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孤独な魔法少女は英雄になれるか?  作者: 烏口泣鳴
主人公は眠らない
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反英雄

 笑う引網を見て、徳間は駈け出した。

 その背に桃山が静止の声を投げる。

「あ、いけません。引網を殺しては」

「分かってるよ! フェリックスだ! あいつを破壊する!」

 それを聞いて引網が笑う。

「やらせませんよ。私の大切な芸術品を」

 引網の隣に立つフェリックスが首を捻じ曲げながら手を上げた。同時にフェリックスの周囲に新たな三人現れる。徳間の新世界の中で見せた、英雄達の模造品だ。

 その内の巨人が雄叫びを上げて、巨大な大剣を徳間達へ向けて振り回した。全員が地面に伏せる。法子も摩子と共に穂風を押し倒して地面に伏せた。その上を大剣が通り過ぎ、凄まじい風圧に吹き飛ばされる。強烈な破壊音が鳴り響く。

 転がったヒーロー達が立ち上がると、巨人を中心とした扇状に辺りの家が消し飛んでいた。

「ああ、素晴らしい。良いなぁ、これ。本当に良いなぁ」

 引網が恍惚とした表情で破壊跡を見つめている。

 ヒーロー達が破壊の惨状に呆然としているところへ、フェリックスの生み出した英雄達が突っ込んできた。

 法子の元へも剣を二本腰に据えた男が一人走り寄ってくる。男はその内の一本を抜き放つと法子に向けて切りかかった。法子はそれを刀で受けようとして、嫌な予感がして後ろに退く。剣を間一髪で躱す。だが剣が目の前を通り過ぎた瞬間、法子の体に凄まじい痛みが走った。更に剣は恐ろしい力で地面を叩き、そうして爆発を引き起こす。法子は爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。地面を転がる。体中が痛い。

「法子、大丈夫?」

 転がった先に摩子が傍に立っていた。法子は慌てて立ち上がる。摩子に負けていられない。

「大丈夫」

 法子はそう強がって男を見る。強い。病院で戦った烏帽子をかぶった男を思い出した。同じ人間が生み出したものならきっと強さも同じ位強いに違いない。そしてもしも性質も同じであるなら、一つ勝機がある。烏帽子姿の男は攻撃こそ激しかったけれど、防御は全くだった。だから今回も、もし相手が攻撃するよりも先に攻撃が出来れば。

 誰かが動きを止めてくれれば。

「摩子」

「何、法子?」

 摩子だったら。

「お願いがある。あの人を抑えてて」

「分かった」

 法子が理由すら聞かずに答えた摩子を驚いて見つめると、摩子は既に幾つもの魔法円を描き始めていた。

 剣士が駆けてくる。

 摩子が言った。

「行くよ、法子!」

 その瞬間、蔦が剣士に絡みついた。それに合わせて法子も動く。すぐさま剣士が蔦を引きちぎる。けれど新たな魔術が発動して、途端に剣士の動きが重りでも引きずっている様に鈍くなる。

 いける。

 法子はそう確信して、剣士に向かって刀を振るった。

 だが剣士は一瞬前の鈍い動きに反して、機敏に跳躍した。法子の刀が空振る。

 法子の背後で凄まじい轟音が鳴って、振り返ると摩子の居た場所に土埃が立っていた。敵に攻撃されたのだと思い至って、法子の中から血の気が引く。

「摩子!」

 血を吐く様に法子が叫ぶと、土埃の向こうから呻き声が聞こえ、そのすぐ後に声が返ってきた。

「大丈夫! 防いだ! 痛いけど! そっちも気をつけて!」

 摩子がそう言った時には、土埃の中から剣士が現れていた。剣士の振るう剣を何とか躱すが、やはり躱した瞬間、全身に痛みが走り、続いて起こる爆発に吹き飛ばされる。

 地面に転がって慌てて飛び起きて剣士を見ると、剣士の向こうで摩子も起き上がっていた。

「法子! 大丈夫?」

「こっちも大丈夫!」

 そう答えて刀を構える。

 勝てない様には思えない。あの烏帽子男に比べれば随分と勝ち目が見える気がする。けれど未だに何の打開も出来ていない。

 どうすれば良いのか。

「助けて!」

 剣士を倒す方法を考えていた法子の耳に、そんな叫びが聞こえた。見ると、全身血だらけになったヒロシがフードを被った敵に背を向けて逃げ出そうとするところだった。

 その背に向けて将刀が叫ぶ。

「馬鹿! そっちには敵が!」

 その言葉通り、ヒロシの逃げようとする先には引網とフェリックスが居て、逃げる途中でそれに気が付いたヒロシは驚いて腰を抜かした。

 倒れたヒロシを見て、引網は考えこむ様に腕を組んだ。

「んー、何処かで見た事ありますねぇ。何処だったか。ああ、違う。はは、そうだ。あの拳法のあれを試した時に、僕に命乞いをしたあれだ」

「ひっ」

 引網の言葉に、ヒロシは過去を思い出して息を詰まらせた。それを引網は笑う。

「思い出すんだ。そう思い出。が。違う。そう命乞いですね。命乞いするなら助けてあげても良いですよ」

「命乞い」

「ええ、そうです。命乞いをするなら助けましょう。その銃で君の仲間達を撃ち殺しなさい。そうすればあなただけは助けましょう」

 ヒロシが思い出した様に、手に持った二丁の銃に目を落とした。

 その様子を見ていた法子は心配になってきた。もしもここでヒロシまで裏切ったら、もう。

「法子、信じよう」

「摩子」

「大丈夫。ヒロシ君だってヒーローだから」

「そう、だよね」

「それより今はこっちだよ」

 二人の視線に晒された剣士が再び走ってきた。法子はもう一本刀を生み出して、剣士へ向かう。

 相手の初太刀を刀で受け止め、もう一本の刀で切る。そう算段をつけて刀を構える。

 剣士が剣を振り下ろしてくる。その体に摩子の生み出した光が纏わり付いて、行動を阻害する。速度の落ちた剣を法子は生み出した刀で防ぐ。だがかち合った瞬間、刀は一瞬で砕け散った。敵の剣は止まらない。迫る剣に法子が体を硬直させると、突然背中を強い力で引かれる。

 摩子の蔦の魔術に絡み取られ辛くも敵の剣から逃れたが、再び爆発が起こって吹き飛ばされた。

 転がって立ち上がり、法子はふと気になってヒロシを見る。

 法子の視線の先で、ヒロシは引網にむかって懇願する様に言っていた。

「分かった。あいつ等を攻撃すれば助けてくれるんだな?」

「いいえ、殺してください」

 脅しに屈した姿がそこにあった。尻餅をついたヒロシが泣きそうな顔で引網を見上げ、自分の命を助ける為に命乞いをしている。

「分かった。分かったよ! 殺せば良いんだな? そうしたら助けてくれるんだな?」

「ええ、約束しますよ。彼等を殺せば、いいえ、一人だけでも良い。殺せばあなたの命は見逃します」

「分かった」

 ヒロシが立ち上がり、こちらを向いた。目には殺気が灯っている。

 法子はその姿が信じられなかった。

「嘘でしょ」

 ヒーローが悪の甘言に惑わされて裏切る姿なんか想像もしていなかった。

 もしかして敵を欺く為に。そんな一縷の望みを抱いたが、ヒロシの殺気のこもった目は嘘を言っている様には見えなかった。

「ヒロシ君、何で」

 流石の摩子も信じられなかった様で呆然と呟いている。

 更に徳間の怒鳴り声が響いた。

「お前、裏切るつもりか!」

 それを聞いて、ヒロシが叫び返す。

「うるさい! 俺は死にたくないんだ! こんな奴等に勝てる訳無いんだから、生きる為には仕方が無いだろ!」

「どっちにしてもこの世界を何とかしないと、この町に住む人間が全員死ぬんだぞ。勿論お前もだ。それにどうして勝てないだなんて決めつける!」

 徳間が叫び返す。

 ヒロシが徳間の叫びに反論する。

「だったらそっちこそ決め付けんなよ! 世界をどうにかしなくちゃいけないなら、こいつ等がやってくれる」

「阿呆か。そいつ等が協力なんてする訳無いだろ」

「この町に住む人間が全員死ぬって言うなら、協力とか関係なく、解決しようとするはず

だ。誰だって死にたくないからな。そうだろ?」

 ヒロシが振り返って引網に尋ねる。

 引網は実に爽やかな笑顔で頷いた。

「ええ、勿論です。解決しましょう。この素晴らしき芸術品があれば、その何でしたっけ? 問題? を簡単に解決できますよ」

「ほらな!」

 勝ち誇った表情でヒロシは徳間に向き直った。

 徳間がそれに対して再度怒鳴りつけようとしたが、その前に将刀が未だ信じられないといった様子でヒロシへ声を掛けた。

「それで良いのか? それでもヒーローか? 悪に屈して、それで胸を張れるのか? 今回だって人々を助ける為に立ち上がったんだろう?」

 将刀の呼びかけに対して、ヒロシが今まで以上に激昂した様子で怒鳴り返した。

「うるさい! 元はと言えば、お前の所為なんだよ! 俺は戦いたくなかったのに! さも当然そうな顔で、町を救おうだとか言って! そんな事言われたら断れないだろ! 断ったら俺が悪者になるんだから!」

 思いもよらない反論に将刀は何も言い返せない。息巻くヒロシは更に将刀を責めつける。

「苛つくんだよ、お前! いっつもいっつも正論ばっかり言いやがって! 普通の人間はそんな完璧じゃ居られないんだよ。俺はそんなの無理なんだよ! 何でも俺より出来て、幸せに生きてる奴には分かんないだろうな! どうせ俺はヒーローにはなれない! だったらせめて普通に生きようとしたって良いだろ!」

 叫んだヒロシは銃を構える。

「とにかく俺は何と言われようと生きる。絶対に生き残る」

 そうヒロシが宣言した時、空から炎が落ちてきた。

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