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閑話 裁判所の地獄で悟りを開いた狐

「あんたがグレイブヤードフォックスか。よろしく」

 徳間が手を差し出すと、その手が握られた。相手が徳間を見上げて柔らかく微笑む。

「Hi,Tokuma.Please to meet you.」

 徳間が固まる。

 相手が邪気の無い笑顔で徳間の反応を窺っている。

 やがて徳間の硬直が解けて、ゆっくりと口を開いた。

「あー、は、はろー。あー、ないすとぅみーちゅーとぅー」

 奥のベッドに座って二人のやり取りを眺めていた徳間の相棒の真央が息を吹き出した。

 徳間の隣に立っていたもう一人の相棒の剛太が呆れて溜息を吐く。

「流石に今のは冗談ですよね?」

 徳間が顔を赤くしてそっぽを向く。

 その時、徳間の袖が引っ張られた。徳間が下を向くと、相手が笑顔を向けてきていた。

「何も気にする事はございません。他国の言語に傾注する等、愛国心の無い愚か者に他なりません。世界と繋がるなどというあまりにも荒唐無稽な声が蔓延する時代の中で、時流に逆らうと蔑まれても尚、己の信念を貫き通す様はとても美しく思います。流石侍でございますね」

 徳間が呆気に取られる。

 相手がにっと快活に笑った。

「私の日本語は上手でしたか?」

 徳間が口を開いたまま、剛太を見る。

「何で私を見るんですか?」

 続いて真央を見る。

 真央はにやにやと笑っている。

 徳間は再び目の前の笑顔に視線を戻した。

「初めまして。私はエミリー・フォークナーと申します。これからよろしくお願いいたします」

 幼い少女のあどけない無い笑顔に、徳間は辛うじて答えた。

「ああ、徳間真治だ。よろしく」

「はい、存じております。先程は失礼いたしました。徳間さんは英語が出来ないと聞いていたので少しからかいたくなりまして」

 少女がとても無邪気に笑った。

 その瞬間、剛太が徳間の肩を抑えた。

「ちょっと真治。落ち着いてください」

「落ち着いているよ」

「ならその握り拳を解いてください。相手は子供ですよ?」

 そこへエミリーが噛み付いた。

「エミリーは子供じゃありません! 失礼な事をおっしゃいますね。確かに私は生まれてからの時間こそ短いかもしれませんが、狩場に立てば由緒正しきフォークナーです」

 幼いエミリーに説教されて、剛太が気まずそうに頭を掻いた。

「これは失礼いたしました」

 そこへ徳間が加勢する。

「そうだぞ、剛太。あのフォークナーなんだからな。失礼の無い様にしろ」

 それを聞いた瞬間、エミリーの顔が今まで以上に満面の笑みになった。

「あなたはフォークナーの伝統を知っているのですね?」

「勿論だとも」

「流石です! 流石我々です。こんな極東にまでフォークナーの名が轟いているなんて。これ程誇らしい事はありません」

 徳間は何度か頷いてから、エミリーの頭に軽々しく手を載せた。

 エミリーは嫌がって逃れようとするが、徳間の腕はびくともしない。

「しかし凄いなぁ、フォークナーは。こんな子供なのになぁ」

 徳間は意地悪そうに笑って、エミリーの髪の毛を掻き混ぜる。

 エミリーは必死に腕から逃れ、ぐちゃぐちゃになった髪のまま徳間を睨み上げる。

「エミリーは子供じゃありません!」

「そうだ!」

 徳間が賛同する。

「フォークナーは由緒正しい家柄なのですよ?」

「そうだ!」

「それを馬鹿にするなんて許されません!」

「そうだ!」

「適当に言ってるでしょう!」

「そうだ!」

「むう!」

 エミリーが口を引き結んで、徳間に殴りかかった。必死になったエミリーの小さな手が何度も徳間へと突き出される。それを徳間が笑いながら掌で受け止める。

 それを眺めていた真央が小さく呟く。

「どっちも子供じゃない」


 二人の喧嘩が下火になったところで、剛太が割って入った。

「ちょっと良いですか?」

 二人が剛太を不思議そうに見る。

「どうしたお前もエミリーは子供だと思うか?」

「あなたもまだ私の事を子供だって言うんですか?」

 剛太が顔をひきつらせる。

「いえ、それは置いといてください。実はエミリーさんの他にもお客さんが来ているんですよ」

「客? 誰だ?」

「魔検の方々です」

「私の他にも応援が来ましたか?」

「魔検が応援を寄こしたのか? 嘘だろ」

「いえ、言い方が悪かったですね。魔検に所属している方々ですが、魔検としてではなく、事件を聞いて自由意志でやって来た方々です」

「多いのか?」

「多いのですか?」

 徳間とエミリーが嫌そうに言った。剛太が嬉しそうに言う。

「はい、結構な人数が来てますよ。魔検もまだ腐りきってはいないという事ですね」

「邪魔だな」

「邪魔ですね」

「え? いや、折角集まっていただいたんですから、そんな」

「だってなぁ、エミリー」

「ねぇ。弱い人が集まっても足手まといが増えるだけです」

「いつの間にか仲良くなってる」

 真央が立ち上がる。

「とりあえずこっちに来てもらえば?」

「宴会場に集めてあるので、そちらに行きましょう」

「そ。じゃあ行きましょう」

 剛太が先導する形で部屋を出た。真央もそれに続くが、徳間とエミリーは部屋の中で面倒そうに突っ立っている。

「ほら、早く行きましょう」

 剛太が促すと、二人は、えーと言って顔を見合わせた。

「面倒だと思わないか、エミリー」

「その意見に全面的に賛同いたします」

「馬鹿な事を言ってないで、さっさと来てください」

 剛太がもう一度促すと、二人は肩をすくめて仕方なさそうに部屋を出た。

「まあ、お前の顔を立ててやるか」

「仕方ありません」

 剛太は複雑な顔をして徳間達を引き連れて宴会場へと歩き出した。


 会場の扉を開くと最も扉の近くに座っていた男が立ち上がって寄ってきた。

「徳間さん! お久しぶりです」

 徳間はその男をしばらく眺めてから、

「誰だっけ?」

と言った。剛太が徳間の頭を叩く。

「真治、あなたという人は」

「いえ、良いんです。俺は野丸逸雄です。徳間さんとは富山の連続誘拐事件の時に少し顔を合わせただけですから。その時は俺、警官だったんですけど、まあ、ほとんど何にもしてなかったんで、徳間さんが覚えてないのも無理ないです」

「いや、思い出したぞ。休暇中なのに俺に付いてきて、聞き込みしてる間に誘拐犯と間違われてしょっぴかれてた新人だろ?」

「あ、そう、そうです! 覚えていただいていて光栄です!」

 喜ぶ逸雄を眺めながら、真央が呟いた。

「そんな覚えられ方で良いの?」

 その呟きは届かなかった様で、逸雄は背後を振り返り、そうして興奮気味に言った。

「しかし凄い人数ですよね。こんなに集まってるとは思いませんでした。情報は警察の中でも規制されていてほとんど出ていないのに。事件の事を嗅ぎつけてこんなに沢山やって来るなんて。やっぱり魔検て凄いんですね」

 徳間はそれを聞いて不思議に思う。

 確か剛太は出来るだけ魔検の中でも情報統制を行なっていたはずだし、まして魔検のお偉方が責任問題に発展しそうな今回の事件を喧伝するとは思えない。

「そういうお前はどうして知ってるんだ?」

「俺、実家がこの近くなんですよ。で、たまたま友達の結婚式で帰省してたんですけど、そしたら昨日工場で人が殺されてるのを見つけちゃって。でも通報してもあいつら管轄がどうとかで動かないし。そしたら丁度徳間さん達がここで仲間を募ってるって聞いて」

 剛太が割り込む。

「ちょっと待って下さい。どうして私達がここに居る事を知っているんですか?」

 剛太の問い詰める様な声音に逸雄が怯えて引き下がった。

「え? それは、町の中で話しているのを聞いて。ほら、あの向こうの方に座ってる人達が話してたんです。それを立ち聞きして。もしかして来ちゃまずかったですか?」

「いえ、そういう訳じゃないのですが」

「はぁ」

 逸雄が不思議そうに剛太の顔を見る。剛太は思案げに辺りを見回している。

 会場には幾つもの円卓があり、その周りを人々が犇めく様に取り囲んでいる。およそ五十人。足手まといといえど、それだけ集まれば多少は使えるはずだと剛太は判断した。それが本当に味方であれば。

 疑いの目で辺りを見回す剛太の耳に、断定的な口調が凛と響いた。

「十人ですか。嘘吐き狐は少々多いですね」

 エミリーの言葉に逸雄が怯え出す。

「狐って何ですか? もしかして俺達の中に裏切り者が居るっていうんですか? 俺は違いますよ!」

「まだ仲間という訳ではありませんから、裏切り者ではありません。しかし、ずる賢く嘘を吐こうとする者達です」

「俺は違いますって」

「ええ、あなたは馬鹿そうですし、狐でない事は分かっています」

「あ、ホントですか? 良かったぁ」

 逸雄が心底安堵した様子を見せる。

 真央が苛々とした様子で尋ねた。

「で? それはどいつなの?」

 エミリーが指を指した。

「まずこの眼の前の馬鹿」

 指を指されて逸雄は慌て出す。

「え? ちょっとだから、俺は違うって」

「それから一番前の席の愛想の無い二人。あの隅っこの根暗そうな眼鏡。反対の隅っこの不細工な二人。目の間の馬鹿より更に馬鹿っぽい真ん中の三人。それから向こうの、あぶれて一人だけ立っているお人好しそうな間抜け」

 エミリーが次々と指さしていく。

「この十人以外は全員狐」

 逸雄が青ざめて恐ろしそうに辺りを見回した。

「ほう」

 徳間が楽しそうに辺りを睨みつけ、隅々まで聞こえる様に大きな声で朗々と言った。

「それじゃあ、ここに居るほとんどは殺しても構わない敵な訳だ」

 そのあまりにも唐突で、乱暴な言葉に、会場にいる人々がざわめきだした。そしてその内の一人が立ち上がって、代表面をして抗議の構えをとった。

「ちょっと待てよ。折角集まってやったってのに、いきなり何訳の分かんない事言ってんだ?」

 徳間はそれを受けて、隣に立つエミリーの頭に手を載せた。

「こいつがお前らを嘘吐きの狐だって言ったんだよ」

 エミリーが物凄く嫌そうな顔をして、頭に載せられた手をつねって逃げ出す。

「そうです! ここに居るほとんどが油断のならない狐です!」

 男が机を叩いて抗議する。

「ふざけんな! 何の証拠があって馬鹿げた事を言ってんだ!」

 周りからそうだそうだと男に対する賛同とエミリーと徳間達に対する罵声が響く。

 それに対してエミリーが胸を張った。

「証拠はあります」

「あ? どんなだよ」

「私です」

「は?」

「私が証拠です。私が狐と判断した以上、あなた達は狐です」

「いや、お前ふざけんなよ」

 男が再び机を叩いた。

 エミリーは動じずに立っている。

 徳間が笑う。

「確かにそれを言われちゃ言い返せねえな!」

「言い返すも何も、真実は如何なる事象の前にも常に一つです」

「ふざけんなって言ってんだろ! そんなんで悪者扱いされてたまるか!」

 そうだ横暴だと辺りから声が上がる。声は段々と大きくなって、人々は次々と立ち上がり、徳間達へと詰め寄りはじめた。

 その時、木を打ち鳴らす鋭い音が響き渡り、一瞬で場が静寂となる。

「面倒だからさっさと真偽をはっきりさせましょう」

 真央が打った木槌を構えて微笑んだ。

『それではこれより開廷致します。

 あなたがたには次の嫌疑がかけられています。

・第一、我々を助ける為にこの場に集まったにも関わらず前に進みでない。

・第二、我々を助ける為に集まったのではないにも関わらず前に進み出る。

・第三、第一項以外のごく個人的な理由でこの場に集まったにも関わらず後ろへさがらない。

・第四、ごく個人的な理由以外の目的でこの場に集まったにも関わらず後ろへさがる。

・第五、その場にとどまる。

 求刑は死刑です。以上。

 三秒後にあなたがたを起訴致します』

 真央の朗々とした詠唱を聞いて、逸雄が不安げに尋ねた。

「もしかして、前に出ないと死ぬって事ですか?」

 それに対して、真央が事も無げに答える。

「いいえ、私の命令に逆らったらよ」

 逸雄が慌てて前に出た。

 徳間達も前に出る。

 会場に居た者達は不安げに顔を見合わせてから、各々、前に進んだり、後ろに進んだりした。

 そして詠唱から三秒後、狐と目されていた四十人がその場に崩れ落ちた。

「おお、壮観壮観」

 徳間がそう言って倒れ伏す狐達の中の先程怒鳴っていた男へと近づいていった。

「さて、じゃあ、情報を引き出すとするか」


「本当に魔検から派遣されただけだったみたいね」

 真央がつまらなそうに言って机に座った。

 宴会場は一時前と比べて寂しい程に人が少なくなった。

 徳間達四人に、狐でなかった十人。後は誰も居ない。

「魔検っつうか親父が派遣しただけだけどな」

「監視とはね。一体何を警戒しているんでしょうね」

「どうでも良い。大した奴等じゃなかったしな」

「逃がすにしてももう少し痛めつけてからにした方が良かったんじゃない?」

「んな事をやってる場合かよ。それよりもこの町で起きている事件と明日太の捜索が優先だ」

「この町で起きてる事件ていっても手がかりが何もないんじゃ」

「手がかりならある。明日何かが起こるらしい。曖昧な情報だが」

「それを手がかりが無いっていうのよ」

「手がかりならあります」

 何処かに電話をかけていたエミリーが携帯を振りながら戻ってきた。

「日本時間の今日、日付が変わる頃にこの場所で何かが起きます!」

 そう言って、携帯を見せびらかした。携帯のディスプレイには地図が映っていて、その一箇所にポイントがされている。徳間達はその場所を確認しようとするがエミリーが携帯を嬉しそうに振り回すので上手く見られない。

 徳間がたまりかねてその携帯を奪い取った。そうして画面を見て呼吸が止まる。

「ここは、病院?」

「あ、ちょっと返してください!」

「不味いな。確かこの町の名物だったよな? あのでかい総合病院。相当な人数が居るはずだ。何か起こったら惨事になるぞ」

「ちょっと! 返して!」

「病院ね。面白くなってきたじゃない」

 真央が凶暴な笑みを浮かべた。

 エミリーが真央にひっついて、取り上げられた携帯を奪い返そうとする。

「ちょっとー、返してください! それだけじゃないんですよ!」

「それだけじゃない?」

「だから返して!」

 徳間が携帯を差し出すと、エミリーは奪い取るように引っ掴んで、画面を指さした。

「別の場所にもあるんです。ここに明日の夜の九時」

「体育館か。明日太が怪しんでたところだな」

「ここは三日後の夜六時」

「学校ね。確か中学校だったかな?」

「俺が引網を捕まえたところだな」

「それとここ、四日後の朝四時」

「ここは、何処だ?」

「分からないけど、確か住宅街で、何かあったかしら?」

「何が起こるんですか?」

「ちょっと良いっすか? この子誰ですか? 何か凄い事言ってる雰囲気ですけど?」

「凄腕の応援だよ」

「いずれもフォークナーの予言から導き出される狩場です。その狩場でだけ私は狩りに参加出来るのです」

「狩場、ですか。あまり良い事は起こらなそうですね」

「何が起こるかは分かりませんが、とにかく何か凶事の起こる可能性が高い場所です。予言された時刻が二十四時間以内なら絶対に何かあります」

「では病院では必ず悪い事が起きると」

「先に乗り込んでその悪い事を事前に潰しちゃえば良いんじゃない?」

「先輩方、俺も手伝いますよ」

「役立たずが来てもしょうがないです」

「うわ、辛辣」

「それに事前に潰すなんて出来ません。予言は絶対です!」

「まあ、何が起こるか分からないんだから止めようが無いな。最悪止めようとする事で混乱を起こすかもしれないんだしな」

「そうはいっても、じゃあ指を加えて待ってる訳?」

「事前に張って、こちらの有利な状況を作っておいた方が良いでしょう」

「そうそう。何か起こるっていうなら、待ってるなんて出来ないわ」

「何かか。なぁ、お前等。別に残る義務なんて無いんだし、帰っていいぞ」

 徳間が唐突に、狐でない残った男達に声をかけた。男達は徳間の視線に真っ向からぶつかり合った。

「今更逃げられないですよ」

「そうっすよ。これでもヒーローやってるんすから」

「逃げるとか男じゃねえよ」

 口々に言う男達に徳間が冷水を浴びせる。

「だけど死ぬぞ? お前等」

 男達の動きが止まる。

「そうです! 間違いなくフェリックスが現れます!」

「え? フェリックスって、何すか? ヤバイんすか?」

「フェリックスっていうのは有名な魔術師だな。一人で軍艦を相手取る様な奴だ。危険はそれだけじゃない。現に俺達の仲間は一人行方不明だ。敵も何人か殺した。命のやり取りだ。お前等覚悟は出来てんのか?」

 徳間の問に男達は黙っていたが、やがて一人が呟いた。

「だからって引けねえっす」

「そうですよ! 俺は絶対手伝います!」

 再び男達が熱く応え始めた。

 それを見て、エミリーがつまらなそうに言った。

「囮位には何とか」

 男達が物凄く落ち込んだ様子でエミリーを見た。

 廊下から、今のやり取りを完全に無視して病院に向かおうとしていた真央の声が聞けおる。

「ねえ、早く! そんなのどうでも良いじゃない。日付が変わる頃って言ってたけど、もしかしたら早まるかもしれないでしょ! 何が起こるか分からないんだから」

 そうして駆けるような足音が聞こえてきた。

「あ、真央さん、待ってください」

 剛太と男達が慌てて後に続く。その後に徳間が思案しながら外へと向かい、そして振り返った。

「どうした? お前は行かないのか?」

 エミリーが首を横にふる。

「まだ日付が変わるまでに時間がありますから。その前に神様に会ってきます」

「神様?」

 エミリーが狐の人形を取り出した。

「はい! これをクレーンでとってくれたのです」

「それで神様かよ。俺でもなれる」

 エミリーが不機嫌そうにそっぽを向いた。

「徳間じゃなれません。神様は神様だから神様なんです」

「良いけど。何しに行くんだ? また人形を取ってもらいに行くのか?」

「いいえ」

 エミリーが無邪気に笑う。

「私は神様とその周りに居た人が今回の鍵になると思っています」

「鍵? フェリックスを倒せる人間だって事か?」

「さあ、それは分かりませんけど」

「それも予言か?」

「いいえ。私は予言が出来ません。けれど勘は働きます。私の勘は絶対です」

「それを予言って言うんだよ。で、どんな奴だった?」

「私より少し年上位のお姉さん達です」

「鍵になるのか?」

「あの三人は変身の魔術が使える魔術師です」

 徳間の頭に、ショッピングモールでの災害を食い止めた二人の英雄が浮かぶ。内の片方とはビルが崩壊した時に出会った。中々優秀な魔術師だったが、果たしてフェリックスに対抗出来る程の鍵となるだろうか?

 そういえば、ともう一人魔法少女が居た事を思い出す。引網を捕まえた中学校で出会った魔法少女だ。ビルが崩壊する時に居たやたらに強い男と知り合いで、何やら謎の多そうな雰囲気であったが、鍵になるかと言えば間違いなくならない。恐らく殺し合いに巻き込まれれば即座に死んでしまうだろう。どちらかと言えば、保護対象だ。守らなければならない。徳間の心に人々を守らなければならないという義務感が湧く。これから何かが起こるとされている病院には、戦う意志も無ければ罪も無い、病気や怪我に苦しんでいる人々が沢山居る。そこで何かが起こればどうなるか。また殺されるかもしれない。本当にただ普通にありきたりに幸せを享受しようとしただけなのに。

 徳間の心に段々と苛立ちに似た暗い炎が宿っていった。

「それで? その三人を病院まで引っ張っていくのか?」

「いいえ。そんな乱暴な事はしませんよ」

 そう言って、エミリーが楽しそうに笑って廊下へ出た。

「ただ誘き寄せるだけです」

「待て!」

 今回の事件と関係の無い人間を巻き込もうとするエミリーの言葉を見逃せず、徳間が鋭い声を上げた。

 エミリーが振り返る。

「どうしました? ここで仲間割れをする気ですか?」

「いや」

 徳間がエミリーの横に並んだ。

「俺も行く」

「そうですか。では一緒に行きましょう」

 エミリーは嬉しそうに狐の人形にキスをした。

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