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勢力、それぞれ、来訪者、脅威

 公園に一人の男が立っていた。スーツを着たサラリーマン風の、何処にでもいる様な普通の男。倦み疲れた様な顔で星を見上げている。男が空から視線を外し辺りを見回すと、周囲には忍び装束を着た人影が集っていた。全く同じ忍び装束を着た無個性な集団が大きく円を描いて男を囲んでいる。

「その焦げ跡は?」

 男が集団の一人に目を向け言った。その一人だけが焦げ目の付いた忍び装束を着ている。同じ姿恰好の無個性な集団の中でその一人だけが浮いていた。

 焦げた忍び装束の奥から女の麗らかな声が響いた。

「ビル内の清掃に失敗いたしました」

「そうですか。弱っていたとはいえ、徳間が居ましたからね。一番の障害になりそうです」

「いえ、噂と違ってまるで弱い。下ならともかく、上の私達なら、例え徳間が万全であっても殺せます。今回は近寄る前にビルが爆発して手を出せなかっただけの事。むしろ別の男の方が余程」

「誰です?」

「分かりません。恐らくあれば人間ではない」

 男が目を細めて焦げた忍びを見つめる。沈黙が降りる。

 しばらくして男が口を開いた。

「情報の集まりは相変わらず芳しくありませんか?」

 無個性な集団の中から一人が前に出た。手には盆を持ち、その上に人の首が載っている。

「一つ進展がありました」

「おや」

 首の載った盆が男の前に差し出される。

「この男は鐘の言葉というセミナーの参加者です。素性等に怪しい点は」

「結構です。私は部下であるあなた達を信用しています。あなたが重要だと思った事だけを語らせてください」

 盆を持った忍びが身を震わせる。そうして握り拳を作り、盆の上に載った頭部の頂点を軽く叩いた。

 首の目が開く。首はまず目の前に立つ平凡なスーツ姿の男を見て、驚いた様子で更に辺りを見回し、混乱した表情で何度か下に瞳を向け、そうして顔を恐怖で歪ませた。

 恐怖に歪んだ顔は口を開き、何か声を出そうとする。だが出ない。

 盆を持った忍びが首の耳元で囁いた。

「許可する」

 囁き声が首に届いた瞬間、首は操られた様に喋り出す。

「明日。金曜日。病院で。巫女。巫女の復活があります。復活される。悲願の成就します。私達の願望も叶うのです。金が。借金が無くなる。家族が戻ってくるんだ」

 首は言葉を発する毎に、浮かぶ恐慌を深めていく。目を震わし、瞳を彷徨わせ、歯車の狂った絡繰りの様に。

「大分鮮度が落ちてしまっていますね。狂い始めている」

「活きが良い時でも始終錯乱しておりまして」

 首は、家族、願い、殺してくれ、悲願、病院、金曜日、殺してくれ、と叫んでいる。

「とにかく大切な事は、金曜日に病院で、これだけですね」

 首は、もう嫌だ殺してくれ殺してくれと叫び続けている。

「この頭はどういたしましょう?」

 首は殺してくれお願いだと絶叫している。

「役に立つかもしれません。保存しておきましょう」

 男の言葉と同時に、忍びは握り拳で盆の上に載った頭部の天辺を叩いた。途端に男の叫びは止まり、男は目を閉じて、眠った様に安らかな表情になった。その髪に小さな火が立った。

 火は段々と大きくなる。

 盆を持った忍びが慌てた様子でその火を消そうと手で払う。だが消える事無く火は大きくなる。

 火は炎に変わり、炎は火の粉を撒き散らし、火の粉は公園中に広まり、それが再び頭部に集まって、炎は大きく膨れ上がった。盆を持っていた忍びは炎に焼かれて崩れ落ちた。崩れ落ちた忍びを飲み込んで炎は更に膨らんでいく。

 膨れ上がった炎に影が映った。

 影は次第に形を整え、大小二つの影になった。

 炎が消える。

 獣面人身、ライオンを直立させ法衣を着せた様な姿の二人が現れる。

 大きい獣が吠えた。

「俺様が来てやったのに、迎えはこれだけか!」

 獣が目の前の男に腕を振るった。男が懐から取り出した脇差で迫る腕を防ぐ。男は無事だったが、腕から生まれた炎の余波が男の背後に居た忍び達を燃やした。

 二人の獣を囲む忍び達は咄嗟に臨戦態勢を整える。だが全ては無駄だった。

「俺様が来たんだ! これ位の灯りは用意しておけ!」

 泡が弾けた様に、一瞬で公園中が炎に変わった。忍び達も含めて全てが燃える。

 しばらくして嘘の様に炎は消え、後には二人の獣だけが残った。

 大きな獣は不思議そうに辺りを見回して、

「お? 出迎え達は何処へ消えた?」

「たった今父さんが燃やしちゃったよ」

 小さい獣が呟くと、大きな獣が笑う。

「何だ。軟弱な奴等だ!」

 その二人の前にとんがり帽子をかぶった木の人形が現れた。かつて摩子からイースターエッグを奪った魔物だ。

 大きな獣は木の人形を見ると顔をしかめた。

「出迎えの第二陣か?」

 木の人形が悲しそうな顔をする。

 すると大きな獣が笑う。

「確かにそうだ! 連絡を怠った俺が悪かった!」

 そう言って笑う。

 人形が真面目な顔になる。

 大きな獣が顎をさする。

「あのルーマが覇王の卵の復活を目論むとはなぁ。俄かには信じられんな。だが依頼され、承諾した以上、詮索はせまい」

 人形が真面目な顔つきのまま獣を見つめる。

 大きな獣は何度か頷いた。

「さて、それまでは自由にやらせてもらおう」

 人形が笑みを浮かべる。

 大きな獣は小さな獣に顔を向ける。

「まずは肉だ。肉を食らわねば始まらん。そうだろう、息子よ」

「父さんのお好きな様に」

 大きな獣が人形を見る。

 人形は彼方を指差して笑った。

 大きな獣は首を振る。

「他人に案内等されては興醒めだ。俺様は俺様の探し出した場所で事を運ぶ。生まれた時からずっとそうしてきた。ずっとだ」

 人形は項垂れると申し訳なさそうな顔をした。

 大きな獣は胸を張って人形の横を通り過ぎ、

「申し出には感謝する。出迎えご苦労」

振り返って小さな獣に笑みを見せた。

「何はともあれ肉だ。肉が無ければ始まらん。そしてこの世界は肉で埋め尽くされている。つまりは始まりで満ち溢れているのだ。そうだろう、息子よ」

「僕はただ友達に会いに来ただけさ」


 獣が現れた時、とある居酒屋の一室で時が凍った。

「何だ、今の凄まじい魔力」

 全員が一様に同じ方向を見つめている。

「どっかで戦い?」

「ふざけんなよ、人間に出せる魔力じゃねえだろ。軍隊が戦艦でも持ち出してきたのか?」

 恐れた表情が並んでいる。そんな中で数少ない澄ました表情の遠郷が、目の前で笑みを浮かべているエドガーに尋ねた。

「凄まじい魔力でしたね。私なんかじゃ相手にならない。エドガーさんは勝てるんですか?笑っていますけど」

 エドガーは笑顔のまま答えた。

「私に勝負は関係ない。私は相手が剣士ならば嬉しい。そうである事を楽しみに待っています」

「そうですか。私は恐ろしくて仕方が無いですが」

「あなたは恐怖をしている様に見えません」

「さっき計り知れない化け物と戦いましたから、少しは耐性が。それに怖がってると恥ずかしいじゃないですか」

 遠郷が離れた場所に座るフェリックスを見た。フェリックスは無関心な様子で顔だけを皆と同じ方向に向けている。

「フェリックスさんは本当に怖くもなんともないんでしょうね」

「彼は戦う時の事を想像しているはずです」

「そうなんですか」

 遠郷とエドガーはしばらくフェリックスを見つめていたがやがて視線を外した。その時フェリックスの口の端に小さな笑みが浮かんだ。


「今の魔力は一体」

 女の呟きに、鐘の言葉の教祖が応じる。

「素晴らしい魔力でしたね」

「計画を練り直しますか?」

「必要ありません」

「ですが」

「何を迷うのです。今の魔力が周りを荒野に変えてくれるのなら好都合でしょう?」

 女はしばし考えてから頷いた。

「確かにそうですね」

 教祖がゆっくりと紅茶を啜った。

「私達は滅びを望んでいるのですから」


 巨大な魔力を感じ取って、帰り道を歩いていた摩子は顔を上げた。恐怖は感じなかったが、理由の分からない小さな懊悩が胸の内に湧いた。

「今のはラベステね」

 肩に乗ったマチェが言った。

「ラベステ?」

「魔物よ。魔界のとある国の王族。外見は分かりやすく言えば、二足歩行のライオンってところね。魔界でも有数の強さを誇ってる。敵いっこないから、会ったら逃げなさい、って言っても、あなたが逃げる訳無いのよね」

「勿論。もしもみんなが襲われそうなら助けなくちゃ」

「助ける助けない以前の実力差なんだけれど。多分傍に寄っただけで燃やされて終わりよ?」

「それでも何とかするの!」

 聞く耳を持たない摩子に、マチェは溜息を吐いた。

「はあ、どうしましょう。万が一出会ったら即座に空間跳躍で。とにかく近寄らない事を優先して」

「さ、マチェ、そのラベステさん? に早速会いに行くよ」

「は?」


 将刀がその魔力を感じ取ったのは、丁度ケーキを食べ終えたばかりの時だった。将刀が驚いて魔力の感じた方向を見ると、傍でファバランが言った。

「将刀、今のはおじさん」

「おじさん?」

「大丈夫。おじさんは良い人。いつも飴くれる」

「知り合いなのか?」

「おじさんは良い人。だから大丈夫。心配要らない」

 自分に優しい者は万人に優しい者だと信じている。だがその言葉を将刀は信じる事が出来なかった。もしもあの魔力が町に向けられれば、危険なんて言葉では絶対に済まない。

「将刀、飴食べたい」

 かと言ってどうする事も出来ない。戦いに言っても即座に返り討ちを食らうだけだろう。結局ファバランの言葉を信じて平穏を望むしかないのか。何か、それでも何か出来るのではないか。危険があるかどうかだけでも見極められるんじゃないか。将刀はそう思って、変身しようとして、ファバランに止められた。

「将刀。大丈夫。おじさんは飴くれる良い人。危険なんてない。敵じゃない。だから飴食べる」

 将刀は振り返り、迷う。敵う訳が無い。行ってどうにかなるとは思えない。それでもどうにかしたかった。じっとしてなんかいられない。

 将刀は飴を取って来て、ファバランに渡した。

「悪い。どうしても気になるんだ」

 飴を渡されたファバランは将刀を見上げる。不思議そうな顔をしている。おじさんは良い人だと信じている。

 魔力の源へ向かえば、戦いになるかもしれない。おじさんが良い人だと信じて疑わないファバランを、そのおじさんと戦わせる訳にはいかない。

「ファバランはここで待ってて」

「どうして? 将刀と一緒に居たい」

「必ず戻って来るから、だから待ってて」

 ファバランは飴に目を落とし、将刀を見上げて、頷いた。

「分かった。待ってる。飴食べてる」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」

 将刀が背を向ける。その背をファバランが掴んだ。将刀が振り向くと、ファバランは考え込む様にして黙っている。

「将刀」

 やがて悩んでいたファバランは口を開いた。

「遅くなる時は電話するの」

 将刀は笑って頷いてから、夜の更けた外へと飛びだした。恐怖とも危機感とも違う、何か高揚した気持ちが胸の内にあった。


 広は近くの民家から盗ってきた夕飯を食べていた手を止め、恐ろしそうに体を震わせた。

「な、何だよ、今の」

「広君」

「リーベ、何、今の。どうすれば」

「とにかくじっとして、魔力の動向を感じとる」

 暗い森の中で広は目を閉じる。ついさっき感じ取った魔力を探り当てる。魔力は移動している。

「どうやらこっちには来てないみたいだね」

 リーベが安心した声を投げてきた。広が頷く。

「とにかく下手に動かなければこちらが標的になる事は無いだろう。とにかく隠れているんだ」

「分かった」

「さ、とりあえず冷めない内にご飯を食べてしまおう」

「うん」

 森の中に再び夕飯を咀嚼する音が響き始めた。


 その時、ルーマはゲームに興じていた。魔力を感じ取った瞬間、ルーマの手が止まった。

「ラベステか」

「いただき」

 その一瞬を見逃さず、弟がルーマを下す。

「あ」

 ルーマが声を上げた瞬間、画面からルーマの敗北が伝えられた。

「俺の勝ちー」

 勝ち誇る弟をルーマが睨む。

「まだ勝敗は五分五分だ。次は負けんぞ」

「じゃあ、そろそろ本気を出そうかな」

 弟の冗談にルーマが目を見開く。

「何? まだ本気ではなかったのか?」

 弟が笑い、その笑いはすぐに引っ込んだ。隣の部屋と接する壁を見つめる。

「姉ちゃん、まだ出てこないなぁ」

「そうだな。すぐに立ち直ると思っていたんだが」

「はぁ、どうしよう。一人で居ると、際限なく落ち込んじゃうからなぁ」

「他人が居れば立ち直れるのか?」

「まあ、相談とか出来るし、一人で居るよりはずっと良いと思うけど」

「なら大丈夫だろう」

「え?」

 弟が驚いてルーマを見る。

「少なくとも、出会ってから、法子が孤独で居るところなんて見た事が無い」


 膨大な魔力を感じ取った法子は、僅かに顔を上げたが、すぐさま布団に包まって、自分の中へと落ち込んでいった。

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