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恋のちから

 将刀の事が好きだと気付いたものの、具体的にどうすれば良いのかは分からない。

 今はまだ告白なんかしたってどうせ断られるだけだろうし、何とか将刀に好きになってもらえる様に頑張るべきだと思う。けれど具体的にどうすれば良いのか、法子には皆目見当がつかなかった。

 ただとにかく今のこの状況を利用して、将刀と仲良くなりたいなと思っていた。

 今、将刀は法子の隣、十センチも離れていない場所に座っている。場所は映画館。スラップスティックホラーコメディがこれから上映される。座席の順は陽蜜達によって強引に決められて、通路側から武志、摩子、叶已、実里、陽蜜、法子、将刀となっている。

 そう、心臓の音が聞こえそうな位近くに将刀が居る。こちらの心臓の音が響いてしまうんじゃないかと心配になる位近くに将刀が居る。こちらの気持ちが届いてしまうんじゃないかと不安と期待がごちゃごちゃになる位近くに将刀が居る。

 将刀が何か話しかけてきている。どうやらこれからやる映画についてらしい。これから始まる映画なんだし、法子もちょっとテレビで宣伝を見て面白そうだと思っていたので、それなりに将刀との会話に慣れてきて今、話題に乗れない事は決して無い。だけれど法子は今将刀との会話にほとんど集中出来ていなかった。

 如何にして将刀と仲良くなるか。その絶対の命題が他の全てを覆い隠して法子の心を占めていた。

 どうしたら仲良くなれるか。好きになってもらえるか。

 やっぱりその為にはまず自分の気持を伝える事だと思う。知ってもらえなければ始まらないと思う。法子が将刀の事を好きだという事を知ってもらう必要があるはずだ。

 だから言ってみようと思った。

 どうしても将刀の方は見られないので、スクリーンの方を向いて俯きがちになって、緊張で震える息を吐く。

 ねえ、将刀君、私ね、将刀君の事が、こんな事言うとおこがましいって思われるかもしれないけど、でも私、将刀君の事、好き、なんだよ?

 にぎゃあ!

 自分でそんな想像に恥ずかしくなって、法子は思いっきり頭を振って、勢い余って背もたれにぶつかった。

 駄目だ。恥ずかしい。

 心の中で思うだけでもこんなに恥ずかしいのに、実際に言ったらどうなるんだろう。多分恥ずかしさが膨れすぎて体が内側から破裂するに違いない。

「大丈夫?」

 将刀が声をかけてきたので、法子は慌てて妄想から立ち戻って隣に座る将刀に向かって思いっきり首を縦に振った。

「大丈夫」

「もしかして怖いのは苦手?」

「ううん、全然そんな事無い」

「なら良いんだけど。もし本当に駄目だったら言ってよ」

 優しいなぁと思う。思わず勘違いしたくなってしまう程に将刀は優しかった。でも履き違えてはいけない。あくまでそれは優しさであって好意ではない。

 けれど、例えば、今言ってくれた様に、怖さにかまかけて将刀に甘えてみたらどうだろう。例えば、怖くて、肘掛けに置かれた将刀の手に自分の手を重ねてみたり、あるいはもっと大胆に抱きついてみたり。

 ごんという音がして、法子の頭が再び椅子の背もたれにぶつかった。

「大丈夫? 気分が悪いのか?」

 将刀の気遣いに、大丈夫と答えて法子は自分の想像の恥ずかしさに身悶えた。

 辺りが暗くなる。スクリーンが灯る。映画が始まる。


 映画が終わって観客達が笑みのこもった満足顔で外へと向かう。その流れの中で、法子だけは涙を流しながら、皆に引き連れられていた。

「そんなに怖かったの?」

 法子は首を横に振る。

 別に怖くて泣いてる訳じゃない。

「笑うところはあったけど、泣くところなんてあったかなぁ」

 法子は首を縦に振る。

 確かにそうなのだ。沢山笑った。集中しすぎて、将刀と仲良くなる目的を忘れた位に楽しんだ。

 でも最後に、ヒロインが死ぬ間際のヒーローに自分の力を与えて何とか助けようとしたところが駄目だった。自分の微力では助けられないと知りつつも、それでも助けようと必死になってヒーローを救おうとしている姿を見たら、気がつくと涙が出ていた。すぐに男が起き上がってギャグが挟まれた、冗談めかした場面だったのに。

 いつもなら絶対に泣かなかったはずだ。でも今回は不思議なまでにヒロインに感情移入をしていて、ヒロインが泣きながら必死になっているところを見たら、伝染して涙が出てきた。

 映画が終わっても涙は出続けている。皆が気遣ってくれる。

 恥ずかしい。

 みんな泣いてなんかいないのに、そんな映画じゃなかったのに、泣いてしまっている自分が恥ずかしい。

 けれど涙は止めようと思っても止められない。涙の流れるままに、法子は皆に引き連れられる。同じビルの中のフードコートに着いてもまだ涙が止まらない。

 お昼を食べようとなって、皆が買いに行く。法子は泣きながら残って席を取る。将刀も一緒に席に座って皆の帰りを待つ。

「面白かったね」

 皆が居なくなると、将刀はそう言ってハンカチを法子に手渡した。

 法子はハンカチを受け取って、迷った。これで涙を拭いても良いものか。自分の涙で汚してしまっては申し訳ない。

 けれど泣いているみっともない自分を見せているのも嫌で、法子は迷った末にハンカチで涙を拭った。涙に湿ったハンカチを見て、やっぱり申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 どうしてだろうと思った。

 どうして将刀君はこうやって自分を助けてくれるんだろう。

 法子は沢山泣いた所為で、心のたがが外れていた。普段なら怖くて恥ずかしくてこのまま黙っていただろうけれど、今は違った。

「ねえ、将刀君」

 まだ泣きを含んだ湿っぽい声に、将刀が優しく「何?」と返してくれる。

「どうして将刀君は優しくしてくれるの?」

「え?」

「だって……だって、どうして?」

 法子が涙を拭って将刀を見ると、将刀は何だか考え込む様子で俯いていた。

「それは」

「どうして?」

 法子が問いただすと将刀は更に深く俯いて、やがて苦笑して顔を上げた。

「多分、法子さんの事が放っておけなかったから」

 法子はその言葉の意味を考えて、そうして一気に恥ずかしくなって俯いた。

 申し訳なかった。そんなに助けてという雰囲気を出していたなんて。迷惑をかけているという自覚はあったけれど、実際に言われると申し訳なくて仕方がなかった。

「ごめんなさい。私が駄目だから」

「あ、違う。そうじゃなくて」

 何が違うんだろうと、法子は顔を上げた。

 将刀は何か気まずそうな顔をしている。

「気を悪くしたら悪いけど」

「全然思わないよ。何? 駄目なところがあったら直すから」

 法子が自分でも驚く位に食い下がる。

 将刀はやっぱり気まずそうな顔をしている。

「法子さんてさ、何だか俺に似てるから」

 は?

 法子の思考が一瞬停止して、再び働き出した時には、必死で将刀との相似点を探し始めた。

 容姿:将刀君は格好良い。私は違う。

 性格:将刀君は明るくて優しい。私は違う。

 勉強:将刀君は頭が良いという噂。私はそれなり。

 運動:将刀君は運動が得意。私は体育が嫌い。

 趣味:将刀君がスポーツマンっぽい。私は休日引きこもり。

 総合:将刀君、凄い。私、駄目。

 全く似通ったところが無い。

 何だろう。何が似てるって言うんだろう。

 法子には訳が分からなかった。

 降参して将刀を見ると、将刀は申し訳なさそうにしている。

「本当に失礼で悪いんだけどさ、初めに法子さんと会った時、一人ぼっちでブランコに座っててさ、部屋からその様子が見えて、あ、あの子俺に似てるなって思ったんだ」

 法子は益々混乱した。一人でブランコに座っている将刀が想像出来なかった。でも思い出す。そういえば、前に聞いた覚えがある。将刀はクラスで孤高を貫いている、と。

「で、公園に出てみたら、ノートが落ちてて、その中身を見て、俺と同じ事してるんだって思って」

 法子は途端に顔が熱くなった。自分の人に言えない趣味の集大成があのノートの中にあった。自分が勝手に作ったキャラクターや国や武器や魔法、それにそのキャラクターやあろう事か自分を題材にした小説や漫画もちょっとだけだけれど書いてあった。

 そういえば、あれを見られていたんだと思いだして今更ながらに恥ずかしくなった。

 あれ? でも同じ事してるって?

 法子が将刀を見ると、将刀は恥ずかしそうにしながら、話を続けた。

「その後、転校した初日に、法子さんが輪から外れてるのを見て」

 ああ、と思う。将刀の言っている事は良く分からなかったけれど、何だか良い流れだったのに、たった今一気に変化した。自分の駄目だった時を突き付けられて悲しい気持ちになる。

「もっと親近感が湧いた」

 え?

 思わず口が開いて閉じられなくなった。

 親近感? 同情とかじゃなくて?

 分からない。将刀が何を言っているのか全然分からなかった。

 法子が疑念を持った視線を送ると、将刀が何だか懐かしむ様な表情をした。

「同じって言ったら失礼か。俺は本当に孤立してたから」

「どういう事? さっきから将刀君が何言ってるのか分からない」

「俺は嫌われ者だったんだ。昔から」

 やっぱり分からない。法子には将刀が嫌われる理由なんて思い浮かばなかった。

「元々人に馴染めない質だったんだ。ヒーローに憧れてて、ヒーローごっこをする時は自分がヒーローじゃないと気が済まなくて、それで段々孤立して、それでも一人でヒーローになりきって。今思えば馬鹿だったけど、真剣だった。

 それだけならただ孤独なだけだったけど、魔物が来る様になった」

 何だか話が嫌な方向に向いている気がした。そういえば、将刀君は今一人暮らしをしているらしい。中学生なのに。両親はどうしたんだろう。魔物が関わっているのだろうか。だとしら、もしかして将刀君の両親はもう。

「何だか俺の周りに魔物が現れる様になった。無害なのも居たけど、偶に周りを襲う事もあって、そんな事が続いてみんな理解し始めた。魔物が現れるのは俺の所為だって。俺が居るから襲われるんだって。実際そうだったんだけどね。俺の魔力が漏れだして、それで周囲に影響を与えてたから」

「でも、それは仕方がない事じゃ」

「仕方無くないよ。どんな言い訳をしたって、俺の所為で魔物が現れて、それが人を襲ったのは事実なんだから。普通魔物なんてそんなに現れるものじゃないだろ? ほとんどの人が一生会わない位の確率なのに、俺の周りだけは違うんだ。田んぼばっかりある様な田舎だったのに。半年に一体位の間隔だけど、それでもやっぱり異常だ。その異常の原因が俺なんだ」

 確かに、普通魔物の出現する頻度は少ない。普通の環境なら、町の作りだとか、人の流れだとか、天候だとか、星の運行だとか、色々な要因が絡まって、本当に偶然に大量の魔力が集まって、それで現れる。よっぽど特殊な環境でないと頻繁に現れる事なんて無い。それに一度現れたら魔力が消費されるから、同じ場所にまた現れるなんてそうそう無い。都会や工場団地等の魔力が集まりやすい町ならともかく、例えば法子の町の様に住んでいる人も多くなく、魔力の集まる施設も無いなら、半年間隔で現れれば十分に異常だ。それなのに、将刀一人が原因で半年に一度魔物が現れるなんて、一体どれだけの魔力を持っているんだろう。

「でさ、みんなに嫌われて、学校でもいじめられる、っていうか、追い出される様になった。先生とかからも帰れって言われる事があった。親戚からも疎まれる様になった。友達も居なくなって、どこでも一人ぼっちで、物凄く……寂しかった」

 将刀の力の無い呟きに、法子も何だか悲しくなった。

「でも両親だけは俺を嫌わないでくれた。許してくれた。それに甘えてた。そうしたら、また魔物が現れた。一ヶ月位前の事だけど、それで母親が大怪我して病院で今も入院してる」

 法子の息が詰まった。将刀は淡々と語ったけれど、内容は凄惨だ。法子はあまりの衝撃に、将刀の顔を見る事も出来なくなった。

「それで色々と嫌になってその魔物殺されようと思った時にヒーローが現れたんだ」

 何だか希望が出てきて、法子は顔をあげる。

「前に話してくれた?」

「そう。そのヒーローはあっという間に魔物をやっつけて、それだけでも凄いのに、俺に魔力の使い方を教えてくれて、それで魔力が制御できる様になった。もう魔力が漏れて魔物を呼び出すなんて事も無くなった。だから居づらくなった町を出て、この町に引っ越してきた。これからまともな新しい暮らしが始まるんだ」

「じゃあ」

「と思ってた」

「え?」

「でも違ったんだよ。俺が転校してきてからこの町に何体魔物が現れた? しかも強力な奴等ばかり。多分俺が制御しきれてないから、その所為で」

 将刀が項垂れる。

 法子はそれを否定しようとして、けれど否定出来なかった。

 確かに魔物が現れ始めた時期は将刀が転校した時期に合っている。将刀の言い分を否定する事は出来ない。

 けれど、違うと法子は思った。何の根拠も無いけれど、将刀が魔物の原因な訳が無い。

「だから」

「違うよ」

「え?」

「違う。きっと将刀君の所為じゃない」

 将刀が力無く笑う。

「ありがとう。でも」

「違う。だって」

 考えろ。何か違うっていう証拠を。

 法子は頭を悩ませて、そうして思い至る。

「そうだよ。だって、それなら、アトランに魔王が現れたのは? あのショッピングモールに将刀君居たの?」

 そうだ。将刀君の周囲に魔物が現れるなら、魔王が現れた時には将刀がショッピングモールに居なくちゃいけない。

 法子がそれに思い至った自分に感心しつつ、将刀を見ると、将刀はほとんど泣きそうな位に悲しげな顔をしていた。

「あの時、あそこに居たの?」

 将刀が頷く。

 もう法子は何も言えなかった。

 将刀が泣きそうな顔のまま掠れた声を出した。

「ごめん。本当に。法子さんが怪我をして入院したのだって」

「違う。違うよ」

「そう考えると、おこがましいね。俺が法子さんの事を放っておけなかったのは、自分を見るみたいで気になってたからで、俺がヒーローに救われた時みたいに、法子さんも救いたかったんだけど。でも、結局そんな事出来なかった。そもそも必要なかったね。法子さんには俺なんかよりよっぽど良い友達が居るんだし。俺がやったのは結局嫌な事を言って法子さんを傷つけて、魔物を生み出して法子さんを傷つけて。それだけだ」

「絶対に違う! 私、将刀君に救われたもん。将刀君のおかげで元気になれたんだもん」

「ありがとう。ごめんね、こんな話して暗くしちゃって」

 将刀が沈んだ調子のまま、強引に打ち切る様にそう言った。

 法子は必死に食い下がろうと身を乗り出す。そうして何も考えずに、ただ頭に浮かんだ言葉をそのまま吐き出した。

「待って! 将刀君は思い上がってるよ!」

「そう、かもね」

「だって、あんな魔物が全部一人で連れてこれる訳ないじゃん!」

「え?」

 将刀が虚を突かれた表情になる。

「あんな魔王だとか、学校のピエロだとか、みんな将刀君が連れてきたの? 絶対にありえない。今まで現れた魔物全部呼び寄せたなんて、絶対に一人の魔力じゃ出来ない! 将刀君は自分が周りと違うから偉くなった気になってるだけ!」

 法子は言い切ってから、自分が声を張り上げて相手を批判した事に驚いた。しかも好きな相手に。けれどすぐにどうしてか思い至った。多分嬉しかったのだ。将刀と自分が同じだと言われて嬉しかったから、自分と将刀を重ねたのだ。そして無意識の内に気付いてしまったのだ。

 魔力の所為で魔物を呼び出したのだと言う。それなら法子は将刀以外にも強力な魔力を使っていた者を知っている。誰かと問えば、それは他ならぬ自分自身。魔法少女となって魔物を退治していた自分は大量の魔力を辺りにまき散らしていた。だからもしも誰かがあの魔物達を呼び出したというのなら、将刀じゃなくて自分自身という可能性が非常に高い。その事に思い至ってしまったのだ。

 だからそれを否定しようと声を張り上げたに違いない。将刀になすりつける形で。自分にそのまま返ってくる言葉を将刀に吐きつけたのだ。

 自分が悪いのに。まるで将刀を庇う様な言いぶりで、自分の罪を洗い流そうとしているんだ。

 自分の性格の悪さが今まで以上に醜く思えた。死んでしまった方が良いんじゃないかと法子は思った。

「確かに、そうだね」

 思った通り、将刀の肯定で気持ちが軽くなる。

「確かに、あんなの一人で生み出せる訳が無い。いや、何人集まったって。本当だ。思い上がってた。そうだ。おかしい。明らかに」

 法子が顔を上げる。

 将刀が同意してくれたおかげで気持ちが軽い。法子は更に自分が嫌になった。同意してくれれば自分の所為じゃない事になる。同意して欲しいから、思い上がっているだとか、将刀に嫌な事を言ってしまったんだ。自分が悪いのに、あくまでも将刀が悪いんじゃないという体裁をとって。

 私は醜い。

 駄目だ駄目だ。

 どんどん嫌な自分が露呈していく。

 その時、思考が中断された。

 テーブルの上に載せて握りしめていた拳の上に将刀の手が覆いかぶさっていた。

「ありがとう。法子さん」

 法子の頭の中が真っ白になる。

「まだ完全に吹っ切れた訳じゃないけど、そう言ってもらえて楽になった」

 法子は慌てて手を引く。自分の顔が真っ赤になっているのが簡単に想像出来た。

「あ、ごめん」

 将刀も自分の行為に気がついて、手を引っ込めて顔を赤らめた。

「ごめん。でも嬉しかった。励ましてもらって元気が出た。法子さんの事を救いたいなんて言っておいて、自分が法子さんに救われて、情けないけど、でも嬉しかった」

 法子は首を振る。将刀は誤解している。

「違う。私は、全部自分の為で。将刀君が元気になってくれたのは嬉しいけど。さっきのは全部自分の言い訳で」

「良く分からないけど、法子さんの言葉で元気になったのは事実だから。だからありがとう」

 どうしよう。

 どうしよう。心が抑えられない。言葉が込み上げてくる。

 今さっきの自己嫌悪に染まっていた心が簡単に塗り替えられて、幸せを望む言葉が溢れでてくる。その事に嫌悪する心すら覆い隠す様な沢山の言葉が。

「私も……将刀君にずっと助けてもらって、本当に色々と元気にしてくれて、だから嬉しくて、お礼を言いたくて、ずっと救われてて」

 自分でも何を言っているのか分からない。頭の中が散らかっていてまとまらない。ただ将刀に自分の思いを伝えたいとだけは思っていた。

「ずっとずっと将刀君がいっつも傍に居てくれたから、だから私助けてもらって嬉しくて、なんて言っているのか自分でも分からないけど、とにかく将刀君が」

 一瞬、法子のぐちゃぐちゃにこんがらがった頭の中に、今まで物語の中で見てきた、愛し合う二人が結ばれる幸せな場面達がよぎった。

 自分も物語の主人公になれる気がした。

 今だ。好きだって言うなら今だ。

 法子が顔をあげると、将刀は緊張した面持ちで法子の言葉を聞いていた。その瞳に吸い込まれそうになる。世界に二人だけしか居なくなってしまった様なそんな気がした。

「だから、私将刀君の事が」

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