表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
103/108

褒美は願望、願望は……

「学校に覇王が居る、か」

 法子達が学校へと走る中、徳間が今分かっている事を皆に伝えると、ルーマがそう呟いた。

 全くこの戦闘狂はと思いながら、法子は呆れた口調で尋ねた。

「そんなに戦えるのが嬉しいの?」

「ん? ああ、それは嬉しい。だがそうではなく、別の事が気になってな」

「別の事?」

「ああ。その娘、穂風というのは、どうして居るんだ?」

「何、その言い方! 穂風は私の親友なんだからね。嘘吐いてたかもしれないけど私の親友なんだからね」

 法子の力強い言葉に、穂風は感激した様子で法子の名前を呼んだ。

「いや、そうではなく、役割としてだ。まさかこの世界がわざわざお前の友達を生み出す理由は無いだろう?」

「まあ、そうだけど」

「生み出された以上、何か理由があるはずだ」

 徳間が不思議そうに尋ねる。

「それは俺達を騙す為じゃないか? 日常だと油断させて気が付かない内に、全てが終わっていると」

「それならそんな娘作る必要は無い。それに覇王の居場所を告発した理由は?」

「それは俺達に詰め寄られて仕方なく」

「零点」

「な」

「一から人間を作り出せるなら、そんな致命的な弱点を作る訳が無いだろ。しかもさっきの話によるとほとんど自分から言い出したそうじゃないか」

 皆の視線が穂風に集まる。

 確かに疑わしい。いや、最初から疑わしかった。ただあまりにも色々と疑わしすぎて、何を疑えば良いのか分からなかった。

「そいつは俺達をその覇王のところまで連れて行くのが仕事。その為に知り合いを装って近付いたというのはどうだ?」

 穂風はそれを聞いてくすりと笑った。

「どうだというのは、私への質問でしょうか?」

「いや、この場に居る全員に問うた。だがあんたが答えを喋るというのなら聞かない事も無いぞ」

「では一つ訂正を。まるで私が彼の下へ生贄を運ぶ様な役回りだとご想像なされている様ですが、全く以て違います。私はただめぼしい願いを見つけるだけです」

「どう違う」

「ですから、私は別に皆さんを彼の元に運ぶ必要はまるでないと言っておるのです。あくまで皆さんの願いを見て、ああこの人の願いが叶ったらなぁと想像して幸せな気分に浸る。そうしてもしもその人間が願いを叶えたいと言うのなら鍵になる。私の役割を強いて言えば、そんなところ。私が率先して誰かを連れて行く事はありません」

 艶やかに言い切った穂風の言葉に、それを背負う徳間が混乱した様に言った。

「おい、待て待て待て。待て。ちょっと待て」

 それから一秒程沈黙が訪れて、ルーマと穂風が言った。

「待ったぞ」

「待ちました」

 徳間が口をへの字にする。

「ありがとよ。でだあんた等の話を聞いていると、まるで学校に行けば俺達が死ぬ様な口ぶりだな。そんなにその主は強いのかい?」

「戦闘には疎いもので、私に勝敗はとんと。それに学校に行ったら死ぬだなんて私は言っておりませんよ」

「ああ、そうかい。ならもう一つ、願いと言ってたな。今も、それからさっきも。どういう意味だ?」

「単なるご褒美の話です。彼を倒せば、その倒した者の願いが一つ、何でも叶う」

「願いを叶える、だと?」

「はい。彼と戦って勝利を得る。それだけの事をしたのであれば、ご褒美の一つ、当然の権利でしょう?」

 徳間は絶句して背中に居る穂風を見ようと首を捻じ曲げた。あまりにも荒唐無稽な話だ。だがだからこそ何処か真実味があり、そして不気味さがあった。

 ルーマがくだらなそうに穂風を見る。

「で? あんたにとってのめぼしい願いってのは?」

 穂風が自信満々に言った。

「ラブです!」

 法子達がずっこけそうになる。だがルーマだけは違った。

「ほう、恋か!」

 さっきまでのくだらなそうな目付きと違い、今は輝いている。

「はい! 恋の成就を祈願する願い。ああ、何て美しいんでしょう! 私、彼と結ばれたその日に殺されてしまいましたし、一際そういった願望が強いのです。ですから他の方々にはそんな幸せを遂げて欲しいと」

「恋の魔法」

「え? ええ、言い得て妙ですね。そうです! 恋とは魔法! 彼を思うだけで力が溢れ出てくるそんな恋の魔法! ああ、素敵」

「ほう、恋の魔法とはその様な魔術だったのか」

 楽しげに言ったルーマは、しかしすぐに残念そうな表情になった。

「しかしそれを選択出来ないとは残念だ」

「どうしてですか? 素晴らしいじゃないですか、恋。もしや想い人が亡くなられているとか? でしたらご安心ください。生き返らせる事位訳ありません」

 その言葉に徳間が反応する。

「おい、既に死んでる者を生き返せるのか?」

「勿論ですよ。一人位なら造作もありません」

「じゃあ、もし」

 そこで徳間は首を振って口を閉ざした。

 代わってルーマが心底残念そうに言う。

「恋の魔法か」

「叶えてしまいましょう! どなたと添い遂げたいのですか?」

「どなたとかは特にないが、何にせよ無理なんだ。願いを叶えたら、全員死ぬだろ? そうすると法子に怒られて。いや、法子も死ぬのか。まあ結果は変わらない」

「大丈夫ですって! 恋に勝るものはありません。願い事とは他の何物にも代えがたいものでなければ」

「ちょっと待って! 何? 全員死ぬって」

 法子が声を荒げる。

 ルーマが不思議そうに尋ね返す。

「何がって何がだ?」

「だから何で願いを叶えたら全員死んじゃうの? もしかしてルーマはやっぱり人間の絶滅を願ってるとか?」

「何だ、その馬鹿な願いは。そうじゃなく、願いを叶える時に魔力化した人間達を消費するだろ? 消費されればこの世から消える。それはつまり死んだって言えるんじゃないか?」

「何で、願いを叶える為に魔力化した人を消費するの? そんな話出てきた?」

「何を言っているんだ? だったら何故魔力化している。それ以外の使い道が何処にある」

「え、だって」

「新世界の主を倒せば願いが叶う。そして新世界の主を倒せば世界が終わる。つまりこの世界に使われている魔力を全部使ってその願いを叶え、その結果魔力が無くなり維持しきれなくなって新世界が崩れるという事だろう? 一体今までお前は何をどう思ってたんだ」

「どうって」

 何も考えていなかった。

 でも言われてみるとそんな気もして、それはつまり願いを叶えたらこの世界の人達は死んでしまう。そんな事認められる訳が無い。

「じゃあ、じゃあ、願い事を言わなければ、みんな元に戻って、元の世界に戻れるの?」

「法子、それは無理だよ」

 それを穂風が優しく否定した。

「穂風?」

「もしも願いを言わなければ、この世界が永遠に終わらないだけ、だろ?」

 ルーマの言葉に穂風が頷く。

「ええ、その通りです」

「そんな」

 法子が救いを求めて穂風を見ると、穂風は感心した様子で頷いていた。法子は続けてルーマを見る。

「じゃあ、元の世界に帰るにはどうすれば良いの?」

「だから願いを叶えれば、恐らく叶えた人間は戻れるんじゃないか?」

「でもそうしたら他の人達は死んじゃんでしょ?」

「それが嫌なら、この世界を壊すとかどうだ? ぶち壊して外に出るんだ。まあ町の人間の魔力も取り込んで強力になったこの世界をぶち壊すには、親父位の力が必要だと思うがな」

「でもこの世界を壊したら魔力にされて取り込まれた人達は」

「それは死ぬんじゃないか?」

 法子は絶望的な気分になって、眩暈がした。その肩を摩子が掴む。

「大丈夫だよ、法子。簡単だって」

「え? どうすれば?」

 法子が縋る様に言うと、摩子があっさりと言った。

「みんなを元に戻して下さいってお願いすれば良いんでしょ?」

 あ、そっか。

 あまりにも簡単な答えに法子は愕然とした。

 だがそれを穂風が否定する。

「駄目。願いっていうのは強い思い。ただ思うだけで叶うものじゃないの。町を犠牲にしてでも叶えたい、何をおいても叶えたい。そんな思いだよ? 摩子は全てを犠牲にしてでも町を救いたい?」

「え? うーん、そこまで言われると」

「正直だね。てっきり出来るって言うのかと思った。でもそれが当たり前。全てを犠牲にっていうのは言い過ぎたけど、その人間の持ってる一番、それに限りなく近い思いこそが願いな訳よ。そんな願い持ってる人、そうそう居ないよ? 摩子は今までずっと町を救いたいと思ってた? この世界が生まれるずっと前から」

 具体的な危機が無かったのに、そんな事考えている訳が無い。

 だったらどうすれば良い? どうしたら世界を救える? 考えても良い案は思い浮かばない。皆も同じで、誰も画期的な解決方法を口に出せない。

 結局何も思い浮かばないまま、学校に着いてしまった。

 学校の校門には五人の人影があった。

 その内の四人は法子の友達だった。陽蜜に実里に叶已に武志。

 そしてもう一人も法子にとって知った顔だった。病院で烏帽子姿をばらばらにし、その後法子と将刀を殺そうとした剣士、遠郷達の組織が招いた助っ人エドガーが陽蜜達と何か話し合っていた。

「みんな!」

 摩子が叫ぶと、陽蜜達が気が付いて摩子に駆け寄ってきた。

「摩子に法子、それから穂風。みんな無事だったんだ」

「そっちこそ。みんな無事だったの?」

「うん、危ないところだったけど、あそこのエドガーっていう人に助けてもらった」

 摩子達がエドガーを見る。エドガーは徳間とルーマに視線をくれてから、陽蜜達に言った。

「これから戦いになります。逃げてください」

「え?」

 陽蜜達が不思議そうに摩子を見る。摩子は頷いて言った。

「その通りだから、みんな何処かに逃げて隠れてて。今は多分誰にも襲われないと思うから」

「何で? どうしたの、摩子。まさかあの人と戦う訳? でもあの人良い人だよ?」

 実里の言葉が終わらない内に、エドガーが言った。

「私は徳間とルーマだけを止めます。フェリックスを壊した代わりです」

 エドガーの言葉に徳間が目を鋭くする。

「つまり仇討ちって訳か?」

「いいえ。壊したのはあなた達では無い。ただ別の人間がフェリックスを壊したから、私の代償は徳間とルーマを通さない事になった」

 言っている事は分からないが、どうやら無差別に誰かを襲う様な悪人では無いらしい。

 でも、この先へ通さない?

 法子が校門の向こうの校庭を見ると、その中央に巨大な白い球状の靄が立ち込めていた。

「何あれ」

 法子の言葉に全員が校庭を見る。

「あんなもの先程までありませんでした」

 叶已が信じられないと呟いた。

 それに対して、穂風が得意げに言う。

「私が鍵になったからね。私が来たからあの扉が開いたんだよ」

 ルーマが凶暴な笑みを浮かべる。

「じゃあ、あの靄の先に覇王が居る訳だ」

「ええ、その通りです」

「なら行くぞ!」

 ルーマが駆け出す。それに合わせて他の者も走りだした。

 それを立ち塞ぐ様にエドガーが両手を広げて校門に立った。

「待ってください。徳間とルーマは通さない」

 ルーマ達は一切の関心を払わずに、その横を通り過ぎる。

 そのままルーマ達は止まらず靄へと駆ける。

 今むちゃくちゃ自然に素通りしちゃった。

 法子は何となく申し訳ない気持ちでエドガーへ振り返ると、その光景に怖気が走った。

 エドガーが追ってきている。抜剣して今にも振り下ろそうとしている。込められた凄まじい魔力を感じて法子の全身が総毛立った。明らかに距離が離れ、剣の間合いから外れているのに、それでも切ろうとしているという事は。

 法子は白い靄を立ち塞ぐ様にして、刀を構え防御をとった。

 その刀に衝撃が走る。

 剣撃。

 両腕から痛みがやってくる。

 見れば両方の二の腕がわずかに切れていた。

「法子! 将刀君!」

 背後から摩子の心配する声が聞こえた。

 それに向かって、法子は叫ぶ。

「こっちは大丈夫。誰かがこいつを抑えてないといけないでしょ? だから私が通さない。摩子は私に構わないで先に行って!」

「でも」

「私もすぐに追いつくから!」

「うん!」

 何だか言っちゃいけない台詞言っちゃったかなぁと思いながら、法子は再度背後に向けて叫んだ。

「私、摩子なら勝てるって信じてるから!」

「分かった!」

「絶対勝ってよ!」

「勝ってくる!」

 その頼もしい言葉を聞いて、法子は嬉しくなる。きっと摩子はその言葉を裏切らない。そんな気がした。

 それにもう一つ嬉しい事がある。隣を見る。将刀が居る。

「将刀君」

「ああ、早く倒して後を追おう」

「うん、一緒に、一緒に戦おう」

 法子と将刀は微笑んで構えた。

 エドガーは溜息を吐く。

「約束違反。だが」

 エドガーが笑みを作る。

「剣士二人。戦いの機会としては悪くない。それに倒して追いかければそれで良い」

 エドガーの笑みを見て、法子は怯みそうになったが、力を込めて体を支える。

 摩子達の邪魔はさせない。絶対にここは通さない。

 英雄達を送る為に、法子は将刀と共に、最強の剣士と対峙した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ