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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
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ヒーロー覚醒

 学校の校庭で、白い靄を背に、決してそこを通さぬ様に、法子は立っている。

 前には病院で烏帽子男をばらばらにした剣士。威圧感に気圧されそうになる。

 震えはじめた手に力を込めて、法子は剣士の隙を窺っていた。

 緊張している法子に、隣に立つ将刀が声を掛けてきた。

「法子さん」

 隣を見る。将刀が真剣な表情をしている。

「あいつの攻撃は普通に防御しているだけじゃ駄目だ」

 それには法子も同意だった。相手は数多の斬撃を同時に放ってくる。一本や二本の剣では防げない。

「だから足を使って撹乱しよう。狙いを定めさせない様に走り回って、相手の打つ斬撃を分散させるんだ。狙ってくる斬撃の数が少なくなれば防ぎやすくなる」

 法子は頷いた。

 将刀が頼りになる。一人ではきっと敵わなかったけど将刀とだったら勝てる様な気がした。

「じゃあ、行くよ」

 その瞬間、将刀の姿が消えた。法子もまた駆け出す。

 泰然として動かずこちらを目だけで追ってくる敵を観察しながら、法子は辺りを駆け回る。

 攻撃してこない。相手が攻撃してこないという事はきっとこちらの作戦が功を奏して、向こうが攻撃できていないのだと思う。けれどこれではこちらも攻撃が出来ない。何となく相手に攻撃しようとすればその瞬間を狙われてしまう気がした。

 ふと将刀を見る。将刀もこちらを見ていた。そして目が合うと、将刀は突然頷いた。

 え?

 もしかして攻撃しようという事だろうか。

 意図が分からず、法子が混乱していると、敵の声が聞こえた。

「ああ。早く行かなくてはいけない」

 法子はその言葉で気が付いた。

 敵はこちら等の事を無視して白い霧へ向かおうとするのかもしれない。確かに相手の目的はルーマ達を追う事であって、法子達を倒す事ではない。

 まずいと思った時、また敵の声が響いた。

「そろそろ攻撃する」

 えっと思った瞬間、法子の解析が辺りに満ちる斬撃を弾きだした。

 狙い等一切定めていない、とにかく一面全部を切ろうとする滅茶苦茶な数の斬撃。

 法子の周りにも十数本の斬撃が襲いかかる。

 法子は慌てて刀をもう一本生み出し防御する。けれど防ぎきれない。

 何とか首を刎ね飛ばそうとする斬撃と頭を割ろうとする斬撃は防いだが、腹と足に食らって倒れた。すぐに修復される起き上がろうとするが、一瞬感じた胴の離れる感覚が不快感を訴えてくる。

「法子さん」

 将刀が駆け寄ってきた。

「すまない。俺の読みが甘かった」

 駄目だ。

 こっちに来ちゃいけない。

 一纏まりになれば、敵は全ての斬撃をそこに集中させる。

 将刀が法子の下へ辿り着いた時、法子が恐れた通り敵が剣を振るった。

 その瞬間、法子は将刀を突き飛ばした。

 数多の斬撃が法子に降り注ぐ。

「法子さん!」

 突き飛ばされた将刀が法子を助けようと地面を蹴ったがもう遅い。

 法子はあっさりと降り注ぐ数多の斬撃に押し潰される様にして切り刻まれる。ばらばらになる。

 すぐに修復される。

 法子は起き上がって外見の上では何の異常もない自分の体を見て気味悪くなる。傷ついてはすぐに修復される自分の体が何だか化物の様に思えた。それを将刀に見られたのがたまらなくつらい。これでは好かれる訳が無い。

 そんな気味の悪さをごまかす為に、法子は将刀に笑いかけた。

「良かった。将刀君が無事で」

 将刀は項垂れていた。そうして弱々しく顔をあげる。その兜の奥に見える瞳が青く変じていた。

「将刀君、その目」

 法子が尋ねようとすると、将刀がぽつりと呟いた。

「ごめん」

 将刀の姿が消える。

 法子が慌てて敵の方角を見ると、将刀は敵に向かって駆けていた。ただまっすぐと。一直線に。当然、敵はそれを迎撃しようとする。剣が振られる。将刀の周りに斬撃が生まれる。けれど将刀は怯まない。周りから襲いかかる斬撃を切り払い、切り漏らした斬撃に切られても怯まずに駆け抜け、敵に向かって切り掛かった。

 だが防がれる。

 それでも将刀は攻撃の手を緩めず、敵に向かって凄まじい勢いで剣を振り続ける。

 それを見て、法子は危ないと思った。将刀の攻撃は激しいけれど、全て防がれてしまっている。それでも我武者羅に攻撃を続ける将刀は何だか周りが見えていなさそうだった。攻撃されても気がつかなそうな程。

 法子は不安になって駈け出した。

 案の定、将刀の周囲に数多くの斬撃が発生した。将刀はまるで気がついていない。ただ敵に向かって剣を振り回し続けている。

 危ない。

 法子は駆ける。ただどうしたら良いのか分からない。今、将刀の周りに生まれた斬撃の数は法子の手にあまる。防ぎきれそうにない。

 だが、だからと言って、将刀を守らないという選択肢は浮かばない。

 法子は何とか将刀を守る為に、攻撃に気が付いて硬直した将刀の後ろに寄り添って、刀を生み出し、迫る斬撃を防ごうとした。

 斬撃が迫る。

 両の手に持った刀では防ぎきれない程の大量の斬撃が襲いかかってくる。

 法子はそれを防ぐ為に力を込める。

 そうして法子達の周りに浮かんだ幾つもの刀が、敵の斬撃を防ぎきった。

「え?」

 自分の周り浮かんだ刀を見て、法子は呆然として呟いた。

 刀は法子の意思に反応してふわりふわりと周囲に浮かんでいる。

「何これ」

 また私の新しい能力?

「いや、違う。これは、まさか、君は魔物の技を」

 タマの声が聞こえたがそれを聞いている余裕は無かった。

 再び沢山の斬撃が生まれ、迫ってきた。法子はまた周囲に浮かんだ刀で防ごうとしたがあっさりと砕かれる。

 その時には将刀が法子を抱えてその場を脱出していた。

 敵の斬撃から逃げ切って、法子を下ろした将刀は息を吐きながら言った。

「ごめん。頭に血が上ってた」

「うん、でも助かって良かった」

 法子の言葉に、将刀は胸を突かれた様な顔をして俯いた。かと思うと、勢い良く顔を上げて尋ねてきた。

「法子さん、今やった技もう一度出来る?」

 恐らく周囲に刀を生み出した事を言っているのだろう。法子は頷いた。多分出来る。出来ないと言って、失望されたくない。

「じゃあ、二人で同時に攻撃しよう。俺は左から。法子さんは右から」

 将刀はそこで一旦言葉を区切り、申し訳なさそうな口調になった。

「多分敵は警戒して法子さんの方により多く斬撃を費やす。だから法子さんはさっきの魔術を使って防ぎながら逃げて。後は俺があいつを切るから」

 法子は頷いた。

 すると将刀は突然何処からか弓矢を生み出して、相手に狙いを定めた。

「じゃあ、これを放ったら、行こう」

「うん」

 将刀が矢を放つ。それを合図に二人は敵の側面に走りだした。

 そうしてお互い敵を中心に反対側へ回ると、そこから敵へ向かう。

 敵は矢をあっさりと弾き、将刀と法子を交互に見た。

 法子は近づきながら身構える。

 周囲に斬撃が生まれる。

 法子は反射的に自分の周囲へ刀を生み出した。

 これで一回は防げる。

 だが想像した様には上手くいかなかった。

 敵の攻撃が足元を狙ってきた。

 予想外の攻撃に上手く対応出来ず、法子は慌ててその場で跳んだ。

 跳んで後悔する。

 無防備な空中に跳んでしまった。法子の背に怖気が走る。

 敵の斬撃が法子の周りに生まれる。法子は自分の周りに刀を生み出してそれを防いだ。だがもう一撃攻撃されれば防ぎきれずに襲われる。避けようにも空中に居る。

 また斬撃が生まれた。

 防げない。

 そう思った時には周囲の刀が砕かれた。

 斬撃が迫る。法子は呆然として、無意識の内に宙を蹴った。

 自然にいつもそうしていた様に、何も無い空中を蹴った法子は、斬撃の檻を抜け、敵へ向かう。

 自分がまた新たな能力を使用した事に驚きながらも、敵の姿が近付くに連れて覚悟を決めた。

 敵の斬撃が生まれる気配を見越して、更に宙を蹴って加速し、生まれる前の斬撃を避ける。

 こちらを攻撃する事に気を取られ、無防備になった敵に向かって、法子は雄叫びを上げて、刀を振り下ろした。

 それが敵の生み出した斬撃によって防がれる。斬撃と押し合い敵の頭上で膠着する。

 こちらを見上げてくる敵を見下ろしていると、法子の視界に将刀の姿が映った。

 低く身を屈めた姿勢から振りかぶった将刀の剣が敵へ迫る。

 しかし敵は目もやらずに斬撃を生み出し、将刀の剣を阻んだ。

 法子は身を捻って刀を滑らせ、敵の斬撃から外れて、下に落ちる。

 自分の周囲に沢山の刀を生み出し、それを敵目掛けて振るう。

 全て斬撃に叩き落とされる。

 けれど一瞬隙が生まれた。

 幾つもの刀が目眩ましになって、敵の次の反応が一瞬だけ遅れた。

 法子の突きが敵の肩を掠める。

 初めて敵に攻撃が当たる。まだ攻撃は終わらない。

 怯んだ敵へ向けて、今度は将刀が肉薄する。膨大な魔力を込めた剣を走らせる。

 敵の生み出す斬撃を打ち砕き、将刀の剣は敵へと達し、上半身を刎ね飛ばす。

 上半身は離れた場所へ刎ね跳ばされた。上半身を失った下半身は溶け崩れる。

 それを見て、法子は呟いた。

「やった」

 それに対して将刀が叫ぶ。

「まだだ!」

 法子が驚いて、上半身の飛んだ先を見ると、下半身を修復した敵が剣を振りかぶっていた。

 その剣には膨大な魔力が籠っていた。

 今まで感じた事も無い位に凄まじい魔力が満ち満ちていた。

 法子はその攻撃が今まで最大の攻撃だと直感する。

 それはきっと防げない攻撃だと直感する。

 そう直感して汗が浮いた時には敵の攻撃が発生していた。

 一本の刃が生まれた。寄り添う様に立つ法子と将刀へ向かって振り下ろされる。その一本の刃には数百の斬撃が凝縮されていた。それが分かった瞬間、法子は気が遠くなった。勝てる訳が無い。たった一つの斬撃に対抗する事すら困難で、二回受ければ刀が壊れてしまうのに、それが数百の斬撃の集合など防げるとは思えなかった。かと言って、避けられない。何故かその刃に目を奪われ、逃げる事など考えられず、立ち向かおうとしか思えない。

 魅惑する刃が迫ってくる。

 法子と将刀は振り下ろされる刃に強制的に立ち向かわされる。

 数百の斬撃の集合に対して、たったの二人で。

 法子は半ば死を覚悟した。

 そこに将刀の声が聞こえた。

「大丈夫。俺に任せて。俺が打ち破る。法子さんは絶対守る」

「うん」

 解析が将刀の言葉が強がりだと弾きだす。それでも法子は頷いた。将刀の言葉を否定したくはなかったし、それにここで自分が頷けば将刀はそれを実現してくれる様な気がしたから。

 刃が打ち下ろされる。

 法子は一本刀を生み出して、二本の刀でその刃を受け止めようとした。

 だが法子の片方の刀は触れた瞬間に砕け、もう一本の刀もすぐに折れ、法子は刀を取り落とす。

 将刀だけが刃を受け止め抗っている。

「将刀君」

 思わず名前を呼ぶと、将刀はその口元に笑みを浮かべた。

「守るから! 絶対に!」

 苦しそうにそう言いながら、将刀はのしかかる刃に歯を食いしばって抗い続ける。

 不意に将刀の剣にひびが入った。

 法子ははっとして、地面に落ちて修復された刀を拾い上げて、敵の刃に押し付け、将刀に加勢した。

 将刀は目を見開き、雄叫びを上げる。法子もまた叫ぶ。

 凄まじい力がぶつかり合う。

 将刀が雄叫びを上げる。雄叫びに合わせて魔力が強くなる。

 将刀の魔力が振り下ろされた刃と拮抗し始める。

 将刀は一際強く叫び、渾身の魔力を刃に込めた瞬間、敵の刃にひびが入った。次の瞬間、巨大な音が辺りに響いて、敵の刃が砕け散った。

 砕け散った刃がきらめきながら幾千もの雨となって降り注ぐ。降り注ぐ刃は法子達に触れた瞬間、空気に溶け、やがて雨は止んだ。

 勝利を確信した法子と将刀は荒い息を吐きながら、四つん這いになって項垂れた敵を見た。

「私のコレクションが」

 そう呆然と呟いている。

「私のコレクションが三割も減った」

 その言葉に法子は戦慄する。

 今ので三割。だとすれば、後二回同じ事が出来る計算になる。今防いだのすら奇跡だったのに、後二回。

 絶望的な気持ちでいると、敵が立ち上がった。法子は戦いて一歩下がる。だが勇気を振り絞って言った。

「まだ戦う気?」

 すると敵が消沈した様子でぼそりと呟いた。

「もう結構」

「え?」

 立ち上がった敵は落ち込んだ様子で校門を出ていった。

「え?」

 呆然と呟いた法子に将刀が言った。

「何か納得いかないな」

「うん」

「でもこれ以上戦ったら多分負けてた。だからまあ、喜んどこうか」

「うん。そうだね。それに私達の目的は」

 そこで法子は自分達の最終目標を思い出した。

「あ、そうだ。早く追わなくちゃ。摩子達の手伝いに行こう!」

 そう言って白い靄へ駆け出そうとして、足がもつれて転んだ。

 将刀がそれを慌てて助け起こす。

「力を使いすぎたね。もう俺達じゃ役に立たない」

 法子はいつの間にか自分と将刀の変身が解けている事に気が付いた。

「でも。そっか。そうだね。ルーマと摩子が居るんだし」

「うん、徳間さんが居るからきっと大丈夫」

 法子と将刀は白い靄を見る。

「じゃあ、私達はここで待ってる?」

「戦えない事は無いし、もしも邪魔しようとする奴が来たら食い止めよう」

「そうだね」

 将刀が地面に座り込んだ。法子も将刀の隣に座る。自分から隣に座ったものの何だか居心地が悪い。戦いの最中は完全に忘れていたけれど、よくよく考えてみればまさに今日、将刀に振られていたのだ。

 何だか緊張して、喉が鳴った。

「法子さん」

「え? 何?」

 将刀はしばし逡巡してから言った。

「法子さんはあのルーマって人と仲が良いの?」

「え? ルーマ?」

 どうだろう。良くない事はないと思うけど。

「うーん、意地悪されるし、向こうがどう思ってるかは分からないけど、でも私は、まあ、仲良くしてるかなとは思うけど」

「そっか」

 そう言ったきり将刀は黙ってしまった。

 何で急にそんな事を?

 不思議に思う。

 もしかしてルーマは信用されてないのかなと考えている内に、何となく沈黙が気になって、法子は思わず将刀に尋ねてしまった。

「将刀君はあのファバランさんって人と仲が良いの?」

「え? ファバラン?」

 将刀は眉を寄せる。

「うーん、多分良いと思う。懐かれてるって言った方が良いかも知れないけど」

 そこで将刀ははっとした様子で、慌てて法子に向かって手を振った。

「でも違うから。彼女とかそういう訳じゃ」

「え? キスしてたのに?」

 拍子にそう答えて、言った後に法子は顔を青ざめさせた。

 覗いてた事がばれてしまう。

「もしかして見てた?」

 最悪だった。また嫌われる。

「うん、ごめん」

 将刀が青ざめて必死に語る。

「いや、でも、あれは違うんだよ。あれは無理矢理されただけで、俺は全然。いや、言い訳なのは分かってるけど。でも付き合ってる訳じゃ」

「え? 付き合ってないの?」

 法子は首を振って雑念を払う。ここで下手に希望を持ってはいけない。振られた事は変わらないし、自分の魅力があの子に劣っている事も変わらない。

「そっか。そうなんだ」

 それでも何だかほっとした。

「法子さん?」

 何となく口から言葉が漏れでてくる。

「私、将刀君に振られたでしょ。でもね、それでも諦められないなって思ってたの。彼女居ても諦めないって。うざいって思われるかもしれないけど」

 あ、暗くなりそうと思ったけれど、口は閉じない。

「私なんて摩子に何にも勝てないし、ファバランて子にも勝てないし。私は本当に駄目で、今はまだ駄目で。でもね、自分を磨いて、将刀君に好きになってもらえる様な人になって、それでその時にまた告白しようって思ってたの。もっと自信がついたら。何かストーカーっぽくてごめん。駄目かな? でも私は」

 その後は言葉が続かない。口が閉じる。開いていると涙が出てきそうで。

「駄目じゃないよ」

 将刀が口を開く。何だか感情のこもっていない言葉だった。

 法子は必死で涙をこらえながら口を開く。

「ありがとう」

 例え社交辞令でも。その言葉を信じていたい。

 法子がうつむいていると、突然その肩を将刀が掴んできた。

「違うんだ、法子さん! 俺は!」

 その時、突然辺りから轟音が響き渡った。まるで世界の外側から響いてくる様な音。

 轟音が鳴り終わると、声が聞こえてきた。

「ちゃんと仲良くね」

 摩子の声だった。白い靄を見ると、摩子が中から出てきて、続いて徳間とルーマもやって来た。

「摩子!」

 法子が立ち上がって叫ぶと、摩子が駆け寄ってくる。

「法子! 勝ったよ!」

「ホントに?」

 法子は抱きつかれて、支えきれずに後ろに倒れた。打ち付けたあばらをさすりながら起き上がると、摩子が嬉しそうに笑っていた。

「全部解決!」

「ホントに?」

「ホントに!」

 でも願い事の問題があったんじゃ。

「お願いもちゃんとしたしね」

「え!」

 願いを? 願いを叶えたら、その代わりに町中の人が犠牲になってしまうのではなかったのか。

「何てお願いしたの?」

「えっと、町を元に戻して、町の人を元に戻して、後は願い事を叶える時の余波? っていうのを起きなくしてくださいって」

「それ三つじゃないの?」

「分かんないけど、それじゃなきゃ嫌だってずっと言ってたら良いって言ってくれたよ?」

「っていうか、一番の願いじゃなきゃ駄目なんじゃないの? そういう町を救うとかは駄目だって、穂風言ってなかった?」

「うん、だから一番なら良いんでしょ?」

 法子は何だか体の力が抜ける思いだった。

 つまり摩子は町の幸せを何よりも考えていたらしい。

 摩子らしくて、流石だった。

 もしも自分が摩子の代わりに行っていたら絶対に無理だった。みんなを助けられなかった。

「だからさ、自分の心に暗示をかけて、その願いを一番の願いにしちゃえば良かったんだよ」

「え? それって」

 ずるくない?

 でもそれはそれで摩子らしく、自分にはきっと思いつかなかった答えで、やっぱり流石なんだと思う。

「それで良かったの?」

「うん。穂風には、ずるくない? って言われたけど、絶対それじゃなきゃ嫌だって譲らなかったら、仕方ないからって叶えてもらった」

 何となくランプの魔人に願い事を百個にしてくれと願う冗談を思い出した。

「そういえば、穂風は?」

「覇王さんと夫婦喧嘩中」

「夫婦喧嘩? 覇王って中に居るラスボスだよね? 穂風と夫婦だったの? 何で喧嘩してるの?」

「何か、覇王さんがこの新世界を作ったのはお前みたいな強者と戦う為だって言ったら、穂風が私と過ごすためじゃないのって怒りだして、いていて止めてくれ、俺は君の事もって言ったら、君の事も? 事もぉ? って更に穂風がきれて」

 口真似をしながらの、摩子の熱演を見ていると、何だか今まで緊張して戦っていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。

「まあ、そういう事だから、こういう戦いとか仕事の事しか頭に無い人は選んじゃ駄目だよ、摩子。私その所為で殺された様なもんだからね。法子にも言っといて。って言ってた」

 一頻り真似をし終えた摩子はやり遂げた表情で荒く呼吸をする。

 法子はそれに吹き出しながら、尋ねる。

「じゃあ、とにかく解決したんだね?」

「うん。あ、違う。最後に一つ、魔力が足りないんだって」

「え? 魔力が足りない?」

「そうそう。今のままじゃ魔力が足りなくて願いを叶えられないから、魔術を使って辺りを魔力で満たしてって穂風が言ってた」

 それはつまりどういう事?

 突然ルーマの叫びが聞こえた。

「おい、法子! 最後の戦いに行くぞ! 何だか大量の魔力をまき散らせと、お前の親友からご達しだ」

 既に校門を出て何処かへ向かおうとしている。

「ルーマ! 戦いって」

「あっちの死体使いの方の戦闘は終わった様だし、ラベステの方に行こう! この魔力の感じだとラベステが押されているな。ははは、ラベステに加勢して久しぶりにイーフェルと遊んでみようか」

 そう言って、何処かに駆け去ってしまった。

 うわ、ルーマ、物凄く楽しそう。

 ちょっと引いた法子に向かって徳間が言った。

「別に戦う必要は無いからね。とにかく沢山魔術を使って魔力をばらまいてくれれば」

「あ、はい。そうですよね。別に戦わなくても」

 戦い。

 ふと思う。

 この世界では死なない。死んでも生き返る。なら全力で戦えるのでは無いだろうか。仲間とも。

 そう、例えば今ルーマがイーフェルと戦おうと言った様に。

 例えば親友とだって。

 法子は摩子を見る。

 摩子は不思議そうに首を傾げた。

 結局今回も自分は摩子に負けた。こっちは最後のラストバトルに参加する事すら出来なかったのに、法子はラスボスを倒した。

 自分と同じ魔法少女なのに、今まで一度も勝ってなかった英雄。法子が何で挑もうとしても常に上を行った英雄。

 駅の駐輪場で摩子と戦った時の事を思い出す。そもそもあの時からだ。あの時からずっと摩子に勝てなかった。

 だったら、もしもあの時の負けを無くせたら。

 もしも摩子の事を倒せたら自分は変われるんじゃないだろうか。

「あの、摩子」

 勿論、そんな事はありえないと分かっている。勝てるかどうかも分からないし、勝ってもきっと摩子は摩子で、自分は自分。戦いに勝ったところで、摩子の方が色々と凄いのは変わらないし、自分が優れた人間になる訳でも、将刀に相応しくなる訳でもない。

 でも戦いたかった。

 戦って、勝って、自分でも摩子に勝てるんだって事を自分自身に示したかった。

「何、法子?」

「私と戦って」

「良いよ」

 法子がやっとの思いで吐き出した言葉を、摩子はあっさりと了承した。

「え?」

「最初からそのつもりだったしね。戦おう戦おう」

 摩子の軽いのりに、法子は首を横に振る。

「違う。そういうんじゃなくて、真剣に、本気で、戦って欲しいの」

「真剣に、本気で?」

「うん。そんな軽い、遊びみたいなのじゃなくて」

「んー、どういう事?」

「だからその命懸けというか」

「私、戦う時はいっつも命を懸けてるけど?」

「え?」

 法子は愕然とする。

 そもそも意識が違ったんだ。自分と摩子の間の。それじゃあ勝てる訳なかった。

「そう、何だ」

「うん、という訳で、本気なんだし戦っても良いんでしょ? 戦おう戦おう。早く元の世界に戻りたいしね」

 摩子がそう言って笑う。

 何だか空恐ろしかった。

 自分とは一から十まで違う優秀な英雄。

 でもきっと、こんな摩子に勝てれば。

 法子は一刻も早く戦おうとする摩子を止め、傍に立つ将刀を見上げて言った。

「あの、将刀君」

「うん、どうしたの?」

「あの迷惑かもしれないけど、私が戦うところを見てて欲しい」

「良いよ。迷惑じゃない。けどどうして?」

「私、自信がなくて、摩子に勝てたら自信になる気がして。だからそれを将刀君に見ててもらいたくて。あの、別にだから何って言う訳でもないんだけど、将刀君に見ててもらったら勇気が出るし。あの、そうじゃなくて。あの、あの」

 そういう事じゃない。私が法子と戦うのは。それを将刀君に見ててもらいたいのは。

「あの! この戦い絶対に勝たなくちゃいけないから! そうしないと、将刀君に好きになってもらえない駄目な私のままな気がするから! だから応援して欲しい! 私が勝つところを将刀君に見ててもらいたい!」

 それに将刀が答えようと口を開いた時、先に摩子がにっと笑って大きな声を出した。

「武志! 武志! そこに居るんでしょ!」

 校門から武志が顔を出した。

「これから可愛い彼女が戦うんだから、ちゃんと応援してね!」

 その言葉に法子が驚いた。

「え? 付き合ってたの? いつから?」

 校門からも、「は? お前らいつ付き合い始めたん?」という陽蜜の嬉しそうな絶叫が聞こえてきた。

「一昨日から。病院の戦いの時に好きって言ってもらって。これでお互い彼に見てもらってる互角の勝負、だよね?」

 摩子はそう言って、赤くなった法子に笑いながら杖を担いだ。

 法子は思う。

 やっぱり摩子は先を行く。

 でも今回だけは負けられない。

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