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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
魔法少女は夜眠る
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ヒーロー参上

 変身願望は誰もが持っているありきたりな願いの一つだ。誰かになりたい。何かになりたい。何かをしたい。何かを変えたい。現実への不満は多少なりとも変身に繋がる。

 変えたい。変わりたい。努力の伴わぬそれらの願いは時に現実逃避と蔑まれるが、その愚かさが時に世界を変える。断じて言おう。何かに変わりたいと願うあなたの変身願望は崇高な物である。


 ここにもそんな変身願望を持つに至った者が居る。名を五月女摩子という。何処にでも居る中学生である。日常に不満は持っていない。ごくありきたりの世界に囲まれてごくありきたりの生活を送っている。名前が些か特殊だが、本人は余り気にしてない。名前によるいじめも無く、生活は順風満帆と言って良い。

 変身願望なぞ誰でも持っている。現実への不満をそれほど持っていない彼女にも変身願望を持つ瞬間が存在する。だが彼女は実際に変身する。そこに違いがある。一体どんな願いを持っていたのか。

 がっかりさせない様にあらかじめ言っておくが、彼女は至って普通の中学生であり、その変身動機も良くある心の動きである。特殊な境遇も、特別な才能も要らない。ただ目の前を見るだけで良い。

 願望の動機はとても単純で、少し不純だ。


 町に魔物が出現した。そうニュースで報じていた。魔物は魔女っ娘を名乗る変身ヒーローに倒されて事なきを得たという。

 特に興味も無いので摩子はまるっきり別の事を考えながらご飯を口に運んでいる。ショートカットの活発そうな容貌が、気怠そうな呆れた顔をしていた。

「良いなぁ」

 一方、姉は目を輝かせて物欲しそうな顔でテレビに釘づけられていた。

「なりたいの?」

「勿論なりたい」

「ふーん」

「見てみなさい、あの楽しそうな表情」

 喝采を受ける魔法少女は確かに本当に楽しそうな表情で人々に手を振っている。

 姉はそれを手放しで褒めているが、摩子は多分大変な事も多いんだろうなぁと思った。

「ホント楽しそうだよね、魔法少女」

「そうかなぁ?」

「当たり前でしょ!」

「うーん」

 テレビの向こうでは丈の短いドレスの様な衣装を着た女の子が皆の喝采に頭を下げている。姉があんまりにも楽しそう楽しそうとはしゃぐので、摩子も楽しそうかもと思い始めていた。

「摩子はなりたくないの?」

「私はあんまり」

「楽しそうじゃん」

「楽しそうだとは思うけど、私は今の生活で十分楽しいから」

「姉妹で魔法少女とか絶対に人気出るよ」

「アイドルじゃないんだから。それにあの衣装、お姉ちゃん着るの?」

 テレビの画面には大人が着るには恥ずかしい衣装を着た少女が喝采の中去っていく姿が映っている。

 姉はしばらくテレビに目をやってから摩子に笑いかけた。

「いける!」

「無理だよ」

 摩子はあっさりと言い放って、またご飯に集中し始めた。


 学校へ行くと友達が盛り上がっていた。

「どうしたの?」

 鞄を置いて友達の輪に入って行くと、目を輝かせた友達が一斉に摩子へと目を向けた。

「あのね、今度の日曜日にサッカー部の試合があるんだって。それでみんなで応援に行こうかなって」

「ホントに? 私も行きたい!」

「何? 応援に来てくれるの?」

 女子だけの輪に闖入者がやって来た。サッカー部に在籍している男子だった。

「いや、あんたの応援に行く訳じゃないから」

 一人が辛辣な言葉を吐いた。それに合わせて他も同意する。

「ちょっとで良いから応援してくれよ」

 その男子の目が摩子に向いた。

「摩子は応援してくれるよな! なんたって幼馴染なんだし」

 話を振られた摩子は考え込む様に指を口に当てて、

「良いよ。ついでに応援してあげる!」

「ついでかよ!」

 男子の突っ込みに摩子は何を当たり前なという表情を返した。男子はぐっと言葉を詰まらせて何処かへと走り去っていった。

「応援してあげるって言ったのに」

 摩子が不思議そうに首を傾げる。その様子を見て、周りの友達は気の毒そうに男子の消えた先を見送り、その不憫さを囁き合う。

 ひっそりと話す友達に気が付いて、摩子は口を尖らせた。

「何々? 何で内緒話してるの?」

「何でもない」

 尚も詰め寄る摩子を上手にいなしながら、担任が来るまで話題は続いた。

 いつもの日常、いつもの友達。ともすれば飽きてしまいそうな程、満ち足りた生活こそが、摩子の日常だ。

 時が過ぎるのは早く、授業は進み、お昼休みが終わり、下校の時刻を過ぎて、摩子は帰り道の途中で友達と別れた。さて、帰ったらどうしようかな、今からでも戻って別れた友達を誘って遊びに行きたいな、などと考えながら歩いていると、道端に犬が集まって吠えていた。

「犬だ!」

 その可愛らしさに駆け寄ろうとしてすぐに立ち止まる。犬の様子が荒れている事に気が付いたからだ。何やら喧嘩をしているみたいだ。犬達に囲まれて、猫の様な生き物が震えていた。

 囲む犬達は何だか獰猛そうで危険な様子が漂っている。摩子は一瞬躊躇したが、すぐに使命感に燃えて駆け寄った。

「駄目だよー」

 摩子が我武者羅に犬の集団に突っ込むと、犬達は驚いて逃げていった。後には頭を押さえた猫の様な生き物が残っている。

「大丈夫?」

 猫の様な生き物が頭を上げて摩子を見た。それは猫とハムスターのあいのこの様な顔をしていて、猫の様で猫ではなかった。摩子の知らない種類の生き物だ。

「ありがとう。助かったわ」

 その生き物が口を利いた。

 摩子はしばらくの間、口を聞けない程驚いて固まった。

「ここらは治安が悪いのね。参ったわ」

「喋った!」

 摩子の大声に今度はその生き物が驚いた。

「いきなり大声を出さないでよ」

「また喋った!」

「当たり前じゃない……あなた、もしかして魔術で生み出された生き物は初めて?」

「魔術の?」

 そういえば社会の時間に、初めて魔法によって生物が生み出されたという話をしていた気がする。

「まあいいわ。とにかくありがとう。お礼、をしたいんだけど」

「わあ、凄いなぁ。本当に喋ってる」

 摩子が近付いて頭を撫でようとすると、その生き物はひらりと避けた。

「ちょっと幾らなんでもいきなり撫でようとするなんて、失礼なんじゃない?」

「あ、ごめんなさい」

「まあ、今回は大目に見てあげるわ。で、お礼なんだけど。あら?」

 その生き物は辺りを眺めまわして、それから耳をひくひくと震わせて、突然怒鳴り声を上げた。

「前に飛んで! こっちへ!」

 摩子は良く分からず首をかしげる。

「どうしたの?」

「早く!」

 その時影が指した。

 摩子がゆっくりと振り返ると、そこに巨人が太陽を遮って立っていた。

「うわ、おっきい」

 そんな風にのんびりと言って、巨人を見上げた。

「馬鹿な事言ってないで、早く逃げなさい!」

 猫の様な生き物の焦った声。

 巨人が腕を振り上げる。

 摩子はまだのんびりとしている。

 そうして振り下ろされた。

 その瞬間、摩子の背に生き物が飛びついて、摩子の体を前へと倒し、間一髪で振り下ろされた拳から外れた。

 轟音が響いて、一瞬前に摩子の居た場所が巨人の拳によって粉砕されていた。

「ああ」

 摩子が振り返って、絶望的な声を上げる。

「怖いのは分かるわ。でも早く逃げないと」

 生き物が逃走を促すが、摩子は立ち上がらない。

 腰を抜かして動けないのかと生き物が不安がった時、摩子が叫んだ。

「私の鞄!」

「え?」

「私の鞄が壊されちゃった!」

「ええ! そっち?」

 摩子が立ち上がる。立ち上がって、あろう事か巨人の振り下ろされた拳へと歩み寄ってしゃがみこんだ。

「ちょっと! 危ない!」

 生き物が追いかける。

 巨人の拳が上がり、潰された地面が現れる。そこには摩子の鞄もあって地面と一緒に陥没していた。

「私の鞄」

 中には教科書や手帳や携帯や友達からもらった物や要らない物が入っていた。言うなれば日常がそこに詰め込まれていた。

 それなのに。

「ちょっとどうする気?」

 摩子が立ち上がって、巨体と向きあった。

 どうするのかと不安に思う生き物の前で、摩子は巨体を指さして大きな声で言った。

「何か言う事あるんじゃないの! 謝りなさい!」

 摩子の怒鳴りを聞いて、生き物は思う。

 あ、この子変な子だ。

 生き物が摩子の肩に乗る。

「言っても通じないわよ。それより早く逃げないと」

「でも、私の鞄が」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」

「でも」

 二人の会話の途中で、巨体が再び拳を振り下ろしてきた。

 摩子はそれをぼんやりと見つめている。

 一方で、摩子の肩に乗った生き物は目まぐるしい勢いでどうすれば良いのか考え、避けるのは無理だと判断した。

 巨体の拳が摩子の寸前まで迫り、その瞬間魔法円が現れて、巨人の拳の勢いが止まる。

「何これ?」

 摩子がのんびりと目の前の魔法円を観察しているところへ、生き物が怒鳴った。

「呆けるのも大概にしなさい! 私が止めている内に早く逃げる!」

「止まったの? じゃあ、チャンス!」

「はぁ?」

 摩子が巨体へと駆けていく。

「ちょっと、馬鹿! 止まりなさい!」

 摩子は拳を振りかぶり、巨体の足元へ近づくと、その脛を思いっきり殴る。思いっきりと言っても、走りつつ、しかも体勢を崩してのそれは、虫すらも殺せない様な弱々しいパンチで、摩子の肩に乗った生き物は思わず溜息を吐いた。

 その瞬間、凄まじい音と共に、衝撃が走り、巨体の足に風穴を空けた。

「はぁっ?」

 生き物は目を疑って、風穴の空いた巨体の足とそれを作った摩子を見比べた。

「ああ、そうか、そういう事。それでも才能は」

 そうして何度か頷いて、摩子に顔を向けた。

 摩子は報復があまりにも効果を上げすぎた事に驚いて、身を竦ませている。

「ちょっと、あなた?」

「え? 私?」

 生き物の呼びかけに、竦んでいた摩子が意識を取り戻した。

「手を握って」

「え?」

「良いから手を握りなさい。拳を作って」

 摩子が手を握りしめる。何か感触があった。見ると杖が握られていた。ピンク色で装飾が施されている。

「変身したいって言ってみて!」

「え? 変身したい?」

 摩子がそう呟いた瞬間、摩子の制服が丈の短いドレスの様な白い衣装に変わった。

「まさか、本当に。こんなあっさり変身出来るの?」

「え? え?」

 摩子が驚きつつ、自分の体を見下ろした。そして服が変わっている事に気が付いて、驚きの声を上げる。

「何これ! 恥ずかしい!」

 摩子が恥ずかしがって服を抑える。

 その時、巨体が大きく唸った。足の傷はようやく塞がるところだった。

「いけない。ちょっと、恥ずかしがってないで、杖を前に出して」

「え? 何で? こう?」

 言われるがままに、摩子は杖を巨人へ向ける。

「そう! そしたら目を閉じて思いっきり息を吸って!」

 摩子が目を瞑って息を吸うと、まるで空気が何倍にもなったみたいに、肺から強烈な圧力を感じた。

「うん。そのまま、目を閉じて目の前の奴が居なくなる事をイメージ」

「居なくなるって?」

「あ、息を吐かない! もう一回吸って! イメージは何でもいいから。逃げていくのでも、目の前の奴が居ない風景を思い浮かべるのでも何でも良い! きんげんや!」

「え? きんげんやって?」

「だから息を吐くな! もう一回! 吸ってイメージ」

 突然空気をつんざく破裂音がした。

 目を閉じている摩子には何が起こっているのか分からない。ただびっくりして吐き出しそうになった息を何とか留める。

「よし! 今! 目を開けて、火を吹き消すみたいに、目の前の巨人に向けて思いっきり息を吐き出して! ずっと長く吐き出し続けて!」

 摩子が目を開けると目の前に巨体の拳がある。息を吐き出すと、小さな魔法円が描かれる。魔法円はインクで描かれた様に黒い。摩子が息を吐き続けていると、その魔法円の外側にインクで描かれた様な糸が生え出して、それが伸びて複雑な模様を描きながら、巨体を瞬く間に覆っていった。

 摩子の息が限界に達して、吐くのを止める。その瞬間、まるで何かの間違いであったかの様に、巨体の姿が消えた。

「あれ? 消えちゃった」

「ええ、これで向こうの世界に送れたわ。お疲れ様」

「送れた?」

「そう。元の世界に帰したの。上出来よ」

「そんな! まだ謝ってもらってない!」

「何処までも呆けてるわね。その癖、まさか初めてでここまで出来るなんて。あら、きんげんや」

 生き物が道の先に目をやった。摩子もつられてそちらを見る。

 道の先に影が見えた。影は少しずつ大きくなって、やがて黒いコートを着た男だと分かる。眼鏡を掛けた、理知的で、何だか冷たそうなその男だった。

「きんげんや。今更何の用? もうあなたの出番は無いわよ?」

「酷いなぁ。手伝ったのに」

 男が突然摩子へ向いて、頭を下げた。

「こいつを助けてくれたんだね。ありがとう」

「え、いえ、助けてないですけど。こちらこそありがとうございます」

 いきなり現れた男に戸惑って、訳も分からず摩子も頭を下げた。

「礼儀正しいね。僕の名前はきんげんや。そっちの変な生き物がマチェ。よろしくお願いするよ」

 摩子には何をお願いされるのか分からない。

「良く分からないですけど、こちらこそよろしくお願いします」

 きんげんやが笑顔を作る。

「助けてくれたお礼をしたいんだけど」

 摩子は何だか浦島太郎みたいだなと思った。ついていったらおばあさんにされてしまうかもしれない。

「私は骨董品を扱っているんだ。もしも気に入った物があるなら一つあげよう。店に来るといい」

 摩子は玉手箱を開けてよぼよぼになる自分を想像して首を振った。

 マチェの馬鹿にした様な声が男に浴びせられる。

「きんげんやは何にも分かってないね。女の子がそんな骨董なんて欲しがる訳ないでしょ」

「そういうものなのか?」

 マチェがまた馬鹿にした様に笑う。まるで人間みたいな仕種だ。

 摩子の目がマチェに釘付けになった。喋る生き物なんて今まで見た事が無かった。明日友達に自慢出来るかもしれない。楽しそうにしている摩子をちらりと見やった男はにやりと笑って、

「ああ、良い事を思いついた」

静かに言った。

「君はさっきからマチェ君が気になっているみたいだ。良かったらマチェ君をあげよう」

「は?」

 マチェが素っ頓狂な声を上げる。

「何でいきなりそんな事になる訳?」

「何を言う。マチェ君にだって悪い話じゃないだろう。見た所素養は十分だ」

 マチェの目が摩子を射抜いた。何だか品定めをする様な目付きである。しばらく摩子の全身を子細に眺めてからアチェの首がゆっくりと縦に振られる。

「確かに十分どころか、百年に一度位の才能だけど。でも本人の意志も尊重しないと」

「なら聞いてみよう。君は魔女を、あー、今の言葉で言えば、魔法少女をどう思う?」

 魔法少女? 摩子の頭に今朝のやり取りが浮かぶ。そしてテレビに映っていた魔法少女の姿。姉がしきりに楽しそう羨ましいと言っていた魔法少女。

「楽しそう」

「なら決まりだ。お礼としてマチェ君をあげよう」

「え? ありがとうございます?」

 摩子は訳も分からずお礼を言って、それから訳が分からずに質問した。

「あのどういう事ですか?」

「それでは第二の人生を楽しみたまえ」

 既にその場を離れようとしていた男は、背を向けながら高笑いを上げて何処かへと去っていった。

 後に残された摩子は訳が分からずに、同じく残されたマチェを見つめた。マチェも摩子の事を見上げていた。

「あなた本当に良いの?」

「何が? ですか?」

「別に敬語なんか使わなくていいわよ。それで、魔法少女、本当に良いの? 私は嬉しいけど」

「え?」

「だからあたしを受け取るって事は魔法少女になるって事だけど本当に良いの?」

「え? えーっ!」

 摩子の悲鳴が町の中に響き渡った。


 彼女は驚きの声を上げたが、それもつかの間の事だ。不思議な生き物と話をした彼女は流されるままに魔法少女となる。自分の元々の意志とは関係なく。その場の雰囲気に呑まれて自身の願望を形作る。それは不純で主体性の無い意志の現れだが、人間としては当たり前でとても単純で、そうして理由が無い分だけ壊れにくい。壊れても失うものが無い。場に流された末の願望は復讐によって作られる願望と並んで、説話、伝承に極めて多く見受けられ、悲劇につながりやすい復讐とは反対にとても楽観的で民衆の支持を受けやすい。つまり人々の憧れとなり易い。英雄は時代の望む声によって生まれる。即ち成り行き任せに願望を抱く者は英雄たりうる資質を持っている。


「ほらあそこ。早速襲われている子と魔物を発見。集中して」

 屋根の上に立つ摩子は肩に乗せたマチェの言葉に頷いた。遠くで女の子が魔物に追われている。

「さっき教えた魔術を使ってみましょうか」

「分かった」

 摩子が目の前の空間に円を描き、円周に七つの点を穿つ。

 遠くでは女の子が押し倒され、魔物が圧し掛かり、今にも惨劇が行われようとしている。

 それを見て、摩子は慌てて魔法円に飛び込んだ。その魔法円を通り抜けた瞬間、摩子は加速して音速を超え、そのままの勢いで女の子に覆いかぶさる魔物に体当たりをくらわせる。衝撃はあったが、痛みは無かった。魔物は遠くに吹き飛んだ。

 颯爽と女の子を救った摩子は魔物に背を向けて女の子に手を差し伸べた。

「怪我は無い?」

 そう尋ねて微笑んだ。ヒーローの誕生だった。


 彼女は明るく、快活で、人好きされ、才能に溢れ、善悪を知り、勇気を湧かせ、公正であり、固い意志を抱き、愛すべき者を持ち、時に悩み、時に苛み、時に阻まれ、時に悲しみ、時に失い、けれど最後には必ず勝ち、信念を全うし、世界を救う。まさしく説話の中の英雄である。

 だがだからこそ、この物語の主人公たりえない。この物語は卑屈で信念を信じ切れず勝つか負けるか分からない、そんな普通の人間が英雄と肩を並べようとする物語だからだ。

 彼女は英雄であって主役ではない。よって彼女の話はここで途絶する。次からがこの話の主人公が現れる本当の物語の始まりとなる。

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