いしばって、刀を握り締める。傷はすぐ治る。痛みにさえ耐えれば、何の問題もない。

 法子が目の前の魔法少女に向けて刀を振り上げる。突然両腕に激痛が走った。傷は治ったはずなのに。見れば幾本もの針が突き刺さっている。魔法少女の攻撃だ。けれど問題無い。腕は動かせる。

 法子が刀を振り下ろす。炎が立ち上って法子の体を焼いた。けれど問題ない。刀は振り下ろせる。

 刀が魔法少女の杖に弾かれる。弾いた魔法少女が体勢を崩して倒れこんだ。そこへ追い打ちを掛けようとして、法子は周囲から自分の体に向かって光が射している事に気が付いた。

 魔法少女が何かを呟く。

 すると周囲から射す光が実体を持った糸に変わり、法子の体を貫いた。

 法子の体から力が抜ける。刀だけは手放さなかったものの、糸に吊られる形で死んだ様に動かない。

 魔法少女が荒く息を吐きながら、立ち上がって、そうして死んだ様に動かない法子を見ると、慌てて駆け寄った。杖の先端に光を生み出し、法子へと近づけ──法子が突然目を見開いて魔法少女を睨みつけた。

 魔法少女が後退る。その表情に初めて恐れが宿った。

 法子が体を引き裂きながら光の糸の戒めを解いていく。

 魔法少女は大きく後ろに跳んで、震える声で呟いた。

「どうしてそんな」

 それは特に意味の無い独り言だったが、法子がそれに反応した。

「私は」

 そこから先は言葉にならず、法子は息も絶え絶えといった様子で刀を構え、そうして何とか跳躍した。ぼろぼろの体から想像できない程速く、渾身の力を込めた今までで一番速い速度で魔法少女へと跳んだ。

 魔法少女は恐怖の浮かんだ表情で一歩退いたが、自分の足元にいつの間にか犬もどきが寄り添ってきているのを見て、杖を構え直した。表情からは恐れが消え、毅然とした無表情で杖を振り、自分の周囲に4つの魔法円を生み出した。

 法子はそれを見て、何か分からない漠然とした不安を感じたが、もう止まらない。朦朧とした意識の中で魔法少女へ向かう。

 そして、足をもつれさせて転んだ。床に擦れて皮膚がそぎ取られるが、すぐに治っていく。体の傷は治る。体に異常は全く無い。それなのに、どうしてか体は思う様に動かない。

「限界だね」

 タマの声が伝わる。法子がそれを無視して弱々しく立ち上がると、魔法少女の頭上には既に四つの光球が用意されていた。

「初めての本格的な戦闘にしては良く動けていたよ。特にあの絶望的な状況から良くあそこまで動いたと思う」

 一つ目が飛んでくる。法子は倒れた状態で何とか刀を掲げて光球に触らせ打ち破る。

「でも疲労が極まった」

 二つ目が飛んでくる。法子は刀を触れさせて、だが光球に変化はなく、そのまま突っ込んできて、法子は衝撃を食らって後ろに飛んだ。

「残念ながら君の負けだ」

 法子が転がる。

 三つ目は飛んで来ない。代わりに魔法少女が近付いてきて、何とか顔を上げる腹這いの法子の鼻先に杖を突き付けた。魔法少女の目は驚く程冷たい。

 殺される。咄嗟にそう思って、法子は後ずさろうとした。だが動けない。手足を微かに動かしただけ、惨めな姿をさらしただけだ。

 魔法少女の杖に光が灯る。魔力が込められていく。

 それが放たれれば、死ぬ。殺される。

 そう思って、法子は目と鼻から液体を流して、手足を少しずつ動かし逃げようとする。だがそれすらも次第に出来なくなって、体は完全に床へ這いつくばり、顔も上げる事が出来ず、顔面をくしゃくしゃに歪めながら法子は助けてと心で願い続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ