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魔界の仲間

 法子が獣に乗った男性を見送って、一気に気が抜けてぼんやりとしていると、突然背後から拍手の音が聞こえた。

 振り返ると、赤髪の女性が立っていた。目鼻立ちが明らかに日本人でない。西洋の人だと思うが、何処の国の人なのかは分からない。

 異国の女性は拍手を収めると、流暢な日本語でにこやかに語りかけてきた。

「素敵な戦いぶりだったわね」

 唐突に褒められて、意味が分からないながらも、法子は気恥ずかしい思いを抱いた。

「惚れ惚れしたわ。可愛らしい戦い方」

 可愛らしい戦い方というのも良く分からない。褒められているのだろうか。

 女性は悠然と法子の前に立って、腰を屈め、視線を合わせてきた。

「お名前は?」

「えと、十八娘法子です」

 下手に名乗ったのは不味かったかなと思ったが、目の前の女性の優しげな微笑みを見ていると、何だか安心感が湧いてくる。

「法子、あなたはこの辺りに住んでいるの?」

「え? あ、はい」

 女性は楽しそうに、ふふと笑った。

「楽しい事なんて日本食位だと思っていたけど、興味の種って尽きないものね」

 女性がタマを指さした。

「その剣は何処で手に入れたの?」

 法子が手に持ったタマに目を落とす。

「あの、公園に、落ちてました」

「へえ」

 女性は一際嬉しそうに笑うと、法子に背を向けた。

「それじゃあ、また会う時まで」

 手を振って去っていく。

 赤髪の女性の唐突な出現に、唐突な退場。法子の頭が付いていかずに、呆然としていると、突然背後から声が掛けられた。

「誰だ、今のは」

 法子が驚いて振り返ると、ルーマが立っていた。息一つ乱れていない。戦っていたのではなかったのか。

「法子の知り合いか?」

「知らない人、だけど」

「ふん。怪しい奴だ」

 ルーマがそう言って女性が消えた方向を見つめた。

「そんな事より、ルーマ! 戦ってたんじゃなかったの?」

「戦いじゃない。話し合いだ」

「え? でも」

 戦いぶりを見ていろと言われた気がするのだが。

「話し合いで解決できるならその方が良いだろう?」

 自信満々に正論を言われると言い返せない。

 ルーマが誇らしげに胸を張った後、法子の全身を眺め回してきた。

 何だか恥ずかしくて、法子が顔を赤らめていると、ルーマが不思議そうに尋ねた。

「随分魔力が減っているな。何をしていた?」

 言われて、自分が先程戦っていた事を思い出す。

「あ、そうだった」

 一応仲間であるルーマには、報告しようと思っていたのだ。

 法子が先程の戦いを、その時に感じた恐怖を思い出しつつ語ると、ルーマがいきなり詰め寄ってきた。

「そんな面白そうな事があったのか!」

「え? 面白そうって」

「くそ! 残っていれば」

 ルーマは本当に悔しそうに歯を食いしばった。

「しかも後から闖入者が現れただと? ああ、俺だったらその双方を相手取って戦ったというのに、お前という奴は」

 そう言われても、仕方が無い。そんなに戦いたくなんかない。戦うならもっと気楽に戦いたいのだ。本当の命のやり取りなんてしたくない。

「ルーマには分からないよ」

「ああ、羨ましいなぁ」

 ルーマがまだ羨ましがっている。法子は不機嫌になってそっぽを向く。目の前に、ルーマの側近のサンフが居た。

「え?」

 法子の頭が真っ白になる。サンフがにこやかに立っていた。だが何故か法子は底冷えする様な寒さを感じて体を震わせる。

「お二人とも仲が宜しい様で」

 法子が必死で首を横に振って否定する。ここで肯定などすれば殺されかねない雰囲気だった。

「ん? ああ、サンフか」

「ルーマ様、この件には関わらぬ様お約束をいただいたはずですが?」

「覇王の卵とは別件だ。法子が友達の失せ物を探したいと言うのでな」

「そんな物、昼に探せば良いでしょう」

 法子は魔物に盗まれたのだと弁解しようとしたが、ルーマの手がそれを制した。見上げると、言うなと目が言っていた。

「そもそもどうしてその娘を仲間に?」

 それは法子も気になっていた事だ。ルーマは襲ってくる魔物を帰すのに法子の魔術が必要だからだと言っていた。だが魔物を帰す技術なんて珍しくない。法子が知っているだけでも、ショッピングモールで活躍した二人が居るし、世の中が魔物だらけになっていないという事はそれ以外にも沢山の人が魔物を帰しているのだろう。

 だからルーマが仲間だと言ってくれる理由は気になっていたのだが、答えを聞くのは怖かった。そういえばそうだなと言われて、別の人の所へ行ってしまう可能性もあるのだ。

 だが、今、サンフがそれを口にしてしまった。もう引き返せない。

 法子は固唾を飲んでルーマの言葉を待つ。

「俺達を元の世界に帰す魔術を覚えるまでの、暫定的な仲間のつもりだったんだが」

 そうだったんだ。

 何となく期待されていないだろうと思ってはいたが、やはり悲しい。

「だったが、という事は、今は違うのですか?」

「ああ、今日で認識を改めた」

 え?

「今日? まさか……まさか! この娘が何か?」

 サンフの目が法子を射竦めた。もう笑顔で隠す事すら無くなった敵意が、法子の呼吸を止める。

 法子は何度も首を横に振る。だがサンフは法子の事を睨み続けている。

「ああ」

 ルーマが肯定する。

 サンフの目が一層鋭くなった。法子の気が遠くなった。

「実は今日、法子がどこぞの人間に惚れたらしくてな」

「あら?」

 サンフの険が急激に収まり、法子は息を吹き返す。

「傍に居れば、恋の魔法の研究に役立つかもしれん。なのでしばらく共に居る」

「何だ。法子さんには既に別の想い人が居たのですね」

 サンフが法子にとても優しげな笑顔を見せた。

「応援していますわ」

 その笑顔はとても美しいし、優しいのだが、一瞬前まで見せていた笑顔を思い出すと素直に喜べなかった。

 とにかく助かったと安堵する。微妙にルーマの言っている事は違うのだが、助かるのならそれで良い。そう考えてそっと息を吐いて、そしてある事に気が付いて凄い勢いで首を捻り、目を剥いてルーマを見た。

「ちょっと待って! 何でルーマがそれを知ってるの?」

「ん? 何の事だ?」

「その、その恋がどうとかって」

「ああ。暇だから散歩をしていたら、お前と他の人間が何やら騒いでいたのが見えたんだ。何かと思ったら、お前がマサトというのに惚れただとか何とか言っているので、うむ、一気にお前への評価を改めたぞ! 正直、ちょっと使えない奴だと思っていたのだが」

「盗み聞きしてたの?」

「勝手に聞こえてきたんだ。聞きたくなくとも聞こえたんだから仕方ない」

 法子の肌が粟立った。

「もしかしてルーマの耳がとっても良いとか?」

「何が言いたい? 少なくともこうして話が出来る位の聴力があれば、聞こえただろう。俺だけじゃなく、あの辺りを歩いていた者全員に聞こえたはずだ」

 金属音が辺りに響いた。法子が手放した所為で刀が道路に転がっていた。当の法子は屈み込んで顔を手で覆っていた。

「死にたい」

 まさか自分の恋愛話が町中に漏れていたなんて。一体どれだけの人に聞かれたのだろう。恥ずかしくて死にたくなった。

 恥ずかしがっている法子に言葉が投げられる。

「良く分からんが、過去の事を悩んでも仕方が無いぞ、法子」

「恥ずかしがる事はありませんわ。恋とは素晴らしいものなのですから」

「そうですよ。死にたいなんて言ってもどうせ死ぬ気は無いんでしょう」

 確かに死ぬなんて言葉だけの事だ。その見透かす様な言葉で、一層恥ずかしくなった。

 って、誰今の。

 聞き覚えの無い声に法子が顔を上げると、ルーマとサンフともう一人、誰かが居た。ルーマとサンフもそのもう一人を見つめている。

「どうも初めまして。イーフェルと申します」

 薄らと青みがかった髪に真っ青な瞳、にこやかな優男が法子の事を見つめていた。

 法子が慌てて立ち上がると、もうイーフェルは既に法子を見ていなかった。

「ルーマさん、兵隊は返しときました」

「そうか」

 ルーマは気安く頷いたが、サンフが噛み付いた。

「ちょっと待って下さい。どういう事ですか?」

「何だか選挙活動に必要みたいで」

「馬鹿な事を。覇王の卵とどっちが大事だと思っているのですか? あなたは危機感が無いのですか」

「どうせ、こちらの世界の事でしょう? 僕達の世界とは関係ないですよ」

「何を言っているんです。こちらの世界でも功績を示しておかねば」

 サンフが尚も食って掛かろうとしたが、それをイーフェルが制した。

「待ってください。そもそもサンフさん、今何の権限も無いですよね?」

 途端にサンフの口が閉じる。

「ルーマさんが良いと言っているのですから、それで良いじゃないですか。僕達はルーマさんの兵隊なんですから。ね、ルーマさん」

「ん? ああ、何でも良いぞ」

 ルーマは物凄く嬉しそうな顔で、話を聞いていない様子だった。きっと覇王の卵を捜索する仲間が居なくなったから、代わりに自分が盗んだ犯人と戦えると喜んでいるに違いない、と法子は想像した。

 一方で、サンフは憎々しげにイーフェルを睨みつけ、結局何も言えずに頷いた。

「分かりました。しかし、覇王の卵の捜索はどうするのです? 今残っているのは私とあなただけでしょう?」

「後、ファバランも残ってますよ。何だかやる事が出来たみたいで、こちらの世界に留まるそうですよ」

「たった三人でどうやってこの広大な世界の中から探すというのです!」

 激高するサンフとは対照に、イーフェルは飄々としている。

「まあ、ゆるゆるとやりましょうよ。何となく在り処は分かっているんですから。それに、どちらにせよ、卵の中に魔力が貯まり切れば辺り一面が消え去るんですから、嫌でも場所は分かりますし」

「あなたは!」

「何なら俺が手伝うぞ」

「ルーマ様は大人しくしていてください!」

 ルーマが不満げにそっぽを向いた。

「分かりました! 良いでしょう! 三人で捜索を続行いたしましょう。ただし!」

 サンフが途端に笑顔になった。

「もしも間に合わなかったら、あなたを殺します」

 そう言って、背を向けて歩き去って行った。

「どうもサンフさんは覇王の卵の事になると感情的になっていけないな」

 イーフェルは肩を竦めると、ルーマに居直った。

「それじゃあ、僕も殺されない様に捜索を続けます。ルーマさんはどうします?」

「俺はしばらくそこの法子と遊んでいる。今日は、もう法子の魔力が残っていないようだから引き上げるが」

「そうですか。では」

 イーフェルも背を向けて、突然振り返った。

「あ、そうでした。そういえば、対抗勢力が本格的に活動を開始したそうですよ」

「あいつか?」

「あいつです。まあ、当のあいつはいつも通りの卑怯さで、自ら動く事なんて無いでしょうか、何やら手練れを雇った様で」

「厄介だな。楽しみだ」

 ルーマが笑う。イーフェルも呆れた様な笑みを浮かべる。

「本当に厄介ですよ。覇王の卵なんかより余程厄介だと思うんですけどね。どうせ覇王の卵が割れるのなんて何年も先でしょう? 高濃度の魔力地帯に持ってかれるなら別ですけど、そうさせない様に辺り一帯に結界は張ってありますし、何の問題も無いと思うんですけどね。サンフさん、すぐ感情的になるから」

「お前が挑発するからだ」

「綺麗な方ってからかいたくなりません?」

「お前のその性癖だけはどうにも理解できん」

 イーフェルが笑う。

「それじゃあ、僕はこれで」

「ああ」

「それから法子さんも」

 突然見つめられて法子の心臓が跳ね上がる。

「あなたの恋、応援してますよ。恋というのはとても辛くて、苦しく、酷い時には死んでしまうそうですが、と言うよりサンフさんみたいなのが相手の近くに居たら殺されてしまう訳ですけど、頑張ってください!」

 とても頑張りたくなくなる応援の言葉を残して、イーフェルは去って行った。

 イーフェルが去ったのを確認して、ルーマが言った。

「じゃあ、帰るか」

「え? うん。でも良いの?」

「何がだ?」

「まだ暴れたりないんじゃないの?」

 考えてみれば、ルーマは昨日も今日も戦っていないのだ。ルーマの言動を鑑みるに、相当戦いたそうな様子である。

「仕方が無い。法子に魔力が無いんじゃな」

 法子はその言葉を意外に思う。

「気を遣ってくれるんだ」

「当たり前だ。どうも俺の評価が不当に低い気がするな」

「だって」

 法子が思わず笑う。それを見て、ルーマも笑った。

「明日は俺の戦いぶりを見て、尊敬し、卒倒する準備を整えておけ」

「卒倒まではしないよ」

 戦いは怖い。殺し合いなんてしたくない。

 でもルーマと話していると、安心感が湧いてきて、何だか戦うのが楽しみになった。

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