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暗闇騒ぎ

『修験者

 彼は視界に映る十立方マイクロメートル以上の物質を任意に動かす事が出来る。

 彼は両足を失った我が子に再び陸上の世界に戻る事を夢見て教祖の手駒となっている。

 たいりょく:6

 まりょく :8

 こうげき :5

 まもり  :4

 すばやさ :2

 思い   :9』

 何でこんな事まで。

 嫌な情報を解析してしまって、法子は目を伏せた。相手は父親で子供に不幸があって、きっとここに居るのもその子供を助ける為に居るんだろうと想像がついた。だから自分達の前に立ちはだかっているのだろうと分かってしまった。同情してしまいそうになる自分が居た。相手にどんな背景があるかなんか知りたくなかった。

 法子は目を見開いて黒ずくめの敵を見据えた。

「許さない」

 憎悪をもって敵を睨む。そうしないと同情に呑まれそうだった。敵の傍には陽蜜が倒れている。動かない。こちらを向く顔は眠った様で、二度と起きない様な気がした。

 そんな事あってはならないと、法子は首を振る。

「殺す」

 そう呟く。

 相手がどんな背景を持っていても関係ない。友達を傷つける様な奴は許さない。許しちゃいけない。

「殺す」

 また呟いた。

 何度も何度も自分を言い聞かせる様に。

 法子は心の中でタマに語りかける。

「ねえ、タマちゃん。前に言ってた加速、今も出来る?」

 相手に同情しかけている心と殺すという言葉、二つの相反する思いとは別に、冷静に今の状況を見据える思考は、ひたすらどうすれば良いのか考えていた。

 結論として、陽蜜を救う為には敵が反応する前に陽蜜の元まで辿り着かなければならないという結論に至った。敵が陽蜜を人質にとったら、どうする事も出来なくなる。その前に陽蜜を取り戻さなければならない。

 その為には速さが必要だ。思いついたのが、サンフとの戦いの中でタマが使った加速の魔術だ。あの時は失敗してしまったけれど。

「ああ、可能だよ」

「じゃあ、お願い」

「任せて。もう準備はしてる。君が動こうとすれば君の速度はすぐにでも現実を越えられるよ」

 流石タマちゃんだなぁと法子は嬉しくなる。

 そして走る体勢を作る。

「良いかい、法子。相手がどんな人間であろうと敵と見定めたなら倒さなくちゃいけないよ」

「分かってる」

 法子は目を瞑り、開いた瞬間体を前のめりにして加速した。時の止まった様なゆっくりとした粘質の世界の中で法子は一直線に陽蜜の元へ辿り着く。

 陽蜜の傍に屈みこんで、その頬に手を当てる。体温はある。加速の魔術を切って、脈を確認する。正常だ。生きている。それだけで少しだけ安心した。

 陽蜜が口を開く。目は閉じたまま。

「法子」

 陽蜜の微かな声が漏れる。

「格好良いじゃん」

 ぐったりと体を横たえながら、口だけが小さく動く。

「後は任せた」

 陽蜜の言葉に、法子は頷く。けれど心がとっちらかっていた。色々な感情が湧きすぎて一つにとどまらない。敵を倒す事。友達を助ける事。友達を傷付けた敵を憎む事。敵に同情してはいけない事。友達に正体をばらしてしまった事。正体を陽蜜に受け入れてもらった事。考える事は沢山あって、どれから考えれば良いのか分からない。けれど、とにかくただ、皆を助けるという思いだけはさっきよりもずっと大きくなった気がした。

 法子が微笑んで立ち上がろうとした時、心の中にタマの怒鳴り声が響いた。

「馬鹿! 何をのんびりしてるんだ!」

 慌てて振り返る。敵の背が見える。その向こうには実里達が居る。敵が実里達の上の天井に手を翳した。

 そして天井が崩れ落ちる。

 天井の瓦礫が実里達へと降り注ぐ。

 法子は加速して、慌てて実里達の元へ跳んだ。時が止まった様な世界の中を。けれど何故だか降り注ぐ瓦礫がいつもと同じ速度で動いている。法子の加速した速度と同じだけの速度で、瓦礫は実里達へ降り注いでいる。

 瓦礫に潰されれば間違い無く実里達は死ぬだろう。だから、助ける為には瓦礫を打ち払わなければならない。けれど、どう頑張っても落ちるまでに間に合いそうになかった。加速した速度をもってしても。

 法子は駆けた。悲鳴を上げたくなるのを抑えながら、必死で駆けた。

 瓦礫が実里達に降り注ぐ様子をまざまざと見せつけられながら、法子は必死で助ける手段を模索した。このまま走っても間に合いそうにない。なら斬撃を飛ばして。けれどそれでは切れても瓦礫の内のほんの一つだけ。しかも切ったところで真っ二つになった瓦礫はやっぱり実里達の上に落ちる。ならば天井を崩した敵を殺す? 無駄だ。天井が崩れたのは魔術によるものだけれど、瓦礫が落ちるのは物理現象の結果。魔術師を殺しても意味が無い。

 思考している間にも瓦礫は落ちている。どうしたって間に合わない。どうあがいても助けられない。瓦礫は実里達の上に。

 法子は駆ける。病院の廊下を、敵の横を、その先へ、友達の元へ。法子は顔を歪めて、必死に走り、奇跡を祈って斬撃を飛ばした。落ちる瓦礫の一つが切れる。けれどそれだけ。事態は一切好転しない。

 法子は駆ける。駆ける。視界には瓦礫、その下の友達。友達は倒れて動かない。自分が助けなければ助からない。瓦礫に押し潰されて助からない。だから駆けた。必死で駆けた。

 そして法子が目前まで辿り着いた時、瓦礫は実里達の上に落ちた。実里達の居る場所が埋まる。あっさりと瓦礫の山が出来上がる。

 法子の足が止まる。

 法子の心も止まる。

 瓦礫からゆっくりと砂埃が立ち始める。それを眺めながら、法子の思考が動き出す。まずまっ先に、嘘だろうと思った。こんなにあっさりと友達が死ぬわけ無いと思った。こんなにあっさりと世界が崩れるなって信じられなかった。タマの時の様にまるで冗談の様に蘇ってくれないかと思った。

 けれどどんなに否定しようとしても、目の前には積み上がった瓦礫の山という現実が鎮座している。何をどう心の中で否定しようと、現実は現実としてそこにある。

 目を背けたいのに、首は動かない。信じたくないのに、泣きたくなる。

 振り返る。敵が居る。その向こうに陽蜜が。陽蜜が宙に浮き上がっていた。苦しそうに呻いていた。

 法子はまた駆けた。

 敵は法子に顔を向けている。青白い茫洋とした表情で法子の事を見つめている。表情は無いけれど、法子に悲劇を見せつけている様だった。敵の手は陽蜜に向けられている。その手が少しずつ握られていく。陽蜜の体が奇妙に捻れ始めていた。陽蜜の口から赤い色が覗いた。血だ。

 法子は駆ける。柄に手を掛け、刀を抜くと同時に斬撃を敵へ飛ばす。

 斬撃は敵の腹を切り裂き、けれど敵に付いた傷は一瞬で修復してほとんど影響を及ぼさない。ただほんの少し、手を握る速度が速くなる。

 法子は悲鳴を上げる。悲鳴を上げながら、もう何もかもが分からなくなった思考の中で、友達を奪おうとする元凶をどうにかして止めようと駆けた。

 そして敵は茫洋とした表情のまま、駆ける法子を眺めつつ、何ら感情のこもっていない動きで、その手を、強く握りしめた。甲高い音が鳴った。

 法子が小さく声を漏らす。

 ガラスの割れる音が消えた時、陽蜜の前に魔法少女が立ち塞がっていた。

 ショッピングモールで人々を救った魔法少女は、杖を前にかざして、宙から落ちた陽蜜の前で仁王立ちをしている。

 更にガラスの割れる音がして、新たに飛び込んできた何者かが黒ずくめの敵を蹴り飛ばした。着地した何者かは法子の前に立って腰を屈める。

「大丈夫ですか、法子さん?」

 イーフェルだった。

「何で、ここに?」

 法子が聞くと、

「法子さんが困っていたからです」

「法子ちゃんが困ってたから!」

 二人が答えた。

「ね? ルーマさん?」

 イーフェルが法子の背後に視線をやった。

 法子が振り返ると、ルーマとサンフが立っていた。自信のこもったルーマの笑顔が妙に心強かった。

 砂利を踏みしめる音がした。見れば黒ずくめの敵が立ち上がっている。まだ戦う気の様だ。けれど次の瞬間、イーフェルが敵の真上に現れ、その踵が敵の頭に振り下ろされた。敵は地面に叩きつけられて動かなくなる。

 敵を倒したイーフェルが法子に笑顔を向けた。

「間に合った様で良かったです」

 そう言われて、法子ははっとして陽蜜を見た。陽蜜の姿は傍に屈みこむ魔法少女に隠れて良く見えない。でも大変な事になっているのは想像がついた。

「でも、友達が」

 法子が無念そうにそう呟くと、魔法少女が振り返って笑った。

「大丈夫。大した事無いよ。今治してるところだから」

 良く見れば、魔法少女と陽蜜の間からぼんやりと光が漏れている。

 けれど法子は安心出来ない。

「でも、敵にやられて。血も吐いてたし」

「トマトジュースだから大丈夫!」

 そう快活に笑うと、魔法少女はまた陽蜜に顔を戻した。

 え?

 まさか。

 信じられずに、法子は陽蜜の姿を見ようと、魔法少女の横に回った。魔法少女は眉根を寄せた苦しげな顔で陽蜜の治癒にあたっていた。

 法子は多分自分が本当に酷い顔で落ち込んでいたのだろうと思った。ヒーロー失格だ。気を遣わせてしまうなんて。それに、みんなを守れなくて。

 法子は瓦礫の山を見る。その下には友達が埋まっている。きっと残骸になってしまった友達が。

 法子の悲しそうな表情を見て取ったルーマが、瓦礫の元へと歩み始めた。

「そろそろ出してやった方が良いだろう」

 それもそうだと法子は思った。

 何も出来ないけれど、暗い重石の下になんかじゃなくて、せめて月の光の差し届く明るい世界に横たえてあげたかった。

 それに、今の友達の姿を見る事は自分の義務だと思った。例えどんなに酷い姿になっていようと、いや酷い姿になっているだろうからこそ、自罰の為にもそれを見なければならない。

 法子がルーマの後ろに続く。

 ルーマが振り返らずに前を見ながらあっさりと言った。

「このままじゃ凍えるだろうからな。凍死なんて洒落にならん」

 そう確かにその通りで、これ以上冷たい瓦礫の下に埋もれさせておくのは、幾らその冷たさを感じなくなってしまったとはいえ、申し訳がない。

 法子はそんな事を思って、ルーマの言葉の違和に気が付いた。

 何かおかしな表現だったと思た時には、ルーマが無造作に瓦礫を足で払った。すると冗談の様に瓦礫が吹き飛んで、その下からガラスの様な質感の透明な物質が現れた。その物質はとても澄み通っていて、月の光にその内部を晒していた。内部には実里達が包み込まれていた。

「このまま戦いが終わるまで氷の中に入れておいた方が安全といえば安全かもしれないが」

 ルーマが指を打ち鳴らす。

 氷が崩れ消える。後には倒れた実里達が残る。

「まあ、法子がうるさそうだしな。寒くて可哀想だとか何とか言って」

 その内に、倒れていた実里達が起き上がり始めた。

「みんな!」

 法子が驚いて、駆け寄る。

 涙目になった法子が実里の傍に屈みこむと、半身を起こした実里がその頭を抱きとめて、嬉しそうに言った。

「何だか頭がついていってないけど」

 法子も同じ気持ちだった。

「法ちゃんは魔法少女だったんだ。凄いね」

 法子が顔を上げる。実里は笑っている。また笑顔を見る事が出来て、たまらなく嬉しかった。

 それに水を差す様に、後ろからルーマが声をかけた。

「さて、この辺りにはもう敵が居なさそうだな。次の場所へ向かうぞ」

 更にその後ろから、魔法少女と陽蜜がやって来た。

 魔法少女は慌てた様子で、法子の隣を通りすぎて、苦しげにしている四葉へと向かった。

 一方で陽蜜は足取りこそまだおぼつかないけれど、表情は元気に笑っていた。

「よ、変身ヒーローさん」

 手を上げて語りかけてくる陽蜜を見て、法子は一気に救われた。

「良かった。無事だったんだ」

 法子が心底安堵して、胸に手を当て大きく息を吐く。

「大丈夫だって。摩子の回復魔法凄いからね」

「摩子?」

「うん。ん? だから、ほら、摩子の」

 そう言って、陽蜜が四葉の治癒にあたる魔法少女を指差した。

 法子には意味が分からない。

「え? どういう事?」

「え? おい、法子!」

 四葉の傍で屈んでいた魔法少女が振り向く。

「何?」

「まだ教えてなかったの?」

「え? 気が付いてるんじゃない?」

「そんな感じじゃないけど」

「えー、そうだったの?」

 法子は何とか魔法少女と陽蜜の会話を整理して、何となく魔法少女の正体は摩子なんじゃないかなぁと見当をつけはじめた。

 え? ホントに?

 確かに、摩子も変身ヒーローをやっていそうな事は言っていたけれど、まさか今まで何度か会った魔法少女が摩子だとは思っていなかった。

 本当かなぁとまだ疑う心で魔法少女を見ていると、魔法少女は四葉と共に立ち上がり、四葉に何か尋ねてから大きく頷いて、いきなり振り向くと陽蜜へと詰め寄った。

「っていうか、駄目だよ、そういう事言っちゃ。今、マチェが居るんだから」

「ああ、お目付け役の?」

「そう! 正体をばらしたなんて知られたら怒られちゃうよ!」

「もう怒ってるわよ」

 何処から現れたのか、猫の様な生き物が摩子の肩に飛び乗った。

「げ、マチェ」

 摩子が心底恐ろしそうに肩の上の生き物を見る。

「げ、じゃないわよ。もう本当に呆れたわ。あれだけ正体を知られちゃいけないって言ってたのに、友達に知られてたなんて」

「でもでも、みんなは友達だし、秘密にしてくれるし」

「それでも駄目!」

 目の前のやり取りについていけずに、法子が呆然としていると、隣に寄ってきたルーマが法子の肩を叩いた。

「どうした、法子。早く戦いに行くぞ!」

 そこへ今度はサンフが入ってくる。

「ちょっと待ってください、ルーマ様! これ以上の深入りは感心しません。危険です」

 するとルーマは辺りを見回して「確かにな」と呟いた。

「そうでしょう! だから早く帰りましょう!」

 まくし立てるサンフに向かって、ルーマが言い放つ。

「よし、サンフ、お前はこの法子の知り合いを守れ。俺は戦いに行くから」

「は?」

「イーフェル! お前もサンフと一緒に籠城していろ」

「えー、そんな。折角缶詰の威力を試すまたとない機会なのに」

「そうは言っても、誰かが法子の知り合いを守らなくちゃならないだろ。サンフの言う通り危険だ」

 イーフェルが溜息を吐く。

「分かりましたよ」

「おお、流石我が片腕。勿論サンフも残ってくれるな?」

 サンフが不満気な顔をする。

 するとイーフェルが言った。

「おやおや? ルーマさんの信頼に足る部下なら普通は承知すると思うんですけどね」

「ぐ、ぐうう」

 サンフが唸る。

 イーフェルが勝ち誇った表情をしている。

 その様子を眺めていた法子の腰を誰かがつついた。叶已だった。

「法子さん、太刀を使って戦うんですね?」

「え? うん」

 叶已の目が見開かれ輝く。

「ちょっと、ちょっとで良いので触らせてください」

「え、別に良いけど」

 法子が刀を差し出す。叶已が恐る恐る受け取って、うっとりとした表情になる。法子にはちょっと付いていけそうにない表情だった。更に四葉の傍に寄り添っていた純も駆け寄ってくる。

「法子お姉さん! 俺も、俺も触らせて」

 そうして返事も聞かずに叶已から刀を受け取り、重そうによたついてから、「すげえ」と言って持ち上げた。

「でも、悔しいなぁ。法子お姉さんに先越されちゃった。何か、あのヒーローも摩子お姉さんみたいだし。俺も早くヒーローになりたいなぁ」

 法子の胸がぎゅっと締め付けられる。純の姿を見ていられない。目の前に怪我をさせた犯人が立っているのに、まるで気にした風もなくヒーローになれない事を如何にも残念そうな表情でそう語る純。まるで影を感じないその姿が、いじらしくて、恐ろしかった。

 法子には何と答えて良いのか分からない。ただ何となく何かを言おうと思って口を開く。けれど声を発する前に別の場所から声がした。

「あれ? それ私が作った刀じゃない?」

 マチェと呼ばれていた猫が摩子の肩の上で伸び上がる様に首を伸ばして純の持つ刀を眺めていた。

 すると、今度は刀からタマの声が響く。

「あなたは、もしや、魔女?」

 マチェが答える。

「そうそう、魔女魔女。ひさしぶりー」

「まさかまた会えるとは。しかし、随分格好が変わりましたね」

「うん、色々あってねー。あなたは変わりない様ね」

「はい、お陰様で!」

「私、何にもしてないけど。それであなたは何をしているの?」

「私は、私の作られた目的の通り、世界の平和の為に魔女を生み出しております」

「あら、じゃあ私と一緒ね。私もこの町で優秀な卵を見つけたからちょっと鍛えてるの。きっと将来は世界一の魔術師になるわよ」

「成程。確かに素養のありそうなお弟子様ですね。まあ、うちの法子も負けていませんけど」

「さあ、どうかしら。うちの摩子はちょっと特別っていうか」

「いえ、うちの法子は本当に、古今無類の素質があって」

「否定はしないわ。親の贔屓目ってあるしね。客観なんて幻想なんだしそれで良いと思う」

「いえいえ、客観であろうと如何なる主観を通そうと、うちの法子は全く世界一の素晴らしい魔女に」

「魔女の定義も色々だものね。魔術の使い手としてはうちの摩子が一番だけれど」

「いえいえいえ、うちの法子は」

 何だか喧嘩腰になり始めた二人の間に入れずおろおろしていると、ルーマが寄ってきた。

「よし、法子。お前が心配しているであろう友達は、イーフェルとサンフに警護を頼んだぞ。さあ、俺達はあの混沌とした戦場に乗り込もう」

「え? 混沌とした戦場? 外で何か起こってるの?」

「戦いさ」

 ルーマが法子の手を取る。

「さあ、行くぞ」

 その時、サンフが法子の横に立って、法子とルーマの手の繋ぎ目に手刀を軽く打ち下ろした。ルーマが訝しんで手を離し、振り返る。

「どうした、サンフ」

「いいえ、何も」

「そうか。よし、じゃあ、行くぞ、法子!」

 そう言って、またルーマが法子の手を取り、引っ張ろうとして、やっぱりサンフに叩かれて離した。

「どうした、サンフ」

「いいえ、何も」

「そんなに戦いに行きたいのか?」

「いいえ」

 全くサンフの気持ちを解そうとしないルーマを見て、法子は不安に思った。これ以上、放置しておくと自分の命が危険に陥りそうだった。

「あの、私、一人で行くから、手を引っ張らないで」

「お前がぐずぐずしているからだろう」

 ルーマがそう言うと、サンフが法子に笑顔を向けた。まるで法子が悪いとでも言いたい様子だった。

 法子はサンフに向けて慌てて首を横に振る。

「分かってます! すぐ行きますから!」

 歩き出そうとした法子の服の裾を誰かが掴んだ。こんな大変な時に誰だろうと思ってちょっと苛々しながら振り返ると、四葉だった。まだ具合は悪そうだが、少なくとも先程までの苦しんでいた姿に比べれば随分と元気になった。

「法子さん、あの、ありがとうございました。私なんかを助けてくれて。さっきも私の所為で殴られたのに」」

「助けるに決まってるよ。そんな、私なんかって言わないで」

「でもずっと病気してて、みんなに迷惑ばっかりかけてるのに、今回もっと迷惑かけて。何だか変な人達の目的は私みたいだし」

 悲しそうに語る四葉の姿が何となく自分と重なった。

 法子は思わず四葉の肩を掴む。

「そんな事無い。迷惑なんかかけてない。変な人達の事だって、四葉、ちゃんは悪くない」

「でもやっぱり迷惑で。どうせ病気だし、いつ死ぬか分からないし、そんな助けられる資格なんて無いのに」

 法子が更に肩を強く掴む。

「私は入院した時、四葉ちゃんに元気を貰った。落ち込んでた時に救われた。だからその時の恩返し。ううん、違う。私は四葉ちゃんを助けたかった。だから助けたの。この気持に文句は言わせない。私が迷惑を感じてたなんて勝手な想像しないで。私は四葉ちゃんに感謝しているし、助けたいと思った。だから助けた。例え誰であろうと助けた事に文句は言わせない。文句ある?」

 四葉は虚を突かれた様に法子の目を覗きこんで、瞳が揺れ涙が溜まって、そして口を開く。

 その口から言葉が漏れる前に、マチェと言い争っていたタマの喚きが法子に矛先を向けられた。

「じゃあ、良いです! 魔女がそこまで言うなら勝負しましょう! 法子! あの魔法少女に勝って、お前が一番だと証明してくれ!」

 タマの叫びの所為でタイミングを逃した四葉が恥ずかしそうに黙りこむ。

 もう口を開いてくれそうにない。

 法子がタマを叱ろうと刀を見る。

「ちょっと!」

「ほら、早く!」

 タマは尚も勝手な事を言っている。

 ふざけんなと怒鳴ろうと法子が息を吸う。

 吐き出そうとする前に、今までとは全く別の言葉が響いてきた。

「か~み~さ~ま~!」

 次の瞬間、数十キロの塊が法子の腹にぶつかってきた。

 法子は吸い込んでいた息を一気に吐き出し、飛び込んできたエミリーと一緒に壁へと激突して崩れ落ちた。

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