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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
105/108

ヒーローVSライバル

「それじゃあ、行くよ、法子!」

 摩子はそう言って、上空へと飛んでいった。

 法子が上空を見据えると、摩子は幾多の魔法円を周囲に描きながら微笑んでいる。恐ろしい勢いで書き上げられていく魔法円を見て、法子は焦る。時間を掛けてはこちらが不利だ。

 そう考えて、法子は道路を蹴って跳び上がり、電信柱を蹴って方向を変えて、摩子へ向かった。

 摩子は微笑を絶やさず、手に持った杖を法子へ向けた。

 途端に摩子の周囲の魔法円が光を放ち始め、内の幾つかが発動して、炎と光と稲妻と水が法子を襲った。

 法子は空中を蹴ってそれを回避する。

 回避しながら法子は昔を思い出した。魔法少女になった当初、駐車場で戦い摩子に敗れた時の事を。次々と迫る光弾を捌ききれずに負けた時の事を。

 あの時摩子は、こちらが避ける先を予測して、新たな光弾が襲い掛かって来た。

 そんな思い出と重なる様に、案の定白い虎と炎を上げる鳥が回避動作を終えた法子目掛けて打ちこまれていた。

 法子が更に空中を蹴ってそれを避ける。

 避けた先に、今度は無数の針がある。空中を蹴って更に逃げようとして、はたと気が付いた。針は法子の周囲を覆う様に、全方向三百六十度の球状包囲を作っていた。逃げ場がない。

 法子が戦慄した瞬間、針が法子に突き立たんと迫って来た。法子は恐れる自分を抑えつけて、自分の体を霧状にして針を素通りし、摩子へ向かう。

 やはり短期決戦に持ち込んだ方が良い。そう考えて、法子は霧状になったまま、空中を駆け抜けた。

 途中、両脇に巨大な壁が出現し、法子を潰そうと狭まってきた。しかし法子は霧だ。潰されないと高を括って摩子へと駆ける。視線の先、狭まる壁面の隙間から見えた摩子は尚も微笑んでいた。

 どうしてまだ笑っていられるの? 法子は急に不安になって、自分の体を確認すると、いつの間にか実体化していた。その事に驚いたのと同時に、左右から壁に押し潰され巨大な音が立った。

 次の瞬間、壁が爆発し、中から法子が現れた。だが無傷ではない。両腕がひしゃげている。それはすぐに修復されたが、法子の顔には恐れが浮かんでいた。法子は宙に立って恐れに身を震わせながら摩子を見た。

 本気なんだと法子は思った。本気で殺す気で攻撃してきてるんだと法子は恐れた。逃げ出したい気持ちで一杯になった。

 だが地上では将刀が自分の事を見つめている。ここで逃げればきっと一生。そんな状況で、どうして逃げられるだろう。

 法子は再び刀を構え直した。

 途端に嫌な予感がして、空を見上げると、そこに町一帯を覆う様な巨大な魔法円が描かれていた。法子の嫌な予感が加速する。だが法子が手を打つ前に、魔術は発動した。

 巨大な魔法円の中から、純白の腕が現れた。続いて、美しい顔が現れる。上半身も顕現して、最後に羽も現れた。規格外に巨大な天使の上半身が法子の事を見下ろしていた。視線が会うだけで震えそうな程の力を有している。

 あまりの巨大な力に、勝てないと、法子の気持ちが一瞬萎えた。だが逃げられない。逃げてはならない。立ち向かわなくてはならない。勝たなくてはいけない。そう自分を叱咤して、頭上から見下ろしてくる天使を睨んだ。だが天使を見ると、また不安になる。あの天使に勝てるだろうか。膨大な魔力が込められている。勝てるかどうか分からない。でも、勝たなくちゃいけないんだ。

 そうして法子は方針を練った。天使を直接潰すか、摩子を倒して魔術を止めるか。

 天使は法子の居る空中よりも更に高い空に居て攻撃し辛い。一方、摩子までの距離はそれなりに近い。攻撃のし易さなら摩子だ。けれど摩子を攻撃するという事は、天使に背後を襲われてしまう。それに摩子の事だから、しっかりと自分の周りに防御をほどこしているだろう。手間取れば挟撃を受ける。

 法子は僅かに悩んで、天使を攻撃する事に決めた。見れば、摩子は魔術に集中して、ほとんど動きが取れない様だ。こちらから近寄るならともかく、離れて戦えば後ろから攻撃される恐れはない。それに天使は摩子の全力の一撃のはずだ。だから天使さえ潰してしまえば勝ったも同然。

 そう考えて、法子は頭上の天使に向かう。その心の中に、友達を攻撃したくないという思いがあった事は否めない。

 天使が拳を振り下ろしてくる。それを法子は避ける。天使が口を開け、口元に光が収束する。法子の背に怖気が走った。収束した光が一筋の線となって天使の口元と法子と地面を結ぶ。

 直前でなんとか防御した法子だが、それでも全身に焦げ目が走っている。すぐに修復されるが魔力が目減りしていく。

 急がなければと法子が天使へ向かう。そこに天使の腕が迫る。法子がそれを避けた先で、再び光によって天使の口元と法子が結ばれる。再び法子の体に焦げ目が付き、それが修復され、魔力が減る。

「ぐ」

 法子が呻きながら、天使へ向かう。今度は両方とも避けてみせる。そう決意して天使の攻撃を待つ。

 そこに腕が迫る。それを避ける。更に、光線では無く、もう片腕が迫る。それを避ける。最後に光線が走る。法子がそれをくらう。

「くそ」

 腕が迫る。腕が迫る。光線が走る。それを避ける。腕が迫る。翼から射出された無数の羽が法子に目掛けて襲ってくる。同時に光線が走る。それを避ける。羽は避けきれずにくらう。

「くそ」

 近寄る事が出来ない。攻撃を避けられない。

 法子が悔しく思っていると、タマが言った。

「法子、早期に決着をつけるんだ」

「分かってるよ。だから早くあの天使を」

「力を温存している場合じゃない」

「温存なんて」

「今のまま近寄ろうとしてもじりじり削られていくだけ。折角近寄って来てくれるんだから。もうあの天使の解析は終わっているんだろう?」

 法子はタマの言葉を噛みしめて、頷いた。確かに綺麗に勝とうと考えていたかもしれない。刀にありったけの魔力を込めて、魔術を付与する。天使の魔術を崩壊させるための魔術を。膨大な魔力を込めた所為で魔力はもうほとんど底を尽きかけている。

 天使の拳が迫る。法子はそれを避けず、拳に向けて刀を差し出した。天使の拳と刀が触れた瞬間、金属を引っ掻く様な大音声が辺りに響き、天使の拳が崩れ始める。崩壊は加速して、拳の崩壊が終わった次の瞬間には天使の肩口まで崩れ、更に瞬くと天使は消えていた。

「よくやった法子!」

 タマの声援に法子は微笑もうとして、そして表情が固まった。

 天使の魔法円が描かれていた空よりも更に一段高い空に、何処までも続く魔法円が描かれていた。まるで天そのものの様な。空が割れるんじゃないかと思ってしまう位に、凄まじい音を発している。果てしなく広がる魔法円の下で、法子は固まって動けない。

「まさか……何だあのでたらめな魔術は」

 タマの焦った声が法子の心に響く。法子は震える思考でタマに尋ねた。

「タマちゃん、私、どうすれば」

 タマから返答は無い。

「タマちゃん、あんな凄い魔法どうすれば防げるの?」

 タマから返答は無い。無視しているので無い事は、タマから伝わる微かな思念に焦りと必死さと、そして法子を心配する気持ちが含まれている事から分かる。けれどだからこそ、空の強大な魔術がどうしようもない事を法子は悟った。

 もう駄目だ。

 そんな言葉が法子の心の中を占めた。

 もうどうしようもないのかな。やっぱり勝てないのかな。

 法子はそんな風に諦める。けれどすぐに首を振る。駄目だ。下には将刀が居る。絶対に負けられない。勝たなくちゃいけないんだ。今迄みたいに諦めてちゃ駄目なんだ。将刀を意識した事で思い立つ。法子が最初に覚えた技、教えてもらった技を。

 法子は離れた場所で目を閉じている摩子を見た。摩子は法子を倒す為の魔術に集中している。それを見て、法子は覚悟を決めた。

 法子の刀に魔力が籠る。空の魔法円は今にも発動しそうで、今から摩子を切ろうとしても刀は届かないだろう。けれど斬撃なら届く。

 法子は最後の力まで振り絞って、刀に思いっきり魔力を込めた。刀が鈍く光り、熱を発する。

 頭上からは空が崩れ落ちそうな音が鳴っている。猶予が無い。

 法子は一度呼吸を止めると、視線の先の摩子を睨みつけ、そして思いっきり刀を振った。

 斬撃が摩子へ跳ぶ。途中、摩子の張り巡らせた魔術の罠が次々と発動するが、それらを全て切り裂いて斬撃は摩子へと走った。

 摩子が驚愕の表情を浮かべた瞬間、斬撃は摩子を切り裂き吹っ飛ばした。

 頭上の音が消える。

「やった! 魔術が消えたぞ、法子!」

 タマの言葉を聞き終える前に、法子は駆け出していた。吹き飛ばされた摩子を追い、空中で姿勢を制御しようとする摩子に追いつき、驚いて目を見開く摩子の肩を、刀で殴りつける。空気が鳴動して、爆音が起こり、摩子が地面に落下して叩きつけられた。

 勝った。勝てた!

 法子は嬉しさで拳を握り、そして地面に倒れた摩子を見た。

 摩子はまだ立ち上がろうとしている。けれど既にその身に魔力はなく、立っているのもやっとの姿。その傍に武志が駆け寄った。満身創痍の様子で摩子が武志にもたれかかる。

 もう立ち上がらないで、と法子は願った。立ち上がるなら更に攻撃を加えなくてはいけない。これ以上友達を攻撃したくなかった。自分でも我が儘だとは思うけれど、思ってしまうものは仕方が無い。

 懇願する気持ちが湧く一方で、法子の心は勝利に酔っていた。

 勝った! 私、勝ったんだ!

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